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第七章 雪乃男装する

今回は新たな登場人物が出てきます。そして久しぶりなお姉ちゃんも登場します!(ちょっとだけど)

少しいつもよりも長いけど、呼んでみてくださいねぇ〜!

※今回ほむはるコンビは残念ながら出て来ません

 —部屋に着いたはいいが…この状況は一体何なんでしょうか?


『…妹にあってくる。お前はぜっっったい出てくるなよ?どんなに見たくてもだ』


 ちょっとこっそりのぞきに行こうと思っていたのに、それをすべてふさがれ、私は悲しくうなだれた。


「…えー」

『…だめ』


 くっ…絶対見に行ってやるぅっ!


『…じゃあ行ってくるから。護衛兼見張り兼メイドを置いてくから。大人しくしてくれよ…?』

「わぁぁぁっ!ええっ…かわいいぃぃぃぃっ」


 おそろしく可愛らしいケモミミのおどおどとした女の子に飛びつく雪乃。


『大人し…』

「きゃぁぁっ、かわいいぃぃ!触っていい?ねえ触っていい?」

『…か、構いませんが…』

「きゃーーっ!やったぁぁぁっ♪ふわふわぁ」


 人の話を聞かずにケモミミを撫でまわしまくる雪乃はあきらめ、ノエルはドアを閉めて妹の元へ向かっていった。


「ひゃぁぁぁ。きれーっ!…かわいすぎるぅっ…」


 悶絶しながらもふもふなでる雪乃にしっぽをあっちへこっちへ世話しなく振るメイド。


「あ、ねぇ君、名前は?」

『え、ぼくですか?ば、化け狐(ばけきつね)のた、空弧(くうこ)です』


 ケモミミ&ぼくっこだぁぁぁぁっ!!!!


 かわいいかわいい名前もかわいいと可愛いを連発する雪乃に、空弧は、嬉しそうにしっぽを振るも、ふと思い出したかのかのように、顔を暗くする。


「どうしたの?体調悪い?ごめんね」

『あ、いえ。…少し、悲しいことが、あったばかりで』


 悲しいこと?この落ち込みよう、自分に関わることだったのね。


「…ねぇ、教えてくれない?なにがあったのか。雪姉が解決してあげましょう!」


 にぱーっと任せろ!と笑顔で言いながら筋肉を見せると、彼女は笑って、すっかり暗かった顔を上げた。


『雪姉、面白いかたですね。…実は』


 ある日学校の寮に、化け狐の片割れと一緒に帰ろうと歩いている所で、その片割れが黒い何かに連れ去られた。その黒い何かは片割れを包み込み、そのままどこかへ消えてしまった。


 …片割れってことは、二人で一つの精霊なのね。双子なのかな。


「双子なのね…それは、大変ね。よし!雪姉にできないことはないわぁっ!その双子の片割れ、連れ帰って見せましょう!」

『…え…』

『よろしいんですか…?』

「もちろん!ノエルには幸音に会いに行ってはいけないだけで、外に出ちゃいけないわけじゃないもの」

『いや、外に行く方が危ないのでは…?』


 細かいことは気にせず~♪と鼻歌を歌いながら、秋の精霊様からもらったシマエナガちゃんにこっそり薬を塗ってもらい、すっかり熱(・)以(・)外(・)は(・)良くなった雪乃は、空弧を軽々と抱き上げた。


『ええっ!?今から行くんです!?』

「そりゃそーでしょ?はいはい、バレる前に行きますよー」


 彼女は笑って、ありがとうございますと言った。

 そうとなればだ。まぁ、窓から行くのが一番楽だろう。…近い所で権能を使うと即バレるのでこの余りまくってる身体能力を駆使して向かう。


 ノエルが帰ってきたときにバレるのが厄介なので、氷でよく私とくうに似た人形を作りだし、寝台に置く。


 もしや、これを使えば、着替えてるていで鯉様の所にまで行けちゃうのでは!?

 我ながらナイスアイディア。そうしよう。


 ふむふむと一人考えながら窓を開けて窓の前に立つと、空弧を抱え直す。


『…やさしいですね。幸音様の妹様とよく似ていらっしゃる』


 思わずずっこけて窓から外に落ちそうになるが、何とかもちなおす。


「ゆき…っ?んん゛っ。氷の依代様と似てるの?私がぁ…?」

『ええ。幸音様も雪姉様と同じくぼくの片割れ、天狐の事を心配し、絶対見つけるからと言ってくださったんです。…これはここだけの話なのですが、幸音様も妹を探しているって。自分が離れたせいであの子は怪我して、行方不明だって。つらいよねと。…なんだかそのお話されていた幸音様の妹に雪姉様が似ている気がして…』


 幸音が、心配してる?あぁでも今帰ってもどうにもならない。自分は自分のやるべきことをやって、悔いの残らず、幸せになってから死ぬ。あ、でも幸せの時間はもうたくさんもらったからなぁ、欲張りはよくない。やらなくちゃいけないことをやってから、死ねばいい。あぁ、それでいい、それがいい。


『雪姉さま…?』

「あっ、ごめん。じゃあいこっか」


 そう言って私は今の今まで考えていたことを自分の頭の片隅に置いたまま、窓から空弧たちの通っていた学園へと向かっていく。氷の権能を使うわけにはいかないので、自慢の身体能力を使って木を渡って学園へと行く。そんな時、その真相を明かすため、雪乃の姉がこっそりその学園へと向かっていることも知らずに。



「ねえ、綿雪。雪乃、探そうね」

『……ずっと、ずっと探してるんです。そしてあくまで綿雪は雪乃様に言われたから契約して守っているだけです。…でも、ちょっと自分の意思で守ってやらなくもないです』


 幸音は一瞬きょとんとしたが、頬をほんのり赤く染めてそっぽ向いて、ツンデレな事を言う綿雪がやっぱり好きだなぁーと思う。


 そして同時に、雪乃をうらやましくも思った。こんなに優しくて忠誠心の熱い部下がいて、うらやましいなと。自分の身を案じてくれる人がいていいねと。幸音は、幸音も幸せだと周りに思われがちだが、そんなことはなかった。家族は最悪だし、周りも周りだ。


 幸音は雪乃と同じく、母が大好きだった。父も好きだった。みんなで楽しく遊ぶ時間も、雪乃と二人でいたずらをして叱られる時間も、すべて、すべて、愛おしかった。幸せだった。

 

 けれどもそんな大きくて小さい優しい幸せは、母の死と共に消えることとなる。

 優しくてあったかい母は妹をかばって死に。父は母がいなくなったことで狂乱し、共にいて妹の代わりに死んだ母を愛していたからこそ、実の娘である妹をすごく、すごく罵った。氷の城下の中でも上位の家だった幸雪家は、上位の家というのが災いし、今まで妹をかわいがってくれていた人たちも、全員誰もが父と同じように妹を罵った。何度も何度も罵った。そして妹が氷の依代に選ばれた時は心の底から全員が嫌悪した。依代たちは超自然的に選ばれる。それも、条件がそろっていれば、神様はどうでもいい事は簡単に決めてしまうから。妹はそんな、そんな神様の事情で選ばれてしまった。


「ねぇおねえちゃん。なんでこの魔法みたいな力が、世界で両手で数えるほどしか授けられている人間がいないと思う?」


 妹はそれを何回も私に聞いて、何回も途中で秘密といって、話を区切った。

 私は知らないんだ。そう思った。そして書物を調べると、妹がずっと私に質問してきた意味がわかった。


 昔々あるところに、幼い幼い神様たちがいました。そしてその神様たちは、とある世界に自分たちの力の一部を分け与え、全員が暮らしやすくなるようにしました。


 しばらくの年月、彼らは頑張ってその力を使いこなし、楽に暮らしをしていきました。

 そんな時。ある小さな喧嘩から、大きな戦争が起こってしまったのです。そんな時人々は、あくまで『暮らしやすくするために』と、授けられた、生活のための魔法を、人を殺すのに使い始めたのです。戦争にもその魔法は使用されていきました。


 神様たちは慌てて人間たちから自分たちの与えた力を奪い返しました。

 けれども神様の力にたよりきりだった彼らは、戦争をやめたはいいものの、暮らしがどんどん大変になっていきました。失態を犯した民たちにもう一度力を与えるわけにもいかない。けれどもこのままだと全員死んでしまう。そう思った神様たちは、ある四人の者に自分の力を分け与えることにしました。

 そのものたちは丁重に選ばれ、ある条件を満たせば力を与えることにしたのです。けれどもあまり多くの者には与えられない。だから自分たち四属性の魔法をそれぞれ一人ずつに託すことにした。


 でもその条件は、自分よりも他人を思いやり、自分を捨てられる優しい人間。だった。


 幸音は絶句した。何度も何度も何度も雪乃が私に言っていたのは、母の代わりに私が幸音を。って思っていたからだ。同時に、悲しそうに言う姿は、自分の未来をあきらめている何よりの証拠だった。


 でもそう気付いたときはもうすでに妹は自分の近くにはいなかった。今も生きながらえてはいるものの、誰かにつかまったのかもしれない。


「私は、妹に向き合うのが遅かったのね」

『そりゃそうに決まってるです。馬鹿してたのは幸音です』

「ずいぶんな言われようだなぁ…」

『へこたれてる仮にも主に元気になってほしいけなげな精霊ですが?』

「自分で言う?けなげて…」


 ふふっ、と今まで悲しそうな顔をしていた幸音は、やっと嬉しそうに笑ったのだった。


 そう心配されている当の本人は久しぶりに体を動かせることにるんるんで、この事件に首を突っ込んでいる。…これからまだいまだに後悔して、会いたいとせがむ幸音に、神様が最大のご褒美をくれることなどつゆ知らず。


「ねーーーーーーー」

『なっ、なんでしょ、うか…』


 急にねーーーーーーーーと言われるもんだから身構えていると、雪乃の目線が前に向く。

 それにつられて自分も目線を上げると、そこには昔自分の片割れと共に学んだ学舎があった。


「ひえー!いいなぁ、こんなにきれいな場所で学べるなんてぇっ!!うらやましい以外の何物でもない…私はそもそも学校行ってないけど…」

『えぇっ!?学校行かれてないんですか!?え、じゃあその知識とかって…』

「やーねー。私の厳しいごえ…んん゛っ。お姉ちゃんが叩き込んだんよ。こっわいよーうちの姉」

『…ですね…僕の姉も怖いです。ってか厳しいんです…』

「ねー。姉ってなんか怖いよねぇ」


 二人がくすくすと笑いあっていると、学舎で笑いながら歩く生徒たちの姿が見えた。

 そして制服で寮へと入っていく生徒たちを眺めながら、空狐は懐かしげに目を細めた。


「…学生は、楽しそう、ですね」

「そーね…私は別に学校行かなくてもお姉ちゃんが居たから寂しくないけど、友達とかできるともっと楽しいかもしれないね」


 雪乃は誰にも聞こえない小さな声で、「私はきっとどこに行っても友達なんて…」と呟いた。虚しくもその声は誰にも拾われることもなく地面に落ちたが、雪乃は自分の立場をよくわかっていた。


 氷城雪乃は氷の依代。神の使いとも言えるが、あくまで依代。この世界の人々が難なく暮らせるようにその力を分け与えられた存在。神様がその者に宿るかのように、炎雷風氷の依代たちは情に熱い。だからこそ、その時の心によって左右される依代の権能に、多くの依代たちは頭を悩ませた。簒奪者に襲われた時、心が乱れて権能が暴走して依代もろとも死んでしまう事件が多々あった。けれども中城の総本部は動かなかった。というよりかは城下の長たちが止めた。


ーすぐに次の代わり誕生するから何回死んでも構わないだろう?


と。城下の長たちは恐ろしいほどの権力を持つ。権力というよりも、総本部内に自分たちに情報を流してくれるスパイを多く送り込んでいるため、総本部のみにしか伝えられてえいない情報まで筒抜けという事件で事態が事態なので権力に強い城下の長たちが相手に勝手に行動できず、総本部がうまく機能できていない。


それによりいつまでもこの事件は解決できておらず、今最長で生き残っているのが私、氷の依代である氷城雪乃が、炎雷風氷の依代の中で実質一番位が高い。だからどうこうしようとかっていう考えはは雪乃には一切ないんだけれど。


 けれども氷の依代は攻撃に長けており、人々に加護を与えるときは刃物や、水、冷蔵庫などへ加護を施す。

 攻撃に長けている分一番死ぬ確率が高いのだが、雪乃は氷と相性がいいようで、しぶとく生きて力の使い方もよく分かっている。そもそもが死んでもいいかなと思いながら生きているので、自己防衛用に権能を使うことが全然ないから生き残っているというのもある。死にたい奴ほどしぶとく生きる。世の中はその者に世界の苦しさを教えると共に、世界の優しさと生きる楽しさも同時に教えてくる。


 急にそんなことをグルグルと考えていたも、生徒たちが消えて、学舎に侵入することができそうになると、空狐を抱えたまま空いている窓から簡単に学舎に侵入する。


「ありゃぁ。結構簡単に侵入できちゃったけど、ここのセキュリティ大丈夫かなぁ。あ、そもそも天狐がいなくなった時点でここのセキュリティゴミか」

『うわぁ、ひどい言われよう…でも正論言ってるんですよね』


 大爆笑しながら引いてる空狐を小突いてから、まず現在地がどこなのかを確認する。


「んー。本当にここどこなんだろうねぇ…地図とかないの?」

『すっ、すいませんっ!僕が通ってた頃からは随分経っているので校舎が変わっちゃったぽいんです…』

「そっかぁぁぁ…ま、仕方ないよねぇ……あっ!空狐、あそこ、あれ使えるんじゃない!?」


 そう言って雪乃が指差した先にあったのは、この学校の制服らしきものだ。


『あっ、本当ですね!ナイスです雪姉!これ着ましょう』


 たまたま制服のある部屋に潜り込めたため、雪乃たちは着替えた。…それぞれ。


「おわーっ!!何これかっこよ!…ここの学校の生徒が羨ましい…」

『そうですね…ってえ!?何してるんですか!??』


 雪乃の格好に驚いて声を上げた空狐に静かに!と雪乃も声を上げた。


『いや、何してるんですかっ?それ男用の服ですけどっ』

「そだねー。今日だけ私男になるわぁ…一回着てみたかったんよねぇ」

『いやだめ…でも似合ってるから勿体無いですね…侍女としては』

「うんうん…でしょ?じゃあ今から男になって2人で堂々侵入しちゃおっか♪」


 ウキウキしながら言う主人に空狐は天狐が消えた犯人は雪乃によってえらい事にされるだろうと言う恐ろしい考えが頭をよぎるも、怖すぎて考えを放棄して、主人のこの淑女ならぬ格好を仕方なく、本当に、本当に不本意だが仕方なく、この超男装の似合う主人に免じて、仕方なくこの格好を受け入れ、天狐が消えた事件の手がかりを掴みにとりあえず部屋を出る。


『…なんかすごいですね、これ』

「え?あぁ、すごいよねえ、廊下が豪華だよなぁ」

『ちっがいますよ!男装が似合いすぎててすごいってことです!』

「えぇ…?なんか、ありがとう?」


 そんな会話をしていたからか、周りを歩いていた上級生に笑われてしまった。

 バレてないですね…だな…と言う会話をしながら廊下を歩く。


 すると廊下の曲がり角に地図を見つけ、地図に向かって一直線に2人して走っていく。

『すごい変わってますねぇ…僕が通っていた頃とは全然違います』

「うーん…一回工事したのかもなぁ。僕もその辺は情報来てないしわかんないけど、まぁ、これで教頭室に問い詰めに行きましょっかぁぁ」


 にっこりと腹黒い笑みで微笑むと、空狐、他の男子生徒までもがゾッとしたのもまた御愛嬌。


「さぁさぁいくよーー!!!!」

『廊下で大声出しちゃダメですよっ』

「…あっ、ごめんなさい…」


 周りに必死にペコペコしながら教頭室へと急ぐ。

 すると教頭らしき人に怒られている1人の女子生徒を見つける。


「あのーっ。教頭先生ですかね。すいませーん。ちょぉっと聞きたいことあるんでいいですかあ?」


 うわ、ザ・ヤクザだー。


 と、見るもしくは聞いていた人たちは内心思っていたことでしょう。

 まぁ、中身は可愛い可愛い方なんですけど。ヤクザなんて向かなー


 誰にも何も言わず天狐を助けるために木などを伝って最速力で走る令嬢が?

 空狐はそんなことを考え、ちょっと笑いながら言った。

『いや、思いっきり向いてますね、ヤクザ…』

「はい!?ちょおっと空狐は黙ってて」


 まじでキレられそうになって空狐はその口を閉じ、黙って行方を見守る。


 なんかキレられちゃったよ…しかも名前改名されてる!?うぅ…本当のことを言っただけです。


 と、言いたくも、ちょいキレしてる彼女に今言っても逆効果であることをわかっているのか、スーンとちょっと笑いそうになりながら待っている。


「何かね?…見ない顔だが、君、名前は?」


 あからさまに疑いの目を向けられる雪乃。けれどもそんなことは日常茶飯事だったため、彼女はにっこりと笑顔で返し、思いっきり偽名で名をを名乗った。


「氷木雪です〜!編入してきたんですよー。んで?女の子が泣くまで説教って、この子は何をしたんです?」


 恐ろしいオーラを醸し出しながらまたも腹黒笑みを浮かべる。

 けれどもそのオーラに気づいていないのか、教頭は流暢に喋りは始めた。そのづれた桂から除く見事なツルペカなはげ頭を晒していることにも気づかずに。


「はっ、この小娘は我が校はバイトが禁止と言っているのにバイトをしておってなあ。叱っておったんだ」

「それはっ…うちは貧しいから、働かなくては飢えてしまうからっ…」

「うるさい!今私はこ(・)の(・)男(・)と話している!黙っておれ!!」


 女の子はさらに怒鳴られたのが怖かったのか、すっかり萎縮してしまっている。


「あーりゃりゃ。すっかり怖がっちゃってるじゃあないですかあー。もしかしてこの子、何人も兄弟がいて養うためにバイトしてるんじゃないですか?それも何人もいるなら何個も掛け持ちで夜中まで。目の下にある隈が何よりの証拠じゃないです?」


「な、なんでわかって…?そうなんです、うち実は5人兄弟で…両親が亡くなって長女の私しか働ける人がいないから…生活費とか学校費を稼ぐのに精一杯で…」


 変わらず教頭に叱られてうるんでいる瞳を雪乃に向けながら彼女は言った。


「な…!」


「ね?全てあんたの勘違いだよ。あんたが勘違いして怒ったこの放課後の時間すらも彼女と彼女の家族にとっては毒になる。つまりあんたはこれから生きていくためのお金を稼ぐ彼女の貴重な時間を無駄にしたんだよ。大袈裟にっていうか事実だけど、あんたは彼女と彼女の家族を殺そうとしているんだよ」


 そう言うと教頭は青ざめて尻餅をついた。


「そんなあんたに教師や生徒たちと向き合えるとは思わないねえ。あんたに教師も教頭も向かないよ、幼稚園生からしっかりやり直してきなよね。このハゲつるぴっかーん元教頭!!」


「はっ、ハゲッ…」


 瞬間、全員が揃いに揃って吹き出した。


 さっきまで目を潤ませ、震えていた少女でさえももう今はお腹を抱えて思いっきり笑っている。


 もちろん隅っこで空狐も思いっきり爆笑。主人を笑うとはどういうことじゃボケェ!と突っ込みたいところだが、我慢我慢。


「んん゛っ。というわけで、自分から退職して違う仕事に就くことをお勧めするよ。キミはわた…僕と一緒にちょっと来てくれる?相談があるんだ。もちろんキミが不益だと思ったならついてこず、そのままバイトに行くなり帰るなりしていいよ」


 優しく雪乃が微笑みかけると、彼女は少し考えてから、挑戦的な瞳を雪乃と空狐に向けた。


『…ちょっと、どうするんです、これ…彼女になんの相談を…』


「いいから黙ってついて来て。私たちにとっても悪い話じゃないから」


『はぁ…まあいいですけど、教頭詰めて情報聞き出すんじゃないんですか…』


「ああ、それなら多分…」


「すごい!!あの鬼教頭を木っ端微塵にするなんて!!」


「私たち、すごく困っていたんです、生徒たちのためにも、我々教師のためにも!!」


「ありがとうございましたっ!!お礼をさせてください!!」


 ダダダダ走ってそんなことを言いながら詰め寄ってくる教師陣らに空狐はドン引き。雪乃は氷の依代であるためこういうのは慣れているので、冷静に対応し、情報を着々と聞き出していく。しかもこのパーフェクト人間、感謝を忘れず教師陣らにこれから好いてもらえるように配慮しながらやっている。過去のこと以外では最強人間である雪乃。それにさらにドン引きしてる空狐と、そんな素晴らしい配慮と情報の抜き出しの速さに感心し、手を叩きながらキラキラした目を向けている少女。全くの正反対の反応である。



「ご協力ありがとうございました!すごく助かったし、勉強になりました。次もまた頼る機会があればよろしくお願いしますね、皆さん」


「ええ!!もちろんですッ!!!!」


 おいおいおい、まるでファンクラブじゃないですか…あなた一体何者のなんですか…


 きゃあー!さすがです!すごいすごい!尊敬しまくりです!いろんな人から好かれて、こんなに頭が回るなんてっ…羨ましいにも程がッ…いえ、尊敬どれだけさせるんですか!!ああっもう大好きです!妹たちにも一刻も早く紹介したい!語りたい!自慢したい!!


 心の声まで正反対な2人であった…


「さっ、じゃあ教師方、このハゲつるぴっかん元教頭の処理は頼んだよ」


「りょかいです!!」


 元気の良い返事が返って来て、雪乃と少女、空狐は相談をするために鍵のかかる中の見えない部屋を貸してもらい、入っていった。


「キミは一緒にくる?どうする?」


 ゆったりと微笑みかけると頬を赤く染めながらも、色良い返事が返ってきた。


「よっ、喜んでっ、いっ、いいいいかせてもらいます!」


 こちらも大丈夫そうだ。それじゃあ。


「レッツラゴー!」



 ─と、いうわけで。何も考えずにただただ突っ走ってしまった雪乃たち3人は。


 無事に、この広すぎる学園の中で迷子になりましたーっ(誇)(拍手)


「ま、そんな冗談は置いといてー」


「マジでやばくない?この状況…」


「「同意」」


「いや、もうちょっといい反応ないの、キミたち…」


『この永遠に続く廊下彷徨ってたらそりゃいい反応もできないんじゃないです?ぼくは少なくともできないですけど…え、ぼくが異常なだけ!?』


「大丈夫です、私もそれが言いたかったので…どっちかっていうとこの状況で取り乱さず、なんなら楽しんじゃってるくらいのこのひとがおかしいんだと思います…っていうかお二人ともお名前なんていうんですか?こんな状況でなんですけど」


「いやほんとこの状況でだね…私は雪姉とでも名乗っておこっかな。雪姉ちゃんでも雪姉でも雪姉さんでもいいよー!いやぁ、美女に名前で呼んでもらえるって幸せだよね。なんでこんなに私の周りって美男美女ばっかりなんだろうかあ…いやあ、羨ましい羨ましい」


「え?美男美女?雪姉さん?」


「やだ嬉しすぎるっ!!くっ、眩しい!!美女の力恐ろしやぁっ!!」


 1人悶えている雪乃を横目に、ちょっと今の状況にビビりながら彼女も自己紹介をした…


「え、えと…まっちゃです抹茶。あのちょっと古風の緑色のお茶の名前です。一応氷の里で生まれてはいますが、今は里をでて、こちらで暮らしていますよ」


 ─氷の里の者。


 鼓動が早い。氷の里にいい思い出などそうそうない。少しはあるかもしれないが、そう簡単に出てくるものではない。


 違うだろう、彼女は。抹茶は、お前が思っているような人物ではないのでしょう?


 そうだ。彼女は氷の里の人間たちじゃない。落ち着け、落ち着け。


 ─落ち着け。


「そ、うなんだぁ。抹茶、おーいしぃ」


 知らぬ間に迫ってきていた刺客に、空狐と抹茶が気付き、声を上げる。


「雪ねー」


 けれどもその声は雪乃には届かず、雪乃は動かなかった。─この時までは。


 次の瞬間雪乃は大きく足を振り上げ、そこから大きなハンドスプリングを刺客に決めた。


 足ぐせが悪い雪乃はさらにもう一発首の後ろを思い切りけりどばした。蹴り飛ばされた刺客は抹茶の横を勢いよく通り過ぎ、そのままどこかにぶつかった。


「よねッ」


「一匹一丁上がりぃっ♪」


 うわぁ…うちの主はバケモノだったっぽいです…怒らせちゃ絶対ダメなタイプの人間だこの人…ぼくもう怖い…


 え…?え、さっき雪姉さんに刃物持ったヤツが迫っていっていたのよね?え、そうよね?私の真横を通り過ぎたの刃物持ったやつよね?雪姉さんに迫っていってた…


 ─絶対怒らせないようにしよう…この肝がすわりまくった、化け物じみた雪姉さんを…一体何者なんだこの人…


 と、満場一致の回答を導き出した2人であった。


「あー、そうそう!言い忘れてたけどここ精霊術で無限の廊下を歩く幻惑にかけられてるから気をつけてねー。しかも刺客も次々襲ってくるからさぁ、下手したらもう二度と現実に戻れないかもしれないから気を引き締めてねー」


 笑顔を絶やさずルンルンで歩きながらサラッと命に関わることを言ってのける雪乃はやはり…っていうか経験者は違う…


 そしてやっぱりここ3人の空気感が雪乃周りだけが明るい。他2人の周りの空気は凍りついて…


 なかった。


「そういうことははぁヤァくぅいうべきではないんですか!?」


「…こ、こここわがらせちゃうかと思って…」


『逆にここまで進んできた時点でアウトですよ!!ていうかわかってて入って来たんですか!?何してるんですかっ!!』


「…で、ででも…天狐の魔力で作られてるんだよぉぉぉここの無限廊下ぁぁ」


 嵐の如く問い詰められた雪乃は、怯えながらも質問に答えていった。


「天狐様の…?あの、学園の守り神である天狐様の魔力ですって…?」


『天狐の…魔力で作られた、廊下…?』


 2人は息を飲み、周りを見渡した。そして空狐が廊下に触れた瞬間。廊下は終わりを告げ、前方に光が灯った。


 3人は突如現れた無限廊下の終わりに向けて駆けていった。


 そして廊下から出ると、そこは光の通らない澱んだ森の中だった。


 そんな澱んだ森の中に佇んでいたのは、一匹の九つの尾を持った黒狐だった。


「…天狐…」


 ゆっくりと息を吸い、そこから出た名前は、学園の守り神と言われている天空狐(テンクウコ)の片割れ、天狐だった。





次回につづく⭐︎

いえーい!今回も無事終わりましたぁ!(ゼンッゼンこれから大事なところだけど)


今回はボクっこメイドの双子の片割れを助けるためにこっそり抜け出して学園行って男装したら美少女が教頭に怒られていたところを助けてぇ無限廊下で迷ってぇ抜け出せたかと思ったら黒く染まった天狐が現れちゃったよっとぉ…(ゼェゼェ)


と、はいまぁ息継ぎが苦しかったよーと(なんの意味もない会話)


まあ冗談とかなんとかはこのくらいにして…


みなさんにお楽しみいただけましたか?

色々と大変なことに巻き込まれる雪乃ですが、その情の深さから、きっとこれからも人を助ける人となることでしょう。他の子たちも一生懸命がんばっていきますので、これからもよろしくお願いします!

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