1411-1440
1411『褥の上で』
「へっ?」
「何でそんな想定外って顔してるの?」
「だって……待って!?」
「ん?」
「あたしもしかして、ランのお父さまお母さまにご挨拶しに向かってるの?」
「いや、うちの親は一般的な鳳凰種だから、現在進行形で旅の空の下に居るよ」
「そ、そう」
「うちの親探しに変更する?」
「心の準備をさせて」
1412『血を辿って』
「えぇと、マオ?」
「なに?」
「難しい顔してどうしたの?」
「考えてるの」
「何を?」
「やっぱり、よくないなって」
「何が?」
「暫定婚約者っていう、今の関係よ」
「ご免マオ、今更逃がしてあげられない」
「大丈夫よ」
「え?」
「迎撃しましょう」
「迎撃!?」
「で、敵襲はどっちから?」
「違うから!」
1413『おはよう』
「ランが迷わず逃げを選ぶほどの強敵がやって来るのかと思ったんだけど、違うの?」
「違います」
「そっか」
「何でちょっと残念そうなの」
「ごめんなさい。そうよね、二つ名持ちの鳳凰種が手も足も出ないような存在の行動範囲内で、集落を作るはずも無事なはずもないものね」
「そうだけどそこじゃない」
1414『嘘の色』
「それじゃあ、二つ名持ちの鳳凰種が迷わず逃げを選ぶような強敵がやって来ることに対してちょっとわくわくしちゃったこと?」
「それもどうかと思うけど、違う」
「えーと、それじゃあ二つ名持ちの」
「マオ」
「何?」
「なんでさっきから、二つ名持ちを強調するの?」
「だって優秀の代名詞なんでしょ?」
1415『素直じゃないよね』
「そう捉えてたかぁ」
「あたし何か間違ってる?」
「いや、この上なく正しいよ。でも正しく認識してくれるヒトって、かなり少ないんだ」
「そうなの? じゃあ、どんな認識するヒトが多いの?」
「鴨」
「か、かも?」
「手に負えない仕事は二つ名持ちに押し付けとけ、とか思ってる輩は結構多いみたいだよ」
1416『折紙』
「ランが二つ名の話題を嫌がるのって、可愛いのがイヤなだけじゃなかったのね」
「いや、それは純粋に姫という単語への拒絶心から嫌がってる」
「お疲れね」
「本当に、出来る事なら何としてでも撤回させたいんだけどね」
「そうしない理由は?」
「僕の二つ名がソレだって知れ渡るだけで終わりそうだから」
1417『君が護ってくれた』
「兄さんがそれやって、バカ兄エピソードを増やしただけで終わってたわね」
「二つ名に妹の一字を入れろってやつ?」
「ランも知ってたの?」
「現場に居たからね」
「止めてよ!」
「その頃には妹が絡むと会話が成立しなくなるって知ってたけど、妹の名前を出さないように説得した僕は頑張った方だと思う」
1418『この地平線の向こうへ』
「ラン大好き!」
「はいはい」
「もう一生着いてく! マイメシア!」
「はいはい、分かったから落ち着いて」
「ランが止めてくれてなかったら、預かり知らぬところであたしの名前がものすごくイヤな売れ方をしていたかと思うとほんとうにありがとうございます」
「もしもを想定して恐くなった?」
「うん」
1419『過去よりお前の方が大切だ』
「見ず知らずのヒトにあの暴走の原因だと誤解されたら、知らない相手なんだから言い訳もできないじゃない」
「うん、分かってる。僕がマオの立場だったら、そんな兄とは縁を切るね」
「あたしは切らないわよ」
「マオはシオンを大好きだもんね」
「そう言われると否定したくなるわ」
「でもしないんだよね」
1420『来訪者』
「あたしと兄さんのことは良いの! 今はあたし達の話!」
「なんかあったっけ?」
「暫定はやめましょうって話よ」
「婚約すっ飛ばして結婚してくれるの?」
「それはご挨拶してからでしょ!」
「……え、良いの!?」
「なにがよ」
「僕と結婚してくれるの?」
「あたし、イヤって答えたことないはずだけど」
1421『来るか分からない明日じゃなくて、今すぐ君に触れさせて』
「結婚するって言ってくれた事も無いよ」
「……が、がんばる」
「僕との結婚は、頑張らないと無理なんだ?」
「待ってヒドイ誤解がそこにあるから全力で待って」
「冗談だよ」
「からかったの?」
「ご免」
「こっちはいますぐ踵を返して部屋を飛び出したいのを我慢してるんだから、からかわないで」
「ご免」
1422『おはよう』
「こういう話するときのランって、なんかいじわるよね」
「そう?」
「そうよ。ますます話しにくくなるじゃない」
「ご免」
「さっきからそればっかり」
「ご」
「ご?」
「じゃなくて、マオが可愛いのがいけないよね」
「……ランのかわいいの基準ってちょっと変よね」
「そうかな」
「話がちっとも進まないし」
1423『掌に残るもの』
「あ、そうだね。そろそろ進めようか」
「やっぱりわざとだったのね」
「とにかく話題を逸らしまくってたら、そのうち本題忘れてくれないかなぁと思って」
「なんでよ」
「振られたくなくて」
「……剣を?」
「ここでボケは要らないと言いたいところだけど、マオだから本気で言ってるかも知れないのがなぁ」
1424『君がそこにいた』
「剣以外に何を振れって言うのよ」
「うん、ここは前向きに受け取っておくね」
「何の話?」
「僕とマオの話」
「そうだったわ。これ以上横道に逸れてたら朝になっちゃいそうだから、もう本題以外はスルーしていく覚悟で挑みましょう」
「臨むんじゃないんだ」
「はい脇道! ダメ! それない!」
「はーい」
1425『乱れた髪』
「ところで本題って?」
「本題が何かも分からないのに、話を逸らしてたの?」
「今の関係が良くないとか言うから、婚約を無かった事にされちゃうのかなって」
「それでも良いけど」
「よし、怖い話しよう怪談話」
「逸らし方が雑すぎない!?」
「だって嫌だ」
「それは分かったから、話はちゃんと聞いて!」
1426『たまには逆の立場で』
「直球で訊くから、ランも茶化さずに答えてね」
「分かった」
「ランはあたしと結婚したいの?」
「うん」
「……それはイエスなの、それとも話を聞いてないの?」
「めっちゃイエスです」
「そ、そう」
「そうです。してくれるの?」
「へ?」
「僕と結婚、してくれるの?」
「お、お付き合いからお願いします」
1427『冷たい手』
「恋人になってくれるってこと!?」
「そうだけど、そうなんだけどちょっと待って!」
「はい」
「その、恋人らしいこととか、あたし絶対全然まったくちっともできる自信がないんだけど……ほんとにあたしで良いの?」
「マオが好い!」
「そ、そう……ありがと」
「恋人らしい事は僕がやるから安心して!」
1428『刃交わる』
「恋人らしいことって……?」
「そうだなあ、手を繋いで歩く」
「今までもしてたけど」
「マオが可愛い言動した時に、抱きしめても怒られない」
「怒りはしないけど、恥ずかしさから何をするか自分でも分からないから、気を付けてね」
「うん!」
「何か嬉しそうね?」
「抱きしめて良いって許可くれたから」
1429『もう引き返せない』
「成程これが、恥ずかしさからくるマオにも分からない行動」
「ご、ごめんねなんか気付いたら剣抜いてて。ケガとか大丈夫!?」
「ん、大丈夫。それに前々から抱き着いても怒られないだろうって自信はあったけど自粛してたのを、今後は自重しないってだけの話で……ご免マオ冗談だから二本目は止めて!」
1430『たまには抱き締めて欲しいの』
「ほら、マオって男に抱き着かれ慣れてるから」
「何の話!?」
「あ、ご免。言い方が悪かった。シオンの事だよ」
「ああ」
「だから下手なスキンシップはシオンの同類と思われるかもって自重してたんだけど、今のマオはちゃんと僕を意識してくれるから、挙動不審すら嬉しい」
「あたしは心臓がもたないわ」
1431『過去よりお前の方が大切だ』
「でも凄いね、マオは」
「何が?」
「今日一日で慣れてみせるって言ってたじゃない。有言実行だね」
「正直に言うとね」
「ん?」
「お付き合いとか結婚とか、今までの関係がなくなっちゃいそうでちょっとこわかったの。でも、ランとお祭り回ってて、今までがなくなるわけじゃないんだなって分かったから」
1432『言霊』
「言ってくれれば良かったのに」
「言葉にすると本当になるって言うじゃない」
「誰かに言うと夢は叶わないって説もあるよ?」
「それは意図が真逆じゃないの?」
「言葉にすると実現しないって意味では一緒だよ。要はどちらを信じるか」
「都合の良い方を選べって聞こえるんだけど」
「そう言ってるからね」
1433『折紙』
「ところで、今後も部屋は別々なの?」
「直球で来たね」
「だって部屋代がもったいないじゃない」
「うーん……やっぱり分けておこう」
「なんで?」
「結婚かマオのご両親に挨拶するまでは、節度あるお付き合いをしておこうって事だよ」
「ランのご両親は?」
「それはいつでも良いよ。捕まえるの面倒だし」
1434『護るということは』
「ランのご両親はふらふらしてるタイプの鳳凰種なんだっけ?」
「そう。しかも目撃情報が極端に少ない」
「鳳凰種ってそうそう会う種族じゃないのよね、確か。最近のあたし達の遭遇率が変なんだって、ラン言ってたもの」
「輪をかけて人目に付かないのがうちの親だよ。なにしろ遺跡保護が生き甲斐だから」
1435『あなたでよかった』
「いせき、ほご?」
「そう。未踏の遺跡を自力で見付けて、朽ちて風化して無くなったりしないように、色々と」
「いろいろ」
「固定化とか人目に付かせるとか、手段は特に決まってないかな、ってマオどうしたの?」
「うちのおや、ぶっこわしたことある」
「理由も無く粉砕したとかじゃなければ大丈夫だよ」
1436『暦を辿る』
「実家近くのファチュエ遺跡の話だけど、あそこ本来はもっと大規模な遺跡だったそうなの。でも規模が大きいと魔物も捌ききれない数が出てくるから、自分達で捌ける規模まで遺跡を縮小したって……これ破壊行為よね?」
「それは命がかかってるから仕方がないし、多分うちの親も承知してるから安心して」
1437『あなたでよかった』
「承知してる?」
「そう。ファチュエ遺跡がダンジョン化した遺跡だって話、覚えてる?」
「うん。ランのご両親が証明したのよね?」
「そう。ファチュエ遺跡がダンジョンと呼ばれていた頃に潜った調査チームに、軍師と吉祥も駆り出されてた筈だから」
「調査に父さんって、自殺行為よ!?」
「そこなの?」
1438『陽だまり』
「うちの父さん、三歩歩けば災害が来るとまで言われたトラブル吸引体質だけど」
「軍師が居るとチームの生還率が跳ね上がるから、それを期待したらしいよ。色々対策も練ってたみたいで、その一環で吉祥も呼んだって。軍師のバッドラックを相殺してくれないかなって」
「残念、父さんの体質が勝つのよね」
1439『昼寝』
「ダンジョンの立入調査がしたいから、しぶとく生き残りそうな面子を集めて欲しいって依頼を出したら、ならこのヒトだろうって真っ先に名前が挙げられたんだって」
「同時に、依頼主にも戦場だろうとドラゴンの巣の真下だろうとしっかり休息を取れるくらいの図太さが求められる人材でもあるらしいけど」
1440『この地平線の向こうへ』
「依頼人は鳳凰種だから」
「ラン、鳳凰種だからって言葉は免罪符にはならないのよ?」
「鳳凰種って言葉を免罪符にしてるなって感じる時点で、マオも結構染まってきてるよ」
「……変人に?」
「……否定はしない」
「否定してよ!」
「僕、マオに嘘は吐きたくないんだ」
「その誠実さが今はつらいんだけど」




