融解の柱? 神様ですか?
「ハニエルッ!」
ビクリと肩を震わせて、フォークを咥えるハニエルを発見したのは、昨日と同じリビングルームだった。
母さんは台所で弁当を作っていた。
大丈夫、あれを作り終えるまでこっちは向かないはずだ。
『な、何かようかな~なのよ』
「昨日のことは慰謝料15万で許すよ。それよりこの服の解除教えてよ。じゃないと、責任問題に……」
言いかけて、表情を一変させる。
「なっちまいますけど。まさか、途中で逃げるなんてこたぁないよねぇ、えぇ? ハニエルさん?」
『あ、あわわっなんだか分からないけどその笑ってるのに目だけ笑ってない表情は止めて欲しいのよ~』
私はハニエルの横に座り、肩に手を当てる。
「でぇ? どうするの?」
表情を戻して優しく声をかける。
『え、あ、その……掛け声が必要なのよ。出来れば普段余り口にしない方がいいのよ。解除と、できれば変身の合言葉。その言葉を他人が呟いてるのを聞いて人前で変身したり敵の叫んだ必殺技にワードが含まれてて戦闘中に解除されちゃって死んじゃった聖戦士が前に何人かいるのよ』
そ、それは災難というかなんというか……
「それじゃあ、とりあえず解除から、何でもいいの?」
『そうねぇ、別に何でもいいのよ』
「それじゃあリターンマイセルフ。元に戻るって意味で」
『いいの? それで登録するけど?』
「うん、この辺りで英語なんてめったに使わないでしょ。考え甘いかな? 一応、変身は殆ど使われない単語がいいかな。じゃあ、あれだ。変通するという意味のヴァーサティリティを少し変えて……ヴァサーティル」
『ではでは、登録しちゃうのよ。以降はこの言葉を聞く、もしくは言うだけで変身と解除が出来るのよ。服装は前回想像したルミナスアーマーになるから、気に入らない時はまたイメージから始めるのよ。ちなみに、変身している間は知り合いに顔を見られてもほぼ認識されないのよ』
ほぼ……ってところが微妙に気になるけど、ありがちなご都合主義だね。
『霊感が強いと認識しちゃうのよ。神聖技によって認識できないようにしてるから、一定の力を持ってる人間は神聖技による結界を破ってしまうのよ』
つまり、霊感が強い人は変身した後も私だと認識できてしまうと。
フルフェイスにした方が良かったかな? 変身ヒーローみたいに。
『さって、天界への登録は今済ましちゃったから、もう、言霊を発するだけでいいのよ』
「そう? んじゃあ、リタ……裸になるんだっけ。部屋で着替えてくるね」
ダイニングルームを後にしようとして、ハニエルに振り返る。
「十五万よろしくね~。じゃないと……取り立てちゃうよ」
最後だけニヤリと微笑んで部屋へと向かう。
ハニエルの青い顔が視線の端に映ったのは気のせいだろう。
部屋に戻った私は、早速ファニキエルを追いだしてリターンマイセルフと口にした。
ちなみに、こんな長い台詞にしたのはリターンだと何かすぐに誰かに言われそうだったからである。余程のことが無い限りリターンマイセルフなんて言葉言わないでしょ?
変化が終わった後で、確認のために鏡台を覗く。
赤みがかったショートへアにゴムとヘアピンで左側をぴょいんと立たせ、寝惚け眼に呆れをプラスしたような少女が私を見つめてきた。もちろん鏡に映った私自身。
服装は……昨日のパジャマだね。制服に早く着替え……
あれ? 何コレ?
今、ようやく気付いたことがある。
ってか、誰もこの不自然極まりないデキモノに突っ込みを入れなかったのか!?
鏡には私が映っている。
ただ、昨日まではなかった、いや、昨日の夜は鏡らしい鏡を見てないし、洗面場の鏡にしても私の注意が向いていなかったので鏡を見てすらいなかったので気付かなかった。
とにかく、なんでッ! 私の額にこんなものがッ!?
私の額に、まるで骨の一部が突出してきたように出っ張って皮を突き破っちゃったような角ばったデキモノ。
「な、ななな、ななななな……」
―――ようやく我に気付いたか―――
頭の中に反響する声。自分の声のようでもあるし、聞いたこともない声でもある不思議な声だった。
驚きながら回りを見回すけど誰もいない。
―――我はメルト―――
「え? あ……ええ!?」
もしかして、この石がしゃべってる!?
―――原初より在りし融解の柱なり―――
って、前に聞いたことじゃん。
自分のツッコミで少し冷静になった私がいた。
「あの時の……石?」
ありえないとは思いつつ、私はそう聞いていた。
―――エアメタルのことか?―――
「えあ……めたる?」
―――主の額に在るだろう? それがエアメタル。人間どもは時空石と呼んでいたがな。我等の箱舟だ―――
「あんたじゃないんだ……コレ」
―――我等は主の目には見えぬ、形を持たぬ細菌とでも思ってくれ―――
「細菌?」
―――我は我という意思の集合体の一部である―――
「結論……エアメタルという光る石にくっついていた細菌をまとめてメルトという?」
―――概ねその通りだ、正確には我という意思を持つ菌類だ、離れていても意志だけは共有している―――
「はぁ? なんか良くわかんないけどあの鳥人間のくれた石とは別物?」
―――主の手に溶けている鉱物のことか? それは確かに別口だ―――
「なんで……私の額なんかに」
―――自分から頼っておいてよく言えるな。しかし、我を受け入れる器であったことは驚いた。主は純粋にルスト寄りだったのだな―――
「ルスト寄り?」
―――人を造る際、我とルストとが二重螺旋を描き創造した―――
「ほうほう、つまりルストさんとあんたの遺伝子配合?」
―――微妙なバランスだ。人間の身体は我とルストの眷属が半々でできている。我が眷属が多ければ形が崩れ、ルストが眷属が多ければ形を失う。主は我を受け入れたにも関わらず形を崩すことはなかった。つまり、ルストの眷属が多くいたことになる。しかし何かを失ってもいない。故にただ純粋にルスト寄りの眷属だ―――
この声の言うことがよく分からなかった。
―――分からんか? まぁいい。それよりも、力を貸す替わりに手伝ってもらいたいことがある―――
「ヤダって言ったら?」
―――否定は無理だろう。今の主は我のおかげで生きている。牛頭鬼を覚えているな?―――
言われて牛頭の化け物が脳裏に浮かぶ。
―――あれにやられた傷が治っていないぞ? 我が体から抜ければ即座に傷が開きだすのだが―――
「私を脅すの?」
―――事実を述べている。今は我が主の身体に蔓延している。我によって怪我がないように感じているだけだ。どうする。我は我の望みがある。主は我が内になければ死を迎える。持ちつ持たれつ、共生といこうではないか―――
……共生?
でも、こいつの言うことがもし本当なら、あの場から逃げられたのも説明がつく。
こいつが私の体に入ったせいで、私の体は傷つく以前の身体みたいになったわけだ。
なんせ人間の身体を作った神様……じゃなくてウイルスみたいだし。
「で、あなたの手伝いって?」
―――ルストを探して欲しい。眷族ではない。奴自身だ。一部で構わない―――
「すぐに見つかると思う?」
―――さて、何年かかるか、何千年かかるか……―――
「本気? 私そんなに生きられないんだけど」
―――案ずるな。我がいる以上生かしてみせる。それが共生というものだ。主の頭が切断でもされぬ限り、心の臓が抜かれようとも生かして見せるが?―――
それって永遠にこいつに命握られたようなもんじゃん。
―――言ったはずだ。共生。つまり、主が死にたくなればその時点で共生は終了する。ルストが見つかれば、我も主を生かす理由はない。いつでも出て行って欲しい時に言ってくれ、出てゆこう―――
私の考えを呼んだかのように、メルトは言葉をかけてきた。
しばらく考え、利害を計算する。
「結論、とりあえず今のとこ利害の一致で共生はいいとして……」
―――として? 何かあるのか?―――
「この石取れない? いや、ま、せめて見えなくできない?」
―――無理だな。精神をリンクするために脳と直結させてしまった。人体よりは頑丈であるため脳への衝撃などは緩和するが、取り除くとなると逆に骨などの一部も引き抜くことになるがどうする? それよりは石の形を変えてみるのはどうだ?―――
「せめて目立たなくして」
―――随処しよう―――
と、額に在った石が溶けるように額に広がり、模様のように広がった。
余計目立つんですけど……しゃーない、バンダナでも巻いて見えなくしておこう。
登場人物
聖 小影
現在16歳、彼氏いない歴イコール年齢の少女。
基本金かお茶にしか興味がないので、金貸しの回収を行う以外は緑茶をすすってぽけっとしている。
特技に瞬間記憶を持ち、金貸し業の関係で覚えた指弾とデビルスマイルを得意とする。
座右の銘はお前の物は俺のモノ。貸したら返せ命を掛けて。
聖戦士になったようです。
メルトに寄生されている。ルストが見つかるまでは共生するようだ。
メルト
原初の柱の一つであり地球外生命体の細菌。
時空石と呼ばれる黄金に光る石の内部に存在していて地球へと降って来たらしい。ルストと共に地球へ飛来したが、長い年月を経てルストは行方不明となった。
以来ルストを探しているのだが、空気感染型のルストとは違い飛沫接触感染型のメルトは自身を運べる存在がいなければ移動できない。
人間をルストと共に造り出した神らしいが、生物に触れると相手を融解させてしまう特性を持つ細菌。生き物を媒介にする場合は特定の容器である必要がある。
結城 杏奈
現在16歳、彼氏無し。
小影曰く、紫色に染めたけど、髪が伸びたせいで半分より下だけが紫色になっちゃったとっても可哀想な人らしい。
不良生徒になりかけていたが、小影に打ちのめされて以降小影のツッコミ役にされる。
姐御肌らしく悪態付きながらも手伝ったりする様が密かにクラスメイトから人気を集めている。
ハニエル・ルーマヤーナ
神の愛と称される大天使の一人。
全ての愛される要素を内在し、顔は清楚に、身体は妖艶に。でも思考は限りなく幼児に近いある意味残念な存在。
ただし内包する知恵と頭の回転は凄まじく、先見の明を持つため落ち零れとされる天使から大天使候補の原石を発見するのが上手い。
ファニキエル・シュイタット
ハニエルにより見出された落ち零れの天使。
前回の天使試験で見習いのまま消失の危機を迎えていたが、ハニエルにより見出され付き人のような役割についている。
未だハニエルが見出した実力は開花しておらず、実力は限りなく弱い。
牛頭鬼
黒い靄から発生した悪魔。
黒い靄で移動し、人間あるいは天使を見付けると出現し、戦闘を行う。
夜間の校舎内を見回る様に動いている。




