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小猫と親鳥  作者: かすみづき
EXTRA 婚約から始まる話
54/59

1531-1560

1531『洗脳』

「タイムってハーブなかったかしら」

「明日探してみようね。ほら、ベッドに入って」

「ランは?」

「僕もちゃんと休むよ、わざわざ寝具持ってきたんだし」

「ランの部屋だからランがベッド!」

「大丈夫大丈夫、マオはこっちで寝ててね。来客が帰ったら僕も休むから」

「畳み掛けておるな」

「ユンは静かに」




1532『孤独に怯えて』

「寝たか」

「寝たね」

「娘御は如何した?」

「単に睡魔に負けただけだね」

「そうか。時にセイランよ」

「ん?」

「あの隔離をいい加減解いて貰わんと、当方は目的が達成出来んのだが」

「壊してくれて良かったのに」

「一刻を争う程の事態でもない故な。そこもとの手が空いたら解除を頼めば良いと判断した」




1533『あなたにしてあげたいこと』

「解くのは良いけど、あの簪どれだけの術式を凝縮してた訳? あのヒトまだ鎖と格闘してるけど」

「捕縛が成れば当方の許へ転移する設定のみだ。但し解呪より初期化の方が遥かに速い術陣を描いた故、横着して初期化を選ぶとああして無限地獄に陥る」

「また地味に嫌な仕掛けを施したね、お父さん相手に」




1534『オートマタのように』

「初期化しても停止せずにまた捕縛から術式が再試行されるなら、無限地獄にも陥るよ。しかも解呪の方を試みたとしても、解ける前に転移が発動する手順で組んであるよね。シンプルなのはユンらしいけど、逃げ道が無い辺りはらしくないよね」

「相手が我が親父殿故なあ、生半可な仕掛けでは捕まらんのだ」




1535『氷柱』

「ユンより手強いんだ?」

「当然だろうて、我が親父殿だぞ?」

「そう言われればそうなんだけどね。僕はどちらかというと、御母堂の方を警戒してたから」

「ほう、何故だ?」

「元とはいえ精霊を振り回せるんでしょ?」

「そう言われると反論出来んな」

「ところでどうやって捕まえておく気?」

「凍らせる」




1536『嘘』

「えーと、ユン?」

「何だ、セイランよ」

「コノリさんを捕まえたかった理由は? まさか抹殺したかったとか言わないよね?」

「その手があったか」

「無いよ!?」

「冗談だ」

「本当だね?」

「うむ」

「マオに無断で殺しの片棒担がせたら、さすがにユンでも許さないからね?」

「了承を取れば構わんのか?」




1537『ミルキーウェイ』

「状況によるけど、それ僕にも話してくれるんだよね?」

「何故だ?」

「僕の知らない間にマオとユンが指名手配されてたとか、冗談でも勘弁して欲しいから」

「成程。娘御自身の同意とセイランの許可が有れば良いという事か」

「まさか、マオに殺しの片棒担がせる予定があるの?」

「別に無いが」

「殴るよ」




1538『ごめんなさい』

「セイランは短気よな」

「至極全うな反応だよ」

「ただの冗句だといっておろうに」

「……将来的にユンの伴侶に何らかの片棒を担がせてやる」

「何らかとは何だ」

「その時になったら考える」

「そもそも当方に伴侶は居らんぞ」

「だから将来的に、だよ。その時になったら今の僕の心境が分かるんじゃない?」




1539『眼鏡を外して』

「確かに伴侶と定めた者が居らん現状では、その思いを完全に理解するのは困難ではあるな。しかしセイランよ、それは止めておけ」

「何で?」

「鳳凰種も精霊も、己の対に対する思い入れが深い部類だろう。当方はそのサラブレッドと言うても過言ではない故な、そのモノクルを叩き割るくらいはしかねんぞ」




1540『嫌いなモノは嫌い』

「マオに妙な片棒を担がせなきゃ問題ないよ」

「それは冗句だと言うておろうが」

「念を押しておこうと思って」

「セイランよ、そこもと過保護が重篤化しとらんか?」

「そうかもね」

「先の話になるが、伴侶に迎えても監禁は止めておけ。娘御の気性では反発されるぞ」

「当たり前だろしないよそんな事!?」




1541『落し物は見つかった?』

「今の言葉、伴侶となっても忘れるなよ」

「あのさ、ユン」

「何だ」

「何でいきなりそんな心配を始めたの? この前はそんな事言わなかったよね」

「その短期でそこもとの過保護が悪化しとるからだが」

「そんなに悪化してるかなあ……あ、成程分かった。あのね、ユン」

「何だ」

「僕とマオ、婚約したから」




1542『休息するのも、仕事の内』

「済まん、何と?」

「僕とマオ、婚約したから」

「この短期で、婚約を為した?」

「したから言ってるんだよ」

「そこもとにそんな甲斐性が有ったとは驚きだ」

「失礼だな。確かにその場の流れと勢いの部分も大きいけど」

「ふむ」

「ところでユン、コノリさんはいつまで放って置くの?」

「これでも攻防中だ」




1543『ワイン』

「ホントだ、術式パターンが変わってる」

「見てないで手を貸してやろうという意気込みはありませんかねー?」

「いやあ、だってコノリさん余裕そうだし」

「我が子に捕獲されそうな同胞を憐れには思いませんかー?」

「そうですね、今度火酒か何か奢りますよ」

「果実酒の方が好きですー」

「じゃあそれで」




1544『教会』

「セイランよ、当方を差し置くとはどういう了見だ」

「ユン下戸だろ」

「否定はせんが、友に他と酌み交わす約定を目前で交わされれば楽しくないのも致し方あるまい」

「じゃあその時は、ユンにソフトドリンクでも奢るよ」

「ならば当方は娘御に一献進ぜよう」

「何でマオに?」

「友の対となる者への祝福だ」




1545『待て』

「程々で頼むよ」

「そうか。では盛大に言祝ことほいでやろう」

「ユン、会話しよう? 程々でって言った矢先に盛大にとか、真逆だよ?」

「派手なのは好かんと言うから、せめて言葉を尽くして前途を祝おうと考えたのだが」

「そうじゃなくて。マオがすぐ照れるからまだそっとしておいてって意味だよ」




1546『やっぱり忘れられない』

「ほう、ようやっと自覚したか」

「ああ、それが近いかもね」

「セイランよ、手籠めは感心せんぞ」

「しねぇよ!」

「おお、懐かしい言葉遣いだな」

「あのな、ユン。僕はそんなに男として信用ならないか?」

「ようやっと思いを自覚した程度の段階で、婚儀に同意してくれる女子おなごとは思えんでなあ」




1547『こんな日が来るとは』

「あー、それは僕のせいかな」

「だろうな」

「どういう意味だよ」

「そのままの意味だが」

「そうじゃなくて、話の流れでついプロポーズしちゃったというか」

「そこもとにしては軽率だな。娘御の気性ならば、赤面して顔を合わせるのも困難になりそうなものだと思うたが」

「ユンってヒトをよく見てるよね」




1548『凛として』

「ユンの予想通り、ちょっと生活に支障が出そうなレベルで照れてたよ」

「ほう、その状態から一日足らずで常に戻すとは。どんなショック療法を施した?」

「だから、なんで僕が何かやったと思われてるのかなあ!? 普通にマオが頑張ったんだよ、一日くれたら慣れてみせるからって」

「成程、有言実行か」




1549『答えは?』

「あのー、結局助けては貰えないんですかねー?」

「そうですね、お疲れ様ですと労いの一杯をさしあげるくらいしか、僕にできることはありません」

「酷いですー」

「いやだって、友人とその親なら友人を取るでしょう。しかも旗色が悪いのは友人の方だというのに、更に相手に手を貸す道理が無いというか」




1550『昔はあんなに可愛かったのに』

「やはり判るか」

「ユンに鍛えられたからね。でもこれは、術の心得がないヒトでも分かると思うよ。鎖の本数が目に見えて減っていってる訳だし」

「これでも応戦はしとるんだがな」

「術式のすぐ側で干渉と書き換えを行っててこれだもんねえ。それだけ圧してて助力と言われても、必要ですかってなるよね」




1551『繊細な味…か』

「酷いですねー」

「これでも中立でいるだけ親切な方だと自負しています。なんなら真空結界でも張りましょうか?」

「殺意高いですよー」

「ユン」

「うむ、親父殿なら己の周囲の大気操作くらいは平行処理出来る。多少は足を引っ張られてくれるかも知れんが、どう転んでも死にはせん」

「片手間感がひどい」




1552『甘い果実』

「ところで、親子対決はいつまで続くの?」

「済まんな。娘御も寝とる故さっさと移動したい所ではあるが、何分移動する程の余裕が無い」

「お友達とお喋りしといてそれは白々しいんじゃないですかねー」

「会話と術式の同時展開程度出来ずして、親父殿の確保が出来るとは思えん」

「高評価されてますねー」




1553『凍った花』

「評価というより只の事実だ。親父殿を越える術者なぞ、当方は未だ会うた事が無い」

「ご母堂は? コノリさんを振り回せるヒトなんじゃなかった?」

「お袋殿は物理特化だ」

「物理特化」

「うむ。例えば氷が必要になったとしよう。お袋殿ならば、大気を急激に動かす事で気温低下を引き起こして氷を造る」




1554『おはよう』

「えーっと、それを物理でやるって事は」

「拳圧だ」

「どこのレジェンド闘士かな!?」

「ラディアトだが」

「普通に返された!」

「拙かったか?」

「良いけどさ、ラディアトって始まりの闘技都市ラディアト?」

「そういえばそんな呼び方をされとったな」

「うん……実在したんだね。マオが聞いたら喜ぶよ」




1555『あの日のこと』

「そうか、セイランはラディアトの地を未だ知らんのか」

「ユンは知ってるの? あの都市は非実在説が出る程度には、どこにあったか分かってないのに」

「里の古株は大抵知っとるぞ」

「里の? 待って、まさかアルゴス?」

「正確には、里の旧い名がラディアトだ」

「世の学者が探しても見付からない訳だ」




1556『あどけない目』

「探されておるのか?」

「考古学者の間では実在しない説と過去に実在した説で、意見が真っ二つに分かれてるんだって。実在を信じる学者が大陸各地で探してるらしいけど……アルゴスだっていうなら、この先も見付かる事はなさそうだね」

「教えてやれば良かろう」

「同胞以外を大量に招く真似はちょっと」




1557『サンドイッチ』

「そんなに大勢の者が探しとるのか?」

「学者の総数は少なくても、鳳凰種の里だよ? 発表されたら闘技にも考古学にも全く興味無いのに入り込もうとする輩が出てくるに決まってるよ」

「そうか、それは拙いな。学者なんぞ、同胞の趣味人のような人種だろうと考えていたが、承認欲求は遥かに強いのだな」




1558『ぬくもり』

「それは同胞の趣味人の方が特殊な事例だと思うよ」

「そうなのか?」

「多分?」

「セイランもよく分かっておらんではないか」

「だって学者の知り合いとか、そうそう居ないよ」

「そういうものか」

「そういうものなんじゃない? そういえば、ここに同胞の趣味人が一人住み着いてた」

「世界は存外狭いな」




1559『風花』

「この前の隠れ里にも一人住んでたし。マオじゃないけど、鳳凰種との遭遇率はおそろしく低いものだって事を忘れそうだよ」

「娘御の周囲には、幻種が多そうだとは感じたな。通常種族の知り合いの方が少ないのではないか?」

「……あり得るな。家族が幻種と二つ名持ちなら、不愉快な事もあっただろうし」




1560『凛として』

「娘御はよくぞまともに育ったものだな」

「そうだね。まるで自分が偉いかのように錯覚する事も、心無い輩に傷付けられて人間不信になる事もなく育ってるもんね。環境が環境だから、成るべくして成ったような気もするけど」

「ほう?」

「実家は人里離れていた上に、兄妹で軍神の扱きを受けてたっぽくて」

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