781-810
781『 大好きで仕方ない 』
「精霊殿」
『何かしら、古株の』
「そろそろではないのか?」
『その筈だけれど』
「何の話だい?」
「ねえ、ねこ姉さまだけまだ見付かってないんだけど」
「それだ!」
『それよ!』
「わ、ユンちゃんとお姉さまがハモった」
「でかした娘御!」
『そうよ、あのワタシも必要なんだわ』
「話が見えないんだけど」
782『 守られている 』
「いやなに降って湧いたせっかくの好機を無駄にせず何とかこの場で兄御殿の問題を解決出来んものかと小細工してみたのだが如何せん根本的な構成要素が揃っていなかったという致命的かつ単純なしくじりを」
「長い!」
「テンション上がると更に回りくどくなるんだよね、ユンって」
「めんどくさいヒトね」
783『 悔やんで悔やんでついに 』
なぜあの時、彼の側に居なかったのかしら。
なぜあの時、彼の側に辿り着けなかったのかしら。
なぜあの時、なぜ、なぜ。
いくつもの「なぜ」ととどまるところを知らない後悔に襲われながら、それでも来るかも知れない「いつか」に望みを繋げて永らえてきたワタシだけれど。
あぁ「いつか」は「今」なのね。
784『 微笑む三日月 』
「とまあ、斯様な訳で兄御殿の問題を解決するには猫らしき状態と化しておる精霊殿をどうにか見付けて捕獲する必要が」
「ああっ!?」
「え、何。どうしたのマオ」
「ラン、あれ見てあれ!」
「空に何……うわ」
『アラ』
「ほらユンちゃんも!」
「む?」
「まだ午後にもなってない筈なのに、夜になってる!」
785『 どうかきづいて 』
「さっそく狂い始めたか」
「でもこれ、ここもそうなのかしら」
「マオ、どういう事?」
「だから、空は夜だけど、地上もそうなのかなって」
「なるほど。さっきガーディが言ってた、ごちゃ混ぜ状態だって話だね」
「そう!」
「どうなんだろ。そもそも空が夜とも限らないから、キリがない心配ではあるけど」
786『 会うことはないだろう 』
「でも、夜よ?」
「うん、確かに空は暗いし月も出てる。だけどそれは、そう見えてるってだけかも知れない」
「本当の空はまだ午前中かもって事?」
「そうなるかな。そもそも、死なずの森は空にまで影響を及ぼすのかっていうのは、本家の森でもまだ分かっていない領域だし」
「ややこしいわね」
「だよね」
787『 「辛い時こそ笑顔だよ」 』
「とりあえず、夜として動けば良いのかしら、昼として動けば良いのかしら」
「どっちでも良いんじゃない?」
「そんな適当で良いの?」
「他の生き物とか居そうにないし、空は暗くても視界は良好だし」
「そういえば、全然見えるわね。ランも見えてるの?」
「うん。これならレディも見えてるんじゃない?」
788『 物好き 』
『飛べるわね』
「つまり見えてるんですね。じゃあとりあえず、ねこ姉さま見つけましょうか」
「そうだね。手分けできれば良いんだけど」
「あたしと兄さんとお姉さまは分けない方が良いと思うのよね」
「ん、そうだね。だけど僕とユンのコンビだと、肝心のもうひとりのレディが寄って来てくれないと思う」
789『 君を思い出すと弱くなる 』
「あとユンちゃんっぽい兄さん的なヒトをどうするかも問題よね」
「それはぼくの事なのかな」
「他に誰が居るのよ」
「ぼくだってきみの兄のつもりだけれど」
「でも兄さんって呼んだら、兄さんが二人になっちゃってややこしいじゃない。ユン兄さんとか言ったら」
「当方兄ではないが」
「ほら、ややこしい」
790『 ハチャメチャな君 』
「愛しいシャオの兄はボク一人で良い、と言いたいところだけれど」
「ぼくもお前だよ」
「感覚で分かるさ。だからこそ困っているんだよ」
「仕方ない、兄呼びは今は譲ろう」
「良いのかい?」
「お前の方が存在が強いからね。それに愛しい妹を愛でる事はできるのだし」
「それもそうか」
「バカ兄が増えた!」
791『 泣いていませんか 』
「もの凄く疲れる予感がするわ」
「お疲れ、マオ」
「とりあえずねこ姉さまを見付ければ良いのかしら」
「良いんじゃないかな。他にどうこうする点も見当たらないし」
「ねえ、ラン」
「何、マオ」
「やっぱり二手に分かれるのはナシにしない? あたし一人でバカ兄二人の相手とか無理だもの」
「あー、うん」
792『 眠る君 』
「そこの彼女に似た存在なら、この森のどこかに居るよ」
「ほう、判るのか」
「勿論だよ。探しているのはぼくの片割れだろう? 近くに居るかくらいは判るさ」
「それは有難いな」
「ねえ、それならお姉さまならもっと詳しく分かるんじゃない?」
『無理ね。何かを警戒しているのか、ひどく気配が薄いのよ』
793『 巡り巡って 』
「今もねこ姉さまって事で良いのかしら」
「多分ね。犬やら蛇やらに変化はしないと思うよ」
「どうして?」
「シオンが猫族だから」
「え」
「そもそも、精霊が他の形を取っている事が驚異なんだよ。基本的に自分に絶対の誇りを持っているものらしいから」
「つまり、全部兄さんに繋がるのね」
「そういう事」
794『 大好きだって、信じてた 』
「ではぼくも、もしも何か他の形を取る機会があったら鳥にしよう」
「あなた猫族でしょ」
「そんなよそよそしい言葉遣いをされたら、ぼくは途方にくれてしまうよ」
「じゃあ呼び名を決めましょ。兄さんAと兄さんBで良いかしら」
「どっちがAなのかな」
「それじゃあ、バカ兄Aと兄さんB」
「そうきたか」
795『 雨降る夜に 』
「お兄ちゃんとにーにでも良いんだよ?」
「分かった」
「呼んでくれるのかい!?」
「違うわよ。もう兄さんズって呼ぶ事にする」
「一絡げ!?」
「今はねこ姉さまを見つける事が最優先でしょ? 兄さんズの呼び方なんて何でも良いじゃない」
「兄というアイデンティティを否定された!?」
「してないわよ」
796『 やめて、もう、いやなの 』
「兄さんズの呼び分け問題は、全部片付いてから考えれば良いじゃない」
「その時には、もうぼくは居ないじゃないか」
「はぁあ?」
「っぼくの愛しい妹がこわい!」
「ふざけんじゃないわよ。何の為にあたし達が頑張ってると思ってるの」
「シャ、シャオ。落ち着いて」
「兄さんはちょっと黙ってて」
「はい」
797『 靡く髪 』
「あたし言ったわよね。諦めないで、望んでって」
「それは」
「言・っ・た・わ・よ・ね?」
「はい言いました」
「なのに諦めるの? それとも消えるのがあなたの望みなの? 良いのよ別に、消えたいなら消えたいで。ただ、あなたの望みが分からないと、助けるべきか邪魔するべきかも分からないじゃない」
798『 恋い焦がれる少年 』
「邪魔するんだ」
「要するに、消えて欲しくないという事だろうな。素直にそう告げればいいものを」
「そこの鳳凰コンビ、何か言った?」
「言ってません」
「気のせいというやつだな」
「そう」
「気が立ってるね(小声)」
「うむ。障らぬ神に何とやらというやつだな(小声)」
『揃いも揃って情けないわね』
799『 電話越しの君 』
「おっ」
『どうした、ガーディ』
「再びラン達はっけーん」
『またか? 随分と狭い森みてぇだな』
「いや、そうでもねぇよ?」
『なら、つくづく縁があるって事か』
「かもな。ちぃっと様子見してみるわ」
『何でだ?』
「見ない双子が増えてるんだがな」
『双子?』
「おう。その片割れに嬢ちゃんがキレてる」
800『 「犬だって獣ですからね」 』
『ソイツ何したんだ』
「さぁな。しかしあの嬢ちゃんホント短気だな」
『ソレはお前が地雷を踏みぬいたからだ。本来あの嬢ちゃんはそうそうキレねぇぞ。ランの方がよっぽどやべぇ』
「ランより短気なヤツなんぞそういて堪るか」
『違いない。ところで、会話の内容は拾えんのか?』
「生憎俺は鳥族なんでね」
801『 涙に代わる 』
「嬢ちゃんが片割れに詰め寄った。もう片方がランと何か話して……ぶはっ。嬢ちゃんに睨まれて、二人揃って黙りやがった。尻に敷かれてんなぁ、あいつ。どうせなんか阿呆な事言ったんだろーが。お、今度はこそこそと何か言ってんぞ、懲りねぇな」
『何で実況してんだ』
「面白ぇんだからしゃあねぇだろ」
802『 神様は不敵に笑った 』
「しっかし、あの双子ナニモンだ? 片方はランと、もう片方は嬢ちゃんと近い関係みてぇだが」
『あいつらが探してた鳳凰種じゃねぇのか』
「いや、ユなんたらって名前言ってたから、探し人は一人の筈だ」
『名前ひとつくらいちゃんと覚えといてくれよ』
「なんか聞き慣れん上に言い難い名前だったんだよ」
803『 もうおねむ? 』
「おっ、と」
『どうした』
「嬢ちゃんが倒れたっぽい」
『ほお。で?』
「ちっ、引っ掛からんか」
『支部長をハメようとはイイ度胸だな?』
「一度でもハメられてから言って欲しいモンだがな。ここからじゃよく分からんが、ランのヤツが取り乱してないから大丈夫だろ」
『確かに、それなら問題なさそうだな』
804『 (可愛いなあ) 』
「双子が一人消えてる」
『お前が気付かなかったのか?』
「すまん。嬢ちゃんに意識を向けた一瞬の隙に消えてた」
『片割れはまだ居るんだな?』
「ああ。嬢ちゃんを診てるな。背後でランがそわそわうろうろしてて凄ぇジャマくせぇ、あ、怒られた。おい、ランが嬢ちゃん以外に叱られてるぞ。やべぇ面白ぇ」
805『 巻き込み事故 』
「これ以上は見てても分かんねぇだろうし、ちっと話聞いてくるわ」
『そうか、頼む』
「おう、頼まれた」
『頼むから、始末書を増やさないでくれよ』
「そっちかよ!」
『他に何を頼めってんだ! 身内の始末書を処理するいたたまれなさがお前に分かるか!?』
「悪ぃ」
『誠意の無い謝罪より始末書を減らせ』
806『 未来と過去と、苦しい今と 』
「とにかく落ち着け、セイランよ。娘御が心配なら尚の事、冷静にならねばならんだろうが」
「分かってる」
『相手はシオンよ、可愛い妹の身を危うくはしないでしょう』
「分かってるよ」
「なら少しはじっと出来んのか」
「分かってるけど!」
「おー、ランが慌ててるとは珍しいモン見れたな」
「ガーディ?」
807『 横たわる君に 』
「よお、ラン。よく会うな」
「悪いけど、今お前の相手してる余裕ないんだ」
「見りゃあ分かるさ。だから紫雷に話を訊くさ」
「ボクもあまり余裕はないんだけれどね」
「だろうな。可愛い妹がいきなりばたんじゃな」
「見ていたのかい」
「見えたんだよ。で、さっきまで居たヤツはナニモンだ?」
「ボクだよ」
808『 「ちょっと黙って」 』
「あん?」
「詳しい事はボクにもよく分からない。だけどあれは間違いなくボクだ」
「あー、そこの嬢ちゃん診てるニイサンとは関係ねぇのか?」
「あれは単にユィン・チィ殿の姿を借りただけだろう」
「その妙に言い難い名前、つまりアレがランの師匠とやらか!」
『嬉々として食い付くところがソコなのね』
809『 「泣いてもいいんだよ」 』
「ランの師匠っつったら、俺らの間で有名だからな」
「へえ」
「知識豊富で実力も確からしいのに、妙に抜けてて弟子に四苦八苦させてるおかしなヤツだろ」
「それは」
「色々知識を与えちゃいるが、それがどれだけレアな情報かは教えてねぇんだぜ? アイツの反応から悪いヤツじゃなさそうだから余計にな」
810『 大好きだって、信じてた 』
「セイランは、自身の師匠についてどう言っていたのかな」
「なんも?」
「何も?」
「おう。よく仕事で一緒になってた時期があったんだけどよ。そん時アイツ、精霊について知ってる事が多すぎてな。そのクセ、それが世間じゃ知られてない情報だとは知らねぇんだよ。それ指摘したらビミョーな顔するしな」




