皮算用。天使はミイラにすべきか剥製か
父親は人情味溢れる下町の工場の責任者だった。
町工場は物凄く生活には苦しくて、でも、なんとか生活をする分の余裕はあった。
美味しいご飯も食べれたし、緑茶がとても美味しかった。
よく仕事場に顔をだしたこともある。
いろんな男の人たちが忙しなく働いていた。
でも……ある日、父親の現場で働いていた一人が、お酒に酔って人に怪我をさせてしまった。
当然慰謝料。でも、その相手が悪かった。
ヤクザまがいの知り合いがいて、高い慰謝料吹っかけられて、父親は情にもろかったから、頼まれて保証人になった。
働いていた奴は、父親に恩も返さず、その日の夜に夜逃げする。
恩を仇で返された父親は、結局お金を支払うことになった。
でも、その法外な値段、父親が払えるわけがない。
父親は無知ではなかったし、回避する方法も知っていた。
逃げた男みたく工場捨てて逃げればよかったのだ。
でも、人が良いから相手の言い分全額返そうと躍起になって……
金が欲しい。金さえあれば……
いつの間にか、それが口癖になっていた。
家計はどんどん傾いて、借金をして、積み重なって、恐い人が押し寄せて、父親は少しずつ狂っていった。
金があれば……
いつものように、その言葉を吐いて就寝、やがて母親の悲鳴で少女は起きた。
目の前で何かが揺れていた。
ぶらり、ぶらり……
その光景は彼女の瞳に焼きついた。
もう、二度と消えることはない。
なぜなら、彼女は瞬間記憶能力者。
目に見たことを、写真を見るように鮮明に思い出せる。
ドアの向こうからはいつものように口やかましい取立て屋たちがひしめき合っている。
お金があれば……
呟いて、少女はゆっくりとそのドアに向かう。
ある決意を胸に……
ガバリと起き上がる。
朝の日差し、鳥の囀る音、下からはそろそろ起きる時間なんだろう、誰かが階段を上がってくる音がする。
うん、まぁ……また見ちゃったよ嫌な夢だね全く。
パジャマには、寝汗がべったりと付いている。
襟元を引っつかんで服と体の間に空気を取り入れようとして、気付く。
パジャマじゃないよ、コレ。
今の私の服、まるで中国衣装とでも言うようなものだった。
あーそういや昨日そのまま寝てたよね。
そう、それはルミナスアーマーといわれる戦闘用の服。
服装を思い浮かべている途中に見てしまった漫画……西遊記のサルの服装を私なりに天女っぽくアレンジした奴……どういう効果なのか、両腕に巻きつく薄いピンクの紐……左右を頭上で繋ぎ、肩より上を漂うようにヒラヒラと舞っていた。
コスプレでもありえない。こんなものを着ているところを人に見られでもしたら……
ガチャリとドアを開く音がする。
身が強張る。お母さんにバレてしまう……
『昨日はどうも、朝ですから起きてください小影さん』
……自称私の兄だった。
お前かいっ。
「何でアンタが」
『いえ、私もなぜなのかは分からないのですが、気がつくと外に寝ていまして、天使は人間界で眠ることなどないのですが、おかしいですよね』
ああ、そっか、ファニキエルは私がダークモードになる前に意識を飛ばしたので知らないんだっけ。
「丁度良かったよ、これ、どうやって戻したらいい?」
服を摘んで見せる。
『そうですね、確か魔物を一匹以上倒すか……』
今から学校なのにそんな悠長な。
『変身解除用の合言葉を設定すればよかったような』
「合言葉? じゃあ解除で」
何も起こらなかった。
「合言葉決めたんだけど」
『ですから、設定しなければいけません、ハニエル様と契約を結んだのでハニエル様としか設定はできないはずです』
何てことだ。かなり失敗した。
とにかく、服は重ね着しか手はないだろうし、顔を洗って髪を整えて、授業の用意を……
「あ、そうだ。ハニエルは?」
『下で食事中です。小影さんを異様に恐れていたようですが、何かあったんですか?』
「さぁ~、何もないよ。うん、な~んにも」
答えて飛び起き、ハニエルの元に向かう。
律儀に戻って来てくれていて嬉しいよ。うん。
ふふふ……さぁてどうしてくれようかねハニエル君?
私は思わずデビルスマイルを浮かべて皮算用を始める。
どんな剥製にしようかな? 羽ペンに使うのもありだよね?
いやいや、やはり天使。ここはもうミイラにして倉庫からでてきたと美術館辺りに売りつけるとか?
いや、むしろ貸すことで金をずっとせびっておくのが良いかもしれない。
一括で売るよりも少ない金でも定期的に入っていれば数年で一括以上の金を稼げるしね。
うん。天使のミイラ。絶対話題性最高だよ。
ちゃんと大天使ハニエルのミイラとして宣伝しよう。
いや、むしろミイラより剥製の方が良いかな? いや、ダメだそれだとどっちにしても教会あたりが罰当りだとか難癖付けて来る。
……仕方ない。今回は諦めて慰謝料軽くせびるだけにしておいてやるか。
これから長い付き合いになりそうだし、いろいろ聞くこともあるだろうしね。
利用価値があるうちは……生かしておこう。
あ、降臨した天使様として教会に貸しだすのもありかもしれない。
登場人物
聖 小影
現在16歳、彼氏いない歴イコール年齢の少女。
基本金かお茶にしか興味がないので、金貸しの回収を行う以外は緑茶をすすってぽけっとしている。
特技に瞬間記憶を持ち、金貸し業の関係で覚えた指弾とデビルスマイルを得意とする。
座右の銘はお前の物は俺のモノ。貸したら返せ命を掛けて。
聖戦士になったようです。
結城 杏奈
現在16歳、彼氏無し。
小影曰く、紫色に染めたけど、髪が伸びたせいで半分より下だけが紫色になっちゃったとっても可哀想な人らしい。
不良生徒になりかけていたが、小影に打ちのめされて以降小影のツッコミ役にされる。
姐御肌らしく悪態付きながらも手伝ったりする様が密かにクラスメイトから人気を集めている。
ハニエル・ルーマヤーナ
神の愛と称される大天使の一人。
全ての愛される要素を内在し、顔は清楚に、身体は妖艶に。でも思考は限りなく幼児に近いある意味残念な存在。
ただし内包する知恵と頭の回転は凄まじく、先見の明を持つため落ち零れとされる天使から大天使候補の原石を発見するのが上手い。
ファニキエル・シュイタット
ハニエルにより見出された落ち零れの天使。
前回の天使試験で見習いのまま消失の危機を迎えていたが、ハニエルにより見出され付き人のような役割についている。
未だハニエルが見出した実力は開花しておらず、実力は限りなく弱い。
牛頭鬼
黒い靄から発生した悪魔。
黒い靄で移動し、人間あるいは天使を見付けると出現し、戦闘を行う。
夜間の校舎内を見回る様に動いている。




