↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第一章
30/45

拒まぬ者達



クーガ城砦に辿り着いたスレイヤードの者達は、この戦いで戦死した者達を弔った。

勝利したとはいえギリギリの戦い。

多くの者が命を失った。


特に被害の大きかったはロンクーの部隊。

将であるロンクーを始め、1000人いた彼らの中で生き残ったのは2割に満たない。

壊滅的な被害を受け、彼らがそれでも戦い続けたことが今回の勝利へと繋がった。


シンクは直々に彼らを英雄と称え、生者も死者も重く賞することを魂に誓った。


その厳かなる場で声を上げて泣く集団があった。

男泣きに仲間の死を悼む姿はいい。

だが彼らの風貌は見窄らしいの一言だった。

髭は伸び、服は汚らしい。

そもそも出陣前に彼らの姿は陣列になかったはずである。


それでも彼らは見咎める者はここにはいなかった。





スレイヤード軍がロンクーを看取った後、シンクは簡易的な論功行賞を行なっていた。

まだ軍を退くことはできないが恩賞を約束することで貴族や将兵を安心させるためのものだった。


デュバル、シュテンは功を争い、大いに暴れたらしい。

お陰で数の劣勢を一時的に補えた。

スレイヤード家は『王家の盾』と呼ばれる武門の家だったが傘下の貴族も血の気が多いらしい。


その両名を含めた貴族には領地の増加を約した。

王国の土地を黙って与える訳にはいかない。

与えるならスレイヤードの管理する土地となるが目処は充分にあった。


将兵には多額の報酬を払う。

かなりの出費になるがこちらにも心当たりはある。


そして論功行賞が佳境に入った時、シンクは件の者達のことを持ち出した。


「そういえばディーンとの戦いの最中、俺等を助ける一団がいたな」


ロンクーに代わり、側で仕えるリンドに問いかける。



もうシンクは喋り方を変えていなかった。

ロンクーの死が何かシンクに影響を与えたのか。

それは本人のみが知るところだった。



「はい。………シンク様、彼らに会われるのですか?」


口調からリンドが不同意なのが読み取れる。


「会わねば真実は伝わらないだろう。あの戦場でわざわざ此方の味方をしたのだ。彼らの思いを聞いてやらないとな」


伝え聞いた彼らの素性は賊徒。

公爵である自分が会うまでもないと考えている者は多い。

だがシンクは彼らが何を考えているのか興味があった。



しばらくして現れたのは二人。

どちらも無精髭が伸び、きょろきょろと物珍しそうに辺りを見ている。

教養など感じられる姿ではないが、見るからに屈強そうな身体は中々の威圧感を持っていた。


「まずは礼を言おう。お前達の助力は大きかった」


シンクが語りかけると二人は慌てて頭を下げた。


「へい、そう言って頂けるとあっしらとしても戦った甲斐がありやす」


体格の少し小さい方が応じる。

言葉遣いはあれだが周囲には大目に見るように命じている。


「早速だが話をして聞きたい。お前達は何者だ?」


へい、と再び同じ男が返事した。

どうやらこの場はこの男が対応するらしい。


「あっしの名はランガス。こいつは弟分のドルカスと言いやす。あっしらはクレム川で船の荷を襲って食い扶持を稼いでいやした」


クレム川。

スレイヤード領とグラード領の境に流れる大きな川だ。

スレイヤード、グラード領に物資を運ぶ重要なルートでもある。


「しかしあっしらも前からそんなことをしていた訳じゃねえ。グラード領で普通の生活をしてたんだ」



ランガスの話はヘイゲル・グラードの野心が生み出したものだった。

ヘイゲルは悪政を施いていた訳ではない。

だがグラード家の影響を高める過程でかなり強引なことをした。


対立する貴族を謀略をもって制する傍で反発する町や村が潰されることがあった。

またヘイゲルが大きく動こうとする時は領内の統治を後回しにすることもあった。

その中で生きる術を失った者がグラード家を恨み、盗賊となったという話はゲームでもあった。



「だがあっしらもいつまでもこんなことは続けていられねえ、と考えていたんです。そんな時にヘイゲルの奴が公爵様を狙っているって聞いて、それをお助けすればあっしらを雇って貰えるんじゃねえかと話したんでさ」


憚ることのないランガスに周囲が眉を顰める。


「つまりお前達はスレイヤードに仕官したいということでいいのか?」

「へい!」


隣にいるドルカスも頷いている。


「シンク様、確かに彼らは不憫な境遇ですが、元賊を受け入れればスレイヤード家は犯罪者を擁護していると謗られます」


リンドが懸念を述べる。

ランガス達としてもそう言われると何も言えず項垂れる。


「お前達の助力は確かに感謝に値する。恩賞は与えるからそれで満足したらどうだ?」


リンドの提案にランガス達が困ったように顔を向け合う。

やはり無理だった、そんな諦めが感じられる表情だった。


「少し待て」

「シンク様?」

「それでは命をかけた者に対してあまりに無情だろう」


シンクが考えたのは未来。

大分ゲームとは流れを変えたがもし同じように世界が進むなら今のままでは戦力が足りない。

上手く彼らを戦力化できないかと考えた。


「ランガス、これからの問いに嘘は許さない」

「へい!」

「お前達が襲っていたのはグラード家に関係する船ということに間違いはないか?」

「へい! 公爵様の船には一切手を出していやせん!」

「一般の船は?」

「商人の船は何度か………。たけど殺しはしてねえ」


ぎりぎりだな。


彼らの目に嘘は見えない。

必至に真人間に戻ろうとしている。


ぎりぎり使える。


「………今回のお前たちの活躍は大きい。兵士として雇うには申し分ない」


おおっ、と二人が声を上げる。


「しかしシンク様、それでは………」


慌てるなリンド。

もちろんそのままは雇えない。


「だがお前たちの罪が消える訳ではない。王国の法に照らせば戦闘奴隷というのが妥当なところだな」



戦闘奴隷。

犯罪を犯した者が罪を償うために過酷な戦場に送られて戦いを強要される制度。



二人の顔が一気に強張る。

冗談ではないと緊張が走る。


「ただスレイヤードでは戦闘奴隷はいないし、私も知識がない。新たに編成する必要があるな」


周りが疑問符を浮かべる。

編成も何も戦闘奴隷はただ最前線に送り込まれるだけである。

それに知識がないとはどういうことか。


「名前はそうだな、強進隊とでも呼ぶか」


当の二人も様子がおかしいことに気づき始めた。


「二人にはその隊長、副隊長になって貰う。給与と休暇に加え戦功に応じた報酬を出す。そんなところか?」


シンクの言葉にランガスが震えながら答える。


「ほ、本当にいいんですかい?」


シンクの言葉は普通の兵士と変わらない。

戦闘奴隷とは名ばかりだ。

それに自分たちのための新しい部隊までもらえる。


「もちろんやることはやって貰うぞ。従軍義務に領内の治安維持。いずれもっと忙しくなるかもしれないな」

「もちろんです!」

「やらせてください!」


二人が即答する。

シンクはこれを機に常備軍として再編成しようと考えていた。



「リンド、意見はあるか?」


二人が退出した後、シンクの問いかける。

リンドが溜息をきながら答えた。


「確かに表向き戦闘奴隷なら批判は少なくなります。しかし内部の反発は大丈夫でしょうか?」


こいつもロンクーに鍛えられたな。


「元盗賊という点をおいても平民と肩を並べるのを嫌がる貴族がいるかもしれません。今はありませんが私たちも平民ということで不満が出るかもしれません」

「確かにな。だが今回の戦いに参加していた者たちはロンクーと彼らの活躍を見ている。反発は少ないだろう」

「しかし、それ以外の貴族は………」


リンドの言葉に思わず笑みが浮かぶ。


「いるのか? そんな奴ら」


リンドが息を飲む。


「怖気付く者、矛先を間違える者。そんな奴は盾にはならない」

「それは………」

「落ち着いたら影の民を迎い入れる。スレイヤードは大きく形を変えることになる」


リンドは主人が何を望んでいるのかを感じ取った。

主人が望む先、それを間違えては師匠の役目は務まらないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。