第二話 オス
課長
「零君よ、出発の前に確認しておきたい。
君はあのウーマン地区をどれだけ知ってるかね」
零
「はい、今から50年程前に女性達が
差別に反対して女性だけの街を作ろうとして
出来た地区だったと思います。
東京湾を埋め立てて出来た巨大な人工島で、
周囲は壁に囲まれ、日本と繋がるのは
一本の国道のみですね。
建築や物流などの重労働はロボットを使って
街を運営していったと記憶してます。
あとは、入居希望者の女性を常に外から募集して
人が死んだらまた入居者が来て、いわゆる
ところてん方式で人口を保ってると、
そう聞いたんですが」
課長
「うむ、良いだろう。そこまでわかってるなら」
零
「そういえば、一つ気になる事がありますね」
課長
「ん?何だね、捜査の為に不安材料は
解消してから潜入した方がいい。言ってくれ」
零
「では遠慮なく。厳格な法治国家である
この国で、そんな簡単に自治区が出来るのが
昔から引っかかってました。
そういえば課長は、あの地区が出来た時の事を
リアルタイムで見てたんじゃないですか?」
課長
「ま、まあそうだな。あの時は女性達の
反対運動が凄かったんだよ。まあ、その話は
考えなくてもいいだろう。
それと、昨日の赤い服の少女を
ここで保護してるんだ。君から出来るだけ
あの少女に話を聞いて地区の内部事情を
聞いてから潜入するといい。では行こうか」
零
「……わかりました」
零は課長に案内され、赤い服の少女を
保護している部屋に入り少女と対面した。
零
「こんにちは、お嬢ちゃん」
少女
「え?こ、こんにちは」
零
「かわいいお嬢ちゃんね、お名前は?」
少女
「アリスって言うの。お姉ちゃんは?」
零
「アリス、いい名前ね。貴方に合ってるわ」
アリス
「……ねえ、お姉ちゃんの名前は?」
零
「ああ、私は十零っていうのよ」
アリス
「つなし、れい? 珍しい名前ね」
零
「よく言われるわ。ねえ、アリスちゃん
なんであの地区から逃げて来たの?」
アリス
「お母さんに叱られて逃げて来たの。
地区の外にはオスがいっぱいいるから
危険なんだけど、我慢できなかったの」
零
「え?……オス?」
アリス
「うんオス。地区の外にはオスって言う
低い変な声で、臭くて毛むくじゃらの
化け物がうろついてるから地区の外には
出ちゃダメなの。お姉ちゃん知らないの?」
零
「……えっと、それはお母さんが言ってるの?」
アリス
「うん。ていうか皆言ってるよ?
学校でも習ったし。
ねえ、昨日から口の周りに毛が生えてる変なのが
いっぱい居るんだけど、あいつらがオスなの?
低い変な声だし。
でも、この辺りのオスは大人しいオスなのかな?
言葉も通じるし、ちゃんと躾けてるの?
エサは毎日あげてるの?何食べさせてるの?」
零
「…………。
え、ええっと、その、とりあえず、
そのオスって言うのやめよっか?」
アリス
「なんで?オスはオスだよ?
お姉ちゃん変なのー」
零
「ええっと……ほ、他にも聞きたい事が
あるのよね。ウーマン地区には
女しか居ないのよね?」
アリス
「そうだよ。壁で囲まれてるから
オスは入って来れないの。それに
ロボットさんやドローンさんがいつも
オスが入って来ないか見張ってくれてるんだよ」
零
「そ、その……子供に聞くのもあれなんだけど、
どうやって赤ちゃんが産まれてるのかな?」
アリス
「お姉ちゃんなんにも知らないんだねー。
教えてあげるね、人は大人になって
子供が欲しいっと思ったら天子様に導かれるの。
それで天使の塔に行って天子様のお許しを得たら
赤ちゃんを授かるんだよ。
お姉ちゃん学校で習わなかった?」
零
「その天使の塔って何?」
アリス
「天子様が降りて来るでっかーい塔だよ。
ねえお姉ちゃん、私も聞いていいかな?」
零
「え?ええ、いいわよ、何が聞きたいの?」
アリス
「地区の外の人は天使の塔が無いのに
どうやって赤ちゃん作ってるの?」
零
「お姉ちゃん急用思い出しちゃったー!
じゃーねー」
零は走って部屋を出てすぐドアを閉めた。
外で待ってた課長が話しかける。
課長
「どうだった?」
零
「吐きそうです」
課長
「どないしたんや?」
零
「なんで関西弁なんですか!」
課長
「おお、そうだな。で、何か分かったか?
捜査に役立つ事を知れたか?」
零
「……分かった事は、地区内では相当な
男性への差別や迫害が常識化していて、
それを学校でも子供に教えてると言う事、
それと、妊娠には天使の塔と言う
でかい塔が関わってる事。それ位ですね」
課長
「うーん、それだけか。念の為潜入捜査の前に
もう一度あの少女に聞きに行くか?」
零
「すぐ行きましょう!今すぐ行きましょう!」
課長
「お、相変わらず仕事熱心だのう」
零
「そうなんですよハイ行きましょー!」
課長
「よし、ではこれを持って行くと良い。
こちらで用意したスマホだ。
これにインストールした通話アプリで通話すれば
あの地区の中からでも互いに電話できる。
だが通信すればそれだけ探知されるリスクも
増えるから、重要な事だけ連絡するように」
零
「了解しました」
アリスの話の時点でも地区内の異常さは
明らかだった。
(一体中で何が起きてるの?それに
あの子が言ってる天使の塔の話、
どうも不気味だわ。思ったより大変な
捜査になるかも知れないわね)
零は思った。
たった一人、頼れるものは居ない、
何が起こるかわからない。それでも、
不安に足を止められるよりも強く
好奇心に背中を押され、
ウーマン地区新規入居希望者専用
シャトルバス乗り場へと零は向かった。
つづく
「え、えっと……高評価とか、あと、
ブックマークとか……して下さい。
お、お願いします」




