ディーン国王ゼールギス
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ディーン王国。
それは『閃光の奇跡』の中で主人公のいるリキア王国の次に有名な国である。
かの王の名はゼールギス。
若くして頭角を現したディーンの英雄である。
ディーン国民の誰もが小国だったディーンが大国に肩を並べるに至ったのはゼールギスの存在が全てであると語る。
彼の存在はディーンにとっての希望であった。
だが英雄も時の流れに逆らうことはできなかった。
ゼールギスは国民の悲願であるリキア王国打倒を自分の最期の仕事とするとともに王国の方針とした。
数日前リキアと国境を接するジュード領主が策略によってリキア王国側の領主を討ち取ったという報告があった。
しかもそれはリキアの4大候爵家の一つスレイヤード当主ハードリックというのだ。
当然王宮は沸き立ち今こそ悲願成就の時と全軍の準備を進めた。
だが準備も半ば完了しつつあった頃、新たな報告が王城を揺るがせた。
『ジュード領主ハイン・ジュード戦死。ジュード軍はスレイヤード軍の逆襲により壊滅的被害』
この報告により一部貴族が慎重論を唱える事態となった。
既に戦の準備は整っていた段階でありここで取りやめることはもはやできない。
ただ彼らの意見ももっともであり、説得するための詳しい情報が届くまで徒らに時を過ごすこととなった。
「出鼻を挫かれた気分だな」
「陛下、どうなされました?」
ゼールギスの呟きに臣下が心配そうに尋ねる。
「いや、戦というのはままならんものだが今回は特にそうだと思っていたところだ」
「それは………」
臣下の困った顔を見てゼールギスは苦笑する。
開戦を決断するきっかけとなったハイン・ジュードの行動は彼の独断に近い。
だがそれは国の方針に沿った行動であったし、大戦果には違いなかったので不問とした。
それにジュードとスレイヤードの確執を考えると多少のことは許してやるべきだと思った。
ゼールギスが気になったのはただ一つ、開戦の時期が予定より前倒しになったことである。
スレイヤードの当主が死んだとなれば混乱は必定。
期を逃さず攻めることが必要であった。
そのために全軍を準備させた訳だが今度はここにきて足止めを受けた。
「今は動けぬ。情報の真偽、詳細を確かめるまではな」
「………はい」
受け身しかできないことがゼールギスはもどかしかった。
ジュード領からきた者から情報を得るが混乱からその精度が疑問視されなかなか意見がまとまらなかった。
ハードリックの遺児が軍を率いてジュード軍を打ち破ったという報告からは混乱も感じられない。
そんな状況を打破したのはハイン・ジュードの腹心の王都到着だった。
潰走する軍をまとめなんとか生還を果たした彼は、当主を討たれ混乱するジュード領の立て直しに奔走していた。
しかし部下の報告では拉致があかないと感じた彼は自ら王都に足を運んだのだった。
「………シンク・スレイヤードか」
ハインの腹心から得た詳細から今のスレイヤード軍を率いる者の名前を知る。
ゼールギスが確認するように口に出すと貴族たちも思うところを話し始める。
「父親の仇を討つためとはいえ自ら先頭に立つというのは、思慮には欠けるようですな」
「しかも矢の雨に突撃するとは余程周りが見えていないのでしょう」
「ジュード殿が討たれたのは不運によるものでしょう」
彼らの判断は纏めると『勇猛であり胆力を備えるが、感情に流されて思考力に欠ける』というものだった。
ゼールギスにしても彼らの意見に賛同したいが、いかんせん彼らの思考から抜けているものがあった。
(7歳という年齢でいくら感情に流されたからといって軍の先頭に立つか?)
そもそも感情任せの無謀な攻撃には兵達も従わないだろう。
シンク・スレイヤードという人間が読めない。
不確定要素とスレイヤードが当初の想定程混乱していないことからこのまま攻めて良いものかとゼールギスは判断に迷った。
「陛下、迷う必要はありませぬ」
「………なんだと?」
そこに光明をもたらしたのはハイン・ジュードの腹心。
「シンク・スレイヤードがどれほどの英雄であっても関係ないのです」
そして語られた内容はディーン王国の意見を一つにするには十分だった。
「既にヘイゲル・グラードはスレイヤード乗っ取りに動いているはず。であれば今のシンク・スレイヤードは前後に敵を抱え孤立した状態なのです」
リキア王国の怪物ヘイゲル・グラード。
その名はディーン王国でも有名である。
「これが我が主人が残した最後の策。ヘイゲルがスレイヤードを掌握するまでスレイヤード領は切り取り放題。陛下、どうか我が主人の無念をお晴らし下さい」
ゼールギスは決断した。
たとえこの戦でリキア王国を滅ぼせなくても奪い取った領地は必ずものを言う。
この好機を逃すわけにはいかなかった。
「全軍に伝えよ! これよりリキア侵攻を開始する!」
勝利の確信を持って号令をかける。
だがそれも無理はない。
ハイン・ジュードの策。
それが機能を失いつつあるなど誰も想像できようはずもないのだから。




