舞台の裏
スレイヤードとグラード。
両家の和解を聞いた者達の反応は様々だった。
王都の貴族たちの大部分はこの話を聞き、シンク・スレイヤードを軽く見た。
「やはりスレイヤードはグラードに膝を屈した」
それが多くの貴族が認識した事実だった。
『怪物』を失ってもグラード家の勢いは未だ衰えず。
そう考えた者たちはフェリオに近づくのだった。
だがこの流れが自身の地盤の安定化を考えるフェリオの望むものであったかは別の話である。
グラード家に興盛を見出す者がいれば逆の反応を見せる者もいる。
デルウッドの腹心である宰相カーチスもその一人である。
「カーチス、お前は今回の和解は対等なものだと?」
「陛下のおっしゃる通り。むしろ、グラードの方が頭を下げた可能性すら考えられます」
元々ヘイゲルの下で手腕を振るっていたフェリオはもとより、シンクの才覚を評価している者も存在していた。
長きにわたり『怪物』ヘイゲルによって権威を脅かされてきたリキア王家をぎりぎりのところで守り続けてきたカーチスもその一人だった。
彼は今回の和解の本質を見抜いている。
「お前の言いたいことはわかる。しかし俄かには信じ難い」
一方のデルウッドはシンクの力量を疑っていた。
「陛下、グラードに衰えが見えた今こそ王家の威信を取り戻す好機なのです。フェリオ殿とて才覚を持つ者。時を置けば必ず勢いを取り戻します」
「むむ」
デルウッドが唸る。
「今王家がスレイヤードに近づけばグラードは決して無視できません。両家が牽制し合えば、かつてのように一つの家に権力が集中することにはなりません」
「カーチスよ、それはつまり………」
デルウッドの顔が曇る。
カーチスは主君が何を考えているのかわかったが、あえてそれを無視する。
「はい、無礼を承知で申し上げます。姫さまとシンク・スレイヤードの婚約。どうか御決断下さい」
カーチスが頭を下げる。
デルウッドはそんなカーチスを見て心動かされるもまだ迷いが抜けなかった。
「ヘイゲルが王家を圧迫していた時、娘たちに肩身の狭い思いをさせた。できればしばらくの間は自由にさせてやりたい」
気がつけばそんな心情をカーチスに打ち明けていた。
「………それは姫さま方の望みですか?」
「………ああ。それとなく話してみたが三人ともスレイヤードとの婚約は嫌だと言っていた」
その言葉にカーチスは心の中で溜息をつく。
デルウッドには三人の娘がいる。
第一王女テリア。
第二王女セルリー。
第三王女フリル。
一国の王女が揃いも揃って嫌だとは。
まだ幼い第三王女フリル様は仕方ないにしても上のお二方にはもう少し自覚を持って欲しいというのがカーチスの本音だった。
「それにまだシンク・スレイヤードがグラードに匹敵するかわからんではないか。もう少し様子を見てからで良いだろう?」
今がリキア王家の行く末を決める大事な時。
そんな時に王族は私情を優先している。
デルウッドとその娘たちの危機感の薄さに呆れてしまう。
「………わかりました」
とはいえ伊達にカーチスも王家を守り続けてきた訳ではない。
この程度で王家に対する忠誠心は揺らぐことはない。
同時にデルウッドが拒否する以上、それに従うのみだった。
(後でシンク侯爵に使者を送ろう。あとは………)
カーチスは冷静に方向を定めていた。
スレイヤード領。
スレイヤード家の傘下であった貴族たちの中で先の戦でシンクの呼びかけに応えなかった者たちはシンクがグラードに降ったものと侮っていた。
もはやスレイヤードに自分たちを追求する力は無いとタカをくくっていた
「はははっ、ディーン軍が敗北した時はどうなることかと思ったが、所詮はまだ子供だったな。これなら適当に頭を下げておけばお咎めもあるまい」
そんな空気が彼らの間に漂っていた。
中にはシンクの追求を懸念して
「本当に大丈夫なのだろうか?」
そう考える者も中にはいたが、
別の者は一笑に付した。
「はっはっは。それは無用な心配だよ。スレイヤードの御当主様から何度も丁寧な書簡が届いている。我らの力を求めている証拠だ」
そう。
彼らのような呼びかけに応えなかった傘下の貴族にも言葉を尽くした丁寧な書簡が届けられていたのだ。
そんなシンクの態度が彼らを増長させていた。
面従腹背。
そんな言葉が似合う光景だった。
「今は従っておいてやろう。誰に従うにしても手土産を集める時間も欲しいからな」
そんな皮算用をしている彼らは知らない。
シンクが国王デルウッドに求めた言葉の真意を。
スレイヤード領の平和、家族の安寧。
その為にシンクが既に覚悟を決めていることを。
彼らはまだ知らない。




