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勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第一章
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勝利の陰で



ディーン軍を退け、クーガ城砦に帰還した俺は、後のことをデュバルに任せ、シュリの下へと向かった。

色々と言い訳は浮かぶが、要は俺がシュリを早く安心させたいだけだった。



「母上、ただ今戻りました」


部屋の扉を開けると驚かさないように努めて冷静に 話しかける。


「シン、ク?」


シュリが驚きの声を上げ、こちらに近づいてくる。


「はい、私です。母上、お喜び下さーーー」


パンッ

部屋に乾いた音が響いた。


「なんで戦いになんて行ったの! 貴方に何かあったらどうするの!」


叩かれた、そう認識した時にはシュリが泣いていた。


「あの人も、バースも死んで、貴方までいなくなったら私はどうすればいいの!?」


涙を流し続けるシュリを見て、また自分の詰めの甘さを悔いる。


ハードリックの死を聞いた時からシュリは目に見えて取り乱していた。

あの時、余計に心配させたくなくて黙って出て行った結果、シュリの精神はさらに不安定になってしまっている。

時間が無かったとか言い訳は浮かぶ、しかし結果としてシュリを追い込んだ事実は変えられない。


「父上と兄上がいなくなった以上、私がスレイヤードの者として先頭に立つ必要があったのです」

「そんなのどうでもいいの! お願いだからこれ以上危ないことはしないで!!」


形式に囚われた言葉ではシュリに届かない。

こんな言葉しか出てこない自分を悔いる。


思えば今まで家族と本心で話したことがあっただろうか。

いつも一歩引いたところで話していた。


「私は、母上を守りたい」


今こそが本心で語る最後のチャンスなのかもしれない。


「ここで私が逃げればこの砦も領地も全て敵に蹂躙されます。私は父上や兄上が守りたかったものがあんな者たちに奪われるのが許せないのです」


何も考えずただ思いを吐き出す。


「だから私は戦います。私にとって大切なものを守るために」


シュリ、母の顔を見つめる。


自分の思いは全て伝えた。

もしこれで母に嫌われたとしても後悔はない。

あとは思いを通すだけだ。


俺の言葉を聞いた母の顔は、


笑顔だった。


いや、涙はその目から溢れている。

それでも母は無理をして笑顔を作っていた。


「シンク、いつのまにか大人になったんだね 。な、なのにお母さんがこんなワガママ言ってちゃダメ、だよね………」


それは何処かでみた笑顔。

かつて家で悲しいことがあったときに無理に見せていた笑顔と一緒だった。


(ああ、そうだ。母はそういう人だったじゃないか)


心優しいが故に自らの気持ちを押し殺し、笑顔を見せる少女。

それが母だった。


(それが母に嫌われてもだと、なんて浅慮、なんて傲慢)


つくづく自分が嫌になる。


「母上の願いに沿うことはできません」

「うん………」


これからも戦い続けるということは母にこの笑顔をさせるということだ。


だからせめて、


「母上、私はここに誓います」

「え?」


せめてその不安を取り除くことをこの身の呪いとしよう。


「これから私は生涯の戦において必勝を誓います。いかなる戦場に出ても必ず無事に母上の下へと帰ります」


これは自分に課す勝利の呪い。


「いつか母上の不安が無くなるまで、いや、無くなっても勝利をこの手に母上の下へと帰ります」


母の願いを聞けない自分にできるただ一つの罪滅ぼしだ。


「………シンクはお馬鹿さんだね、そんなことできると思っているの?」

「やってみせます」


間髪をいれずに答える。


「あは、あははっ、シンクは馬鹿だよ。ほんと馬鹿」


母が笑い出す。

今だ涙は止まらないが先程までとは大分違う。


「必ず帰ってきてね、約束よシンク」

「はい」


母の目に力が戻っている。

その様子に俺は安心していた。


「ねぇシンク、貴方って女たらしなの?」

「はぁ!?」


突然の爆弾に素が出る。


「さっきみたいな言葉は何処で覚えてきたの? お母さんじゃなかったら勘違いしちゃうよ?」


壮絶な誤解が広がっている。


「違います! 母上だからです!」

「でもリーフちゃんも口説いたって聞いたけど?」


その言葉に凍りつく。

あの二人、確かに母上の話し相手をさせていたが何を話してやがる。


「それは誤解です!」


母に対する言い訳が続く。

だがその光景は少し前の平穏な日々と変わらなかった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



リキアの王都にある貴族の屋敷。

その一室で一人の男が報告を受けていた。


「ハードリックとその倅が死んだか。予定通りだ」

「は、その後ディーン軍はクーガ城砦を目指し進軍しました」


その報告にも男は眉一つ動かさない。


「タダでくれてやるというのに。余程こちらが信用できないようだ」


家臣は何も言わない。

主人が余計な口をきくことを嫌うことを知っていた。


「まあ良いわ。計画に変更はない」


笑う主人に家臣は少し嫌な報告をしなければならなかった。


「ディーン軍は既に撃退されています」

「なに?」


主人の顔に不機嫌な色が混ざる。


「それほどの戦力が砦にあったのか? それにしてもハードリックが死んで動揺せんとも思えんが」

「スレイヤード軍を率いたのはシンク・スレイヤード。ハードリック候の三男です」

「何だと!?」


男が珍しく声を荒げる。


「三男はまだ7歳ではなかったのか?」

「ですが、事実のようです」


室内を沈黙が包む。


「ふん、それもまあ良いわ。ただのまぐれか、一定の軍才があったか。何れであったとしてもスレイヤードはもう終わりよ」


男が笑う。

家臣はただ頭を下げ続ける。


男の名はヘイゲル・グラード。

四大侯爵家の一つ、グラード家の当主にして『怪物』と恐れられる男だった。



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