第二十三話 特別な存在
地区長
「我が娘、はじめよ……お前に全てを話そう。
人工精子は髪の毛さえあれば、
誰からでも作れる。全ての女性からな。
そしてオスには絶対に不可能な事が
我々女性なら出来るのだよ。
オスが持っていなくて女性が持っている物、
それは子宮、そして卵子。つまり……」
零
「待って!!!」
地区長
「……?」
零
「…………はじめ?」
はじめ
「……いいんだ。気にするな。
母さん、続けてくれよ」
地区長
「……一人で子供を産みたいと望んだ女性の
髪の毛から人工精子を作り、
その女性の卵子を摘出し、体外受精させ
その女性の子宮に戻し、着床させる。
これで一人でも妊娠できるわけだ。
一人の女性の人工精子と卵子から出来た子供。
医学的にはその人の双子になるだろうな。
もう一人の自分を育てるのだ。さぞかし
かわいい事であろう」
零
「……はじめ……大丈夫?」
はじめ
「……母さん、私は……
母さんの人工精子と、母さんの卵子で産まれた、
母さんの……双子?」
地区長
「そういう事だな」
はじめ
「……なんで、なんで私を産んだの?……」
地区長
「そうだな、大切な事を話そう。
だがその前にお前達に話しておこう。
このウーマン地区の設立の真実を」
零
「?……」
地区長
「ここは楽園だの何だの、良いように
区民を洗脳してはいるが、実際の所は
楽園ではなく、監獄なのだよ」
零
「どういう事?」
地区長
「この地区を日本で最初に発案したのは、
女性ではなく、オスだったのだ」
零
「!?うそ?」
はじめ
「!?本当か?」
地区長
「私も先代の地区長から役職を受け継いだ時に
極秘に教えてもらった。その時は
失望したものだ。今のお前達と同じようにな。
その当時、日本国内で女性達の
差別反対運動が過熱して行った。
政府が考えたのは、反抗する女性達を
隔離してしまおうという計画だったのだ。
表向きは女性を差別から守る為、
まるで女性達が主導してこの地区を
造っているかのように世間に印象操作し、
女性達の自発的なコミュニティのように
思わせた。すると地区が設立するなり
オスに反抗的な女性達が
続々と吸い込まれて行ったそうだ。
零よ、考えてみろ。外から来たお前なら
わかるだろう?厳格な日本と言う国で
自治区と言う独立国のような場所が
簡単に設立されるなど、不自然だと思わんか?」
零
「た、確かに」(そういえば、ここに来る前
この地区が簡単に出来た事がひっかかるって
課長に話したら、
その話は考えなくてもいいだろうって
濁されたような……)
地区長
「ここは女性の楽園だと謳っているが、
実際には、口うるさい一部の『メス』達を
一カ所に閉じ込める為の監獄だったのだよ。
これが真実だ」
強制執行員
「地区長、その話は本当なのですか?」
地区長
「どうした?執行員よ。
お前もよく聞いておくが良い。
全て本当だ。これがこの地区の真実なのだよ」
零
「それを知っていながらずっと隠してたのね」
地区長
「ああそうだ。区民の為と思ってな。
そして私は先代からこの真実を聞いた時、
外の世界、我々を閉じ込めた外の世界の奴らを
見返してやりたいと思ったのだ。
日本より我々が経済的にも社会的にも
成長すれば、日本がこの地区に頭を下げる時が
来るのではないかと思い、成長の為に
新たな産業を計画したのだ。
先程の双子を産む話に戻ろう。
私は双子を産む研究を立ち上げた。
全く同じDNAを持つ双子を産む研究をな。
だが受精の段階で遺伝子のシャッフルのような
現象が必ず起きるのだ。
そこで研究チームが考えたのが受精卵の選別だ。
複数の受精卵を作りその中から
DNAが100%一致する受精卵を選び
子宮に着床させる。これでようやく
完全なる双子が出来るのだよ」
零
「……な、なんでそんなに
双子とかDNAにこだわるの?」
地区長
「DNAが完全に一致する双子なら、
臓器移植しても拒絶反応が出ないのだ。
この方法ならクローンよりも
ずっと安価に、高い成功率で
完全な双子を生み出せる。
私が考えた新たな産業は、
拒絶反応の出ない
スペアボディービジネスなのだよ。
……我が娘はじめよ。全く出来の悪い
親不孝娘になってしまったな。
素直に私の後を継げば良かったものを。
お前には私の役職を継承させるつもりだったが
……もうよい。
はじめ。お前は今話したスペアボディーの
研究で産まれた最初の成功体だったのだ。
お前の研究内での呼び名は、
実験体一号。お前の名はそこから取ったのだよ。
一 (はじめ)。
お前は世界でただ一人の、実験に成功した、
特別な存在なのだ」
はじめ
「・・・・・・・・・・
!……あ、あの時……」
“貴方は、この世界でたった一人の、
特別な存在なのよ はじめ……”
つづく




