2ー2
深夜。母さんに毛布を一枚出してもらって、モヨコとコタロウに床で一緒に眠ってもらった。
二匹はすでに眠っているようだけど、僕はキャロルに会った高揚感で寝付けないでいた。
あんなに強気に見えたのに、なんの権利もないとさめざめと泣く彼女を、励ましてあげることができなかった。
それどころか、治癒力を使わせて危険な目にあわせてしまったかもしれない。
キャロルがヒーラーなのは、ほんの一握りの人間しか知らないという。
もしかしたらタケルは、そのせいで殺されてしまったのかもしれない。
だとしたら僕は?
僕もいつかは殺されてしまうのだろうか?
つらつらと考えを流しているうちに、獣のものと思える咆哮が響いてきた。
「魔獣?」
つばを飲んで窓際のカーテンを開ける。
重々しい足音が、僕の耳を貫く。
両親に知らせるべきだろうか?
それとも、放っておけばどこかに行くかもしれない。
後者を選んだ僕は、息を呑んで窓の向こうの魔獣を見張った。
闇の中でも一層の黒さを引き立てる毛並みと、胸元の白い三日月が熊の魔獣だと判別できる。
どうか、よそに行って。
そう思ったところで、不謹慎なことに気がついた。
それって、ほかの誰かを襲えと言っているようなものだからだ。
だけど、じゃあ僕になにができる?
剣なんて使ったことがないし、弓なんてとんでもない。
僕にできることは、ただ少しだけ手先が器用なのと、魚釣りが上手だってことくらいしかない。
そんな特技、熊退治になんてとてもじゃないけど役立たない。
やがて、熊の咆哮がうちに向かってきた。
なぜ?
やっぱり、僕を殺そうとしているのか?
でも、なんのために?
この熊をうまいことやっつけることができたとしても、タケルはもう戻ってこない。
そもそも、タケルの死に魔獣が絡んでいたかどうかもはっきりしない。
漠然と川で溺れただけだと聞いたけれど、ウサギ族のタケルが自分から川に飛び込むことは考えつかない。
さらに、足音は重厚に響いてうちに近づいてくる。
「……ミャッ!」
その時ふと、モヨコがひと鳴きした。
そして、僕に窓を開けるよう前足でちょいちょいと促す。
「そんな、あぶないよ? ダチョウでも猫でも、熊には敵わないよ?」
それでもモヨコは開けろと言う。
僕は思い切って窓を開けた。モヨコはすぐに外に飛び出し、僕は魔獣と目があった。
怖い。モヨコ、逃げるなら今だよ?
怖くて声も出せない僕の腕を、たくましい足が踏みつけた。
「え? コタロウ?」
そこには立派な唸りをあげていた。僕の知らない大人のライオンは、たてがみをなびかせて窓から出て行った。
そして、外ではモヨコがいたはずの場所に、大人の|白豹はくひょう》が佇んでいた。
つづく




