戦の影で
第13話の冒頭を少し修正
シュリに報告を終えた後、ロンクー共に自室に戻る。
「シンク様お疲れ様でした。結果だけを見ればこれまでにない見事なものでした」
「………その言葉、父上と兄上が生きていたら素直に喜べたけどな」
初陣としては良くとも、スレイヤードとして見れば当主を討たれている。
良くて痛みわけだ。
「いえ、内容についても一つ申し上げたいことがあります」
そこにロンクーの指導が入る。
「自ら矢雨に飛び込んだことか?」
確かに大将の振る舞いとしては正しいものではない。
だがその必要性はロンクーも認識していると思っていた。
「いえ、結果として兵の士気は上がり、今回の勝因となりました。あの行動に関しては理解しています」
違うらしい。
「私が言いたいことは一つ、敵の大将を討つ際にシンク様が馬を降りたことです」
「?」
乱戦を避けるために馬を降りたことを問題にしているらしい。
ハインを討つ最短の方法だと思ったが。
「馬上あってこそ遠くの味方も大将の存在を認識することができるのです。もし馬上からその姿が消えれば味方は大将に何かがあったのではないかと動揺します」
それは頭になかった。
ハインを前にして冷静さを欠いてしまったらしい。
「すまん、地面に足がついた方が戦い易いと思って他に気が回らなかった」
そう気づけば危うい所だった。
すぐハインの首を取りその首を掲げたから良かったものの逆にこちらが崩れていた可能性もあったのか。
「私がシンク様に剣士としての考え方を教えすぎたことが原因でもあります。ですがこれからはシンク様の立場も変わります」
これからは兵を率いる立場となる。
確かにロンクーの言う通りだった。
「わかった。今後は気をつける」
「では、反省はここまでです」
ロンクーの言葉に頷く。
今は稼いだ時間でどれだけ態勢を立て直せるかが勝負になる。
「シンク様、例の件について報告があります」
出陣前にロンクーに頼んだものだ。
俺の想像では今後の動きに最も関わる話になる。
ロンクーに続きを促す。
「私から語るより実際に報告をしてきた者から直接話させたいのですが、よろしいですか?」
「その方が正確になるなら当然だ」
ロンクーが招き入れたのは一人の男だった。
まず思ったのは酷く存在感が薄い。
こうして注視していなければ気に止めることもなさそうだ。
「彼は?」
「私が情報収集を行う際に雇っている集団の者です。名前はシフ、少し前から潜入させ、先程戻りました」
ロンクーの言葉に興味を持つ。
「その集団というのは?」
「………我々は影の民、歴史に埋もれ、時代の影に生きる者、です」
「彼らとは私が傭兵だった頃に出会いました。彼らの専門は裏の仕事、今回のことにはうってつけでした。
いまいち要領を得難いシフの説明をロンクーが補足する。
「ここで影の民とは………」
だが俺はシフの言葉だけで理解していた。
影の民。
彼らはゲームにも登場した。
序盤から常にその影を匂わし、世界の影で暗躍する者たちだ。
本編ではサブイベント程度で主人公たちが積極的に関わることはない。
むしろその生き方を嫌われ、使い捨てのような扱いをされていたはず。
しかし俺にとって彼らのような存在は喉から手が出るほど欲しい。
ここで彼に出会ったことにまだ見ぬ神に感謝したい気持ちだった。
「シフ、まずは仕事を確認したい」
「は」
努めて冷静に振る舞い、逸る心を抑える。
優先順位を間違えてはならない。
「………シフがグシンの側で見聞きしたこと、全て話してくれ」
甘さは捨てた。
仕掛けられ失ったものの対価を支払ってもらう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それはハードリックが討たれ、ディーンに対する対応を協議した会議をグシンが抜けた後のことである。
現在の雇い主であるロンクーの命令によりグシン・スレイヤードを探ることになった。
彼の仕えているシンク・スレイヤードの意思らしい。
ロンクーとは長い付き合いだが、かつての剣鬼が貴族の跡目争いの手伝いとは落ちたものだと感じていた。
しかも内容はただの粗探し。
やり甲斐すら感じられない。
「だが仕事は仕事だ」
そう自分を納得させるしかない。
少なくともこの時はまだそう思っていた。
グシンの家臣の一人を襲い、その姿を貰う。
変装は俺の得意分野だ。
見た目だけでは絶対にバレない自信がある。
中身まではすぐには真似できないが数日潜入するだけならやりようもある。
まして緊急事態で浮き足立っているし、そもそもグシンは家臣に関心を持っていない。
楽な条件だった。
「くそ、ふざけんなよ!」
目の前でグシンが叫ぶ。
俺は特に問題なく潜入に成功していた。
後は適当情報を集めて帰るだけ。
最初からロンクー、ましてやシンク・スレイヤードの言葉など信じていなかった。
「ディーンの野郎約束を破りやがって。これじゃ親父を殺した意味がねえだろ!!」
だから俺はグシンの放ったその言葉の意味を一瞬理解できなかった。
「親父たちを国境に向かわせてこの砦をくれてやれば俺がスレイヤード当主になれるって話だっただろ!!」
「グシン様、声が大きいです」
「うるせえ!!」
その喧騒を余所に心が高鳴る。
「グシン様、ご安心下さい。この状況も全てヘイゲル様の御予想通りです。次の指示も既に聞いています」
「………それを先に言えよ」
「ヘイゲル様は約束通りグシン様をスレイヤードの当主にして下さるでしょう」
「よし、そうと決まれば早くここから出るぞ。母さんを迎えに行ってからグラード領に向かう」
グシンたちが慌ただしく部屋を出て行く。
一部始終を見ていた俺の気持ちは先程とは真逆だった。
これは間違いなく影の者の仕事。
スレイヤード侯爵謀殺の裏にグラードの怪物ヘイゲルがいた。
この事件の行方が自分の働きに関わっている。
これ程のやり甲斐はあるまい。
(だが………………)
同時に僅かな情報でこの事実を感じたシンク・スレイヤードに畏怖の念を抱かずにはいられなかった。




