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83 フーリアの不安

 余っていたアイスクリームミックスを温めたお茶に入れて飲んだら、すごく甘くて美味しかったです。ちょっと飲みすぎてしまいました。カロリーが…。

【大陸歴1415年9月21日 朝】


〈十四郎視点〉


 俺が「拠点をもっと発展させたい」と皆に相談した会議。


 それがひと段落したころだった。


 皆がほっと一息ついていると、フーリアちゃんが控えめに手を上げた。


「あの、ひとつ心配なことがあります。」


 ん? どうした?


 ユーリィに聞き返してもらうと、フーリアちゃんは部屋の出口に視線を向けた。






「最近、鳥がすごく増えていますよね。」


 確かにその通り。最近、正確にはタカキビが収穫期を迎える少し前から、鳥たちがものすごく増えている。


 今、このときも、ハニワ防衛隊が動くカカシとして、絶賛防衛中だ。


 でも、それで何か困ったことがあるのかな?


「はい。鳥が増えるということは、それを狙う魔獣も増えるということです。サリハーネ村でも、収穫期にはよく、周辺に魔獣が出現していましたから。」


 彼女の言葉で、和やかだった空気が少しだけ引き締まった。


 豊かさは、同時に危険も呼び寄せるってことか。


 まったく、この世界ゲームの作者、性格が悪いぜ。






「ですから、防衛も強化した方がいいと思います。さっき、トゥンジャイが提案した見張り塔を効果的に活用するためにも、外壁を巡回する仕組みを提案します。」


 真剣な表情のフーリアちゃん。でも、ユミナさんとサラさんは、懸念のある表情をしている。


 理由は単純。今この拠点に、それだけの仕組みを維持する人員が不足しているからだ。


 フーリアちゃんも、そのことは十分理解している。


 それでもあえて、この提案をしたのは、それだけ危険度が高いと判断したからだろう。






 今でもある程度、ハゲワシやスナザメたちによる警戒網が出来ている。


 でも、彼らは異変を察知することはできるが、どんなものが近づいているかまでは、知らせてくれないんだよね。


 ナビさんは、領地に十数mくらい接近してからでないと、警報を鳴らしてくれないし。


 どうしても対応は後手に回ってしまいがちだ。






 しかし、見張り塔はまだしも、外壁上の警備となると、空の魔獣に襲われる危険もある。


 戦う力を持たない女性や子どもたちを配置することは出来ない。


 これは、困ったな・・・。


「主様。そのことについて、ひとつ、ご提案があります。」


 ん? どうしたパトラ?


「ぜひ、私の新しい分身体をお使いください。」






 今、俺の隣で通訳をしてくれている彼女の分身体は、身長190cmの黒騎士姿。槍と盾を持つ戦闘特化型だ。


 今でも、拠点の防衛に協力してもらって、すごく助かっている。


 でも、新しい分身体?


 そう言えば、前に「より強力な分身体を作れるようになった」って話していたっけ。


「はい。マールの剣技、オリーの弓術を観察した結果、現在の形態では、この拠点内における対応の幅が狭いと判断しました。」


 ふむふむ、つまり?


「この拠点は人間のために最適化されています。よって私は、より人間に近い汎用形態をとることにしました。」


 ずいぶん理屈っぽい言い方だけど、要するに「人間サイズの便利ボディにしました」ってことか。


 パトラは自分で観察した結果を元に、環境に合わせて進化しようとしてるらしい。


 これは、彼女の知性によるものか。それとも、適者生存の本能によるものなのだろうか。


 どっちにしても、すごいけど。






「それはすごく助かるよ。ありがとうパトラ。今の話、俺から改めて、ユーリィたちに伝えておく。」


「ありがとうございます、主様。実はすでに一体、新しい分身体をそちらに向かわせているのです。ぜひ、ご覧になって判断してください。」


 俺はユーリィに頼んで、皆にパトラが外壁の防衛任務を担当してくれることを伝えた。


 念話の使える彼女なら、発見したものをほぼノータイムで俺に知らせてくれる。


 拠点の防御体制は、一気に強固なものになるはずだ。


 ユーリィの説明を聞いた皆はそれをとても喜び、口々にパトラに感謝を伝えた。


 最初は魔獣であるパトラを警戒していた皆だけど、今はもうすっかり仲間の一員として受け入れてくれている。






 程なく、俺たちの前に現れた新しいパトラは、まるで別人だった。


 身長は二周りほど小さくなって160cmほど。黒い金属の肌を持つ女性型アンドロイドのような姿をしている。


 額の触覚も、小さな角のような2つの突起に変わり、手足の指にあった鉤爪も無くなっている。


 人間の道具を使いやすいように進化したと彼女が言った通り、しなやかに動く5本の手指。


 重々しい騎士ではなく、静かな守り手って感じだ。


 人間の姿に近づいたことで、皆もより親しみを感じているようだ。






「これが新しい分身体です。全体的に小さくなった分、外骨格の密度を上げて、防御力を増してあります。」


 彼女は人間そっくりの仕草で、小さく首をかしげた。


「もし気に入っていただけたのでしたら、20体ほどそちらに向かわせます。いかがでしょうか?」


「もちろん気に入ったよ。でも、そんなに一気に兵士を減らして、巣の防衛は大丈夫なのか?」


「ご心配いただきありがとうございます。主様の御力が増した影響で、むしろ分身体の数は以前より増えています。巣の規模も拡張し、生産力が向上しましたので。ご安心ください。」


 「分かった。本当にありがとうパトラ。これで施設の整備と防衛を一緒に進められるよ。」


 パトラの有能さには、本当に助けられてばかりだ。






 もちろん、彼女だけじゃない。拠点の皆も、何も知らない俺のことを支えてくれている。


 よし、絶対にこの拠点を発展させるぞ!


 そして、いつか現実リアルに戻った時、美南と友里に自慢するんだ。俺の作った街と仲間たちはすごいだろうって。


 胸の奥が熱くなるのを感じながら、俺はパトラの周りに集まる皆の様子をじっと見守った。






 その日の午後、休息を終えた皆にも協力してもらい、俺はさっそく施設建設に取り掛かった。


 まず完成したのは、畑と広場の間に作った大きな穀物倉庫。続いてその隣りにある粉挽き場だ。


 2つともどんな形にしたらよいか、俺にはさっぱり分からない。


 だから、ユミナさんたちにアドバイスしてもらいながら、少しずつ修正を加えていった。






 出来上がった建物の周りにはハニワ防衛隊を配置する。


 彼らは昼夜休むことなく、忠実に命令をこなしてくれる。これなら害鳥・害獣対策もバッチリだ。


 一定間隔に整列したハニワたちは、コミカルな動きで建物の周りを巡回する。


 子どもたちはそれを見て大はしゃぎ。


「がんばれ、ハニワさーん!」


 ・・心なしか、ハニワたちの動きがいつもよりキビキビしている気がする。


 もしかして、声援でやる気が上がってるのか?






 気づけば、もう日が傾き始めている。


 慣れない作業だっただけに、思った以上に時間がかかってしまった。


 続いて、外壁の四隅に立つ石の見張り塔。


 でも、ここで問題発生。外壁の上に配置する緑の立方体の数が足りない!


 俺の領地を広げるためには、この立方体を配置する必要がある。


 そして、俺の建築アイコンは、この立方体が配置された場所でしか使うことが出来ない。


 見張り塔は外壁の『外側の空間』に張り出す形になるから、まず領地として認識させないと建設できないのだ。


 どうしよう、これ。配置済みの立方体を、一時的に動かすことって出来ないのかな?






『迷宮領域の再編集には、1領域あたり100DPが必要です。実行しますか?』


 おっ! なんかナビさんが反応してる!


 もしかしていけるのか?


 俺が「YES」と返事をすると、俺の視界内にある緑の立方体が、薄い光を放ち始めた。


 試しにその中の1つに意識を向けてみると、自由に動かせることが分かった!


 やった。さすがはナビさん、頼りになるぜ!!


 拠点内に配置済みの立方体を8つ動かして、外壁の四隅に2つずつ積み上げる。


 ステータスを確認すると、mpが800も減っていた。


 どうやら立方体ひとつの移動で100mpかかるらしい。結構エグいな。


 よほどのことがない限り、立方体の再配置はしないほうがよさそうだ。





 

「よし、できた!」


 出来上がった塔を見上げて、俺は満足げに頷いた。


 もちろん、球体の身体をした俺には首がないから、あくまで自分でそう感じただけだ。


 実際は小さく球体が揺れるくらい。


「すごく高いですね、御使い様!」


 ユーリィが感心した声をあげる。


 出来上がった見張り塔の高さは10mほど。


 10mの外壁の上に立っているので、地上からだと20mほどの高さになる。ビル6〜7階分に相当する高さだな。


 これなら周囲を一望できる。我ながら立派な出来だ。






「一番に登ってもいいですか、御使い様!?」


 トゥンジャイくんがうれしそうに目を輝かせる。


 いいけど、落ちるなよ?


「やった!」


 トゥンジャイくんが勢いよく階段を駆け上がっていく。


「あっ、待ちなさいよ! 一番はあたしでしょ!」


 リナが慌てて彼の後を追った。


 やれやれ、男の子って本当に高いところが大好きだよね。


 俺はユーリィ、パトラを連れ、フーリアちゃんや他の子どもたちと一緒にゆっくりと階段を昇っていった。






 そのときだった。


「御使い様!!」


 塔の上から、トゥンジャイくんの声が響く。


 ただのはしゃぎ声じゃない。


 ユーリィは俺を腕に抱えると、飛ぶような速さで階段を駆け上がった。


「一体どうしたの!?」


「ユーリィおねえちゃん! 空に、大きな鳥みたいなのがいるよ! ほら、あそこ!!」


 その言葉に、遅れて上がってきたフーリアちゃんがハッと表情を変えた。






「まさか……!」


 目を凝らさなくては見えないほど、遠くの空を旋回する影。


 この距離でもハッキリと分かる特徴的な翼と4つの足。鳥ではない。明らかに何か別のものだ。


 見張り塔の高さがなければ、きっと気づけなかっただろう。


 澄み切った夕焼けを背景に浮き上がったその黒い姿を見て、フーリアちゃんはポツリと呟いた。


鷲獅子グリフォン・・! どうしてこんなところに・・・!?」


「御使い様、あれ!!」


 その下の砂丘に見え隠れする小さな三角の影。


 間違いない。あれは船の帆だ。


 船は拠点と並行するように進んでいる。


 砂丘が視界を遮っているから、拠点に気が付いていないようだ。


「追われている。あのままじゃじきに追いつかれます!」


 フーリアちゃんの声が震える。


 子どもたちは不安そうに俺を見上げていた。






 ・・・どうする?


 あの船にどんな者たちが乗っているか、分からない。


 もしかしたら、あのバグラのような奴かもしれない。


 まだ、距離は遠い。拠点の安全を考えれば見捨てるべきだろう。でも。


 俺は子どもたちの方に目を向けた。


 真っ直ぐにこちらを見上げる純粋な瞳。


 もし、あの船に乗っているのが、この子たちみたいな子どもだったら?


 俺はこの後、絶対に自分を許すことができないだろう。


「・・・助けよう。」


 俺の言葉に、ユーリィが静かに頷いた。


「御使い様なら、きっとそうおっしゃるだろうと思っていました。」


 ユーリィの言葉を聞いた子どもたちが、ぱあっと顔を輝かせる。


 ゆっくりと夕闇が迫る中、困難な救出作戦の幕は、こうして切って落とされたのだった。



種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:11


総DP:37560

獲得DP/日:25830

消費DP/日:24500



蟻人アントノイド:オールパーパスユニット】

種族:人型魔獣族

属性:土属性

召喚コスト:1200DP

保有スキル:〈熱耐性〉〈酸耐性〉〈昆虫種魅了〉〈武器・道具使用スキル獲得〉

汎用戦士型のアントノイド。ファイターの変異種である。身長は160cm程。武器や道具の使用を前提に進化した個体で、女性型アンドロイドのような外見をしている。身体が小さくなった分、外骨格の密度が増し、金属鎧程度の強度となった。学習・習熟によって新たな武器・道具使用のスキルを獲得することが可能。その分、それまで生得的に持っていた槍使用のスキルが使えなくなっている。また、形態の変化に伴い、腹部にあった剣状副腕も消失している。そのため、素体の状態ではファイターに比べて、戦闘力が低下している。

お読みいただき、ありがとうございました。

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