1ー4
「待ちなさいっ!!」
わたしの後を、お母様がついてきて腕をつかまれた。
「勝手な真似は許しませんよっ!!」
「どうしてそこまで言われなくちゃいけないの? だってこれは、わたしの人生なのよ。わたしが王様にならなくたっていいじゃない」
お母様は手に力を込めた。綺麗にネイルした爪が、わたしの腕に刺さる。
「それは平民の言い草です。あなたは王族であり、皇位継承権があるの。そして、これはきちんと言っておかなくちゃならないわね」
お母様は一度息を整えた後、つづけた。
「あなたは女なの。女は男の言うことは絶対に守らなければならないの。そしてあなたは王族の一人でもある。王様であるお父様の言葉を無碍にすることは国家反逆罪になるわよ」
「そんなの勝手すぎるわっ」
わたしの手をつかむ力がますます強くなり、痛みとなって胸に響いてくる。
「そんなにオオカミ男がいいなら愛人にすればいいのよ。そうすれば、すべてがおさまるわ」
「お母様。そんなのひどすぎるわ。わたしはゼロスを愛人にするつもりはないの。なんなら誰とも結婚しない。ヘイトとなんてまっぴらごめんだわ」
パシッとわたしの頬をお母様の手のひらがぶった。鈍い痛みが頬に走る。
「わがままもほどほどになさい。名前だけの結婚でもいいと言っているの。ヘイトが嫌だとか、そんな次元で話をしているわけじゃないわ。いい? これは決定事項なのよ」
決定事項。
その言葉を聞いた瞬間、自分の無力さを感じた。
抵抗する気力がなくなって、母の胸に抱きとめられる。
わたし、まるで赤ちゃんみたい。なにもできないなんて。
「あなたはよくやっているわ、キャロル。だけど、少しだけ言動に注意して欲しいだけ。わかるわね?」
「……はい」
ライオンも森に捨てていらっしゃいとも言われた。
「城内でライオンを見つけたら、殺処分しろとお父様に言われているの。そういうことだから、面倒ごとはセバスチャンに頼むといいわ」
「そんな……」
まだ小さなコタロウを手放すとなると、目に涙が浮かんできた。
「どの道、猛獣が城の中にいるだけで気が滅入るってものよ。ついでにオオカミ男のこともわすれておしまいなさい」
これに答える言葉は出てこなかった。
ただ、なんの決定権もない自分がみじめでしかたなかった。
間もなく、セバスチャンが合流して、コタロウの処遇についてお母様から話が伝わった。
「いい? 今日中にライオンを城外に放すのよ?」
「承知しました」
セバスチャンは鋭い視線をわたしに投げてくる。
反論はゆるさないといった表情だ。
わたしは、ゼロスだけじゃなく、コタロウまで失ってしまうの?
つづく




