1141-1170
1141『迷路の中にいるみたい』
「さっきから、何だか変よユンちゃん。いきなりお父様の話を始めたり、どこからともなく簪取り出したり。ねえ、一体何を警戒してるの?」
「娘御は、警戒しとると感じた訳か」
「違うの? でも、ユンちゃんのお父様が危険ってわけでもなさそうだから、余計に分からなくて」
「当方にもよく分からんのだ」
1142『アヤトリ』
「勘がささやくカンジ?」
「どうだろうな。娘御は当方が警戒しておるように感じたようだが、当方自身にそんな意図は無かった。故に、何を警戒しておるのかもよく分からん」
「じゃあ、警戒してないんじゃない?」
「そうかも知れん」
「どっちよ」
「だから、よく分からんのだ。まだ成しておらんのだろう」
1143『貴方は永久に傍らに』
「なしてない?」
『パーツはすべて揃っているのに、それを組み立てる為の設計図が無い状態みたいなものかしら』
「それだ」
「お姉さま。兄さんは?」
『シオンは古株のの弟子と意気投合しているところよ』
「兄さんの側にいなくて良いんですか?」
『大丈夫よ、同じ部屋に居て不覚を取るワタシではないわ』
1144『花の町の傍ら』
「兄さんと自称ユノちゃんの意気投合って正直不安がなくもないんだけど、とりあえずあたしはランと合流することを優先したいので、誠に勝手ながら後を任せても良いですか」
「簪を忘れるな」
「分かった」
『シオンの事は任せて。いってらっしゃい、可愛い子』
「お願いします。行ってきますね、お姉さま」
1145『暴いて、全部、壊すくらいに』
「だから知らないって」
「そーか? でもなー」
「ラン?」
「マオ、下がってて」
「でも」
「お、新顔さん。娘さんは知りませんかー?」
「何を?」
「うちの愚息ですよ?」
「鎧をなくしたの?」
「愚息を着るのは無理かなー」
「斬れないなら、優秀な具足ね」
「そーだねー。で、うちの愚息は?」
「誰それ?」
1146『君を探す』
「この辺りに居る筈なんだけど探知結果が数日前の居所でしてー。で、最寄りの集落の宿屋をとりあえず訪ねて来ている次第です」
「だから、ここは僕らしか泊まっていませんよって、さっきから言ってますよね?」
「誰を探してるんですか?」
「だから愚息ですよー?」
「そうじゃなくて、名前とか特徴とか」
1147『空に手を伸ばした』
「変な子ですねー。名前は……何だっけなー」
「ご子息の名前くらい覚えておいてください」
「あれ、子供だなんて言いましたっけ?」
「愚息って連呼してたでしょうに」
「いやー、だって産んだ覚えはないし」
「……貴方、女性なんですか?」
「失敬な。しっかり男だよ、今は」
「ん?」
「どうかしたかい?」
1148『迷路の中にいるみたい』
「ちょっと待っててもらえます?」
「いいですよー」
「ラン、こっち来て」
「マオ?」
「あのヒト、ユンちゃんのお父様って可能性ない?」
「あぁ成程、そっちもあるね」
「そっちも?」
「僕はアレの父親かと」
「ランがアレ呼ばわりってことは、自称ユノちゃん?」
「そう。親子揃って女装好きなのかなって」
1149『あなたでよかった』
「今は男って、昔は精霊って意味かと思ったけど。精霊は性別あったわね」
「どうかな。マオはレディの事を言ってるんだろうけど、レディがたまたま女性寄りなだけで、実際のところは性別なんて無い可能性もある」
「お姉さまって呼ぶのは失礼だったかしら」
「レディが受け入れてるから大丈夫じゃない?」
1150『足の皮が擦り切れるまで走るから』
「そういえば、ユンちゃんのお父様は目尻にお化粧みたいな柄があるんですって。金色の」
「ユンがそう言ったの?」
「うん。同じメイクの他人も居るんじゃないのって言ったら、ランが見分けられる筈だって」
「へえ」
「あと、これ」
「簪?」
「持っていけって。理由はユンちゃんもよく分かってないみたい」
1151『君は僕の華』
「あのー、内緒話はまだ終わりませんかー?」
「マオ、簪仕舞って」
「あのヒトに見せてみようかと思ってたんだけど」
「もうちょっと、ユンの関係者である可能性が高くなってからにした方が良い気がするんだ」
「ランがそう言うなら」
「お話しは終わりました?」
「終わりましたよ。で、貴方誰なんですか」
1152『びしょ濡れだね』
「よくぞ訊いてくれました! 名乗るほどのものではございません!」
「なんでそれを嬉々として言ったんですか」
「言ってみたい台詞ランキングにランクインしてるからです! あと、水もしたたるイイ男にはなってみたい!」
「……集落の中央に噴水がありますよ」
「行ってきます!」
「はい、さようなら」
1153『掌に残るもの』
「噴水なんてあったの?」
「さあ?」
「え、デタラメ?」
「僕が見てないだけで、もしかしたらあるかもしれないよ?」
「適当なのね」
「否定はしない」
「どうするのよ、後で文句言いに来られない?」
「うん。だから今のうちに移動しよう」
「良いけど、依頼の手紙はどうするの?」
「ほらこれ」
「受取書?」
1154『冷たい手』
「えっ、受取書? しかもサイン済み!?」
「そう」
「待っていつの間に!?」
「何度かそれぞれ別れて動き回ってたでしょ? その時に」
「そういうことは早く教えてよ!」
「他に優先順位の高い事が盛り沢山だったから、うっかり忘れてたんだ」
「もうっ! 後で詳しく話してもらうからね!」
「もちろん」
1155『嘘の色』
「話を戻すけど。さっきのヒト、やっぱりアレの関係者だと思う」
「そう思った理由は?」
「なんかブレッブレだったから」
「そうだっけ」
「最初は敬語、次に間延びさせてたかと思えば最後には元気なバカだった」
「でも自称ユノちゃんは服装でキャラ固定してたわよ」
「ブレッブレだったよ」
「そうだっけ」
1156『お人好し』
「女装してる時だけに絞っても、おっとり喋るお姉さんキャラを目指してるのかと思えば、愉快犯的に命懸けで僕をからかって来たりしてるから、ブレッブレでしょ」
「そう言われると、確かにそうね」
「まあ、段々本性というかボロが出てきてるんだとすれば、本来の性格は結構なバカなんじゃないかなって」
1157『暦を辿る』
「ユンちゃんのこと、お説教したりしてたけど」
「ああ、うん。頭の回転の速いバカって居るよね」
「それは頭が良いの? 悪いの?」
「あのね、マオ。賢さと愚かさって、共存可能なんだよ?」
「そうなの?」
「鳳凰種が典型かな。頭のイイ馬鹿がよく居る種族だし」
「あー、なんとなく分かった、ような?」
1158『夜明け』
「そもそもさっきのヒトは鳳凰種なの?」
「どうだろう? 種族特性が特に見当たらなかったからなあ」
「そうね、あたしには鳥族かどうかもよく分からなかったわ」
「んー、あのヒトについては、また会う事があったらその時考えよう」
「それもそうね。じゃああたし、皆に知らせてくるわ」
「ん、よろしく」
1159『お人好し』
「そんなわけであたしとランは出るけど、皆はどうする?」
「ボクはチェズが見付からないように脱出するという命題を抱えているからね」
「精霊殿に頼れ。己が契約者一人運べぬ程軟弱な精霊なんぞ居らん」
「ボクとチェズだけ別行動しろという事かい?」
「いっそ四散するのが手っ取り早いとは思うておる」
1160『舟に揺られながら』
「あたしとラン、兄さんとお姉さま、ユンちゃんと自称ユノちゃん?」
「最後のみ違うな。当方と弟子は別行動だ」
「ですね~」
「自称ユノちゃん、居たんだ」
「居ますよ~、お師匠は単身で行動した方が実力を発揮できるんです~。そしてそんなお師匠に師事したわたくしもすっかり染まってしまいまして~」
1161『私は貴方の目印』
「何、兄御殿ならば娘御を見付け出すのは造作無い事だろうて」
「ユンちゃんは?」
「む?」
「ユンちゃんとも、また会える?」
「縁があればな」
「縁がなかったらもう会えないってこと?」
「ふむ。如何した?」
「だって、ねこ姉さまとはもう会えないし」
「何。当方は鳳凰種故、そうそう消えたりはせんぞ」
1162『木漏れ日』
「分かってるの、分かってるんだけど」
『大丈夫よ、シオンの愛し子』
「お姉さま……」
『猫のワタシは消えた訳ではないわ。そうね、可愛い子がもう赤子ではないのと同じようなものだと思えばいいの。猫のワタシはもう居ないけれど、ワタシは存在しているわ。それではダメかしら』
「ダメじゃないです!」
1163『例えどこにいたって』
『ワタシはシオンと共に在ると決めたの。シオンとアナタはこれから何度だって会うでしょう? ならばワタシとだって、これから何度でも会えるわ』
「お姉さま」
『古株のは鳳のの輩なのだから、今生の別れにする気は無い筈よ。つまり、アナタともまた会うでしょうね』
「はい!」
1164『雷雨』
「なかなか戻ってこないと思ったら、なんで今生の別れみたいな雰囲気になってるの?」
「ラン!」
「シオンとレディには良い知らせ、マオにとっては悪い知らせがある」
「何?」
「雲行きが怪しい」
「精霊狩りがここに来そうってこと?」
「比喩じゃなくて天候の方。結構激しいのが来そうなんだ」
「まさか」
1165『舟に揺られながら』
「遠くに雷光見えたし、雲の流れからも嵐が来る。こっそり移動するには絶好の機会だから、シオンとレディは出た方が良い。ユンは好きにして」
「投げ遣りですね~」
「で、マオ。僕らはやっぱり翌朝に出ようかと思うんだけど、良い?」
「もも、もちろんよ!?」
「マオ、まだ鳴ってないから、落ち着いて」
1166『湯上り、誘ってるってことでいいよね』
「事実上の足止めだけど、さっきの変なのに文句を言われなくて済みそうだ」
「なんで?」
「ずぶ濡れにはなってそうだから」
「そうね」
「朝一で出るからもう休もう」
「おふろ」
「どんなハプニングに見舞われるか分からないから、明日の朝一で勘弁して」
「さきほどからわたくしを無視してませんか白姫~」
1167『迷路の中にいるみたい』
「雷が鳴り出したらマオが動けなくなりそうだから、そろそろ僕らは部屋に戻るね」
「セイラン」
「シオン、何?」
「ボクの可愛い妹には紳士的に接してほしい」
「今までマオを雑に扱った事は無いし、これからもそんな予定は無いよ」
「そうか。失礼な事を言ってすまなかった」
「二人とも何の話してるの?」
1168『見せたくないモノ』
「じゃあシオンにレディにユン、またな」
「待ってくださいな~。どうしてわたくしを無視するんです白姫~?」
「もう会いたくないからじゃない?」
「可愛らしいお嬢さんが残酷なことを仰らないでくださいな~」
「ランが嫌がってる呼び名で呼び続けるからよ。やめたら?」
「それは無理です~」
「頑固ね」
1169『君が護ってくれた』
「ねえ、マオ」
「何、ラン?」
「部屋の内外で物音を完全遮断できるけど」
「ダメよ。外の物音が分からないのは、初動が遅れるから危ないじゃない」
「そう言うとは思ったけどね。じゃあマオのベッドにだけかけるのは? 何かあれば僕が知らせるから」
「ランに甘えるだけはイヤなの」
「……ん、分かった」
1170『涙の痕』
「マオ、マオ。起きて」
「らん……?」
「昨夜が荒れまくってた分、雲ひとつ無い青空だ」
「そう」
「ほら、朝風呂行くんでしょ。起きて」
「う、ん?」
「マオ、どうしたの?」
「なんか、妙に疲れてるような」
「そりゃそうだよ、マオ雷にぷるぷるしすぎて寝落ちしてたから。体がこわばったまま寝てたよ?」




