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小猫と親鳥  作者: かすみづき
LONG 手紙から始まる話
42/59

1171-1194

1171『ただいまを言える場所』

「近々筋肉痛になる気がするわ」

「かもね。お風呂に入ったら筋肉揉みほぐしておきなよ。それで結構違うから」

「でも、急ぐんでしょ?」

「大丈夫大丈夫。マオもともとそんなに長風呂しないでしょ。その間に朝食作っとくから、食べたら出よう」

「分かった。あ、ラン」

「何?」

「おはよう」

「ん、おはよ」




1172『物好き』

「どうするの?」

「どうって?」

「手紙はもう届けたのよね。達成手続きしに直行で戻る?」

「正直に言うと、手紙の返事を持って帰れたら最良だと思うんだよ」

「まあ、そうね。でも、そんなにすぐ書いてくれるものなの?」

「一応、書きあがった時に僕らがまだ集落に居たら運んでも良い、とは伝えてある」




1173『暦を辿る』

「手紙の受取人さんの家は訊いてないの?」

「訊いてはいないけど、知ってる」

「つまり、家に押し掛けたのね」

「たまたま通りかかったんだよ」

「たまたま何の関係も無い住人の家を尋ねるの?」

「本当だってば。たまたま聞き込みに行った先で通りすがりに遭遇して、色々あって探し人だと判明したんだよ」




1174『どんな手段を使っても』

「それじゃあ、一度受取人の家を訪ねてみる?」

「良いけど、急ぐんじゃないの?」

「昨日を乗り切って、今はレディも居ないからね。住人と約束じみた会話をしておきながら一言も無しで立ち去ったら、逆に勘繰られるんじゃないかなぁとも思い始めてる」

「そっか。事態は変わってるのね」

「そうなんだよ」




1175『白河夜船』

「マオ、マオ!」

「わひゃっ!?」

「お待たせ」

「あれ、あたし寝てた?」

「寝てたね。ダメだよ、往来で寝るとか不用心な事したら」

「ご、こめんなさい。寝るつもりは全然ちっともなかったんだけど」

「まあ、人通りの多い道の脇のベンチだったのは救いかな。人目の少ない路地とかで寝落ちはしないでね」




1176『手放せないもの』

「普通は人通りの多いところで寝るんじゃないってお説教になるんじゃないの?」

「人目が全くなかったら強盗誘拐し放題じゃないか」

「へっ」

「え、何でそんなに意外そうなの?」

「ね、ねえラン」

「何、マオ」

「もしかしてあたし、心配されてる?」

「もしかしてじゃなく心配してるよ、僕は」

「ありがと」




1177『この繋いだ手の先に』

「それで、手紙の返事はどうだったの?」

「ああ、ばっちり」

「もう書いてたの?」

「どうも、相当気の長い文通みたいだよ。ギルド支部のある規模の街まで、誰かが出る時に依頼してもらうつもりだったみたい」

「え、ここのヒトそんな頻繁に外部と往来してるの? 失礼は承知で言うけど、すごく意外だわ」




1178『俺のお前を傷つけるのは例えお前でも許さない』

「でもそれなら、この森をしょっちゅう通り抜けてるって事よね? 迷いの術でもかかってるんじゃないかってくらい面倒だったのに……どうやってるのかしら」

「迷いの術をかけてるなら、住人しか知らない正規のルートがあるんじゃないかな。通行許可証でも良いけど、奪われたら厄介だから」

「なるほど」




1179『君のことは全部知りたい』

「気の長い文通だって、さっき言ったよね」

「言ったわね」

「僕達が運んできた手紙なんだけどさ」

「うん」

「あれ、五年前に出した手紙の返信なんだって」

「……確かに気が長いわね」

「だから、こんなに速く返事が届いたらさぞ驚くだろうなと思って、頑張って書いたからどうぞよろしくって託されたんだ」




1180『俺のお前を傷つけるのは例えお前でも許さない』

「そういえば、死なずの森もどきは今どうなってるのかしら」

「レディとシオンだけが原因なら、今はただの鬱蒼とした森の筈だけど」

「あ!」

「マオ?」

「そういえば宿で留守番してた時にね、ユンちゃんが見かけたって言ってたわ」

「何を?」

「鳳凰種」

「……えぇー、今言う?」

「今思い出したんだもの」




1181『肩越しに見えた景色』

「どんなヒトだった?」

「ユンちゃんも知らない顔だとしか聞いてないの」

「そっか」

「ごめんなさい」

「大丈夫、多分平気だから」

「でも」

「機会があったらユンに訊いてみるけど、多分これ書いたヒトじゃないかな」

「手紙の受取人さん? 鳳凰種だったの?」

「そう。それも、種族特性が凄く薄いタイプ」





1182『物好き』

「じゃあどうして鳳凰種だって分かったの?」

「本人が言ったんだよ、こんな僻地で同胞と会うとは思わなかったって」

「そのヒトはどうしてここに住んでるのかしら。自分で僻地って言うなら、不便だとは思ってるんでしょ?」

「その不便が良いんじゃないかな。鳳凰種って大抵の事はどうとでもできるから」




1183『煙に巻いて』

「そうなのよね。例え野宿でも、ちょっといいお宿に泊まってるくらいの快適環境とか、さくっと生み出しそうで困るわ」

「できるよ?」

「やるなら別行動ね」

「分かってるよ」

「あたしがランなしじゃ何も出来なくなったらどうしてくれるの」

「責任を取るよ」

「なぁに、それ。自立支援でもしてくれるの?」




1184『来るか分からない明日じゃなくて、今すぐ君に触れさせて』

「そうじゃなくて」

「そうね、そもそも自立したままでいれば良いだけだもの」

「そうでもなくて。あのね、マオ」

「うん、何?」

「えーと」

「ラン?」

「……とりあえず、歩きながら話そうか。ていうか集落出たら話すよ」

「良いけど」

「衆人環視の中でする話じゃないから」

「そうなの?」

「そうなんです」




1185『紫陽花の木で雨宿り』

「あ、雨」

「走ろう、森の中なら少しは雨避けになるだろうし」

「入って平気かしら」

「多分大丈夫だと思うけど……そうだね、死なずの森のつもりで動いてみよう」

「絶対雨に降られてた方がマシだと思う」

「雨避け張ろうか? こらこらマオ、冗談だから。無言で距離を取らないで、なんか悲しくなるから」




1186『虹の麓』

「拍子抜けするほど何もなかったわね」

「そうだね」

「もう森を抜けちゃったなんて、行きの苦労は何だったのかしらね」

「そうだね」

「ちょっと、ラン」

「何、マオ」

「上の空にもほどがあるわ。それに集落を出たら話すって言ってたのに、もう森だって越えちゃったし。すぐに次の集落に着いちゃうわよ?」




1187『白無垢』

「シャオマオさん」

「い、きなりどうしたの?」

「僕とずっと一緒にいてください」

「そりゃ居るわよ、相棒だもの」

「そうじゃなくて。うーん、あ。『お前の最期に立ち会わせろ』って言えば伝わる?」

「……ラン、意味を分かって言ってるの?」

「マオのお父さんが若かりし頃、お母さんに言ったんだよね」




1188『目元をなぞる』

「そこまで分かってて、言ったの?」

「だって、どう言い換えてもすり抜けられそうな気がしたから」

「それは、その……」

「マオ、聞こえない」

「ごめんなさい!」

「」

「ごまかそうとしたんじゃなくてっ、ホントにうっかり気付かなかっただけでっ!」

「何だ、フラれたかと思った」

「ちがっ」

「よかった」




1189『曼珠沙華の中』

「あの……ラン?」

「ん?」

「なんで、ずっと頭なでてるの?」

「ああ、ご免。落ち着くから、つい」

「別に、イヤってわけじゃないわ」

「そう? よかった」

「……ねえ、ラン」

「ん?」

「ずっと立ち止まってるけど、次の集落に行かないの?」

「……マオ」

「なに?」

「僕は君の返事待ちしてるんだけど?」




1190『見せたくないモノ』

「その」

「うん」

「むり、です……っ」

「……僕はフラれたって事かな」

「ちがっ」

「違うの?」

「う」

「良かった。真っ赤な顔でおとなしく頭撫でさせてくれてるのに答えはノーとか、何かもう鬼の所業だよね」

「そういうの、意識すると顔見れなくなる、からムリ、です」

「そういうの?」

「結婚、とかっ」




1191『君を忘れる夢を見た』

「うん、知ってる。だから気長にやっていこうと思ってたんだけど」

「だけど?」

「話の流れでうっかり」

「うっかり」

「そう。マオにもっと耐性ができてからにするべきだった。さっきのなかった事にしても良い?」

「え、やだっ」

「へ?」

「だってもう聞いちゃったもの。知らないフリなんてできないしっ」




1192『薔薇の下』

「ねえ、マオ」

「な、なに?」

「確認していい?」

「えっと、どうぞ?」

「顔が見られなくなるからイエスとは言えない、だけど、聞かなかった事にはしたくない」

「うん……待って。あたし最低なこと言ってない?」

「大丈夫。で、これが一番重要な質問で、僕の申し出を断る気は、無い」

「え、あ……はい」




1193『褥の上で』

「ちょっと座って話そうか」

「あ、はい」

「ねえマオ。さっき僕が言った事、保留にしようか」

「それ、聞かなかったことにするのと何か違うの?」

「違うよ? マオは断る気は無いけど、頷くのも難しいんでしょ? だったら前向きに保留しようよ」

「前向き、に?」

「そう。いつかイエスって返事を頂戴?」




1194『君のための命』

「でもあたし、慣れる気がしない」

「とりあえず、僕と一緒に居てくれるんだよね?」

「え、あう」

「ああ、ご免。そっちじゃなくて、言葉通りの意味で」

「う、うん。居る、ランと一緒に居たい」

「じゃあ、良いよ」

「ラン……」

「それじゃあ、今この時をもって成立って事で」

「何が?」

「婚約」

「こ!?」

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