1291-1320
1291『蛍火』
「でも、こにゃっくだけでこんなに躓いてるのよ? これじゃ、死ぬまで血痕なんてできないわよ」
「何か物騒な誤変換してるのは置いといて。僕は別にそれでも良いけど……待って何でそんな消えそうな顔してるの待って」
「だって、もういらないって」
「要らないって、まさかマオの事? 冗談じゃない!」
1292『血を辿って』
「ちょっ、マオ!? 何で更に落ち込むの!?」
「ほんきで、いらない」
「まさか、冗談じゃないをそっちに取っちゃったの!? いやご免、僕の言い方が悪かった、お願いだから泣かないで!?」
「泣いてないわよ! 泣いてないけど、プロポーズされた翌日に結婚しなくていいとか言われたらヘコむわよ!」
1293『風の音』
「えーと、ほんとにご免なさい」
「謝るってことは、図星ってことよね。踏ん切りつけるためにも泣いとくべきかしら」
「今のは誤解させるような言い方してご免ねって事だよ! 僕としては結婚は二人で居る為に一番確実な形体ってだけで、マオが傍に居てくれるならそこまで拘るものじゃないだけなんだよ」
1294『この繋いだ手の先に』
「ねえ、ラン」
「はい何でしょうかマオさん」
「何で敬語なのよ」
「何か、つい」
「まあ良いわ。あのね、あたし今ちょっとした可能性に気付いちゃったんだけど、まさかそんなわけないって思う自分も居るのね」
「えーと?」
「単刀直入に訊くわ。鳳凰種って結婚するの? ううん、結婚って概念はあるの?」
1295『黄昏時に掴んだもの』
「知ってるよ。だからこそ僕はマオにプロポーズしたんだし」
「知ってる、ね。ますます怪しいわ」
「何が?」
「だって、ランの結婚観てどこかズレてるもの」
「え、そう?」
「プロポーズの翌日に結婚しなくて良いなんて言うヒトは、普通とは言わないわ」
「えっと、マオもしかして怒ってる?」
「いいえ?」
1296『猫の導き』
「あたしにとっての結婚と、ランにとっての結婚の意味が違うかもしれないから、早めにはっきりさせておこうと思って」
「マオ風に言うと痴話ってた鳳凰種夫婦は?」
「その二人、アルゴスで結婚したの?」
「いや、当時住んでた街だね。確か、二人だけの生活に飽きたらアルゴス行きを考えるとか言ってた」
1297『嘘の色』
「アルゴスにずっと住んでる鳳凰種は居ないの?」
「住んでるヒトは勿論居るけど、一度も外に出てないってヒトは居ないんじゃないかな」
「引きこもり気質の鳳凰種とか居ないの?」
「要するに、自分の家から出てこないタイプって事だよね。それだと、そもそも僕は存在に気付いてない可能性があるかなあ」
1298『冷たい手』
「すれ違ってるわ」
「何が?」
「今の会話よ。初めは『アルゴスの外に出てないヒト』について答えてくれてるのに、その後は『自分の家から出てこないヒト』について言ってるじゃない」
「あれ?」
「もう良いわ」
「マオ?」
「ランと会話が成立しないこと自体が、あたしとランの間にズレがある証拠だもの」
1299『空に手を伸ばした』
「マオ、怒ってる?」
「怒ってないわよ」
「あのね、これだけは言っておきたいんだけど」
「何?」
「僕は結婚はしなくても良いけど、マオが僕以外と結婚するのは嫌だからね」
「……しないわよ! ていうかそれをもっと早く言ってよ!」
「マオ、怒った?」
「怒ってないわよ!」
「でも」
「照れてるのよ!」
1300『物好き』
「……照れてるんだ」
「悪い!?」
「いや、全然。そういう照れ方もするんだね」
「悪い!?」
「ううん、ちっとも。ただ」
「ただ?」
「そんなマオも可愛いなあって」
「きゃわっ」
「マオ?」
「……」
「噛んだの?」
「……ぁぅ」
「かなり痛そうだけど、大丈夫?」
「だいじょ、ぶ」
「診ようか?」
「へいき」
1301『君を探す』
「ランのばか」
「唐突に」
「せっかくちょっといつもの感じを掴めてきてたのに、そんなの言われたらもうムリじゃないばか」
「えーと、ご免?」
「分かってないのに謝るのはもっとばか」
「はい」
「ばーか」
「マオ」
「……なによ」
「めっちゃ可愛い」
「っ、ばかぁー!」
「あっ、マオ! ……行っちゃった」
1302『簪』
「しまったわ、今日はお祭りだって知ってたはずなのに……どこよ、ここ」
「もしもし」
「これで迷って宿屋に戻れなかったらマズいわ」
「あのー」
「ランに探されたりしたら、見付かった時に呆れ果てながらお説教されちゃうじゃない」
「猫族のお嬢さん!」
「何よさっきから」
「貴方、簪を知りませんか?」
1303『素直じゃないよね』
「あたしはここの住人じゃないから知らないわ。装飾品通りとか探したら? そんな通りあるのか知らないけど」
「いえいえ、商品を探しているわけではないんです」
「あたしは忙しいの、他をあたって」
「持ってませんか、簪」
「くどい男は嫌われるわよ」
「ヒトの婚約者に何の用かな?」
「ラ、こにゃ!?」
1304『黄昏時に掴んだもの』
「おや、貴方は」
「僕の事はどうでもいい。ヒトの婚約者にちょっかいかけるなんて、何されても自業自得だよ?」
「いえ、こちらの勘違いだったようです。鳳凰種がそれだけ近しいのなら、猫族から我々の気配がするのも頷ける」
「我々?」
「他人の婚約者に手を出す奴と一緒にされたくない」
「誤解ですよ」
1305『茜色』
「あなた、鳳凰種なの?」
「そうですね、今は」
「その前は?」
「おや。そこでひとつ飛ばして訊ねてくるとは、やりますね」
「ありがとう。お答えは?」
「さてね」
「精霊」
「……はい?」
「このお祭りは精霊に感謝してるんだって」
「おや、変ですね。私の訊いたところでは」
「あなた、元精霊じゃない?」
1306『例えどこにいたって』
「……精霊とは、やめられるものではないでしょう?」
「さっきからちょっと喋り出すのにタイムラグがあるじゃない。心当たりがあるんじゃないの?」
「貴方は何が知りたいんです?」
「それはこっちのセリフだわ。簪がどうこうって絡んで来たのは、そっちが先でしょ?」
「えーと、口を挟んで良いかな?」
1307『隠れ鬼』
「どうぞ。しかし伴侶の手綱はきちんと持つことをお勧めするよ」
「あたしは馬じゃないし、ランとはまだ結婚してないわよ」
「いずれはするのでしょう?」
「それはっ」
「はいはい、彼女は照れ屋なんです。あまりからかわないでください、コノリさん」
「……何だって?」
「ハイタカさんはお元気ですか?」
1308『影踏み』
「君とは初めて会った筈だけれど?」
「あ、当たりました?」
「そんなピンポイントな情報を当て推量だと信じるとでも?」
「そんなに警戒しないでくださいよ」
「無茶を言う」
「分かりました?」
「……成程、分かった。それについては謝罪しよう」
「分かってくれたのなら良いです」
「ちょっと、何の話?」
1309『長い階段』
「今あきらかにあたしを置いてけぼりにしてたでしょ。男ふたりでやらしい」
「……マオ、それもお母さん直伝?」
「うん。男はすぐ女を除け者にするから、そうしたら言ってやんなさいって」
「何者なんですか貴方の母君は」
「むしろあなたが何者よ。誰よコノリさんて」
「ユンのお父さんだよ」
「……は?」
1310『水溜まりを飛び越えた』
「あれ、マオも気付いてたんじゃないの?」
「気付いていないのにあの発言ですか、興味深いお嬢さんですね」
「世界は広いわよね?」
「え、うん」
「その広い世界でピンポイントに知り合いのお父さまから声をかけられるだなんて可能性、考慮に入れる方がどうかしてると思わない!?」
「意外と狭いんだね」
1311『見せたくないモノ』
「そういえば、ちょっと訊いてみたいことがあるんですけど、良いかしら」
「何でしょう」
「空中散歩ってできます?」
「できなくはないですね」
「空中散歩の途中に、通りすがりの宿屋の窓に張り付くのってどう思います?」
「もう少し詳しい情報が欲しい話ですね」
「マオ、このヒトじゃないから安心して」
1312『君のことは全部知りたい』
「なるほど、災難でしたね」
「まだ何も説明してないのに労られた!」
「そりゃあ、今の僕らの会話を聞いたら推測できるでしょ」
「なるほど、そういうヒトなのね」
「マオ?」
「なんでもない。ところでほんとにユンちゃ、じゃなかったユィン・チィさんのお父さまなんですか?」
「ふふ、ユンちゃんですか」
1313『私は貴方の目印』
「どうなんですか?」
「ユンちゃん、というのは貴方が呼び始めたものですか?」
「……ラン、いきましょ」
「マオ?」
「察して会話するのを前提としてるヒトにずばり訊ねて話を逸らされたら、こちらを利用する気だと思った方がいいそうよ」
「成程、分かった行こう」
「え、あの」
「そんな訳で失礼します」
1314『例えどこにいたって』
「ところでマオ、どこに行くの?」
「このままお祭り見て戻りましょ。運が良ければ窓の外のヒトも諦めて帰ってるかも知れないし」
「あれ何なんだろうね、本当」
「ちょっと待ってくださいってば!」
「何よ」
「友人の親にその仕打ちで良いんですか!?」
「友人の親はただの他人であって友人じゃないもの」
1315『癒してくれる』
「分かった、分かりましたよ。我が名はコノリ、ハイタカは我が妻でユィン・チィは我が息子です! だからちょっとお話ししましょう!」
「言えるんなら最初から言えば良かったのに」
「だって我が息子ながらアレにちゃん付けするようなお嬢さんに初めてお会いしたものだから、テンション上がっちゃって」
1316『純白』
「……テンション上がってたんですか?」
「とても」
「マオ、分かった?」
「ちっとも」
「まあ、ユンの親だしね」
「表面上の変化は期待しないほうが良いかもね」
「あの、そういう会話は本人に聞こえないように小声などでするものではないかなーとか思うんですけど」
「あ、その言い回しユンちゃんっぽい」
1317『君さえいればなんて、そんなの嘘』
「ところでユィン・チィさんのお父さま」
「お嬢さんはユンちゃんと呼んでいるんですよね?」
「ユンちゃんの方が良いですか?」
「そうですね、楽しいので是非お願いします」
「はあ」
「それで、何でしょうか」
「あ、そうだった。ユンちゃんのお母さまは一緒じゃないんですか?」
「諸事情で別行動中です」
1318『湖の底』
「ユンちゃんのお母さまはお留守番ですか?」
「女子会だそうです。ところでお嬢さん」
「はい」
「ユンちゃんのお父さま、ではなく縮めて好きに呼んでください」
「じゃあ、コノリさん」
「できれば楽しいものが良いです、我が息子のような」
「……コノさんで勘弁してください」
「ふむ、まあ良いでしょう」
1319『夜明け』
「ところでコノリさん」
「君は」
「あ、僕は貴方のご子息の名前が二回に一回しか正確に言えなくて仕方なく縮めているだけなので、きちんと発音できる貴方のお名前はきちんとお呼びしますね、コノリさん」
「そうですか、分かりました」
「ランが必死」
「マオ、しー」
「それで?」
「これからのご予定は?」
1320『血を辿って』
「強いて言うなら女子会のお開き待ちです」
「この街には居るんですね」
「いえ、少し離れた所に湖があるの知ってます?」
「ああ、はい。精霊が好んでいるとかで立ち入り禁止の、はず……まさか」
「そうです」
「あー、なんかすっごい納得しました。ユンの性格はご母堂譲りなんですね」
「否定はしません」




