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第二章 初依代会議

 —あれから二日。

 二日間かけてやっと中城についた。しかも、今は10時。集合時間が少し過ぎている。

「やばいよ、雪乃!集合時間過ぎちゃってる。ほら、走って!」

 めちゃくちゃ焦っている幸音とは反対に少しの遅刻くらいどうってことないと思っている私はのろのろと走る。のろのろ走っていると、幸音がそれに気づいて、手を引っ張って走ってくれる。

 会議室について、幸音がドアを開けると、もうすでに炎雷風氷の依代が私たち以外全員そろっていた。

「すいません、遅れてしまって。私は氷の依代の護衛官です。」

「早く座ってください。それでは、氷の依代様方から自己紹介をお願いいたします。」

 と総本部長に言われて、私と幸音は椅子の前に立って軽い自己紹介をする。

「私は氷の依代の護衛官、氷城幸音と言います。よろしくお願いします。」

 幸音は自己紹介を終えた後、こちらをちらっとみて、自己紹介しろと目で言ってくる。

「氷の依代、氷城雪乃ですー。仲良くしてくださいねぇ」

「ありがとうございました。次、炎の依代様方よろしくお願いいたします。」

 総本部長に言われて立ち上がったのは、私の隣に座っている幸音と同じくらいの年の薄い赤の髪に桜色の瞳の男の人と、護衛官と思われる同じく幸音と同じくらいの年の、オレンジの髪のオールバックに、レモン色の瞳の男の人だった。オールバックの人が先に自己紹介をする。

「炎の依代の護衛官の赤井薫(あかいかおる)です。よろしくお願いします」

 ちょっとこわめな見た目とは裏腹に、とてもフレンドリーそうな人だった。

「炎の依代、炎城焔(えんじょうほむら)だ。…よろしく」

 こっちはよく見たらピアスしてるし、なんか不良っぽい感じがめっちゃしている…

 こわ…

「ありがとうございました。次、雷の依代様方よろしくお願いします。」

 次に立ち上がったのは、ふわふわハーフツイン(ハーフアップツインテ)金髪金目の女の子と、後ろで高い一本結びにしている、黒い髪にオレンジ色の瞳が特徴的な女の子だ。依代と思われる女の子が先に自己紹介をする。

「…護衛官の雷影葉月(らいえいはづき)だ。こちらは雷の代行者、雷城雷華(らいじょうらいか)様であらせられる!」

 まさかの依代だと思っていた子の方が護衛官だった。そして葉月ちゃんの隣に立っているふわふわした女の子が、雷の依代だった。

「えと。か、雷の依代、雷城雷華です。よ、よろしくお願いしますっ」

 ぺこりと勢い良く頭を下げるとともに、二つに結んであるハーフアップも一緒に落ちてくる。

 ウサギみたいでかわいいなぁ。

 と、ほのぼの思っているところで、最後の依代の自己紹介が始まる。

「ありがとうございました。最後、風の依代様方、よろしくお願いいたします」

「は~い!」

 そう言って手を挙げながら立ち上がったのは、まだ幼いツインテールにしたくるくるした薄い緑の髪と透き通った白い瞳の女の子とほぼ確定で護衛官のこげ茶の真ん中で分けた髪に緑茶のような深い緑の瞳をした私と同じくらいの男の子だった。

「護衛官の風鈴朔夜(ふうりんさくや)だ。こちらは…」

「はーいっ、かぜのよりしろの、ふうじょうさやか(風城颯花)ですっ!!よろしくおねがいしますっ」

 ちょこんっと、かわいらしいツインテールを揺らしながら、手を挙げて朔夜様の声を遮って元気に自己紹介したのは、風の依代でありながらまだたったの8歳という颯花ちゃんだ。

 朔夜様はよく言えました、と言いながら颯花ちゃんのあたまをなでる。

「皆様、ありがとうございました。それでは、依代会議を、只今から本格的に始めさせていただきます」

 総本部長がそう言って立ち上がり、モニターに地図を映し出す。

 映された地図には沢山の✖印が付いていた。

「みてみて、さくや!あれ、うさぎさんみたいじゃない?」

 地図に書かれた沢山の✖印をみて颯花が言った。

 それに朔夜様は…

「そうですね。…どちらかというと猫じゃないですかね?」

 そんなことないよーうさぎだよー、と二人は笑って地図を見ていた。


 …ん?これって結構深刻な事態ですよね?なんかあそこだけお花畑が見えるんですけど…?


 依代会議に参加している風の依代たち以外の全員の思考が分かった気がするわ…

 いまだにきゃっきゃと楽しそうにおしゃべりをしている二人をほほえましく思いながらも、他の者たちは何とか颯花ちゃんの「いっしょにさがそうよ」攻撃に耐え、風城の護衛たちは攻撃に何とかぎり耐えたものの、颯花ちゃんの笑顔に当てられ、胸に手を当ててて倒れ込んでるもの、血を吐いているものなど…

 重傷者多数…颯花ちゃん、オソルベシ…

「じゃなく!この✖って、信じたくはないんだけど、もしかして…」

 私がそういうと、それぞれ色のついた✖を見ながら総本部長が、恐ろしい事実を平然と言った。

「そうですね。氷の依代様がお察しの通り、この✖印は加護の影響を受けていない地域です。それに加えてなぜか生息地が海のはず魚たちが、陸地の湖に移動している、湖が大きくなっているという現象が起きています。…指揮を取っているのはおそらく神の使いである、鯉かと思われています。そのため—」

「この現象二つを一気に片づけてしまいたから力を貸せ、ということですね」

 炎の護衛官、薫様が総本部長の続きを述べる。

 結果を述べた後、総本部長は誰がどこに行くか決めておいてくださいを言って一人会議室を後にした。

「と、いうことは。私達炎雷風氷の依代が二つに分かれて片づけることになるわけだ」

「…我々に全部丸投げして出て行ったということは、初めて会った俺たちをまとめて決めるのがめんどくさくなったという所だろう」

「そうですね。どうしますか?皆様はどちらに行きたいとかっていうのはございますか?」

 さっきまでお花畑で遊んでいた風の依代たちも、真剣な顔つきになって参加していた。

「じゃー、鯉様に事情を聴きに行きたい人ー」

「「「雪乃様がいいと思う」います」」

「…うーんやっぱりそうだよね、なかなか決まんないよねー。…って、私!?」

「いやいやいや、推薦じゃなくて、行きたいひとだって!」

 幸音も少し考えてから、私の方に勢いよく振り向いた。

「私も雪乃が一番いいと思うわ。あなた、()()()()()()()()()()()()()ずば抜けてるし」

「なによりもまあ、万が一を考えて、炎雷風氷の依代の中でも強い人が行くべきね。雪乃の身体能力とその氷の力は常人離れしてるんだから」

「いや、依代の中に基準なんて存在するの!?」

 他の人たちも全員首を全力で縦に振る。

 最後の追い打ちに颯花ちゃんが小首を傾げて、

「颯花、雪乃様の活躍みたいなぁ~!」

 ときらきらした目で言われて、仕方なく私が行くことになった。

「…氷だけで行くのは危ない。俺たち炎も行こう」

「…え。でも、危な…」

「わぁ、それはいいですね!颯花様、依代の中での強さツートップが行くんですって。写真撮ってきてもらいましょうか」

「しゃしん?やったぁ~!!颯花、しゃしん見るの、楽しみですっ」

 私の講義の声を遮って雷華様が上手く颯花様を誘導した。

 ぐぬぬぬっ…

「それでは、鯉様にお話を聞き行かれるのは氷の依代様・炎の依代様。✖印解決は、風の依代様・我々、雷の代行者が行きます。決まりでよろしいでしょうか」

「「「「異議なし」」」ですっ」

「ううぅ」

 一人で行くならまだしも、鯉様のもとに行くということは、何があるかわからない。

 はっ、、、今夜抜け出して一人で行けばいんじゃぁ…

「…雪乃。一人で夜中に抜け出して行こう、だなんて考えてないよね?」

「いやぁ?一人でこっそり行ってすぐ帰ってこようとは思っただけ」

「…一人で抜け出して行くことには変わりないじゃないの…」

 まあ、でも本当に今回の行く場所は危ない。だからこそ、一人で行って帰ってきたいのである。

「今回行く場所は、生と死の狭間の湖。鯉の中の長はそこに居る。…あの鯉は、来たものを試してから話を聞くと言うわ。それも—」

「鯉様が放った試練を乗り越えれば話を聞いていただけて、鯉様試練を乗り越えられなければ、死ぬという、自分の行動一つで生きるか死ぬかが決まる、残酷なものです。」

 幸音の続きを颯花ちゃんが言う。

「…なんで、それを、颯花ちゃんが、知っているの?」

 幸音が颯花ちゃんに聞くと、颯花ちゃんは俯いて言った。

「…過去に、鯉様に話を聞きに行って、失敗した風配属の者を知っていらっしゃるでしょうか。…その人はっ。颯花の、お父様、でしたの」

 ひゅっ、と私ののどが変な音を立てる。

 隣に座っている幸音も、顔を青くして座っている。

 颯花ちゃんは泣き出してしまい、朔夜様が優しく颯花ちゃんの背中をさする。

 幸音はぼーっと、顔を青くしたまま、ゆっくりと立ち上がって深く頭を下げた。

「もう、しわけ、ございませんでした、颯花様。…辛い過去を思い出させてしまって、本当に、申し訳、ございません。」

 泣きながら颯花ちゃんは、大丈夫です、こちらこそごめんなさいと、幸音に頭を上げるように言った。幸音は顔を上げて、すとんと椅子に座ると、俯いたまま何も言わなくなった。

 異様な雰囲気が漂うとき、そんな沈黙を破ったのは、以外にも焔様だった。

「さて。もういいだろう?我々がともに必ず行く。それで終わりだ。これで初回、依代会議を終わる。解散!」

 私たちと炎の依代を除いた依代たちが、会議室から出て行った。

 なぜか他の人たちが出て行ってもなお、顔を上げない幸音に私は声を掛ける。

「お姉ちゃん…?」

 声を掛けても、まるで幸音は反応しない。

 私が肩をつかんで揺らしても、まるで反応しない。

 不思議に思って幸音の顔を覗き込むと、幸音は壊れた人形のようにどこか違うところを見ていた。

「お姉ちゃん!しっかりして!幸音!」

「…どうした?」

 焔様たちが駆け寄ってきて、焔様たちに幸音がおかしいことを言う。

「…多分、颯花ちゃんのお父様の話が、原因なんじゃないかなって。…私達が母様を亡くしているのはしっているでしょ?」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 母様は―

「雪乃様!雪乃!!」

 はっ、と気が付いた時、焔様が私の肩をつかんで必死に揺らしてくれていた。

「…ごめん。私がしっかりしなくちゃいけないのに」

「幸音様は俺がどうにかしましょう。護衛官同士、話をしてみたいこともありましたからね」

「でもっ、お姉ちゃんは、今―っ」

 そっと肩を、焔様につかまれる。

「安心しろ。薫は結構相談役にはうってつけだぞ。お前の姉ちゃんも元気になって帰ってくる」

「…薫様。お姉ちゃんを、幸音を、よろしくお願いします」

「お任せください。幸音様を、元気にして帰ってきますね」

 笑顔で幸音をお姫様抱っこして会議室を後にした薫様を見送って、私たちも外へ出る。

「…少し、話をしないか」

 焔様に誘われ、私たちは個室のカフェに入る。

 焔様はコーヒー、私はカフェオレを頼んで、席に着く。

「…大丈夫か?」

「え?」

 急に大丈夫かと聞かれ、腑抜けた声を出した私に構わず焔様は話を続ける。

「…母を亡くしたのはお前もだろう。顔が真っ青だぞ。ゾンビ並みだ」

「ゾンビってなによー。ひどいなぁ」

 あははと笑ったものの、焔様には無理して笑ったのが分かったようで、眉を寄せて言った。

「薫とまではいかないが、話を聞いてやる。結構聞き役上手いぞ。遠慮なく話せ。」

 あまりにも自信満々にいうものだから、私は噴き出して笑った。そして、ゆっくりと母の死の時の事を話し始めた。


「幸音。…どうした。話聞くぞ。雪乃様が心配していたぞ」

「雪、乃が…?雪乃は、どこ…?」

 私は雪乃を心配させてしまった事に罪悪感を覚え、寝ていた体を起こして周りを見回した。

「雪乃様も幸音も顔色真っ青でびっくりしたぞ。雪乃様の事は焔が見ているから大丈夫だ。少し、話をしよう」

「…謝らないと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私、なんで雪乃の前で取り乱しちゃったんだろう…」

「それは、どういうことだ…?」

 私はゆっくりと深呼吸をした後に、母の死と、雪乃がそれを自分のせいだと思っていることの理由を、少しずつ話した。


「母様が亡くなった日、母様と私は、一緒に花見に行ったの。桜を見ながら一緒にお団子を食べていた時…簒奪者に襲われた。母様の護衛官が一緒に来ていて、母様と護衛官は二人で戦っていた。でも」

「私が気を抜いていたせいで、私が人質に取られてしまった。私が人質に取られたせいで二人は下手に動くことができなかった。簒奪者が母様たちに要求したのは、母様の死だった」

 そこで私一旦深呼吸をして、話を続けた。

「護衛官は必至に止めたけれど、母様は娘を助けるためならと、自らの手で、あの世へ行った。その後簒奪者は私を離して、証拠としての写真を撮って帰って行った。護衛官は母様の昔からの幼馴染で、とても仲が良かった。母様が死んでしまって気が狂ったのか、彼女は私を責め立て、銃を向けた。それで私はボロボロになり、やっとの思いで里に帰って、私は「人殺し」と言われるようになった。私が母様の代わりに死ねばよかったのに。それでも、神様は私を次の氷の依代に選んだ。母様を殺した私に。お姉ちゃんがずっと私に気を使って母様の事を言わなかったのはわかってた。だからこそ、私は早くこの世を去りたかった。でも、それだと次の依代にお姉ちゃんが選ばれた時、お姉ちゃんは命の危険とずっと隣合わせになる。」

「私はお姉ちゃんから母様も、幸せも奪ったんだ。それでもたった一人のお姉ちゃんだから死んでほしくない。今までの依代の仕事は、いつも一人でこっそり抜け出してやっていた。お姉ちゃんの命の危険がないように。なのにっ…今回の仕事は、お姉ちゃんも行かなくちゃいけない。もちろん焔様たちも。死ぬ危険があるのは私だけでいい。他の人を巻き込まなくていい。死ぬんだったら、お姉ちゃんに負荷がかからないようにしてから死ぬ。それでいい。…私は、一人で行く。」

 私が一人で行くというと、話を聞いて青ざめている焔様が席を立って私の隣に座り、肩をつかむ。

「それは、だめだ…!危険なんだぞ!?命が、死ぬ可能性があるんだぞ!?そんなの…」

 涙が出そうでも、私は笑って言った。

「私はっ、母様を死なせた。この命は母様の命の犠牲の上に成り立っている。…それなら、それならっ、母様からもらった命は、お姉ちゃんのために、使うの!私の幸せなんて望まないから…っ。それで死ねるなら本望だもん。…私という荷物がなくなって、お姉ちゃんはきっと解放される。私はお姉ちゃんに幸せに自由に生きてほしい。私なんかに、囚われないでほしいのっ」

 焔様は私は強く抱きしめた。強く、強く。

「…そうか。でもな。せっかく母ちゃんにもらったんだから、自分の幸せのためにも使えよ。そのために、お前の母ちゃんは自分の命を手放してまで、お前に幸せになってほしかったんだよ、生きてほしかったんだよ。だから、自分が死ねばよかったなんて言うな。自分の命を大切に生きろ」

 私は自分が生きていていい、幸せになっていいと言われて、我慢していた涙腺が崩壊し、私の目から涙が止めどなく溢れた。


「雪乃は私をいつも仕事に連れて行かなかった。…誰も。決まって次の日の朝に雪乃はボロボロになって帰ってくる。なんで連れて行かないの、護衛官なのにと言っても、雪乃は笑って、私のせいでお姉ちゃんの自由奪っちゃったんだもん。これくらい、私一人でどうってことないよ。って言うんです。でも、私が雪乃の部屋の前を通りかかった時、泣き声が聞こえたんです。ドアに耳を近づけると、母様、幸音、ごめん、ごめんって、ずっと謝りながら泣いてた。私は雪乃になにも言えなかった。雪乃は、自分が母様を殺したって思っているから」

「…幸音、雪乃様は—」

 ()()()()

 薫様の言葉がそこで途切れ、爆発音が響く。

「っ、雪乃っ!!」

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