王城問答(終幕)
「知らない! 私たちは知らなかったのだ!」
謁見の間に晒された真実。
先程までヘイゲルを擁護していた貴族たちは見事なまでに手のひらを返していた。
記録の魔道具によって再生された内容はヘイゲルとグシンによるスレイヤード家乗っ取りの陰謀。
敵国であるディーンを誘引したことも暴露された以上、自らの進退にも関わるため彼らも必死だった。
「それはおかしいですね。先程あなた方はヘイゲル候のしていたことは全て知っているとのことでしたが」
しかし、それを許す程シンクは優しくない。
実際関わっていたかは問題ではない。
彼らは今回反省の色もなく敵意を見せた。
その時点で今後の憂いを断つために彼らの排除はもはや確定事項となった。
「そ、それは………」
ヘイゲル擁護派の貴族たちは先程高らかに宣言した言葉を誤魔化すことができない。
「彼らが父の謀殺に関わっていたとなれば、スレイヤード家当主として相応の処分を求めます」
シンクがデルウッドを見て告げる。
デルウッドが何かを言う前に貴族たちがそれを遮った。
「お、お待ち下さい! ち、違う。そう、先程のことは違うのです!!」
「そ、そう。先程のは言葉の綾というもので………」
咄嗟に並べられたのはあまりに稚拙な言い訳。
そんなもので逃れられるほど彼らが敵に回した者は甘くはない。
「………それは陛下の前で嘘をついたということですか?」
既に彼らはどう足掻いても逃れられないところまで追い込まれていたと気づかされる。
「そ、それは………」
もはや彼らに答えはない。
いや、答えたところで助かる方法などなかった。
「もう良い。その者らを捕らえよ。貴族として最後くらいは責任を果たすのだな」
デルウッドの宣告が冷たく響きわたった。
「シンクよ。彼らの処遇はこちらで決めても良いのか?」
「はい。陛下ならば見事に裁いてくださると信じております」
そのまま聞けば忠誠心に満ちた言葉。
だが少しでも服芸ができる者は言葉通りに受け取ることはない。
「彼らは国家転覆を図った大罪人。爵位と財産の没収、一族も含めて死罪を言い渡そう」
誰もが黙って聞いている。
重いとは言わない。
一つ間違えばディーン王国の侵攻を許したのは間違いないのだから。
「没収した財産はスレイヤード家への賠償とする」
「お心遣い感謝致します」
シンクが頭を下げる。
この決定は王家とシンク双方の利に一致していた。
王家は目下の目的であるグラード家の傘下の貴族を潰すことで勢力を削ることができた。
シンクに関しては多額の賠償金を獲得し、戦後の褒賞や今後の為の資金を確保することができた。
「さて、当のグラード家については如何するか」
その言葉にフェリオは身構える。
デルウッドが長年苦しめてきたグラード家を嫌悪しているのは明白。
フェリオはいかに追求をかわし、被害を減らすかに全神経を集中させた。
しかしその窮地を救ったのはフェリオにとって意外な者だった。
「陛下、グラード家への処分、必要以上に重くならぬように願います」
「………シンクよ、どういうことだ?」
フェリオを含めて周囲にいる者たちもシンクの意図が分からず訝しげな視線を向けた。
「グラード家は国家を揺るがしかねない問題を起こしたのだ。これは取り潰しすら通るほどの問題だ」
「陛下の憤慨はもっともなものです。しかし、国のためを思えばこそグラード家のお取り潰しはお止め下さい」
「むむ」
デルウッドはシンクに説明を促す。
「我らは戦争でディーンを退けました。しかし我がスレイヤード軍の被害は大きく予断を許しません。また、ディーン以外の周辺国の動向も無視できません」
「うむ………」
「今グラード家を排除すればその混乱は想像できない程大きなものとなります。その隙を他国がどう見るでしょうか」
「………」
デルウッドが宰相を近くに呼び相談する。
話が終わるとデルウッドはシンクに問いかける。
「グラード家はお主にとっても家族の仇。本当に良いのだな?」
「画策した張本人は既にこの世に無く、フェリオ殿が関係していた証拠はありません。スレイヤード家はこれ以上グラード家への追求は致しません」
「………よし、フェリオよ」
「は!」
「前グラード当主ヘイゲルの所業は許しがたい。だがグラード家のこれまでの貢献を考え、これ以上の責は負わせぬ」
「は! 有り難きお言葉」
両者思うところはあれどヘイゲルの策謀によるディーン侵攻の問題について一先ずは丸く収まった。
「陛下、更に一つ申し上げたいことがございます」
「うむ、申せ」
「ゼールギス王の処遇について陛下はどうお考えですか?」
「今回仕掛けてきたのはディーンの方だ。ゼールギス王に関しては責任をとってもらうつもりだ、が、その言いよう。お主が言いたいこととはそのことか」
デルウッドの言葉にシンクが頷く。
「ご明察の通り。現在ディーンとは停戦状態。率直に申し上げますと再びディーン王国と衝突となればスレイヤードは無事では済まないでしょう」
「その鍵がゼールギス王と言うのか?」
「はい、停戦の際、ゼールギス王と引き換えにディーン王国と休戦し一時的な同盟を結ぶことを次期国王であるゼウルと約を結んできました」
シンクの言葉を聞き、貴族たちから『何を!?』『越権行為だ!』と声が上がる。
「………ではあなた方は我らに死ねと申されるのか?」
底冷えするような冷たさ。
シンクが言葉を発した途端、貴族たちは静まり返る。
「いまこの時も我が将兵が命を賭けて勝ち取ったもの。もしゼールギス王が処刑となればディーンは再び国を挙げて攻め入ってくるでしょう」
シンクは周囲を見回す。
「今度は盾も砕け散るでしょう。その後ろのグラード家も混乱の最中。さて一体誰が皆様を守るのでしょうか」
シンクは示す。
再びディーンと戦になればリキア王国は危機に陥ると。
「ゼールギス王を返せば本当に避けられるのか? 奴らが約定を破らぬという保証はあるのか?」
「ゼウル王子はまもなく王位を継がれます。そのような時に信用を失うような真似をする程愚かではないでしょう」
「しかし」
「彼らとて敗戦を喫したばかり。ゼールギス王の仇討ちでもなければ無理な戦いは不満を招くだけのは理解していましょう」
最終的にデルウッドはシンクの言葉を受け入れた。
他にも自国を狙う敵がいる以上、一時的とはいえディーンとの同盟は価値がある。
デルウッドの目的である王家の威信を取り戻すためにも時間は必要だったのだ。
「シンクよ、色々と問題はあったがそなたとスレイヤードの献身はよくわかった。ディーンを退けた功績と併せて改めて礼を言おう」
「ありがとうございます」
「功ある者には報いるのが道理。何か望みはあるか?」
シンクは首を横に降る。
「この度ディーンとの方針という国の大事に私の意見を反映して頂きました。それで十分でございます」
褒賞を辞退するがデルウッドも引かない。
「それもまた一つの功績だ。それを褒美とするのは私の沽券に関わる」
「………では、二つ程お許し頂きたい事がございます」
「申してみよ」
デルウッドとしてはこれから台頭する可能性の高いシンクに恩を売っておきたかった。
「一つは私がスレイヤードを継ぐことに対する陛下の承認をいただきたいのです」
「あのようなことがあったのだ。それは当然認めよう。それでもう一つは何だ?」
「戦後の処理もあって一時我が領内が騒がしくなるかもしれません。陛下が国の安寧を望んでいられるのは承知しています。しかし、一年はお待ち願いたいのです」
二つ目の願いにデルウッドは首を傾げるが当主が変わるのだから必要なことだろうと認めた。
「よかろう。二つの望みは確かに聞き届けた。しかしそれだけではまだ心苦しい。追って別の褒賞を渡そう」
「ありがとうございます」
シンクとしてもそれ以上固辞する理由もなく受け入れる。
多くの運命を動かした謁見がようやく幕を閉じた。




