王城問答(開幕)
「陛下、発言よろしいでしょうか?」
「許す」
デルウッドがシンクに発言の許可を与える。
これによりシンクは抗弁する権利を得た。
「陛下のお言葉は先に私の下に訪れた使者のことを言っておられるのでしょうか?」
「無論である。ゾンド、前に出よ」
既に呼ばれることは理解していたのだろう。
ゾンドは堂々とした様子だった。
だがシンクは一暼すらせず言葉を続けた。
「であれば私は陛下のお言葉に背いた記憶はございません」
「ほう?」
デルウッドが眉を動かす。
否定はすると思ったがここまで断言するとはデルウッドも思わなかった。
「な、何を言うか!?」
すぐさまゾンドが声を上げる。
ここでシンクを論破することが彼に課せられた任務であった。
「陛下、わたしは確かにお伝えしましたぞ! スレイヤードは後継者争いを禁止せよと!」
ゾンドが高々に主張する。
その通り彼は間違っていない。
「はい、それは私に伝えられた内容に間違いありません」
そしてシンクも否定しなかった。
「………どういうことだ? 先程のお主の言葉を撤回するつもりか?」
デルウッドが目を細める。
ふざけているのか、そう感じていた。
「いえ、私はその使者の言葉通り、兵を派遣してはいないのです」
「何をいうか!!」
シンクの言葉に再びゾンドが声を上げる。
だがそれ以上の言葉が紡がれることはなかった。
貴族の列から前に出たのはフェリオ。
彼がゾンドの言葉を遮った。
「戯言は止めてくれ。我が父ヘイゲルとグシン、この両名の死をどう説明する!? 勝手に死んだとでも言うのか!!」
フェリオが激昂する。
それは見せかけであるがシンクの口車を封じるための芝居だった。
「あえて言葉を選ばす、率直に申し上げればその通りです」
「な、なに?」
だが意表を突かれたのはフェリオの方だった。
皮肉を言ったつもりが肯定された。
「ど、どういうことだ?」
デルウッドが慌ててシンクに問いかける。
実はデルウッドにもフェリオにも二人の死についての詳しい状況は分かっていなかった。
爆殺されたことは確かであるが詳しい証拠は部屋と共に吹き飛んでしまっていた。
二人の遺体の回収すら困難を極めたのだ。
十中八九シンクが部下を派遣したと考えていた二人にとってシンクの言葉は理解し難かった。
「ヘイゲル殿とグシン兄上は父の執務室でお亡くなりになられた、その認識であっていますか?」
「………うむ」
「………ああ」
シンクに騙されないように警戒するが明らかな事実を誤魔化すことはできない。
「であれば二人は父の仕掛けた盗難防止の罠にかかったとしか言えません」
「わ、罠?」
デルウッドが思わず聞き返す。
なんとかこの流れを断ち切ろうと考えていたフェリオだがその為に言葉を発することができなかった。
「父は用心深い性格でした。執務室には重要な書類が多い。万が一、スレイヤード家の者以外がそれに触れようとした場合に奪われないように罠を仕掛けていたのです。………少し過激ではありますが」
シンクの言葉に一同が呆気に飲まれる。
それはあまりにも荒唐無稽だ。
「馬鹿な! だとすれば何故グシンは知らなかったのだ!! あれもスレイヤードで育った。知っていて当然だろう!!」
それを見逃すフェリオではない。
シンクの嘘を晒そうと言葉を並べる。
「ええ、父も話すつもりでした。時にグラード侯爵、兄グシンの最近の様子についてはご存知ですか?」
「………少し放蕩が過ぎるとは聞いた」
フェリオが答えるとシンクは悲しみを浮かべる。
「………そう、兄は父上を避けていました。その為に兄は父から執務室の罠について知る機会を失ったのです」
シンクの様子は一見本気で悔やんでいるように見える。
そんなはずはないと思いながらもフェリオには否定する根拠がなかった。
(………なんてことだ!!)
フェリオは場の流れがシンクに支配されつつあるのを感じた。
シンクの言葉は信じ難い暴論に近いものではあるが、論理を組み立てている。
更にはシンク本人の流れるような弁舌が周囲に『あり得るのかも』と思わせていた。
(………恐ろしい。これが7歳の子供が)
僅かな間に場を覆したシンクに密かに恐れを抱くフェリオだった。
「陛下、私からもお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「う、うむ。許可する」
誰もが言葉を失う中、今度はシンクから切り出す。
意表を突かれたデルウッドは思わず許可をしてしまった。
「我が兄グシンの死について陛下に確認せねばならないことがあります」
場がどよめく。
シンク本人がその話題に触れるとは思っていなかった。
「………続けよ」
問いを受けたデルウッド本人が一番困惑していた。
しかし許可した以上は聞かざるを得ない。
「先の陛下の使者に対する確認です」
再びゾンドに視線が集中する。
「先に申した通り兄グシンの死は知るはずのことを知らなかったが故に起きた事故。しかし、これを防ぐことは可能でありました」
周囲のざわめき他所にシンクは言葉を続ける。
「しかし、その為のたった一つの手段は他ならぬその使者によって封じられたのです」
「!!」
シンクの目に力が宿る。
先程までの冷静なシンクではなく、ディーンを打ち破った武人の姿がそこに見えた。
「そ、その手段とは何だ?」
デルウッドが息を呑みながらも確認する。
「それは私が使者を送り兄に仕掛けを知らせること。ただ一人さえ兄の下に送れればこの悲劇は回避できました」
シンクはデルウッドを鋭く見つめながら続ける。
「しかしその使者はそれすらも拒否したのです!」
ゾンドの顔色が悪い。
表情は驚愕に染まっていた。
「………私が確認したいことは一つ。私から兄を救う手段を奪った使者の言葉は誰のものか、です」
シンクは一度言葉を切り、息を吐いた。
「そこにいる使者の独断か、それとも陛下の御意志なのか。お聞かせ下さい」
シンクの姿は既に断罪される者のそれではなかった。




