1561-1590
1561『この瞬間を忘れない』
「神と知己とは驚きだな」
「二つ名だよ、父親の二つ名が軍神。ユンも二つ名持ちは把握しておいた方が良いと思うよ。ギルドに所属してるんだよね?」
「除籍した覚えはないが、勝手に除籍されとる可能性は否定出来ん」
「何したの」
「単純に死亡認定されとる可能性があってな」
「いつ登録したの」
「さて」
1562『猫のようにしなやかに』
「銃師は二つ名の先駆けだと記憶してるんだけど、そこら辺の歴史漁ればある程度はユンの年齢が分かるかなあ」
「当方の齢なんぞ知っても特に益は無かろうよ」
「ただの好奇心だけど、調べはしないから安心してよ」
「調べられて困る訳でもないが」
「知り合いの情報は本人に訊くのが筋かなって」
1563『細かい事なんざ気にすんな』
「そう言われると教えてやりたいとは思うのだが、何分自分でも何の記録も取ってはおらん故、教えられんのだ」
「僕もただの興味だから、いつかふと思い出す事があったら教えてよ」
「済まんな」
「後、近い内にギルドが接触してくると思うよ」
「何故だ?」
「ユンが言ったんじゃない、苦情は銃師までって」
1564『コート』
「確かに言うたが、あれで尋ねて来る者なぞ居るのか?」
「居ると思うよ。何しろ、伝説の存在だからね。たとえ上が止めたって止めきれるものじゃないでしょ、好奇心や野心って」
「好奇心は分かるが、野心?」
「銃師の仕事として語り継がれているものが本当だとしたら、知り合っておいて損は無いからね」
1565『私のテロワール』
「あの御仁は無闇に言いふらす類いには見えんかったが」
「それも見越してああ言ったんだ? 確かにガーディに言えば直通で支部長に伝わるから、最小限の周知で済むかもね」
「……成程、情報とは漏れるものという訳か」
「残念なことにね。それに、今回はユン自身が拡散して良しと言ったようなものだし」
1566『やっぱり忘れられない』
「拡散されたい訳でも無いが、まあ成るように成るだろう」
「投げたね」
「もはや当方の手を離れておる以上、今どうこう考えようと詮無い事だ」
「そりゃあそうだけどさ」
「何だ」
「いや、ユンが気を散らしたいのかと思って、僕は会話に付き合ってたんだけどね」
「それも否定はせんが、そろそろ佳境故な」
1567『ああ、もうやめて』
「初めから術式に集中してた方が良かった様な」
「そう言うな。当方にも色々あるのだ」
「加勢、要る?」
「否。これは父子の問題故、セイランと言えども手を煩わせるのは少々申し訳無い」
「あー、そういうアレなんだ」
「そういう其だ」
「話ならまず言葉じゃないですかねー?」
「では捕まってくれ親父殿」
1568『部屋の隅に』
「捕まえてからでないと切り出せないようなお話は、話し合いとは言いませんよー?」
「先に当方の言を聞かずに去ったのは親父殿だ。因果応報という言葉を実体験する良い機会と思うて、次に活かしてくれ」
「活かすなら今回に活かしたいですねー」
「二人とも、部屋とその備品を壊したら弁償させるからね」
1569『幽霊』
「人様のお宿でそんな事しませんよー」
「貴方が払った鎖が周囲をダンダンぶっ叩いてるのを止めてからじゃないと説得力ありませんよ、コノリさん」
「ですけど叩いているのは結界ですから、先ずは結界を解いてくれても良いと思うんですー」
「床や壁が傷だらけになるから、解きたくても解けないんですよ」
1570『身長差』
「物理的に払い除けるのではなく、術式消去の方針にするのは無理ですか?」
「物質化した術を消すにはより手数が多く必要なので、その間に捕獲されてしまいますー」
「ところでコノリさん」
「何でしょう?」
「なんか縮んでません?」
「おっと、肉体保持がゆるくなってました、忠告感謝しますー」
「は?」
1571『武器の在処』
「ねえ、ユン。僕等鳳凰種って術式に気を取られたら縮む種族だっけ?」
「そんな阿呆な特性を持っておる同胞には、当方は未だ出会した事は無いが」
「だよね! じゃあ何でコノリさんは縮んでるの?」
「当方も少々動揺しとる」
「おや、ちょっと攻めが甘くなりましたね」
「うわ、元のサイズに戻ってるし」
1572『お弁当』
「しまったな、先程の動揺で完全に主導権を奪われた」
「助っ人要る?」
「不利になったら増員というのは、少々美学に反する。これが仕事ならば手を借りる所だが」
「分かった」
「ちっ」
「あ、完全に消えた」
「ふう、腕を上げましたね」
「完封しておいてよく言いよる」
「とりあえず、夜食にしましょうか」
1573『燃えるゴミ』
「我が子への思いの籠った弁当ですよ」
「……親父殿が作ったのか?」
「分かっているでしょうに」
「さらばだ」
「おっと、冗談ですよ。昼の屋台で売っていたものです」
「それを早く言え」
「ユンの御母堂の料理の腕が不安要素満載なのは分かったから、親子団欒は他所でやってくれる? 隣の部屋貸すから」
1574『偽りの』
「宿の客が部屋の貸し借りをするのは宜しくないですよ」
「マオが借りてる部屋ですし、明日改めて支払いをして貰えば大丈夫でしょう」
「セイランよ、何事があった?」
「昨夜ちょっと気になる訪問があったから、念の為」
「そうか」
「親子水入らずでどうぞ」
「本音は?」
「マオを起こさないように宜しく」
1575『眩しい』
「んー、おきな……きゃああ!」
「えっ、何!?」
「なにしてるのラン!」
「何って、寝てた」
「なんであたしはランとベッドに居るの!?」
「あー、ご免ね。昨晩はもう一組布団を敷く気力が残らなくて」
「だからってだ、だだだ」
「マオの抱き心地が好いから、つい」
「ついで抱き枕にしないでくれる!?」
1576『パイプ』
「朝から心臓止まるかと思ったわ」
「ご免、でも僕も考えたんだよ。床で寝てマオが先に起きたら叱られそうだなあ、とか」
「当たり前でしょ!」
「だけど布団を敷くのも面倒だったし、マオはもう眠ってるから良いかなって。勿論何もしてないよ」
「あたしを床に落とすとかあるでしょ」
「落とさないよ!?」
1577『こぼれ落ちたもの』
「僕はマオを床に落とさないし、落ちてたらベッドに戻すよ!?」
「落ちたらさすがに起きるから自力で戻るわよ、多分」
「その多分は落ちたら起きる点なの、自力で戻る点なの」
「起きたら戻るでしょ?」
「落ちた衝撃で目が覚めても、眠いからまあいっかー、とそのまま寝入る可能性が」
「ないわよ、多分」
1578『泣いても良いですか』
「多分」
「世の中に絶対はないのよ」
「それくらいは絶対でも良いんじゃない?」
「眠いときに考えることって、結構謎よね」
「マオ、自覚あったんだ」
「どういう意味よ」
「眠い時の誤変換で狼狽えてたから」
「睡魔って強敵よね」
「そうだね」
「そういえば、ユンちゃんはどうなったの?」
「話題が飛ぶね」
1579『ぬいぐるみ』
「コノリさん捕獲は失敗したけど、父子の語らいをする事にはなってたよ」
「帰ったの?」
「どうなんだろ。とりあえず、話し合いの場として隣の部屋を提供しておいたけど、その後どうしたのかは、僕も寝ちゃったから知らないなあ」
「部屋の又貸しっていいの?」
「事情話して後払いすればセーフかなって」
1580『見失っても、必ず見つける』
「事情って?」
「友人が父と再会を果たした場面に立ち会ったので、余計なお節介とは知りつつも親子水入らずの時間を提供したかった、とか?」
「……嘘は言ってないのに、なんか怪しい言い分だわ」
「そう?」
「鳳凰種ってどうやって落ち合うの?」
「また会いたい相手とは約束を取り付けてから別れるよ」
1581『チーズとワインとバケットと』
「約束する前にはぐれちゃったら?」
「そういう時の為の連絡役が居るから、伝言を預けて相手の反応を待つかなあ」
「気が長いわね」
「そもそもそこまで会いたい相手は伴侶くらいだからね。マオにも今度教えるから、覚えといてくれると嬉しいなあ」
「朝ごはんはなにかしらね!?」
「分かり易く照れたね」
1582『もしもあなたが私を置いて逝ったら』
「朝食というより夜食っぽかったわね」
「この地域は日常的にワインを飲むのかもね」
「そんな地域なんてあるの?」
「水が貴重なのか、単に酒豪の血筋が多いかじゃないかなあ」
「なら、あたしはここに住めないわね」
「あれ? マオ、そんなにお酒に弱かったっけ?」
「弱くないけど、ランは弱いじゃない」
1583『気に入らないな』
「うん……うん」
「今なんで二回頷いたの?」
「気にしないで」
「気になったから訊いたのに」
「うん」
「わかったわ」
「うん?」
「聞いたら危険な気配を察知しました」
「そんな物騒な事は考えてないよ」
「あたしにとって物騒な気配を察知しました」
「うん」
「……その笑顔なんとかならない?」
「駄目?」
1584『ヘテロクロミア』
「ダメってわけじゃないけど……そんな満面の笑みで見ないでほしいというか」
「マオが可愛いなあって思いが顔に出ちゃうんだよね」
「そんな幸せそうにあたしがどうとか言わないで!?」
「真っ赤なマオも可愛い」
「言わないでって言ってるのに!」
「ご免ね」
「もうちょっとすまなそうな顔で謝って!?」
1585『オートマタのように』
「さて、隣はどうかな」
「あたしで遊ぶだけ遊んであっさり切り替えないでくれない!?」
「マオ、人聞きが悪い」
「……さんざん弄んでおいて、飽きたらポイなのねっ」
「お母さんでしょ」
「そうよ。ちなみに、これを言われてうろたえない男はやめときなさいって」
「言い付けに忠実すぎるのやめよう!?」
1586『新しい風』
「なんで?」
「なんで!?」
「なんで母さんの言い付けを守っちゃいけないの?」
「親の言い付けを守るのが悪いって言ってる訳じゃなくて。さっきの話の流れだと、僕がマオに捨てられるからちょっと考え直して欲しいなあ、という僕の魂の叫びです」
「なんであたしがランを捨てるとかって話になるの!?」
1587『ぬくもり』
「僕は捨てられない?」
「そもそもランはあたしの物じゃないんだから、あたしが捨てられるわけないでしょ」
「えっ」
「え?」
「僕はマオのじゃないの?」
「なんで!?」
「僕は、マオは僕のだと思って良いんだと思ってた」
「……ちょっと待って、話を整理しましょう。なにかすれ違ってる気がしてきたわ」
1588『割れたカップ』
「自分の命は自分のものだから、相手が誰でも譲る必要はないって教育を受けて、あたしもそう思ってきたんだけど」
「あーうん。間違っていないというか、物凄く正しい」
「ランは違うのよね?」
「僕が言ったのは気持ちの問題で、別に生殺与奪を他人に委ねろって訳じゃないよ。マオの人生はマオのものだ」
1589『猫の耳』
「マオと僕はお互い唯一無二の伴侶になる訳だから、伴侶としてのマオは僕が独占して良いし、マオも伴侶としての僕を独占して良いんだよって話なんだけど……マオ?」
「は、ははははんりょとか何度も言わないで!?」
「あー、ご免ね。さすがにそういう単語無しではちょっと説明できない類いの話だから」
1590『情けは人の為ならず』
「つまりこれから先、僕が『マオは僕のもの』みたいな発言をする事があるかも知れないけど、それはマオの心身の自由を僕の制御下に置きたいという意味ではなくて、色恋的な意図を持ってマオに触れる権利は僕だけのものにしておいて欲しいというか、ぶっちゃけ僕だけの権利だと思ってますという話です」




