集う者たち
本来貴族の呼び方は
性+爵位
ですがこの作品では分かり易いように
名前+爵位
でいきます。
名前と性が入り乱れると分かりづらくなるので。
束の間の平穏。
現在のクーガ城砦内の様子を言葉で表すならそんなところだった。
もちろんディーンに対する備えとして軍は慌ただしく動いているし、招集に応じた貴族の軍勢が集結し、その調整にも駆り出される。
リンドたちも到着し、ロンクーに地獄を見せられていた。
だけど今後のことを考えればやはり今はまだ平穏なのだろう。
「シンク様、この度は何といっていいか………」
ロンクーの地獄から生還したリンドたちを部屋に呼んだ。
言葉の歯切れが悪いのは初陣の勝利は祝福したいがハードリックが死んだためできない、といったところだろうか。
「色々あったからな………」
特に気を遣わせるのも悪いのでその一言で済ませる。
「シンク様、無理しないで、下さい」
リーフが心配と怒りが混ざったような複雑な表情をしている。
「心配してくれてありがとうリーフ。俺は大丈夫だよ」
安心させるように笑いかける。
するとリーフは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
だがしばらくすると顔を上げ、
「………シンク様に悲しい思いをさせた人達を私は許さない!」
強い眼差しで決意を述べた。
「ありがとうリーフ。頼りにしているよ」
「………うん!」
まだ敬語が拙いリーフ。
そんなところが微笑ましい。
だからそんな彼女を戦いに仕向けようとしている俺はいつか地獄に落ちるのだろう。
「シンク様の雰囲気が大分変わった気がするわ………」
そんなリズの呟きが心に残った。
貴族に手紙を出して数日後、俺の声に応えてくれた貴族達がクーガ城砦に集まりつつあった。
数は決して多くはないが、今は少しでも戦力が欲しい時なので純粋に嬉しかった。
援軍に来た貴族達にそれぞれ挨拶を交わし、今後も変わりない関係を確認する。
そんな日々の中であの男は現れた。
「シュテン・ザーツハルトと申します。これより我が軍はシンク様の下で戦いましょう!」
やや芝居じみた口上を述べた男。
俺の声に真っ先に駆けつけてくれた貴族の一人である。
だが デュバル曰く、貴族の中で評判が良くない男、ということだった。
「シンク様、この度の大勝利、誠に喜ばしく感嘆の極みでございます!」
すかさずシュテンが地雷を踏み抜く。
リンドや他の貴族が言葉を濁してきたことを堂々と言ってのけた。
「シュテン殿っ、ハードリック様が亡くなられたというのにその言い草はどういうことか!」
父の親友であったデュバルが激昂する。
周囲の貴族達もシュテンの言葉に眉を顰めている。
「デュバル伯爵、シンク様の勝利はハードリック様の死とは別物でありましょう。これを祝うのに何で躊躇うことがありますか!」
「なに!?」
悪びれないシュテンにデュバルが声を荒げる。
その光景を見て俺は内心苦笑していた。
シュテン・ザーツハルト。
こいつもまたゲームの登場人物だ。
苦笑の理由はこの時からシュテンはシュテンだったということ。
その人を食ったような言動はゲームにおいても登場当初は主人公達から反感を買っていた。
元貴族という設定だったがスレイヤードの麾下だったとは驚きだった。
思わぬゲームの登場人物の登場につい事態を静観していたが、これ以上の放置はまずい。
「デュバル伯爵、少し落ち着いて下さい」
「シンク様、しかし!」
「その怒りが私を思ってのことなら、ここは抑えて下さい」
「むぅ」
その言葉にデュバルは黙る。
ここで引かないと公儀の場を私心で乱していることになってしまう。
「シュテン子爵、先ほどの発言の意図をお聞かせ下さい」
「意図、ですか?」
「意味もなく父の死を蔑ろにすることはないでしょう。ならばそれを聞かずに貴方を叱責することはできません」
この言葉を聞いて貴族達はシュテンに対する遠回しに退路を絶ったのだと感じた。
これでシュテンが答えに窮すればそれを理由に謝罪させることができるのだ。
だがーーー
「もちろんですよ。今はシンク様を中心にスレイヤードの行く末を決める大事な時。そんな中でシンク様が挙げた功績を大にして示し、味方の士気を高めるのは当然のこと。それをハードリック様を理由にして言葉を濁すなど私にはできません!」
待っていたかのように一切の淀みなく堂々とシュテンは答える。
その姿には非難を強めていた貴族達も圧倒される。
「なるほど、よくわかりました」
本編でもよくわからないポリシーを持っていたなとおれは納得するが周囲はそうではない。
「ただシュテン子爵、この砦の将兵には父に忠誠を誓う者も多い。先のような言い方をしては逆に士気を落とす者もいるということを認識して下さい」
「むぅ」
シュテンが黙り込む。
「しかし、考え方に違いはあれど皆の士気の高さは伺えました。デュバル伯爵、シュテン子爵、今ここにいる者たちはスレイヤードの誇り、頼もしい限りです」
一方的に責めることはなく、されど正すべき所は正す。
更に対立が後に引かないように自らの気持ち伝えることで両者にお互いが仲間である印象付けた。
「シンク様、このデュバル、シュテン殿の言う通りハードリック様の死を少し引きずり過ぎていました」
「いえ、私こそ自分の考えが先行して気持ちを押し付ける形になってしまいました」
二人が頭を下げる。
「戦の前に謝罪は不吉。その気持ちは次の戦で晴らして下さい」
鮮やかに争いを収めたシンクに貴族は感嘆する。
どちらにも遺恨を残さない手腕はたしかに上に立つ者の素質を感じさせた。
「まもなく状況は動きます。それまでに闘志を養って下さい」
余裕あるシンクの姿に貴族の方こそ頼もしさを覚えていた。




