1651-1680
1651『だから、そばに居れば良いの!』
「ユンちゃんのお母さま、行方不明なの!?」
「確かに当方はお袋殿の居所を知らんが、そうではない」
「えっと確か、この近くの湖に行ってるって」
「ほう、何時の話だ?」
「それはコノリさん情報だよ! 用事は済んだみたいな事も言ってたよ!」
「ラン?」
「マオはちょっと黙ってて。後で説明するから」
1652『後悔なんてしない』
「マオが言ったのはコノリさんから聞いた話で、その後コノリさん自身が奥方と合流してる筈だから、最新情報はそっちが持ってると思うよ」
「何なら親父殿を其方に付けても構わんが」
「それは完全にこちらに丸投げしようとしてると見做すけど?」
「正直そうしたい所だが、そうもいかん」
「当たり前だろ」
1653『白いチューリップ(失われた愛)』
「仕方あるまい。お袋殿の行方を探ってくれ。当方は親父殿の成長促進の術を探りつつお袋殿との合流を目指す」
「了解」
「……もう喋ってもいいかしら」
「ん。ご免ねマオ、説明も無しで一方的な事言って」
「それは別にいいんだけど、全部そっちでやってるような気がするんだけど、ランの力は必要なの?」
1654『袋小路』
「当方の主観で言えば助力があろうが無かろうが変わらんのだが、恐らく多数決的な意味ではそこもとらの助力で世界が救われる可能性すら無いとは言いきれんからして悪しからず」
「ねえラン、ユンちゃんが何言ってるのかよく分からないんだけど」
「御母堂を放置しておくと後々怖いから手伝って、だって」
1655『ゴミ箱の中』
「ユンちゃんは、ちょっと遠い言い回しが好きなだけのタイプだと思ってたんだけど、実は翻訳者を挟まなきゃいけないタイプだったのかしら」
「ご両親の事情に揉まれて追い詰められ気味なだけだと思うから、変な属性は付けないでやって」
「術式なら属性問わず形成出来るが」
「ね? 分かってないでしょ」
1656『やっぱり忘れられない』
「それで、ユンちゃんのお母さまってどんな方?」
「む?」
「あたし達はユンちゃんのお母さまを探せばいいのよね?」
「そうだ。が、娘御も助力してくれるのか?」
「お邪魔なら宿に引きこもっておきますけど!」
「否、邪険にしておる訳では無い。厄介事に手を貸す他種族にはあまり縁が無かったものでな」
1657『気に入らないな』
「同種の手しか借りられない状況の方が特殊じゃない?」
「マオ、僕らの種族は知ってるよね」
「鳳凰種」
「鳳凰種の手に負えないなら自分達にできる事は無いとか、命がいくつあっても足りないような事をやらされるんだとか、なんか勝手に物騒な想像を爆発させて逃げちゃうヒトが結構多くて」
「なにそれ」
1658『ワイン』
「精霊にちょっとお願いがあるんだけどって言われたら、マオならどうする?」
「話をきいてみないと返事はできないわ」
「精霊でも?」
「あら、精霊のお願いってかわいらしいものが多いってきいてるけど」
「それ、誰情報?」
「母さん。お酒飲んでみたいから入手方法教えてって訊かれたことあるらしいわ」
1659『HP消耗する』
「かなり珍しいタイプの精霊だね」
「そうなの?」
「お酒が気になったなら、目についたものをそのまま持っていっちゃいそうなのに」
「その精霊はね、冷たくない氷に入ったキレイな色水が欲しいって言ってたんだって」
「あー、カクテルか」
「そう。目の前で作って渡されるから、持ち出す余地がないのよ」
1660『得意技 《笑顔》』
「それは解決したの?」
「ギルドの支部長のところへ連れて行って、属性石を譲り渡すのと引き換えにご所望のカクテルを出してくれる店を斡旋させたって言ってた」
「気になる点は多々あるけど、よくそんな店があったね」
「引退した元最高ランク者でバーを始めたヒトがたまたまいたのよ、って笑ってたわ」
1661『ナイフとフォーク』
「何だろう、これぞ吉祥って感じのエピソードだよね」
「そうね。あたしも母さんから聞いたんじゃなかったら、デマだと思ったと思う」
「バーのカクテルと属性石じゃあ価値が全く釣り合わないんだけど、そこは?」
「だからギルドを挟んだのよ。その精霊の飲み食い分は、全部ギルドに請求するの」
「成程」
1662『腹の虫が騒ぐので』
「精霊が何度もやってくるってことは確実に騒ぎが起こるから、その辺の手数料込みの属性石なんだって」
「ちなみに石のサイズは?」
「母さんの拳大の大きさだったらしいわ」
「生まれ変わって死ぬまで遊んで暮らせるね」
ぐぅー
「……おなかがすきました」
「コノリさんたら、子供みたい」
「今は子供だよ」
1663『黄昏時』
「子供は燃費が悪いというし、おやつ抜いてるししようがないと思うよ」
「そういえば、子供の頃って大して食べられないのにすぐお腹が空いてたわね。兄さんとかよくつまみ食いしようとして叱られてたし」
「マオは?」
「……兄さんが叱られてる隙につまみ食いしようとして失敗してた」
「似た者兄妹だね」
1664『エマージェンシー』
「夕食が入らなくなるからつまみ食いしちゃダメって言われるんだけど、夕食を一部先取りして食べるってことでいいじゃないって思ってたわ」
「それ、ご両親に言った事は?」
「言ったらもっと叱られる気がして黙ってた」
「叱られると思ったなら良くないと理解はしてたんだね」
「そう言われれば、そうね」
1665『偽りの』
「作りかけじゃなくてきちんと完成したものを食べて欲しいんだと思うよ。そっちの方が美味しいし」
「それは、そうね」
「後、つまみ食いしたヒトの食事だけ量を変えるっていうのも手間だし、自分だけ少ないと子供は不満を持つんじゃないかな」
「それもそうね」
「躾の意味合いが一番大きいと思うけどね」
1666『私のパーソナルスペース』
「しつけ?」
「子供の頃に叱られなかった事は、大人になっても直らない悪癖になり得るから」
「つまり、兄さんを殴ってでも抱きつき癖を矯正しておくべきだった?」
「あー、シオンのあれはマオに叩かれたくらいじゃ治らなかったというか、むしろマオに構われて喜びそうというか」
「否定できない……っ」
1667『幸せですか?』
「お嬢さんの兄はマゾヒストなのですか?」
「子供の外見でマゾとか言わないで! あとうちの兄は違います!」
「お嬢さんが知らないだけかも」
「違うもん、妹に叩かれて喜ぶようなヒトが兄とかやだ!」
「それはお嬢さんの願望では」
「コノリさん、マオを追い詰めるのやめてください。大人気ないですよ」
1668『天然だな』
「追いつめるつもりはありませんし、あくまでも可能性の話だと思うのですが」
「当事者であるマオの兄が此処に居ない以上、否定したいマオが不愉快な思いをするというデメリット以外は何も生まない不毛な話はやめましょうよ」
「なるほど、分かりました」
「ユンの理詰めなら聞く性格は父親譲りなんだな」
1669『あなたにしてあげたいこと』
「セイランよ」
「何、ユン」
「一つだけ忠言しておこう。お袋殿を説き伏せようとは思わん事だ」
「理詰めで何とかなるヒトじゃないって事かな」
「そうだが、そもそも他者の言なんぞ聞かん故な」
「コノリさんと結婚してるんだよね?」
「事実婚ですけどね」
「事実婚」
「元精霊に戸籍なんてありませんから」
1670『ロウソクを吹き消すと』
「戸籍?」
「あれ、猫族は戸籍って無い?」
「どうかしら、聞いたことないわ」
「あー、じゃあ鳳凰種独特の風習なのかも。数が少ない上になかなか顔を会わせないから、同胞の情報を一括しておくと便利、みたいな?」
「ランもよく分かってないの?」
「あるのが当然だと思ってたから、気にした事がなくて」
1671『誰だっけ』
「誰も知らないうちに産まれて大きくなってたら、鳳凰種とは認めてもらえないってこと?」
「まさか。適宜追加するだけだよ」
「ゆるいわね」
「同胞かどうかはすぐ分かるから。マオだって、猫族かどうかは分かるでしょ?」
「そういえばそうね」
「納得してくれた?」
「うん。とりあえずはだけど」
「そう」
1672『遅刻』
「どちらかというと、戸籍の問題は削除の方だね」
「鳳凰種失格とかあるの?」
「いや、死亡届とかそういうやつ」
「ああ、ふらふらしてて生死不明なヒトとか多そうよね。どうしてるの?」
「連絡網を走らせる」
「返事したヒトが本人だって確認できるの?」
「そのうち顔見せに来いって言われる程度だから」
1673『「君は僕の太陽だ」「まともに見ると目が潰れるってか?」』
「それでいいの?」
「まあ、戸籍で何かしてる訳でもないし」
「じゃあ何で戸籍とか作ってるのかしら」
「さあ? 過去に何かしら不便があったんだと思うけど」
「ランにも分からないのね」
「生まれるずっと前からある制度だからね」
「ユンちゃんは知ってる?」
「否。いつのまにやら出来ておった制度だな」
1674『あなたの寝顔』
「戸籍制度の運用開始よりも前に生まれてるって事かあ」
「当方の齢なんぞ絞り込んで如何する」
「いや、そんなにはっきりさせたい訳でもないんだけど」
「でもなんだか気になるのよね」
「そうなんだよね」
「数えんようになって長い故、当方にもはっきり分からんのだ。正解なんぞは出てこんぞ」
1675『腕時計』
「だから、別に本気で割り出しにかかってる訳じゃないんだって。むしろ正確な年齢が分かると、こっちの精神衛生上宜しくないような気さえしてる」
「ふーん?」
「あからさまに興味ありませんって顔してるね、マオ」
「だってよく分からないもの。あ、それよりコノリさん用におやつでも買いに行かない?」
1676『黒衣』
「ん、そうだね。さっきもお腹鳴ってたし。ついでに夜食になりそうなものも見繕っておいた方が良いかも知れない」
「子供は夜はぐっすり眠っちゃうと思うけど」
「それなら翌日の間食に回せるように、おやつの種類を変えておこうか」
「そうね」
「そこもと等、まるで子を持つ父母の様だぞ」
「いつかはね」
1677『アルテミスの目』
「そういうことを軽々しく言わないで!」
「当方とセイランどちらに怒っておるのか訊いても良いものだろうか」
「どっちもよっ、困るでしょあたしが!」
「困るのか」
「困るわよホントどうしてくれるのランの顔が見れないわ!」
「セイランはにこにこしながら娘御を見守っておるが」
「だから言わないで!」
1678『今でも好きです』
「幼い娘とは難解だな」
「誰が幼女よ成人してるわよ失礼ね!」
「なんと、娘御は三桁ほど年を重ねておったのか」
「何でよ!?」
「マオ落ち着いて。ユンは若い女性って言ったつもりなんだよ」
「いーえ、はっきり幼いって言ったわ」
「できれば大目に見てやって。ユンの周囲は年齢不詳のヒトばかりだから」
1679『生涯背負う十字架』
「ランも実は年齢不詳なの?」
「マオは僕の年齢知ってるよね?」
「実は外見に合わせた適当な年齢を言われてたのかなって」
「そんな何の意味も無い嘘言わないよ」
「意味があったら言うのね?」
「訂正。生涯の伴侶に無意味な嘘は言わない」
「まだ伴侶じゃないでしょ!?」
「でもなってくれるんだよね?」
1680『教会』
「そんなこと言って煙に巻こうとしたって騙されてあげないからね!?」
「今すぐ誓いを立てようか? 生涯マオを愛し慈しみますって」
「ランのひきょーもの!」
「何で!?」
「あた、あたしがそういうの弱いの知ってて、ごまかしの手段に使うののどこがひきょうじゃないの!?」
「誤魔化してないよ!?」




