541-570
541【 留守番電話 】
「むしろ、契約者殿にこそ確と聞いてもらわねばならん内容だと当方なぞは思ったが」
「シオンが聞く耳持たないって事はないと思うけど」
『そうね、聞いてはくれるわ。問題は、聞き入れてくれるかどうかよ』
「そんなに面倒な話?」
「兄御殿に、当分妹御に構うなと言うたらどうなる?」
「それは難題だね」
542【 熱があるみたい 】
「人生でマオに構わなかった時期は無いだろう男だからね」
「あら、あるわよ。兄さんがあたしに構わなかった時期」
「マオが生まれる前はノーカンだから」
「そんな苦しい言い訳みたいなオチじゃないわよ」
「それは意外」
「まあ、知恵熱こじらせて倒れてたんだけど」
「屁理屈以外の何ものでもないオチ!」
543【 迷子になったら 】
『シオンったら……』
「ほら、さすがのレディも呆れてるよ」
『知恵熱になる程度の知恵は発揮してたのね』
「レディ!?」
「ね、そう思いますよね。あたし小さかったから覚えてないんですけど、びっくりですよね!」
『そうね、可愛い子』
「契約精霊と愛して已まない妹から、ヒドイ評価されてるなアイツ」
544【 あっちむいて 】
「さてそこもと等、そろそろ良いか?」
「ユンちゃん」
『そうね、小さいシオンの話はバ可愛らしくて楽しいけれど、そろそろ話を進めないといけないわね』
「レディがさりげなくバカを混ぜ込んできてる」
『シオンも聞いてちょうだい』
「もう良いのかい?」
「居ないと思ったら、いつ戻って来てたの兄さん」
545【 重ねた手のひら 】
「女性の秘密を暴くものじゃあないからね」
「兄さん、いくらユンちゃんが男か女か分からないっぽい見た目だからって」
「待ってマオ。あのさ、実はユンは女だって言われたら?」
「女性にしては声が低すぎるわね」
「見た目は?」
「そうねぇ、掌が大きすぎて不自然かしら」
「顔は?」
「お化粧映えしそう」
546【 さよならの手前 】
「ボクはユィン・チィ殿をさして女性と言ったわけではないけれどね」
「分かってるわ、冗談よ」
「ねぇ、マオ」
「何、ラン」
「ユンはちゃんと男に見えて、僕は女でも意外性がないってどういう事かな?」
「ほほう」
「セイラン、キミは女性だっ」
「それ以上言ったらお前の首だけ隔離する」
「分かった黙る」
547【 休日 】
「だってラン、キレイなんだもの」
「キレイって言われて嬉しい男は……あー、居るかも知れないけど、僕は嬉しくないからね?」
「当方、実は貶されておるのだろうか」
「別にユンちゃんがかっこよくないとは言ってないじゃない」
「じゃあユンは格好良いんだ?」
「んー、ランの方がかっこいいと思うけど」
548【 誰もいない保健室 】
「つまり、マオの中で僕は格好良い女性カテゴリに入ってるの?」
「ランってば、今日は妙に突っかかってくるわね」
「拗ねておるのだろうて」
「すねてる?」
「己のみが女子扱いされておるのが気に食わんのだろう」
「色合いのせいかしら。一人病室で眠る薄幸の美人役とか似合いそうよね、ラン」
549【 あいあい傘 】
「ああ、それは分かるな」
「でしょ?」
「しかし実際は、ヒト一人抱えてドラゴンの巣から生還できる男だがな」
「何それ気になる」
「気にしなくて良いから」
「今度詳しく教えてね」
「了解した」
「僕の前で、僕の話をする約束を勝手に交わさないでくれるかな」
「ふむ。では後程約を交わすか」
「同じだよ」
550【 こっちへおいで 】
「僕の話は良いから。今はレディとシオンの話に戻そう」
「そうね。ところで兄さん、もう喋って良いのよ?」
「ああ、静かだと思ったら。あの話題以外なら止めないよ」
「そうか、助かった。これ以上は息が持たなくてね」
「息はしなよ」
「じゃあユンちゃん」
「うむ、後程な」
「だから僕の話は止めろって」
551【 一晩だけ 】
『何から話せば良いのかしら。まず、ワタシがシオンにした質問を覚えてる?』
「死なずの森に何日居たかってアレ?」
「兄さんの話だと、入って一日で中心部まで到達しちゃってるんですよね」
『シオンは嘘を言っていないわ』
「それは別に疑ってませんけど」
「愛しい妹が信じてくれて、ボクは大変満足だ」
552【 ひとめぼれ 】
「ちょっと兄さん黙ってて」
「よしきた」
「素直だな、兄御殿」
『あの日出会ったワタシ達は契約を結んだけれど、多分ワタシじゃなくてもそれは成立した筈よ』
「精霊は、気に入った者としか契約しないって聞いてるけど」
『そうよ。だから、あの時のシオンは、精霊なら誰だって気に入っていたという事よ』
553【 ここにいるから 】
「兄さんたら、いつのまに精霊たらしに」
「待ってくれ、ボクはチェズだから契約者となったのであって、誰とでも契約を結んでいたと思われるのは心外だ!」
「今それどうでも良いから」
「セイランが冷た……いや、キミはそういう男だったな」
「失礼な。大体言い訳するなら、僕じゃなくてレディにしなよ」
554【 どこにいったの? 】
「言い訳をしなければならない事など、ボクは何一つしていない!」
「ホント話逸らすの得意なんだな、シオン」
「褒められている気がしないのだが」
「褒めてないし」
「そうか」
「そうだよ」
「ねえお姉さま。男性陣ほっといて、あたしだけに話しませんか」
『そうしたいところだけど、そうもいかないのよ』
555【 ホントは大好き 】
「契約者殿に自覚して貰う事が第一義であるからな。娘御の協力と兄御殿の自覚的行動があって初めて、どうにかこうにか対策を練れる段階になれるのではなかろうかというのが、当方と精霊殿の見解なのだがどうだろうか」
「ユンちゃんたら、何でそんなに遠いの?」
「気にするな」
『猫よ』
「ああ、このこ」
556【 ねごと 】
「結局、あたしは何をすれば良いの? 兄さんに何かを自覚させる手伝い?」
「兄御殿の行動の制限、だろうか」
「行動の?」
『避けたい事象があるのだけれど、シオンの協力が得られるかどうか』
「兄さんだって、あたしの言う事を全部聞いてくれるわけじゃないんだけど」
「娘御よ、その冗句は詰まらんぞ」
557【 優しくしないで 】
「ジョークじゃなくてただの事実よ」
「もうさ、どっかに縛りつけといたら良いんじゃない?」
「ランってば、大雑把ね」
「大雑把で済む提案なのか?」
『ダメよ!』
「え」
「お姉さま?」
『それだけはダメ』
「そうだな。特に娘御、そこもとがその計画に参戦してしまえば、特異点が定まるぞ。最悪の形でな」
558【 まるで子供 】
「マオにして欲しい事じゃなくて、しないで欲しい事があるんだ?」
「え、そうなんですかお姉さま」
『そう、ね。ええ、その通りだわ』
「それって、何ですか?」
『シオンを待たせないで欲しいの』
「待たせる?」
『待ち合わせや何かを行う約束を、一切しないで欲しいの。もちろん、解決するまでで良いわ』
559【 実はひとつだけ秘密が 】
「シオンを待たせるなって……マオに接続してきたのって、まさか」
『半分正解で、半分外れよ』
「半分……ああ、それで自覚がどうこうって」
『ええ、そうよ』
「ねえ、どういう事?」
「マオ、気付かない?」
「何を?」
「昨日の夜、マオの夢にやって来たのはシオンかもって事」
「知らないヒトだったけど」
560【 そっと抱いて 】
「それは、半分だったからだろうね」
「さっきから半分半分って、もうちょっと分かるように言ってくれないかしら」
「えーと。そうだ、マオ」
「何、ラン」
「ちょっとその仔貸して」
「虐めないでね」
「苛めないよ、レディが恐いからね」
「お姉さま?」
『それはどういう意味かしら、鳳の』
「他意は無いよ」
561【 あいあい傘 】
「さて、ここに仔猫が一匹います」
「そうね」
「この仔猫をレディの隣に置きます」
「うん?」
「マオ、目の前には何が居る?」
「お姉さまとこねこ」
「じゃあ、何の気配がする?」
「そんなの……え、お姉さまの気配しか、ない?」
「仔猫抱いてたのに、気付かなかった?」
「さっきはそんな事なかったもの」
562【 頭をなでて 】
「つまりどういう事なの?」
「分からない?」
「あたしの気配探知が間違っていないなら、このこねこはお姉さまって事になっちゃうわ」
「ん、そうだね」
「でもお姉さまはちゃんと居る」
「つまり?」
「分からないわ、そんなの。でもこれと同じ現象が、兄さんにも起こってるって事よね」
「よくできました」
563【 ひとりじゃないから 】
「こねこだけだとお姉さまの気配がなかったように、夢の誰かも兄さんの側に持ってくれば兄さんの気配と同じになる?」
「そうそう。よく分かったね」
「分かんないわよ、別にお姉さまも兄さんも欠けてないのに!」
『これから先で、分かたれる可能性があるという事よ』
「それを阻止するのが最終目的かな」
564【 まるできょうだい 】
「でもホント不思議ね。お姉さまと並ぶとそっくりだわ」
「ふむ。当方が見ても気付けなんだとは興味深い。鳥型精霊と謎の仔猫の類似性についてか。論文に出来そうな主旨だな」
『筋道立てて文章化できるほど事態を解明してくれたなら、好きにしてちょうだい』
「書いても良いのか?」
『解決した後ならね』
565【 朝起きたら隣には 】
「ねえ、ラン」
「何、マオ」
「このこねこは、お姉さまとどれくらい同じなのかしら」
「どれくらいって?」
「気配は同じだけど、ねこだし、すぐどっか行っちゃうけど、いつの間にかまた居るし」
「誰に寄って来たのかが問題かな」
「誰って?」
「本体か契約者か、或いは契約者が固執するマオかも知れない」
566【 花火のように 】
「お姉さまと兄さんとあたし。誰に寄って来てるのか、はっきりさせたいわね」
「どうして?」
「傍に居たい相手が捕まえておいた方が、どっちにとっても良いじゃない」
「なるほど」
「ランはどう思う?」
「マオかな」
「どうして?」
「最初に見付けたのも、さっきまでおとなしく抱かれてたのもマオだから」
567【 つくられた笑顔 】
「それだけ?」
「仔猫を見たレディが、まっさきに助けを求めたのがマオだから」
「そういえば、そうね」
「基本的に、本体と言動にそう大きな違いは無い筈だからね」
「夢に出て来た暫定兄さんは、兄さんっぽくなかったわよ?」
「どうしてそう思ったのか、訊いて良い?」
「分からないけど、何か違うのよ」
568【 これだけは嫌い 】
「じゃあ、その暫定シオンをどう思う?」
「どうって?」
「好きか、嫌いか」
「別にどうとも思わなかったけど」
「けど?」
「あれが兄さんなら、キライね」
「そっか」
「そうよ」
「ねえ、マオ」
「何かしら、ラン」
「向こうでシオンが、マオに嫌われたって死にそうになってるけど」
「気のせいよ」
「そっか」
569【 ウインクの行方 】
「兄御が死にそうな事態を、気の所為で済ませて良いものなのか?」
「死なないから大丈夫よ。前に一回、気持ち悪いって言ったら泣きそうになって泣かなかったもの」
「それは言い過ぎだろうと、当方思うのだが」
「じゃあユンちゃん、兄さんのウィンク受け止めてあげてね」
「ういんく?」
「超下手なのよ」
570【 立ち止った場所には 】
「当方も不得手ではあるが」
「え、ユンちゃんも花が飛ぶの?」
「否、当方は片目だけ閉じるという行為が、どうにもこうにも上手く出来んのだが……花が飛ぶ?」
「ウチの兄さんの場合はね、ウィンクすると、こう、背後にぶわわってバラかなんかが咲き乱れてそうな感じになって、気持ち悪い」
「……成程」




