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勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第一章
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失い、それでも前へ



シンク目の前に一人の男が倒れている。

片手を失い、それでもなお戦い続けた男は生きるための血を吐き出し、最期の時を迎えようとしていた。


傍らには一人の少女が寄り添い泣いていた。

いや、自分の背後に立つ二人も恐らくは泣いているのだろう。





ゼールギスを捕らえた軍は戦いに勝利した。

ディーン軍は精神的主柱であったゼールギスが捕らえられたことを知り瓦解。

一部の者達が抵抗しようとしたがゼールギスがまだ生きていたため下手に動くことはできなかった。


またゼールギスが協力的であったため、その後は一時的な停戦が両軍の間で結ばれた。

交渉の中でディーン軍は撤退と引き換えにゼールギスの解放を要求するがシンクはこれを拒否。

食い下がるディーン軍に対しシンクは、


『先にリキア王国に侵攻したのは貴軍であり、我らは国王の代わりに戦ったまで。ここでの戦果は王国に帰属し、ゼールギス国王の処遇も我が王の求めるところである』


と反論。

侵略者であるディーンの者達は反論できず、ゼールギスの命がかかっているため武力による奪還も選べなかったのだ。





彼我ともに動きが止まった時、シンクはロンクーの下に駆けつけたのだった。

変わり果てた腹心の傍へと歩を進める。

シンクの姿に気づいた少女が声を上げた。


「師匠に近づかないで!」


リズが鬼気迫る表情でシンクを睨みつける。

彼女の気持ちを知っているシンクにとって、そう叫ぶ気持ちは理解できた。


だが理解できるからといって引く気はシンクにはない。


「師匠を殺したくせに!」


リズは今にも飛びかかりそうな様子を見せる。

後ろに控えていたリンドとリーフが身構える。


その時ロンクーが目を開けた。


「シンク………様」


ロンクーが発した言葉に全員の注目が集まる。


「師匠! 師匠!!」


リズがロンクーに擦り寄る。


「リ………ズ………」

「な、なに?」

「少し黙っていてくれ………………」


ロンクーはリズを視界に入れていない。

顔はシンクを向いていた。


「し、師匠………」


リズがショックを受けて固まる。

同時に理解してしまう。

ロンクーが最期に誰と話したいのかを。


「シンク様、勝てましたか?」


思わずシンクの目が熱くなる。


「そうだ勝った、考え得る限り最高の勝利だ」


その言葉を聞き、ロンクーが満足そうに笑う。


「………それは、よかった」


剣に生き、戦いに生きた男が最期の最期に心に残ったのは、主人たる一人の少年の行く末。


「………これからも勝ち続けて下さい。そして、もっと、もっと大きくーーー」


ごほっとロンクーが血を吐く。


「師匠! それ以上は!」

「もう喋らないで下さい!」


リンド、リーフが静止する。

しかしシンクはただロンクーを見続けた。

血を失い、色を失ったロンクーに一言だけかける。


「………約束する。そして見ていろ。ロンクー、お前が今日ここで戦い、守ったことが歴史に残る様を」


ああ、とロンクーが息を吐く。


「シンク様、最高の戦場を、ありがとうございます………」


一陣の風が吹く。

もう応えることのない腹心に最期の言葉をかける。


「安らかに眠れ、師匠」





この日、剣鬼と呼ばれた男はその生涯を閉じた。









シンクにとってかけがいのない者を失った。

しかし、世界はそんなことは構いなく回っている。


ディーン王太子ゼウル率いる本体が到着。

これでシンク率いるスレイヤード軍は再び窮地に陥るかに思われた。


しかしその大軍もスレイヤード軍を前に動きを止めた。


国王ゼールギスが捕虜となっている事実は既に本隊とゼウルに伝わり、戦えば必ず勝てるとしても攻撃をすることができなかった。


例え王太子であるゼウルが望んだとしても周囲の者たちは従わないだろう。

国民に圧倒的な支持を持つゼールギスを見捨てる。

それをする為の実績がゼウルには足りなかった。

今回の出征こそがそれを補う為のものだったのだから。


ゼウルにできたことは大軍を背景に再度ゼールギスの解放を求めること。

実際に攻撃できずとも脅しにはなると考えたのだ。


しかしそれでもシンクの答えは変わらない。


『我らスレイヤードは王国の盾。国王に代わり国境を守護する者なり。なればこの戦いの戦果は国王に帰属し、私の一存で決めることではない』


毅然と一歩も譲らず、ディーンの使者を圧倒した。

またシンクは最後にこう付け加えた。


『我が領土を侵す者がいる限り、王に報告する兵は持ち合わせていない』


ディーンが軍を退かない限り交渉は始まらないと逆に脅しをかけたのだ。

お互い睨み合いで動けない以上、侵略者であるディーンの方が時間とともに不利になる。

兵站、嵩む戦費、敵の増援の可能性。


遂にゼウルは全軍の撤退を決定。


辛うじて軍を退く条件としてゼールギスの身の安全と解放のための交渉を約束させることが精一杯だった。

それもシンクの描いた思惑通りだった。


ディーン軍は『ラーズの牙』を超え、ジュード領へと撤退。

このことがシンクの更なる思惑の中と知らず、両軍の間に一時的な停戦が結ばれる。


この話をが届いたリキア王城も寝耳に水な話に浮き足立つのだがそれはまた別の話。


一先ずシンクは軍を纏めてクーガ城砦に帰還した。


これが歴史な名を残す戦いとなる『ラーズの戦い』の終局だった。



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