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勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第一章
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鮮血を纏う



その瞬間彼我の立場は逆転した。


スレイヤード軍は大将自ら見せた神技に奮起し、我先にと後を追った。

シンク・スレイヤードには天の加護がある。

そう思わずにはいられなかった。


一方、ディーン軍は目の前で起きたことが理解出来ず動きを止めた。

必殺と思われた弓の斉射を無傷で突破されるなど予想できるはずがない、

しかし現実にそれは目の前で起き、彼らは戦場では致命的といえる隙を晒すことになった。


「ばばば、馬鹿な!? どうなっている!?」


そして大将たるハインも同じだった。





「あれは敵の大将か?」


弓兵隊の後ろに一際豪華な装備をした男が大声を上げているのが見えた。


「………何故あんな前に、偽物か?」

「シンク様」


疑問に思っているとロンクーが隣につく。


「迷うことがごさいますか?」


ロンクーの言葉に迷いが晴れる。


「そうだ、俺らにそんな余裕はない」


前を向き直り、速度を上げる。


「目指すは正面の敵将! 私に続けぇー!!」


剣を槍に持ち替え敵の弓兵隊に突撃する。

敵兵も慌てて弓を剣に持ち替えるがそれだけでは騎兵突撃に対応することは叶わない。

シンクは邪魔になる敵兵を突き殺し、隊列に穴を開けながらも勢いを止めない。

更にシンクに攻撃が集中したことで被害をほとんど受けなかったスレイヤード軍がそのまま突入し弓兵隊は壊滅的な被害を受けることになった。





「は、ハイン様、弓兵隊が突破されます! ここは危険です!」


隊長が叫ぶ。

その言葉にようやくハインが我に帰る。


「や、槍兵を前に出せ! 敵の突撃を止めよ!」

「直ぐ後ろには騎兵が、槍兵は更にその後ろです!」


弓矢で敵を崩した後に騎兵を突撃させるためにすぐ後方に配置していたのが仇となった。


「なら騎兵を下げろ! 早くせんか!」


ハインは得体の知れない敵を止めたいが一心で槍兵を求める。

しかし焦ったディーン軍は槍兵と騎兵の交代に統制が取れず混乱。

一時的に身動きが取れなくなった。


「ハイン様! 敵がすぐそこまで!」


もはや弓兵隊も敵を止める壁の役目すら果たせていない。


「馬鹿な! あんな小僧に負けるものか!」


ハインはとうとう自分で剣を抜く。

周囲の兵が慌ててハインを守ろうとする。


「我が名はシンク・スレイヤード! ディーンの将よ、我が父と兄の仇としてその首貰い受けるぞ!」


兵を物ともせずその少年はハインの前に現れた。





(この感じはどうやら当たりのようだ)


先ほどの男を周囲の兵が必死に守ろうとしている。

遂に捉えた。


「早くそいつを殺せ! 相手はまだ子供だぞ!」


男の命令に数人が切りかかってくる。


(乱戦となれば馬は逆に不利になる)


俺は剣に持ち替え馬を降りる。


「チャンスだ! 馬を降りたぞ、囲め!」


切りかかってくる敵兵を囲まれないように注意しつつ斬り伏せていく。

時折返り血が飛ぶので視界にも気をつける。


「何をしておる! 子供一人殺せんのか!!」


男が騒ぐ。

そこに向かうにはまだ兵が邪魔である。


「はぁっ」

「がっ」


だがこちらも頼もしい味方がいる。


「ロンクー、道を開け」

「は!」


剣鬼が血飛沫を上げる。

一瞬で数人が命を失う。


「まるでゲームだな」


苦笑しながら敵兵を斬る。

ロンクーが隊長らしき様相の男を斬ったことで道が開き、遂に大将と正対する。


「く、こうなったらわし自ら殺してやる!」


豪華な装備を纏ったその男に見覚えがあった。



(ハイン・ジュードか)


ゲーム序盤で主人公の村に襲いかかり覚醒した主人公に敗北するチュートリアルキャラのはずた。

そんな奴が初陣の相手とは皮肉な話である。


元々俺はゲームに深く干渉するつもりはなかった。

俺自体がそもそもゲームに登場していない存在であるし、変に話が狂って世界が滅亡とかなったら困るからだ。

そういう意味ではここでこいつを殺すのはストーリーの干渉となる。


だがそもそもゲーム開始時にディーンに奪われているスレイヤード領を守ろうとしている時点でその分の干渉は避けられない。

ハインは大きな役割を持つ訳でもなく許容の範囲だろう。


そして何より俺の感情が許さない。



「覚悟されよ」


剣を構える。


「だ、黙れ! 貴様こそ二人の後を追わせてやる!」


ハインが動く。


「死ね、小僧!」

「遅い」


ハインの首が飛んだ。

勝負はわずか一合で決した。


ハインの首から噴き出た血が辺りを染める。

シンクにもまた血が降りかかるが気にせずハインの首を拾い上げる。


「ディーンの兵よ聞け! 貴様らの将はシンク・スレイヤードが討ち取った!」


戦場にシンクの声が響く。

ハインの返り血に濡れその首を掲げる姿はディーン兵の戦意を奪うには十分すぎた。

混乱は頂点を超え遂にディーン軍は崩壊。

降伏する者、逃亡する者が現れる。

一部抵抗を続けた者たちも勢いに勝るスレイヤード軍に討たれていく。


「一兵たりとも逃すな!」


シンクもまた手を緩めることなくディーン軍を追撃する。

血塗れの少年はディーン兵を恐怖に染め上げる。

その苛烈な追撃戦は日が暮れるまで続き、ディーンの死者はこの日だけで千五百人を超えた。

対するスレイヤードはほとんど被害はなく、ハードリック敗北時の五百人に留まった。






ディーンとリキアの国境で起きた戦い。

両者共に国境を守護する貴族の当主が討ち死にするという結果に終わったこの戦いはディーンとスレイヤードの緊張を高めた。

そして何よりもシンク・スレイヤードの登場こそが後に両国に大きな影響与えることになる。



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