511-540
511【これだけは嫌い】
「おはよ、兄さん」
「ああおはよう、ボクの愛しい妹よ」
「体調は?」
「そんな事より愛しいシャオ、キミは今ボクへの愛を語ってはいなかったかい!?」
「気のせいよ」
「ボクが愛しいキミの言葉を聞き違えるとは思えないよ」
「じゃあ、夢でも見てたのね」
「夢、何て幸せな夢だろうか」
「それで良いのか」
512【願いがかなうなら】
「ボクの愛しい妹の言葉を疑うのも愚かな話でしょう」
「そうか。当人同士が納得しておるなら、当方がこれ以上とやかく言うても意味が無い話だな」
「いえ、心配いただいて嬉しく思います」
「そうか」
「そうです」
「兄さんがまともに話してる」
「マオが関わらないシオンは前からああだよ」
「悪い夢だわ」
513【 嘘なら尚良い 】
「でもマオ。マオが居ない時でも愛しいシャオがボクの妹がって、延々あのテンションで語り続けるよりは良いんじゃない?」
「そんな状態と比較するならそりゃあ今の方が断然まともだけど、なんか論点がズレてる気がする」
「それは否定しないけどね。さて、僕も論点を戻すけど」
「何?」
「仔猫は居た?」
514【みつめるその先に】
「それが居ないのよ。ランと兄さんが戻ってくる直前まで、そこら辺に居た筈なのに」
「そう。ユン」
「そこもと等以外に出入りした気配は察知しておらんぞ」
『ワタシも気付かなかったわ』
「僕ら全員に認識されず、すり抜けて外に出た可能性は?」
「低かろうな」
「だよね」
「ラン」
「何、マオ」
「居たわ」
515【たったひとつ壊せないもの】
「ほら、あそこ」
「あれが?」
「そう。こねこ」
『何てコト』
「レディ?」
『シオン、あぁシオン』
「どうしたんだい、チェズ。落ち着いて」
『古株のが見落とす筈だわ』
「ほう?」
『ワタシが気にかけるべきだったのに!』
「チェズ!?」
『ごめんなさい、可愛い子』
「お姉さま?」
『力を貸してちょうだい』
516【君が笑うから】
「勿論ですお姉さま!」
「待ってマオ」
「何よラン、まさか助けるなって言うの?」
「そうじゃないけど、先に説明してもらうべきだよ。なぁ、シオン?」
「そう、だね。チェズ、頼めるかい?」
『シオン』
「事情が分からないままの助力は、失敗を招く。キミを助けるのに失敗しては、ボクは生涯悔いが残る」
517【 授業が終わったあとの教室 】
『ありがとう、シオン』
「礼を言われるような話じゃない。ただボクが後悔したくないだけの事だ」
「シオン、マオから自分は愛らしくないって否定されたらどう思う?」
「すまないチェズ、ボクはキミに惨い事を言ってしまった」
『ふふ』
「なんか、ごめんなさいお姉さま」
『いいえ、それでこそシオンだわ』
518【 無理しちゃって 】
「さて。精霊殿が落ち着いたらしき所で良いかな?」
「え?」
「あっ」
「こねこ!」
「明らかに話の要な上に、見失っては誰も見付ける術が無いというのに放っておかれて、当方は大変驚いた」
「ユン、よく捕まえられたな」
「逃げる素振りも無かった故な」
「そこじゃなくて」
「ラン?」
「お前、猫ダメだろ」
519【 背中を押してくれたのは 】
「でもユンちゃん、あたしや兄さんと普通に会話してるわよ?」
「猫と猫族は違うのだろう?」
「確かにそんな事言ったけど」
「そこもと等は猫ではない。故に、問題は無い」
「マオ、仔猫引き取ってやって」
「ラン?」
「さっきからユンの発言が簡潔になってる。あれ多分、相当テンパッてる」
「そういえば」
520【 恋人のつもりで 】
「何、猫ではなく猫族の幼児だと思えば問題無い」
「他人様の子供の首元をつまんでぶら下げるのかお前は」
「いくら猫族でもその持ち方はしないわね」
「そうか」
「自己暗示しなくて良いから、おとなしくマオに持ってもらいな」
「それがだな」
「ん?」
「体が動かん」
「早く言え!」
「ホントに苦手なのね」
521【 見つめていいかな 】
「さて。問題の仔猫は確保したし、ユンはほっとけば落ち着くだろうし。レディ、どう?」
『ええ、平静を取り繕える程度には落ち着いたわ』
「あんまり大丈夫に聞こえないなあ」
『大丈夫よ。ワタシのシオンは此処に居る。それが分かっていれば、大丈夫』
「うん、シオン。目を離さないでやって」
「勿論だ」
522【背が伸びた】
「できれば一晩休ませてやりたいところだけど」
『これ以上事態が悪化する前に手を打ちたいの。今話すわ』
「ふむ。契約者の在る精霊殿がこれほど狼狽えるなぞ、契約者絡みしか考えられぬのだが」
「あ、ユンちゃんも落ち着いた?」
「娘御よ。悪いが少々距離をだな」
「はいはい、こねこを離せば良いのね」
523【 一晩だけ 】
『シオン』
「何だい、チェズ」
『ひとつ、質問に答えてくれるかしら』
「ボクに答えられる問いならば」
『ありがとう。ワタシと初めて会った時を、覚えてる?』
「勿論だよ。死なずの森の日暮れ時だろう」
『あの時シオンは、あの森にどの程度滞在していたのかしら』
「ほぼ丸一日かな」
『そう。ありがとう』
524【 届かない距離にいて 】
『ワタシとシオンが出会ったのは、森の中でも限りなく中央部だったの』
「待ってください、お姉さま。死なずの森の真ん中へ一日でなんて」
『ええ。ワタシでも三日はかかるわ』
「鳥型精霊のレディで三日か。僕でも一週間は欲しいな」
「ボクは嘘など言っていないよ?」
「分かってるよ、だから問題なんだ」
525【 愛ならここに 】
『今の情報を踏まえて、今から話す事を聞いてちょうだい』
「もう結構な問題が発覚してるけど」
『本題はもっと厄介よ』
「聞くのが恐いな」
「でも聞かないわけにはいかないわ。兄さんに関する問題なんですよね、お姉さま」
『ええそうよ、可愛い子』
「ふむ。厄はこれからか被った後か。どちらだ、精霊殿」
526【 真っ赤なウソ 】
『両方ね』
「災難が複数あるって事ですかお姉さま」
『違うわ。もう起こった事であり、これから起こる事でもあるの』
「ああ、なるほど。だから死なずの森が増えたように」
『流石ね。正解よ、鳳の』
「こればっかりは外れて欲しかったよ」
『ワタシもそうあって欲しかったわ』
「二人だけで納得しないでよ」
527【 愛はここに 】
『どう説明すれば良いのかしら』
「難しいなぁ」
「説明しにくいの?」
「感覚がものを言うというか」
「鳳凰種の術行使みたいな?」
「説明が難しいって意味では、近いかも」
「じゃあ良いわ。何が起こるのか、何をすれば良いのかだけ教えて」
「マオ?」
「家族がかかってるのに、理解に時間かけたくないわ」
528【季節が変わったら】
『そこなのよね』
「レディ?」
『ワタシの目的はシオンを助けるコトで、その為には可愛い子の協力が不可欠。ここまでは確かなコトよ』
「特異点が見えておらんという事か?」
『惜しいわね』
「もしや、未だ定まっておらんのか?」
「それは良い事なの、悪い事なの?」
『両方ね。最良か最悪かの二択かしら』
529【ごはんができたよ】
「話の腰を折って悪いけれど、ひとまず食事にしないかい?」
「ホントに悪いわよ!」
「シオン、お前の話をしてるんだが」
「分かっているつもりだが、ボクの愛しい妹に食事を抜かせるわけにはいかないよ」
『そうね。食べてらっしゃい、可愛い子』
「でもお姉さま!」
『ワタシに考えをまとめる時間を頂戴』
530【みつめるその先に】
「チェズが考えても分からない事を、ボクが悩んだって仕方ないからね」
「お姉さまが解決できなかったらどうするの?」
「その時はボクががむしゃらに足掻いてみる番かな」
「楽天的なのか頼もしいのか」
「その阿呆と紙一重な性質が、精霊殿は気に入ったのだろうて」
「今まで何とかなってるのが問題よね」
531【 真実の色は? 】
「キミ達に問いたい。チェズはどう見えている?」
「鳥型精霊でしょ。キレイな紫のグラデーションのかかった」
「そこだよ、シャオ。キミが抱えている仔猫が、ボクにはチェズと同じに見える」
「つまり、毛並みが紫に見えるって事か?」
「こんなに真っ白なのに」
「僕は黒猫に見えるけど」
「え?」
「ん?」
532【 ないしょばなし 】
「やはりそうか。毛色が紫の猫など聞いた事もないから、おかしいとは思ったんだ」
「羽色が紫の鳥は良いの?」
「チェズはあくまでも精霊だからね。鳥型なだけで鳥ではないよ」
「ねえ兄さん」
「何かな、ボクの愛しい妹よ」
「父さんが連れてたあの子って」
「おや、シャオは知らなかったんだね。そうだよ」
533【 優しいのはあなたにだけ 】
「何の話?」
「あたしが言っていいか分かんないから、秘密」
「そう」
「そうよ」
「その秘密の話はまだ続きそう?」
「ううん、もう終わったわ」
「そっか。じゃあ話を戻すけど、この仔猫はレディと縁深い存在って事で間違いないかな」
「だろうね。詳しい事はやっぱりチェズに聞かないと分からないけれど」
534【 想いの果て 】
『古株の、食事は良いの?』
「当方すこぶる燃費が良くてな。当方よりも精霊殿だろう」
『アラ、心配してくれるの?』
「同輩に心を砕くのは、至極当然と思うのだが」
『ふふ』
「そこそこ調子が戻った所で、先に一つ確認しておきたいのだが」
『おそらく、正解よ』
「そうか」
『ええ。あの仔猫はワタシだわ』
535【傷ついても】
「つまり、ボクとも縁深いって事になるね」
「なるの?」
「なるさ」
「ラン、なるの?」
「なるよ」
「そっか」
「なぜ兄の言葉を信じてはくれないのかな、ボクの愛しい妹よ」
「やだ兄さん、気のせいよ」
「そうだろうか」
「うじうじするなら、ホントになるかも」
「元気だとも!」
「それで良いのか、シオン」
536【愛してた】
「ボクの愛しい妹が元気なボクが好きだと言うのに、元気であらずにどうあれと!」
「いや、お前がそれで良いなら良いけどさ」
「あたし、別に好きとは言ってないわよ」
「ボクは愛しい妹から嫌われてしまったのかい!?」
「いきなり絶望するな。思い返してみなよ、シオンを嫌いになるとも言ってないから」
537【音楽室でのひととき】
「ランはあたしの味方なの、兄さんの味方なの?」
「僕は僕の味方だけど、その二択ならマオかな」
「選んでくれて嬉しいけど、素直に喜べない選び方ね」
「そもそも選ぶ選ばないで判断するものでもないからね」
「それはそうね、ごめんなさい」
「素直でよろしい」
「ついでに兄さんの妹賛歌止めてください」
538【 胸騒ぎ 】
「それは僕には荷が重いかな」
「見捨てられた!」
「人聞き悪い事言わないの」
「夫婦と小舅の小芝居は済んだか?」
「誰が夫婦よ!」
「ユンこそ、レディとの密談は済んだのか?」
「そこで少々慌てる程度の若さも必要ではないかと当方思うのだが」
「僕の分までマオが慌ててくれるし」
「成程、一理あるな」
539【 はぐらかさないで 】
「一利もないわよ!」
「マオ、ちょっと落ち着こうか」
「落ち着いてるわよ!」
「そうかなぁ。ほら、シオンの妹の愛しさリサイタルも一段落しそうだし」
「何そのあたしにとって嫌すぎるコンサート」
「落ち着いた?」
「だから落ち着いてるわよ。ユンちゃんが何か誤魔化そうとしてる事だって分かってるし」
540【 そっと抱いて 】
「当方、特に誤魔化そうとした訳ではないのだが」
「でも、話を逸らしたわよね。ランだって、気付いててユンちゃんに乗ったんでしょ」
「後で問い詰めるつもりではあったよ」
「あたしに言えない話?」
「いや、レディがシオンに聞かせたくないのかなって」
「え?」
「ユンには言えたなら、そういう事だよ」




