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勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第二章
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謁見



シンクの悩みは晴れぬまま王都に到着した。

向かうのは王都にあるスレイヤード家の邸宅。

リキア王国ではある程度の貴族であれば領地の他に王都にも別邸を持っている。

スレイヤード家も例に漏れることはなかった。


「リンド、王城で謁見の手続を頼む」

「はい」


リンドは一先ず一行と別れた。


邸に到着するとシンクはリーフを伴い、シンクの馬車に匹敵する厳重な警備がされた馬車に近づく。


「ゼールギス王、長旅にお付き合い頂き申し訳ない」

「いや、本来なら首を取られても文句を言えない立場。むしろスレイヤード候には感謝している」


馬車から降りてきたのはディーン国王ゼールギス。

先の戦で捕虜となり、今はリキアの王への引き渡しのためにシンクと共に王都に来たのだ。


「敵対したとはいえ、貴方は王。最低限の礼儀というものが必要です」

「はは、耳が痛いな」


それは宣戦布告も無しに戦を仕掛けたディーンに対する皮肉にも取れるが、ゼールギスは言葉と裏腹にあまり不快な思いはしていなかった。


「御身が国に帰れるように私が働きかけましょう。できればお互いの恨みを捨て、これからは手を取っていきたいと思っています」


この言葉はシンクの本心である。

世界の危機はディーンとの戦の中で広がっていく。

戦争そのものが起きなければ未然に回避できると考えたのだ。


「有り難い話だ。しかし、リキアの王とて今回の好機は逃したくないのではないか?」


国王が捕虜になり、ディーン王国は浮き足立っている。

確かに一見すれば攻めるには容易い。

だがシンクは、


「私はそうは思いません」


そう一言発するのみだった。





本来なら国王に謁見するまで数日を要するが今回は事がことである。

敵国とはいえ国王であるゼールギスをあまり粗雑に扱う訳にはいかない。

例えどのようか決定を下すにしても体裁というものはあった。

そして何より王族の方が早急に謁見してしまいたかったのだ。









「面をあげよ」


リキアの王デルウッドがシンクに声をかける。

言葉に従いシンクは顔を上げた。



結局、本来数日かかるはずの手続きは省略に省略を重ねて、到着日の翌日に謁見という運びとなった。

あまりの早さにシンクは王国もまた浮き足立っていると感じた。



「まずは急な呼び出しとなったことを許して欲しい。何分あまりに耳を疑う事態が重なった。皆が早く真相を知りたくて仕方なかったのだ」

「御心のままに」


デルウッドの言葉に微笑を浮かべて応じるシンク。


「………また我が国土を侵した大軍を相手に一歩も引かず、あまつさえ国王ゼールギスを捕らえたお主の手腕は見事というしかない」

「ありがたきお言葉。我が身の誇りとします」


デルウッドは少し毒気を抜かれる。


目の前の少年がヘイゲルを謀殺した相手とはどうにも想像が重ならなかった。

また、倍の軍を相手にとり、これを打ち破った猛将にも見えない。

第一印象は物腰柔らかなやや大人びた少年であった。


「………さて、そんなお主を問いただす形となるのは忍びないが、リキア王族の威を傷つけられたとあっては見逃す訳にはいかん」


ともあれデルウッドは早速本題に入る。


「威を傷つけた、ですか?」


シンクが首を傾げる。


その姿が惚けているのか、本当にわからないのかデルウッドには判断がつかなかった。


「わからぬか? シンク、そなたは王族が決定した継承争いをしてはならないという判断に反して、グシン・スレイヤードを殺害した疑いがかかっておる」


ここは王族とグラード家が示し合わせた通りの流れである。


「またこれに巻き込まれてグラード当主ヘイゲルも命を落とした。このような事態にならぬように私は命じたというのに見事に踏みにじられたという訳だ」


この後はシンク・スレイヤードの弾劾の流れとなる。

貴族の列から見ていた現グラード当主フェリオは心の中で安堵した。



フェリオ・グラード。

ヘイゲルの長男であり、ヘイゲル亡き後グラード家当主の地位を継いだ。

昔から穏和な性格であり、本当にヘイゲルの子かと周囲を驚かせた。

ヘイゲルが強引に他者を蹴落としていく中、フェリオは不満を宥める政策をとった。

勿論主たる権力はヘイゲルが握っていたため、その方針に逆らうことはできなかったが、フェリオはグラード家の良心として認知されつつあった。


だがが『怪物』と呼ばれた男の息子がただのお人好しのはずがなかった。

これらの行動は全てフェリオの計算上の行動である。


確かにフェリオは父ヘイゲルのやり方は強引が過ぎると反対であった。

だがそれがグラード家の利益となっていることは重々承知であったのだ。

自分を担ぎ、父に反旗を翻そうとした者たちを父に伝え誅殺したこともあった。


そんな彼が穏和を演じたのは訳がある。

フェリオは自分がヘイゲルの真似をするのは不可能だと早々に見切り、逆に父と反対の方針を取ることで父の死後の求心力を得ようとした。


『フェリオなら良い領主になってくれる』


そう臣下と領民が思ってくれるように振る舞ったのだ。



だがフェリオは予想以上に早く当主の地位を継ぐことになった。

それもヘイゲルが殺されるという最悪の形で。

このままではグラード家の影響力の縮小は避けられない。

その対策としてこの舞台を整えた。


唯一の懸念はデルウッドの心変わりだったが、予定通りシンク・スレイヤードを追及する流れとなった。

大半の貴族に根回しは済んでいるので一部の反グラードの貴族も何もできはしない。


後はいかにグラード家を掌握し、自分の地盤を固めるかが勝負だった。


「陛下」


だからここでシンク何を述べようが覆らない。

フェリオをこの時までそう信じていた。



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