571-600
571【 ごめんね 】
「時に娘御よ、その定義で行けばセイランの場合も気持ちの悪いものと成ると思うのだが」
「ランのウィンクって見た事ないけど……そうね、男性陣が卒倒しそうな気がするわ」
「待ってマオ、待って」
「何よ、ラン」
「何で僕が男相手にウインクする状況なの?」
「そりゃあ、美人だからよ」
「ユン」
「許せ」
572【 寝坊した! 】
「なんかこう、依頼人と会う約束してたけど遅れちゃって、依頼人がすっごい怒ってたとしても、ウィンクひとつでダウンさせられそう」
「マオの中で僕のイメージがどうなってるのか凄く知りたいような、知りたくないような」
「遅刻の理由は如何する?」
「夜更かしとか」
「どうでもいい所を掘り下げない」
573【 言えない、言わない 】
「ところでユンちゃん、それだけ離れてるのに普通に会話できてるのって」
「風術だが」
「自分の声だけじゃなく、あたし達の声も運んでるわよね?」
「うむ」
「ものすごく難しい術の気がするんだけど」
「慣れればどうという事もないが」
「僕ら鳳凰種が生きた非常識とか言われる原因、お前の気がしてきた」
574【 天使か、悪魔か 】
「今の一連の会話で何故にその結論に至った」
「考えてみれば、ユンって鳳凰種の中でも結構非常識な方だし。術式とか術式とか、あと術式とか」
「術式のみではないか」
「出る杭と傍迷惑と変人の宝庫と言われる鳳凰種の中で非常識と呼ばれる意味を考えてみようか、ユン」
「鳳凰種二つ名多すぎじゃない?」
575【 触れた指先 】
「二つ名ってほど良いものじゃないけどね」
「ユンちゃんの術って、どれくらい凄いの?」
「そうだなぁ。例えばユンが今使っているのは、術者を中心に敷かれた魔法陣が、大気の動きに呼応して起動するように組まれてる」
「大気の動きって?」
「声だよ。誰かが喋る度に、風術が声という音を運んでるんだ」
576【 音楽室でのひととき 】
「ここからが非常識なところなんだけど。大気の動きの中で声だけに反応させるか、声以外を弾く術式を追加しないと、衣擦れだの爆音だのまで運んじゃうんだよ、この陣。でもそこまで描くと、町一つくらい巨大な魔法陣になって、まぁ使えないよね」
「部屋の床に収まってるけど」
「うん、これ手動だから」
577【 泣き顔のままで 】
「陣上の任意の音を任意の場所まで運ぶ。この魔法陣の効果はそれだけなんだ。どの音をどの地点まで、どの程度の長さ運ぶのかって部分を、ユンは逐一指定実行解除してる」
「あたしとランと兄さんとお姉さまが、ユンちゃんが話してる最中に突然叫んだらどうなるのかしら」
「耳が痛くなるんじゃないかな」
578【 傷つけてごめん 】
「ところで、これは鳳凰種ではよくある陣なの?」
「いや、初めてみたよ。多分、ユンが即興で作ったんじゃないかな」
「ユンちゃん?」
「うむ」
「やっぱり、鳳凰種そのものが非常識って事で良いと思うわ」
「え、何で?」
「自分の事は案外分からないって本当なのね。術に詳しくないあたしでも分かるのに」
579【 特別な想い 】
「マオの言い方だと、僕がユンと並ぶ非常識だって聞こえるんだけど」
「そう言ってるのよ」
「何で!?」
「そこまでショック受けるような事かしら」
「事ですよ! マオだって、シオンとどっちもどっちのブラコンだって言われたらどうする!?」
「それは嫌ね!」
「でしょ!?」
『アナタ達、似た者同士ね』
580【 いつもと違う表情 】
「それは誰と誰が似ていると言っているのかな、レディ?」
「それによってはお姉さまといえど雌雄を決さなければならないわ」
『アナタ達の事よ、鳳のに可愛い子』
「何だ、マオか」
「ランなら良いわ、別に」
『身内に容赦ないところまで同じなのね』
「そうかな?」
「そうかしら?」
『ホラ、息もぴったり』
581【 真夜中のデート 】
「で、結局何をどうするの?」
『ワタシと古株ので、特異点が特定できないか調べてみるわ。その間、さっき言った事をお願いできるかしら、可愛い子』
「兄さんと約束しなきゃ良いんですよね、任せてくださいお姉さま」
「あぁそっか。特異点の探索とか、ユンの十八番か」
「うむ。今宵から調査を開始する」
582【 秘密を知ってしまった 】
「ユンちゃん得意なの?」
「双子の大樹は覚えてる?」
「入れ替えがどうとか言ってたアレ?」
「そう。失われた半身なんて、典型的な特異点だよ」
「へぇ……特異点って言葉の意味が凄く広そうだって事は分かったわ」
「うん、確かに広いね。鳳凰種が他人を煙に巻く時の常套句でもあるし」
「そうなの!?」
583【 夕暮れの放課後 】
「今晩から調査開始って、明るいとダメなの?」
「精霊殿が目立つだろう」
「精霊狩りに捕まった精霊って、具体的にはどうなるの?」
「さあ?」
「ランも知らないの?」
「実際に捕まった精霊は、まだ居ないから」
「居ないの?」
「何か面倒臭そうだから避けとこう、くらいのノリじゃないかな。精霊的には」
584【 涙が乾いたら 】
「危険だからお姉さまの姿を隠すわけじゃないの?」
「ある意味危険ではあるよ。精霊と精霊狩りが出会したら更地ができるって言われてるし」
「えーっと、それってつまり」
「面倒臭くなった精霊がやっちゃうんだろうね。泉を干上がらせたり、山を平野にしたり」
「ユンちゃん頑張ってね!」
「丸投げたな」
585【 ごめんね 】
「でも待って。ユンちゃんって、精霊寄りの考え方するのよね?」
「否定はせんが」
「精霊のお姉さまと、精霊思考のユンちゃんだけで行動させて、大丈夫なの?」
「何、問題なかろう。当方、何年鳳凰種として生きたと思うておる」
「あ、ダメだ。精霊と鳳凰種なんて、どっちにしろアレな組み合わせだった」
586【 はぐらかさないで 】
「あれとは何だ、あれとは」
「アレでダメならコレでもソレでも良いよ。鳳凰種が何て言われてるか、知らないとは言わせないからな」
「出る杭と傍迷惑と変人の宝庫よね」
「うん、マオ。そっちじゃなくて、精霊絡みのやつ」
「ああ、血肉を得た精霊って……あ」
「そう、どちらでも似たようなものなんだよ」
587【 もう一度キスをして 】
「そこもとら、言いたい事があるのなら明瞭且つ簡潔に述べて欲しいとさすがの当方でも思わないでもないのだが」
「ユンちゃんったら、説得力がなさすぎるわ。まずユンちゃんがすぱっと短く喋らないと」
「とりあえず、魔法陣描いてまで仔猫と距離を取るのをやめてみようか」
「御免被る」
「あ、逃げた!」
588【 おつかれさま 】
「何をするか精霊殿」
『ワタシを手伝ってくれるんでしょう?』
「然しながらだな」
『約束したわよね?』
「誰しも不得手なものというものが」
『古株の?』
「相分かった故、結界を解くか猫を離してくれ」
『分かってくれて嬉しいわ』
「女性に刃向かうのは愚か者だと父が以前」
「どうして今それを言った?」
589【 もう少し 】
「とりあえず、仔猫はマオが見てるって事で良いかな?」
「逃げないでくださいね、ねこ姉さま」
「……うん。それだけ喉を鳴らしてるなら、大丈夫かな」
「ねこ姉さまかわいー」
「ねえ、マオ」
「何、ラン」
「その呼び方、何とかならない?」
「え? じゃあ、こねこ姉さま」
「ほぼ変わってないよね、それ」
590【 特別なフリをして 】
「ねこでお姉さまなんだから、ねこ姉さまが正解じゃない?」
「いやまぁ、マオが良いなら良いけどね」
「弱いな、セイラン」
「マオー、ユンが仔猫を抱いてみたいってー」
「当方が悪かった」
「分かれば宜しい」
「勘弁してくれ」
「ユンが悪い」
「ねこ姉さまー、ランとユンちゃんが仲良くてズルいんですー」
591【 背中を押してくれたのは 】
「またそういう事を言う」
「冗談よ。ところでユンちゃん、このこねこはお姉さまだったわけだけど、それでも苦手?」
「当方、四つ足の生き物が不得手でな」
「大地の獣は大抵そうよ?」
「空に生きたいものだなあ」
「あ、遠い目で空見上げだした」
「ユンがこんなに分かり易い現実逃避する所、初めて見た」
592【 唇をかみしめた 】
「つまりユンちゃんは、大地の獣が苦手って事よね」
「何か気になるの?」
「よく森をうろうろできたなあって」
「ああ、それね。マオは、ユンの術杖を覚えてる?」
「銃でしょ?」
「そう。つまり、火薬も持ち歩いてるんだろうね」
「あ、そっか」
「分かった?」
「火薬の匂いで遠ざけてたのね?」
「多分ね」
593【 それ、半分ちょうだい 】
「多分なの?」
「ユンに確認した訳じゃないから。でも、マオも森で聞いた筈だよ」
「あ、銃声!」
「そう。ユン自身が、自分が撃ったって認めてたしね」
「撃ってる以上、火薬は持ってるでしょうね」
「そういう事」
「ランの頭って、どうなってるのかしら」
「僕はマオの発想も凄いと思うよ」
「そうかしら」
594【 ひとりぼっち 】
「鳳凰種について、どう思う?」
「少し離れて眺めてるのが、一番楽しい関わり方な種族」
「なるほど」
「別に関わりたくないって言ってるわけじゃないのよ」
「ん」
「でも、鳳凰種の中に放り込まれたくはないわね」
「そう」
「別に、関わりたくないって言ってるわけじゃないのよ!?」
「二回言わなくても」
595【 もしもし、だぁれ 】
「あ」
「ラン?」
「噂をすれば、とはよく言ったものだな」
「ユンちゃんまで、て事は」
「ご明察」
「第一陣がこの集落を視認したそうだ」
「多くて十数人、かな」
「微妙な数ね。ねえ、ユンちゃん」
「何だ」
「今晩の探索に、支障はあるかしら」
「さてな。全員と面識がある訳では無い故、何とも言えん所だ」
596【 こんな晴れた日には 】
「この分なら、夜になっても雲は無いだろうね。いっそ曇りの方が有り難かったんだけど」
「お姉さまは夜目が利かないんですよね」
「ユンはかなり利くよね。僕はさっぱりだけど」
「でもラン、死なずの森でも平気で歩いてなかった?」
「これのおかげだね」
「モノクル? あ、そっか。魔法具ね?」
「そう」
597【 いたずらで知的な人 】
「何だ、娘御は知らんかったのか?」
「そう言うユンちゃんは知ってたの?」
「聞いてはおらんが、見れば分かる」
「だろうね」
「魔法具って、見ただけじゃ分からないんじゃなかった?」
「通常はな。だが当方は分かる。そういう事だ」
「ユンちゃん」
「何だ」
「仔猫がこわいなら、正直に言っていいのよ?」
598【 たたかう理由 】
「娘御よ」
「何かしら」
「分かっておるなら、猫を抱いたまま当方に近付くのを自粛しては貰えんだろうか」
「だから今、こうやって距離を取ってるじゃない」
「出来ればそのままで居てくれ」
「そこだけ取ったら、まるっきり口説き文句ね」
「近寄るなと言うに」
「一気に失礼になったわね」
「当方で遊ぶな」
599【 つくられた笑顔 】
「セイランよ、娘御はそこもとの管轄だろう」
「心外な。僕はマオの保護者じゃないよ」
「ランはあたしの何が心外なのよ」
「愛しい妹の保護者ならば、この兄がなろうではないか!」
「兄さんは黙ってて」
「了解した!」
「それで良いのか、シオン」
「で?」
「マオ怖い、笑顔が怖い」
「セイラン、答えは?」
600【 風邪かな 】
「マオは、僕が保護者で良いの?」
「そもそもあたしは成人してるわ」
「知ってる。じゃあ未成年なら、僕が保護者で良いの?」
「ランが、あたしの、保護者」
「そう」
「……イヤよ」
「どうして?」
「……分かんない」
「だったら、分かるまで考えてみよう。どうして?」
「それは」
「マオ?」
「知らない!」




