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勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第一章
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謀略の真髄



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


グラードの怪物ヘイゲル・グラード。

ここでこいつの名前が出るのは正直予想できた。

だができれば外れていて欲しかった。


ヘイゲルは四大公爵家であるグラード家の現当主であり、『閃光の軌跡』では重要な登場人物だ。

若くして当主となり、当時は没落気味だったグラード家を謀略限りを尽くしてのし上がった。

敵も味方も容赦なく吸収し、今ではリキア王家すらも彼の言葉を無視できないほど巨大な権力を手にしているはずだ。


何より厄介なのは平民だった主人公が世に出ることができた理由は、このヘイゲルが主人公に政治的価値を見出したからである。


ヘイゲルはその強引さ故に敵も多い。

特別な力を持つ主人公を英雄に仕立て、自らが後見することで周囲を牽制し、民衆の人気を得ようとしていた。


もう一つ頭が痛いのがグラード家にいるゲームのヒロインの一人、アルテナである。

彼女と主人公の出会いにもヘイゲルが関わっている。


つまりヘイゲルと関わることは本編の流れに多大な影響を及ぼすことに他ならない。


(しかし、賽はもう投げられている)


結局のところハインの時と何も変わらない。

ヘイゲルを放置すれば待っているのはスレイヤードの滅亡。

看過することはできないのだ。

乖離した部分は問題が解決してから考えればいい。


(父と兄の仇、ヘイゲル・グラードを討つ)


俺は覚悟を決めたのだった。





「ーーーーーー以上が私が潜入中に知り得た全てです」


シフの話を聞いてヘイゲルの謀略の大筋を理解した。


「先ずはシフ、急な命令であったものをよく成し遂げてくれた。感謝する」

「………は、は!」


シフが恐縮した様子で頭を下げる。


「君の働きが影の民に通ずるのならば、ぜひスレイヤードで召し抱えたいものだ」


すかさず登用を匂わす。

シフの感情が驚愕に変わった。



影の民はその名前からわかるように忍者がモデルであった。

忍者の得意としていた諜報、暗殺は勿論、機密の奪取などその価値は計り知れない。

またゲーム本編で火薬は登場していないが影の民が任務に失敗した時に火薬のようなものを用いて自爆するシーンはあった。

他にも独自の技術を持っている彼らは是非味方につけたかったのだ。



「それは、真ですか?」


真剣な表情で確認してくる。


「君が今一度その能力を示してくれればもはや疑いようがない」


シフが迷った素振りを見せる。


(影の民は仕えるべき相手を求めているはず、こちらを警戒しているのか?)


知識からいけると思ったがまだ早かったかもしれない。

一旦保留にしようかと考えていると、


「シンク様、彼らは何度も仕えた家に裏切られてきました」


ロンクーから意味深なことを言われる。


(裏切らないか心配ってことだな)


少し考え、俺は答えを出す。


「確かに私が裏切らないという保証はない。とはいえ一般的に信頼関係というものを築くのはすぐにはできない」

「………はい」


シフが頷く。


「見てわかると思うけど今のスレイヤードには時間がない。君と信頼関係を築く時間はない」

「………………」


シフが心の中でため息を吐く。


『では今回はご遠慮します』


シフはそう言おうとした。


「だからお前に信頼の証を見せる」

「は?」


シフは俺の様子が急に変わったことに戸惑う。

俺は貴族の皮を脱いだ。


「シフ、先ずは謝らせてくれ。騙すつもりはないが偽りの姿でお前に接していた」


一切の偽りを捨てシフを見据える。


「これが俺、シンク・スレイヤードの本当の姿だ。貴族の世界ではこういうガサツな姿は忌避されるからな」


シフは目の前の現実に心が震える。


「この姿を見せたのはロンクーただ一人。そしてシフ、今そこにお前が加わった」

「………よろしかったのですか?」


シフが恐る恐る尋ねる。

これはシンク・スレイヤードの秘中の秘のはずだった。


「これは俺がお前の働きに対する信頼の証。そしてこの先は影の民に対するものになると俺は思っている」


シフは瞠目する。

自分たち影の民は貴族が卑怯者と忌み嫌う集団。

今までどんなに自分たちが信頼を勝ち取ろうとしても主人から裏切られてきた。


「もう一度、本当の言葉で言う。シフ、もう一度依頼をしたい。その成果をもって影の民をスレイヤードが召しかかえよう」


もはやシフに迷いはない。

たとえ集落の者たちが拒んだとしても自分はシンク・スレイヤードに仕える覚悟だった。


「その依頼で我らの力を見せましょう」


その言葉に俺は心の中で静かにガッツポーズをした。





「シンク様、ハードリック様の葬儀、ディーンへの備え、グラード家の謀略とやるべきことは数え切れません」


シフとの話がまとまった頃合いを見てロンクーが切り出す。

シフが退出しようとするがその場に止める。


ロンクーの言う通りディーン軍を一度退けたとはいえ依然状況は悪化する一方だ。

対応に誤ればいつスレイヤード家の崩壊につながってもおかしくない。


「優先順位を決める。父上と兄上の葬儀はまだ後でいい。今考えるべきはディーンとグラード家への対応」


ロンクーが同意する。


「先ず最優先は軍の態勢を立て直すこと。傘下の貴族に派兵の要請をする」

「ハードリック様が戦死された今貴族が素直に兵を出しますでしょうか?」

「出さないならそれでも構わない。その代わり応えた貴族は信頼できる」


この辺はグシンの護衛を志願させた時と同じである。


「兵は多い方がいいが、烏合の衆にはなりたくない」

「了解しました。すぐに貴族に使者を出します」

「文書は俺が直接書く。時間は少しかかるが効果はあるだろう」


ディーン撃退にシンク・スレイヤードの功があったことは伝わっているはず、多少は効果があるはず。


「砦の軍の再編についてはデュバル伯爵に任せましょう。我々より砦内のことは詳しいでしょう。幸いシンク様がハードリック様の仇を討ったことで士気は高い。滞りなく進むはずです」


ロンクーの提案に異論はない。


「領内の町から治安維持に支障がない程度に兵を抽出する。………あとリンドら呼んでおけ」


その言葉にロンクーが反応する。


「彼らを使いますか?」

「状況は変わった。あいつらを遊ばせておく時間はない。………弟子が心配か?」


ロンクーの様子からこいつにも人の心があったかと思ったが、


「いえ、今の彼らでは足手纏いになる可能性が」


前言撤回。

こいつはやはり鬼だ。


「ここで死ぬようならとても剣鬼の代わりにはならないだろ。………その時は近そうだしな」


その言葉にロンクーの目が鋭く光る。


「その言葉、信じていいのですか?」

「ああ、剣鬼にふさわしい最高の舞台にしてやろう」


ロンクーは静かに頭を下げる。

シフも薄々感づいているらしく何も言わない。


「そういうことなら残された時間で彼らに叩き込めるだけ叩き込みましょう」


彼らには念仏を唱えておく。


「あとは逐次情報を集める。ロンクー、頼んだぞ」

「はっ」


ディーンへの備えはこんなところか。


「シンク様、私もディーンに向かい情報を集めましょうか?」


シフの申し出に首を横に振る。


「グラードの謀略、シフにはそれを崩す一手を担って貰いたい」


その言葉にシフが奮起する。


「それほどの大役を任せて下さるとは、命を賭して成し遂げましょう!」

「………感激してくれているところすまないが、シフにしてもらうのは至極簡単なことなんだ」


その言葉にロンクーもシフも首を傾げる。

その様子を少し楽しげに眺める。


「今回のディーンをも巻き込んだ壮大な謀略。まさに怪物の名に相応しい。………だが大きいものほど小さな一手に崩されるものだ」


ロンクーは思う。

今目の前で不敵に笑う少年には怪物すら生ぬるあるのではないかと。


「大計を用いるのもいいが、ただ一手をもって大勢を決すが策略の妙という。それを見せてやる」



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