勝利への執念
すいません。
先週は忙しくて更新できませんでした。
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狭まる包囲、絶対絶命の危機。
そんなものは関係なかった。
「命一つ」
ロンクーはただ剣を振るう。
目の前の敵を斬り、宿敵と定めた男の下に向かうために。
「命一つ」
敵も隊列を組み、相互に支援して必死に食い止める。
しかしそんな努力も剣鬼の前ではその歩みを僅かに遅らせるのみ。
「命一つ」
連携の隙を突かれ、一人また一人と屍を晒す。
「命一つ」
この男は不死身ではないか。
淡々と剣を振り、命を奪っていくその姿にディーン兵たちはそんな幻惑に囚われる。
「命一つ」
そしてロンクーの兵たちは敵陣を食い破っていくロンクーの姿に奮起し、勢いを取り戻す。
それは一人の男によって戦場が支配されているといえる光景だった。
「………これほどか」
包囲を完成しても好転しない状況にカレイドは戦慄した。
だがカレイドも常の人ではない。
恐れに思考を止めることなく、勝利を掴む方法を模索する。
「………考えるまでもないか。奴一人に戦場を奪われたなら奴を討てばいい」
するとカレイドは副官に向き、
「指揮を頼む」
そう言い残すと返事も待たずに駆け出す。
「この風、この匂い、ひどく懐かしい!」
カレイドは今から起きる戦いに心を奮わせる。
かつて幾度と経験した強敵との対峙する高揚。
将となり、前線に出る機会が減ってからは久しく味わっていなかった。
あの男に勝てるのは自分のみ。
かつてゼールギスの剣と呼ばれたディーン軍最強が動き出した。
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ゼールギスの下に戦況の確認に向かった兵たちが次々と帰還する。
複数の情報から精査されたものがゼールギスに報告される。
「右翼は混戦状態で正確な数は掴めないがカレイドが敵軍を包囲し、殲滅は目前。左翼の敵は約1000か」
報告された内容を基にゼールギスは今後の方針を考える。
右翼はもう問題ない。
己の腹心が期待通りの働きで敵を止めてみせた。
左翼に関しても敵は少数。
左翼から兵を右翼に転用したとはいえ、まだ2500程はいるはずだ。
だがゼールギスは油断せず、本隊の兵力を左翼に回すように命じた。
考えにくいが右翼があれほど崩された以上左翼にも何か隠し玉があるかもしれない。
そのための用心だった。
「ここまで投入された敵兵力は2400〜2500といったところか」
戦前の予想ではスレイヤードの動員兵力は多くて2000。
ここまででディーン軍が当初見積もったスレイヤードの兵力を超えていた。
「後ろに敵を抱えてよくここまで集めたものだ」
もはやゼールギスは勝利を疑っていない。
致命的なミスに気づかないまま。
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「………命一つ」
ロンクーがまた一人斬り伏せる。
相変わらず敵を寄せ付けないが、僅かに疲労の色が見え始めていた。
「うおおおぉぉぉ!」
好機と見た敵兵が斬りかかる。
しかしロンクーの前で焦りは死と同義。
軽率な動きをみせた兵士は一瞬で命を失った。
「命一つ」
何度繰り返されたかわからない光景。
しかし次の瞬間、それは打ち破られる。
「出会ったぞ!」
「!」
突如ロンクーに向け剣が振り下ろされる。
咄嗟にロンクーは身をかわし、返す刀を振るう。
剣と剣がぶつかる激しい金属音。
始めてロンクーの剣が止められた瞬間だった。
「見事! よくぞかわした」
「………貴様か」
お互いに笑みを浮かべる。
もはや語らずとも二人は感じ取っていた。
「ふっ!」
「むん!」
二合三合と斬り合う。
どちらが言うでもなく、一騎打ちが始まっていた。
「はあ!」
「………!」
カレイドが剛剣を振るい、ロンクーは速さで対抗する。
どちらも一歩も譲らない。
「っ!」
ロンクーがバランスを崩す。
ここにきて疲労の影響が出始めていた。
「ふん!」
逃さず叩き込まれる剣を間一髪で避けるロンクー。
距離をとって仕切り直した。
「………くく」
「ふははっ」
二人は笑う。
「貴公、名は何と言う?」
「………ロンクー」
「うむ、私はカレイド。ディーン王国の剣と呼ばれた男よ」
互いに名乗る。
それは決着を求める合図。
「覚えておくがいい! 貴公を冥土に送る名ぞ!」
カレイドが苛烈に攻める。
ロンクーは受け流しつつ反撃の機を伺う。
数合の打ち合い。
しかしまだ決着はつかない。
気づけば両軍の兵がその一騎打ちの行方を見守っていた。
「っ!」
「なんのぉ!」
互いに全力でぶつかり、全霊を出し切る二人。
永遠とも思えたその時間は突如終わりを告げる。
「!」
再びバランスを崩すロンクー。
カレイドも同じ隙は決して逃さない。
「ぬあぁぁぁ!」
カレイドの剣がロンクーに迫る。
「はあ!」
しかしそれはロンクーの誘い。
絶妙な隙を見せることで相手の行動を誘ったのだ。
予測したカレイド剣を避け、空かさずロンクーは反撃に移る。
「ぬぅぅぅぅぅぅ!」
カレイドは剣を寄せるが態勢は立て直せない。
ロンクーがカレイドの剣を弾いた時、それは起きた。
キイイイィィィン
ロンクーの刀身が中程から二つに割れた。
ロンクーの最後の一撃は空を斬った。
「っ! ぬおおおぉぉぉ!」
カレイドの剣がロンクーを捉える。
「か、はっ」
咄嗟に身を離したものの避けきれず、傷を負う。
深くはないが血が止まらない。
「………終わりだな」
カレイドの顔は浮かない。
本来なら先程自分は斬られていた。
相手の剣が折れた故の勝利など、何の誇りにもならない。
「せめて、苦しまずに逝くが良い」
とどめを刺しにくる時もカレイドに隙はなかった。
(これまで………か?)
剣は折れ、出血が止まらない。
勝てる筈がない。
それにロンクーは剣鬼の名に劣らない働きをした。
敵将兵を討ち取ること数えきれず。
ここで死んでも間違いなくその名は語られる。
ロンクーの望んだ死に場所に相応しい。
だが何かが引っかかっていた。
思い出すのは過去の光景。
目の前にいるのは幼き主人。
その姿はボロボロで、それでも闘志は失われない。
(ああ、そうだ。あの姿だ、あの姿に俺は憧れた)
どんな状況でも勝利を掴むことを目指した男。
だからこそ付き従った。
(その俺がここで諦める? 有り得ない。俺は………スレイヤードはまだ勝っていない!)
求めるは勝利。
それこそ最高の死に場所。
ロンクーの目に闘志が漲る。
「! お主まだっ」
カレイドがロンクーの戦意を感じ、すぐさま剣を振り下ろす。
負傷したロンクーにそれを避けることはできない。
肉を切り裂く鈍い音。
カレイドの剣はロンクーの左腕を斬り落とし、身体に届くことはなかった。
「なに!?」
驚き、動きが止まるカレイド。
その隙をロンクーは逃さない。
「うおおおぉぉぉ!」
僅かに残された刀身。
それをカレイドの喉元に突き立てた。
「が、あ、ぐ」
その衝撃で残った刀身も折れる。
カレイドの首から血が吹き出す。
その血が周囲を紅く染まる。
「………」
ロンクーがカレイドの落とした剣を拾い上げる。
「………終わりだ」
カレイドの首が飛ぶ。
壮絶な一騎打ちの結果はロンクーの勝利。
しかしその代償も大きい。
「………ぐっ」
片腕を失い、失う血の量は更に増える。
「………まだ………勝って………ない」
それでもロンクーは剣を離さない。
近くに立つディーン兵に向かって走る。
「………命………ひとつ」
その狂気にディーン軍の士気は崩壊した。




