未来に向けた一歩
貴族とは面子を大事にする。
それが上位貴族ともなれば自らに従う者達への統率に関わってくるのだからより神経を尖らせているに違いない。
しかし時にはそのこだわりが機を逸する原因にもなり得る。
貴族としてのプライドが最善手を遠ざけ、結果取り返しのつかない事態を生起させることもあるのだ。
その点フェリオ・グラードは貴族らしくなかった。
謁見の罠をことごとく打ち破られたと見るや即座に敗北を認めて和解の道を探った。
謁見の翌日、フェリオはシンクを屋敷を訪れていた。
この機を逃さない抜け目のなさもフェリオの強みであった。
「シンク殿、今日は急な訪問になって申し訳ない」
「いえ、フェリオ候とは新しい関係を築いていきたいと考えていましたのでちょうど良い機会と思いました」
お互いに社交辞令をすませる。
「早速だが本題に入りたい。今回の訪問の目的は謝罪なのだ」
「謝罪ですか?」
シンクが首を傾げる。
その姿には年相応の幼さを感じる
しかしフェリオは気を緩めることはない。
「当主の暴走によりグラード家がスレイヤード家に被害を与えた件です」
説明しながらも相手を観察する。
一部さりげなく責任をヘイゲルに押し付けることを忘れないあたり、フェリオにも貴族らしいところはある。
「………気にしていないと言えば嘘になります。しかし王国のために憎しみを飲み込まなければならない時はあると思います」
そんなフェリオの打算にシンクは鋭く切り返す。
それは両者の和解が利によって成り立っていることを宣言するもの。
グラード家に赦しを与えた訳でなく、ただ憎しみを押し隠しているだけということを暗に語っている。
フェリオがどう答えるべきか迷っていると不意にシンクが笑みを浮かべた。
「とはいえフェリオ候のことは素直に尊敬しております。貴方のおかげでこれからの両家の関係に光明が見えました」
「私は何も………」
「あの謁見の場でフェリオ候は本気でスレイヤードとの和解を考えておられました。どういう心の変化があったのか私には察することはできませんが、その想いを感じることができたからこそ私もその手を取ろうと考えることができたのです」
シンクはフェリオを知っていた。
ヘイゲル・グラードの死後グラード家当主となり、誠実さと強かさの両面をもって家の存続に努めた人物。
ヘイゲル・グラードによって作られたグラード家の悪名を拭い去るために奮闘した苦労人。
それがフェリオ・グラードという人間であった。
しかし、それだけで和解を考えるほどシンクもゲーム馬鹿ではない。
この世界でもフェリオが同一人物である保証などなかったのだから。
その考えを改めるきっかけとなったのはフェリオが不利と見るやすぐに反攻を諦めた潔さ。
そしてシンクに攻めかかる傘下の貴族をなんとか抑えようとする姿はまさしくシンクの知るフェリオ・グラードだった。
フェリオもまた気付く。
自分がグラード家を掌握するために時間が必要なようにシンクもまたスレイヤード領を完全に制しきれていないことに。
ここでグラード家と事を構えればシンクは領内に不安を抱え込むことになる。
まさにシンクの言葉通り家のために憎しみを飲み込んでいるのだ。
もしヘイゲルなら間違いなくここで動く。
積極的に敵対し、スレイヤードの不穏分子を煽るはずだ。
だがここにいるのはヘイゲルではない。
「わかりました。両家の蟠りが一日も早く消えるように私も全力を尽くしましょう」
フェリオにとって最優先はグラード家の掌握。
先の謁見でヘイゲルに近い者たちは大半が粛清された今ならそれもそう遠いことではない。
だがもしここでスレイヤードを攻めれば領土の一部は奪えるかもしれない。
だがその間に間違いなくヘイゲル派は息を吹き返す。
そうなった時の労力と切り取った不安定な領地。
比べるべくもない。
シンクの思惑に乗ることこそが悲願達成の近道だった。
「こちらこそよろしくお願いします」
二人は手を繋いだ。
「ああ、本当の目的を忘れるところだった」
会談が和やかに終わりを迎えようとしていた頃、フェリオがふと思い出すように言った。
「シンク殿、何かグラード家に対して望むことはありませんか?」
「急にどうしたのですか?」
思いがけない言葉に驚きを隠さないシンク。
「言葉だけの謝罪ではこちらの気が済まない。何かないだろうか?」
これから両家の関係を築いていこうとする矢先だ。
フェリオは少しでも誠意を見せておきたかった。
「しかし」
シンクが何かを言おうとするがあえてフェリオはそれを遮った。
「何でも良いのだ。何かないのか?」
フェリオの押しにようやく考え始めるシンク。
「では………」
しばしの思考の後、シンクは口を開いた。
「グラード領にある村、そこにいる人材を登用する権利を頂きたい」
予想外のことが重なりつつも得た好機。
シンクはそれを活かしてみようと思った。




