ネズミ算、理想じゃなくて現実を見ろ
「お~う、小影っちゃんやないか」
制服を着て学校へと歩いていると、厳ついタコのおじさんに声をかけられた。
タコといっても本当に海で揺らいでるわけじゃない。
頭をつるっつるに剃ったおじさんだ。
「お~う健さん、おはぁ~よ~」
渋いサングラスをかけて丸刈りのこの増川健治さん、ある筋でお知り合いになったお友達だ。顔は恐いし声もでかいけど、気さくで優しい一面もある闇金融の同業者。
「バンダナなんか巻いとるから誰かと思ったわ」
「へへ~。どう? バンダナ似合う?」
華の笑顔を振りまいて、バンダナに視線を向ける。
健さんはそれを見てニカリと笑った。
元が恐いから笑顔もちょっと怖い。
「おう、似合うとる似合うとる。とっても可愛ええで」
「よかった。初めてつけたから似合わないかって心配だったんだよ」
「ほぅかぁ。……ああ、そうや、小影っちゃんは聞いたか? 神殺組の噂」
笑い合っていた健さんが突然真顔で聞いてきた。
何やら真剣なご様子だ。
神殺組? えーっとなんか古風な組のヤーさんだよね。
かなり凄いお屋敷に住んでてリムジン乗ってる。家に着いたら黒服総出でお出迎えしてる組だったはずだ。
「うんにゃ? 聞いてないけど?」
「最近組長と若頭が鉄砲玉もろて亡くなってな、小影っちゃんと同い年の若い娘さんが後継いだらしいんや。ほれ、あそこは今時でも続いてる古風な組やったろ? 任侠かぶれでよ、お控えなすってぇとか真顔で言っとる……」
「この町牛耳ってたよね。話には聞いたことあるけど」
「その娘さん……いや、今の組長がな、闇金融を徹底的に壊滅させようしとるらしいんやこれが。変に力もっとるから反論もできんし、小影っちゃんも取立ては控えた方がええんちゃうか?」
「あはは、だいじょぶだいじょぶ。私のは正規の取り立てだし。ほら、ちゃんと法内で治まる利息だし」
「いや、小影っちゃんの場合は取り立て方がな」
「取り立て方が……何か?」
「あ、いや、なんでもないで。うん、なんでもないねん。とりあえずや、用心しときや。ただでさえ有名やねんから」
言い方が悪かったのだろうか、急に青い顔で言葉を濁し、健さんは話題を終わらせてしまった。
むぅ? 知らない間にデビルスマイルでもでてたかな?
まぁ、一瞬だっただろうしそこまで恐がることないよね?
「うん、ありがと健さん。気をつけとく。……あの、先生は何か言ってた?」
「おう、小影っちゃんを敵に回すかもしれない相手の方が心配だとよ」
「あはは……後で殴るって伝えといて。半殺し確定だから」
「お、おう、ほどほどにな」
伝言だけ伝えて健さんと別れ、私は再び学校へ向かう。
同い年で組長か。苦労してるね、可哀想に。
あ、そういえば昨日、取り立て行ってないや。
昨日の分もしっかり回収しとかないと。
「また緑茶かよ」
教室に着くなりマイ湯呑を取りだした私に、隣の杏奈が声をかけてきた。
「うん、そだよ~」
「ってかあんたさぁ、昨日の午後どこ行ってたの?」
あ、そっか、授業でてないんだっけ私。
「天国と地獄の狭間ぁ」
「戻ってこなければ良かったものを……」
「杏奈も行ってくる?」
「いや、遠慮する」
即行否定だよ……
まぁ、誰も行きたくないよね絶対。あの女学生だけは別にしてもね……ふっふっふ。
幸せモード満喫中の私が緑茶を啜っていると、ようやく先生がやってきた。
出席確認を始めて、そのまま一時間目の数学に取り掛かる。
この先生の授業はとても分かりやすい。今流行りの感覚教育という奴だ。
今は鼠が産む子供の数を数式に表している。
……はっきし言おう。分かりやすくはあるが絵を書く時間がもったいない。
鼠算の計算なんかして生活にどう生かせと?
いちいち増える鼠を絵に描くな! ついでに下手糞だよッ!
というわけで……
「せんせ~、そのうちの何匹が猫に食べられるんですか~」
「は? あ、いや……猫はいなくてだな……」
「現実世界は猫に食べられたり、大移動で集団自殺するんで鼠の数は一定を保たれてるんですよ~」
我ながら無理矢理な授業妨害だと思いながらも主張を押し通す。
「つまりこの場合は二匹から二十四十と増えるんじゃなくて、猫に食べられる数を引いてぇ、臨界点を設けて、以降はアポトーシスにしとかないとだめなんじゃない……」
ゆったりボケボケとした口調で微笑を浮かべながら主張していると、後頭部にパシンと衝撃がきた。
「……痛い」
「黙れパンプキンヘッド。この授業にお前の口を挟む場所ない」
振り向けば、何時の間にやら後ろに仁王立ちしている杏奈がいた。
全く、杏奈の奴、この先生が好みだからってやる気満々で私を妨害してきたよ……
「で、では阿久津君、五十世代目は何匹になるでしょう?」
「ええッ!? 答えんのッ!?」
先生は私の妨害が妨害されたことに安堵したのか、授業を再開。
でもちょっと混乱気味だったのだろうか、物凄い時間のかかりそうな問題を生徒に出していた。
登場人物
聖 小影
現在16歳、彼氏いない歴イコール年齢の少女。
基本金かお茶にしか興味がないので、金貸しの回収を行う以外は緑茶をすすってぽけっとしている。
特技に瞬間記憶を持ち、金貸し業の関係で覚えた指弾とデビルスマイルを得意とする。
座右の銘はお前の物は俺のモノ。貸したら返せ命を掛けて。
聖戦士になったようです。
メルトに寄生されている。ルストが見つかるまでは共生するようだ。
メルト
原初の柱の一つであり地球外生命体の細菌。
時空石と呼ばれる黄金に光る石の内部に存在していて地球へと降って来たらしい。ルストと共に地球へ飛来したが、長い年月を経てルストは行方不明となった。
以来ルストを探しているのだが、空気感染型のルストとは違い飛沫接触感染型のメルトは自身を運べる存在がいなければ移動できない。
人間をルストと共に造り出した神らしいが、生物に触れると相手を融解させてしまう特性を持つ細菌。生き物を媒介にする場合は特定の容器である必要がある。
結城 杏奈
現在16歳、彼氏無し。
小影曰く、紫色に染めたけど、髪が伸びたせいで半分より下だけが紫色になっちゃったとっても可哀想な人らしい。
不良生徒になりかけていたが、小影に打ちのめされて以降小影のツッコミ役にされる。
姐御肌らしく悪態付きながらも手伝ったりする様が密かにクラスメイトから人気を集めている。
増川健治
渋いサングラスをかけた丸刈りの厳ついおじさん。闇金融をしている人。
声がでかいので普通に話しかけると子供が泣き叫ぶ。
金ラメや龍柄のシャツを好んで着ている。
子供好きで野花を愛する性格だが、厳つい容姿のせいでよく通報される。
ハニエル・ルーマヤーナ
神の愛と称される大天使の一人。
全ての愛される要素を内在し、顔は清楚に、身体は妖艶に。でも思考は限りなく幼児に近いある意味残念な存在。
ただし内包する知恵と頭の回転は凄まじく、先見の明を持つため落ち零れとされる天使から大天使候補の原石を発見するのが上手い。
ファニキエル・シュイタット
ハニエルにより見出された落ち零れの天使。
前回の天使試験で見習いのまま消失の危機を迎えていたが、ハニエルにより見出され付き人のような役割についている。
未だハニエルが見出した実力は開花しておらず、実力は限りなく弱い。
牛頭鬼
黒い靄から発生した悪魔。
黒い靄で移動し、人間あるいは天使を見付けると出現し、戦闘を行う。
夜間の校舎内を見回る様に動いている。




