1231-1260
1231『どうかその手を離さないで』
「そういえば、精霊狩りの詳しい歴史も教えてもらうつもりだったんだけど」
「今話そうか?」
「開始三分で夢の中に居る予感しかしないから、それならちゃんと寝るべきよね。そろそろ自分の部屋に戻るわ」
「あー、うん」
「何か言いたげね?」
「マオの成長を噛み締めてるだけ」
「あたしの成長?」
「そう」
1232『ただいまを言える場所』
「お金が勿体無いからって同室取ろうとした子が、別室取った上にちゃんと部屋に戻って眠ろうとしている事に、保護者的な気分が、こう」
「へえ。ランはあたしの親になりたいの」
「はい?」
「じゃあいつか貴方以外の誰かにあたしは嫁ぐのね」
「いやそういう意図は無」
「おやすみ」
「マオさん待って!?」
1233『君のための命』
「待って本当に待って」
「何よ、眠いんだけど」
「うん睡眠妨害して本当に申し訳ないんだけどそれはちょっと看過できないから言い訳させてください」
「何の言いわけ?」
「僕はマオの親になりたいわけじゃなくてね」
「あたしの親は二枠しかないし、もうとっくに埋まってるわよ」
「えぇと?」
「おやすみ」
1234『猫の導き』
「あ、そうだ。ラン」
「今度は何……!?」
「そんなに警戒しなくても、別に何もしないわよ」
「さっきから僕を振り回す発言しかしてないマオさんがそういう事を言いますか」
「そうかしら」
「そうですよ」
「そんなつもりはないんだけど……まあ良いわ。あのね」
「うん」
「朝ごはん一緒に食べてくれる?」
1235『これは、お告げ?』
「え、うん。ていうかいつも一緒に食べてたよね」
「そうだけど。何となく約束が欲しくなって」
「マオ」
「何?」
「何か僕に言ってない事ない?」
「特にないわ」
「隠し事してないかって意味じゃないからね?」
「じゃあ、どういう意味なの?」
「何か、言いたいけど言えてない事があるのかなって気がして」
1236『爪先』
「言いたいけど言えてないなら、それは今はまだ言えないってことじゃないかしら」
「それじゃあ、いつかは僕に言ってくれるのかな」
「あたし、言いたいことがあるなんて言ってないけど」
「今までマオは、僕が見当違いの事を言ったら最初に否定していたし、相手を見ないで会話なんて今までなかったよ?」
1237『来訪者』
「だって言ったら怒られそうっていうか、愛想尽かされたらイヤだもの」
「尽かさないよ」
「もし尽かしたら?」
「尽かさないってば」
「これよ」
「ん?」
「ランに言ったら否定してくれるだろうなって分かるんだけど、そのランの言葉をあたしは信じられそうにないの」
「うーん」
「お取り込み中失礼します」
1238『首に咲く花』
「この宿の者にございます、今よろしいでしょうか」
「明日にしてくれるかな」
「お楽しみ中申し訳ございません」
「違います」
「お楽しみ?」
「マオは気にしなくて良いから」
「でも」
「良いから」
「分かったわ」
「で、何の用?」
「お客様方を訪ねてみえられた方がいらっしゃいます。どうなさいますか?」
1239『一緒に寝よう。…そういう意味じゃなくてね。』
「明日出直せと伝えてください」
「ですが」
「それでは、僕らはもう休みますので」
「……かしこまりました。お休みなさいませ」
「……行ったかな」
「ラン、良いの?」
「良いの。今のヒトが本当に従業員なのかも怪しいしね」
「そうなの?」
「そうだよ。それと」
「何?」
「今夜はこの部屋で寝てくれる?」
1240『たまには抱き締めて欲しいの』
「一緒に寝るの?」
「そうじゃなくて今のヒト! 言い方は悪いけど、辺鄙な集落で働いてるヒトの言葉遣いじゃなかったから」
「そういえばそうね。この規模の宿なら大体家族経営だもの」
「そう。受付のヒトはせいぜい丁寧語くらいしか使ってなかったから、部屋を分けるの止めておいた方が良いかなって」
1241『日が昇る』
「それは分かったんだけど」
「マオの荷物もここにあるから、隣の部屋に行く必要はない筈だけど」
「そうじゃなくて」
「ん?」
「あの、ね」
「うん」
「その、今日の話が頭をよぎっちゃって、眠れそうにないんだけど」
「今日の話って、婚約?」
「そう」
「正直言うと僕も眠れそうにないから、多分徹夜かな」
1242『肩越しに見えた景色』
「ランも? なんで眠れないの?」
「いや、まだまだマオに言うつもりなんてなかったから、寝て起きたら告白したとか夢だったりするんじゃないか、って考えがどうにも頭から消えなくて」
「夢にしたいってこと?」
「まさか、逆だよ。無かった事になったら、ちょっと立ち直るのに時間がかかりそうだから」
1243『意地悪』
「じゃあ、二人で起きてる?」
「揃って寝不足は良くないかなあ」
「でもランは眠れそうにないんでしょ? あたしと同じで」
「それはそうだけど……ねえ、マオ?」
「何、ラン」
「どうせ揃って眠れないなら、眠れるような事でもする?」
「ランの術には頼らないわよ」
「そうじゃないけど……それで良いや」
1244『袂の隙間から覗く肌』
「何よ、気になる反応ね?」
「ん、気にしない……マオ?」
「何?」
「その腕、どうしたの。何か赤いけど」
「え……ホントだわ」
「痛くない?」
「全然。言われるまで気付いてなかったくらいだもの」
「痛くないなら、痣って訳でもないのか」
「どこかでぶつけたのかしら」
「それだと痛いんじゃないかな?」
1245『紫陽花の木で雨宿り』
「いつ作ったのかちっとも分からないし全く痛くないけど、何だかやたらと派手な痣をしょっちゅう作ってるヒトって居るわよね」
「え、そうなの?」
「あら、ランの周りには居なかったのね」
「いや、僕の周囲って鳳凰種かそれと同レベルの変態じみたスキル持った何者かくらいだから」
「とんでもないわね」
1246『この手をどけて』
「待って」
「良いよ?」
「間違えたわ。いえ別に間違えてはいないんだけど」
「僕が思うに、マオはとりあえず落ち着くべきだと思うよ」
「そうかしら」
「そうそう、はい深呼吸してー吸ってー吐いてーまた吐いてー」
「もう平気」
「そう? で、何?」
「それよ!」
「どれ?」
「あたしは変態じゃないわよ!」
1247『影踏み』
「え、うん。知ってるよ?」
「つまり、あたしはあなたの側にはいない、と?」
「待って、何でそうなったの」
「だって今言ったじゃない、自分の近くには鳳凰種か変態しかいないって」
「変態じみたスキル持った何者か、ね」
「あたしは変態じみてもいないわよ」
「うん、分かったから話を聞いてくれるかな」
1248『影踏み』
「あたしが変体じゃないって認めてくれたら聞いてあげる」
「ん……?」
「なによ」
「いや、今なんかね」
「あたしは変体しないわよ」
「やっぱり!」
「なにがよ」
「あー、よく聞いたらちょっと呂律が怪しくなってる」
「ロレックス?」
「何それっていうかもうほとんど別物だよね。ねぇマオ、もう休もうか」
1249『迷路の中にいるみたい』
「でも」
「良いから良いから、ね?」
「ランも練る?」
「練りはしないけどちゃんと休むから、マオは先に寝てて」
「ランは練らないの?」
「うん、もはや不要な文字が増えてるね。須く寝ようねー、ベッドはあっちだよー」
「むぅ」
「はいはい、拗ねない」
「ランが」
「ん?」
「ランがネルなら」
1250『照れてるくらい分かるんだけど』
「僕はネルじゃなくてセイランだからね」
「しってるわよ」
「そうだね、はいお休み」
「らん」
「何、マオ」
「らんもちゃんと練る?」
「練りはしないけど……今日のマオは粘るね、いつもならとっくに折れて寝てるのに」
「だって」
「ん?」
「らんはどこでねるの」
「んん?」
「ベッドはひとつしかないのよ」
1251『命より重い、なにか』
「あたしと一緒はいやでしょ」
「なぜそうなった」
「だって、あたしと同じ部屋ってだけでもイヤがってるのに、同じベッドで寝るなんてむりでしょ」
「そう解釈してたかぁー」
「らん」
「それについてはマオの誤解だから。でもその誤解を解くのはしっかり睡眠とったあとにしようね、はいお休み!」
「むぅ」
1252『文使い』
「ランなんで床で座って寝てるの!?」
「ん……おはよう、マオ」
「おはよう、じゃなくて!」
「ねえ、マオ」
「何よラン!」
「僕はマオが好きだよ」
「すっ!?」
「マオ?」
「なな何でもないっ」
「あー、一晩寝て頭がクリアになったから、そっちの動揺が出てきちゃったかぁ……もういっそ筆談でもする?」
1253『君を忘れる夢を見た』
「文字書けない」
「依頼の手続き、いつもやってたよね?」
「そっちじゃなくて、文字にするとか」
「喋るより字に起こす方が恥ずかしい?」
「それ!」
「でもずっとこのままだと、ちょっと色々困るよね」
「ごめんなさ、」
「いや僕は良いんだけど、マオが困るでしょ。やっぱり一度無かった事に」
「イヤ!」
1254『君がくれた居場所』
「食い気味に拒否してくれるのは嬉しいんだけど、そのままだと仕事にも支障が出かねないよ?」
「うっ」
「それは困るでしょ?」
「……なれる」
「マオ?」
「一日ちょうだい、その間に何とか慣れるから!」
「できるの?」
「できるできないじゃないの、やるの! ランの傍にあたしは居るの!」
「あ、はい」
1255『君を忘れる夢を見た』
「今日からアルゴスに向かうつもりだったけど、どうする?」
「いかない、の?」
「いや、行くよ。行くけど、マオが言ったんでしょ、今日一日欲しいって。だから移動は明日からにして、今日はここの観光でも良いよって事」
「かんこう?」
「確かに、普段なら何も無い町だけどね。今日は祭りだよ」
「あ!」
1256『彼方からの呼び声』
「……ん?」
「マオ、どうしたの?」
「なにか、聞こえる?」
「何か?」
「そう、何か……外、というか空?」
「つまり外だね。祭りの催しの一環で何かやってるのかも」
「でも、これあたし達に向けられてるような」
「とりあえず、窓を開けてみよう。マオ、少し下がって」
「分かった」
「開けるよ」
「うん」
1257『空中散歩』
「やあ、こんにちは」
ピシャリ
「ラン?」
「マオ、僕疲れてるのかも知れない」
「えぇと、なんか窓をノックされてるけど」
「幻聴かあ、やっぱり疲れてるんだね」
もしもーし
「あの、ラン」
「ねえ、マオ。もう今日は一日部屋で休んでようか」
「あたしは別に良いけど……でも、それだと相手が粘り放題よ?」
1258『簪』
「そうかあ、それは嫌だなあ」
「あたしが話そっか?」
「マオに変人の相手なんかさせたくない」
「でもほら、うちの家族わりと変なヒトばっかりだから」
「そっか、そういえばシオンは変人枠だったね。マオが絡んだ場合に限られるけど」
「つまりあたしは変な兄さんしか相手にしたことないのよ」
「お疲れ」
1259『暦を辿る』
「ねえ、ラン」
「何、マオ」
「ちょっと、ううん、かなり多大な好奇心からの質問なんだけど」
「何訊かれるのかちょっとこわいけど、何?」
「まともな兄さんって、ほんとにいるの?」
「いるよ、ちょっとだけ」
「ちょっとなの?」
「何でもかんでもマオに結び付けちゃうからね」
「うちの兄がごめんなさい」
1260『悠かな道』
「実力があって見苦しくない若い男って事で、結構騒がれてたよ、最初だけ」
「最初だけ?」
「そう。幻種なのに話しかけたらにこやかに対応してくれるって、モテてたんだよ、最初だけ」
「最初だけ」
「うん。突発的に妹への愛を語り倒す話の通じないシスコン属性が発現するから、すぐに観賞用にされてた」




