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81 初めての収穫作業 前編

 今回は人物紹介回です。お話的にはほぼ進んで無いですね。あと何話かは、こんな感じのお話が続きそうです。

【大陸歴1415年9月20日 早朝】


〈十四郎視点〉


 乾いた風が畑を渡るたび、ざわざわと巨大な葉が揺れる。


 まるで黄金色の大波が押し寄せてくるような迫力だ。


「ずいぶんデカくなったなあ。」


「はい、御使い様。ようやくここまで大きくなりました。」


 畑の縁に立ったユーリィと俺は、見上げるほど大きいタカキビをじっくりと見つめた。






 ハニワ防衛隊を生み出してから、6日後。


 数ヶ月前に撒いたタカキビがついに収穫の時を迎えた。


 今日は拠点の住民総出で、タカキビの穂の刈り取りを行うことになっている。


 成長したタカキビは本来3m近くにもなる。


 ただし多くが風で倒されてしまっているため、立った状態での穂の高さは実際には2mほどだ。


 それでもかなり高いけどな。






 大人の女性2人が中心となり、鎌を使って、タカキビの茎を根本から切っていく。


 ちなみにこの鎌は、この畑作りが始まってすぐ、クワなどと一緒に俺がアイテム創造アイコンで作り出したものだ。


 ナビさん謹製だけあって、なかなか鋭く、使い勝手も抜群である。


 成長したタカキビの茎は、直径が3cmほどもある。見た目は木の枝みたいで、かなり硬そうだ。


 でも2人の女性たち、ユミナさんとサラさんは、慣れた手つきで次々と刈り取っていく。






 黒髪にアイスブルーの瞳をしたサラさんは、俺が広場に炎の精霊たちを呼び寄せた時、涙を流していた女性。


 彼女は、ユーリィたちのサリハーネ村がバグラに襲撃されたとき、夫と子どもたちを亡くしたそうだ。


 この拠点に残ったのも、他に身寄りが無いかららしい。


 ユミナさんに比べると、かなり物静かで口数が少ない印象がある。でも、彼女の境遇を考えたら、そうならざる得なかったのかもしれない。






「サラおばちゃん。これ、もっていっていい?」


「ええ、お願いね、ニナ。」


 サラさんに声をかけて、彼女が刈り取ったタカキビを引きずっているのは、4歳のニナ。


 小さな手で、自分よりもはるかに大きなタカキビの茎を懸命に運んでいる。


「リナ、手伝ってあげて。」


「うん。ほらニナ、お姉ちゃんが一緒に運んであげる。」


「だいじょぶ! ニナひとりでできるもん!!」


「また! すぐそんなこと言って! あんた、出来なくてすぐに泣くくせに!」


 気の強い姉、5歳のリナから強く言われて、たちまちニナがぐずり出す。


 するとそこにすかさず、6歳の長姉ハナが割って入った。


「がんばっててえらいわ、ニナ。ねえ、お姉ちゃんにも手伝わせてくれない?」


 涙を優しく拭ってハナがそう言うと、ニナは素直に持っている茎を差し出した。


「ありがとう、ニナ。」


 ハナに頭を撫でられて笑顔になるニナ。


「もう、ハナ姉ちゃんが甘やかすから、ニナが甘えん坊になるんじゃない!」


「本当にそうねえ。あたしの代わりに、いつもリナがしっかりしてくれるから、助かっちゃう。ありがとうね、リナ。」


「いや、まあ、そ、そんなこと、ないけどさ・・!」


 顔を赤らめたリナは、サラさんのところに走っていってしまった。


 実に微笑ましい光景だ。






 ハナ・リナ・ニナは年子の三姉妹。


 ニナを産んですぐ母親が亡くなってしまったため、3人は祖父母に育てられていたそうだ。


 忙しい祖父母に代わり、ハナはずっと妹たちの面倒を見ていたという。


 でも、バグラによって祖父母が殺され、三姉妹は天涯孤独になってしまった。


 そして、ここに連れてこられて、今に至るというわけだ。


 三姉妹は以前、俺に「マール様に皆を助けてくれたお礼をしたいけど、何をしたらいいですか?」と尋ねてきたことがある。


 そのとき、俺は「お風呂で肩でも揉んであげたら?」と答えたのだ。ついでにアロマオイルも作って渡した。


 結果、マールはそれを喜んで、この拠点の味方になることを決めてくれた。


 もちろん、マッサージだけが理由ではないと思うけど、三姉妹の思いが功を奏したのは事実。


 三姉妹はマールが喜んでくれたとお礼を言いに来たけど、逆に俺がお礼を言いたいくらいだ。


 なにより、3人がいつも賑やかにしてくれているおかげで、拠点の人たちの慰めにもなっている。


 今では三姉妹は俺にとって、ユーリィと同じくらい欠かせない存在だ。







「見てリナ! ぼく、もうこんなに集めたよ! すごいでしょ!」


「なによ、あたしのほうがいっぱい集めたんだから!」


 姉たちから離れた次姉のリナが、今度はフーリアちゃんの弟トゥンジャイくんと言い合いを始めた。


 2人は同い年で、村にいた頃からいつも張り合ってばかりいると、以前、フーリアちゃんが俺に話してくれた。


 でも、俺の目からすると、トゥンジャイくんはリナちゃんに構ってほしくて、ちょっかいを出しているように見える。






「ほら、しゃべってる暇があるなら、手を動かしなさい、2人とも!」


 手が止まった2人を、フーリアちゃんがピシャリと叱りつける。


 慌てて走っていった2人を見て、フーリアちゃんの隣に座っていた2人の女の子たちがくすくす笑い出した。


「トゥンジャイくん、元気になって本当によかったね。」


「ナズの言うとおりよ。これ以上、知ってる人が死ぬのはもうたくさんだもの。」


 2人の言葉に、フーリアちゃんは優しい目をして頷いた。






 フーリアちゃんと一緒に、穂だけを切り落とす作業をしているこの2人は、ナズちゃんとパリンちゃん。


 2人はともに15歳。襲撃でナズちゃんは結婚したばかりの夫を、パリンちゃんは幼馴染だった婚約者をそれぞれ亡くしたそうだ。


 ユーリィによると、この世界では10代半ばで結婚するのが普通らしい。


 現代日本の感覚からすると、かなり早い気もするけど、魔獣に脅かされるこの世界では、それが有効な生存戦略なのだろう。


 あと、2人に限らずだけど、この世界の人たちは、年齢に比べてかなり大人びて見える気がする。


 なにしろ、14歳のフーリアちゃんを、ずっと20歳前後だと勘違いしてたくらいだし。


 自立の早さが、大人びた見た目に影響しているのか。または、その逆か。


 多分どっちも正解だ。ニワトリと卵みたいなもんだな、うん。






 ユーリィも加わり、10人全員が手分けして作業に取り掛かる。


 ただ、畑は広く。一日がかりでも、10人では到底終わりそうにない。


 拠点から多くの人が出ていったことによる労働力不足は、やはり否めない。


 こういうときこそ、俺の出番だよな。






「あ、ハニワさんたちだ!!」


 俺のすぐ側で、姉たちと一緒にタカキビを運んでいたニナ。


 彼女のうれしそうな声で、皆が一斉に顔を上げる。


 拠点警備の任務についていたハニワ防衛隊は、俺の命令で畑の脇に集合し、ずらりと並んだ。


「御使い様、ハニワさんたちもてつだってくれるの?」


「ダメよ、ニナ!『手伝ってくださるのですか?』でしょ?」


「えっと、てつだってくさだいのですか?」


「もう、違うってば!」


 幼い姉妹のやり取りを聞いて、思わず笑みがこぼれる。


 ちなみに、ハニワ戦士たちの呼び名は、もうすっかり「ハニワ」で定着してしまった。


 もちろん、俺がユーリィにそう伝えたからだ。


 ただ、大陸公用語このせかいのことばの中に、唐突に現地訛りの日本語が混ざるから、すごい違和感がある。


 まあ、俺以外は誰も気にしてないんだけどね。






「よし、ハニワ防衛隊! タカキビを根本から刈り取るんだ!」


 ハニワたちは俺の命令に従い、一斉に石の剣を振り上げた。


 一列に並んだ彼らは、機械のような正確さでタカキビを刈り取り始めた。


 最初は正直、石の剣でタカキビが切れるのか、穂を傷つけるのではないかと、心配していた。


 しかし、そんな俺の心配をよそに、ハニワたちは絶妙な力加減で、作業をしている。やはり、剣の扱いには非常に長けているようだ。


 彼らは穂を傷つけることなく、正確に茎だけを刈り取っていった。


 瞬く間に積み上がっていくタカキビの山。


「ハニワさんたち、すごいすごい!」


 三姉妹とトゥンジャイくんが歓声を上げる。


 俺は、すぐ傍らで目を丸くしているユーリィに尋ねた。


「次は穂を切るんだっけ?」


「は、はい。この後は穂を切り取って、乾燥させます。」






 ユーリィに聞いたところによると、切り取った穂は、家の側の干し台で乾燥させるということだった。


 そうしないと、昼と夜の寒暖差で実が湿ってしまい、カビが生えてダメになってしまうのだそうだ。


 あと、放置していると、鳥たちがやってきて、あっという間に実を食べ尽くしてしまうらしい。


 確かに今、畑の上にはとんでもない数の小鳥たちが集まってきている。


 流石にハニワ兵士たちがいるから近寄っては来ないけど、油断したらすぐに食べられてしまうだろう。






「ハニワ防衛隊! 今度は穂だけを切り取るんだ!」


 ハニワたちの活躍により、切り取り作業はあっという間に終わってしまった。


 今度は、切り取った穂を束ねて、根本を細い葉で作った紐で縛っていく作業。


 有能なハニワたちも、こんなに細かい作業はできない。


 そこで登場するのが、自動人形たち。


「自動人形! 女性たちのやっているように、穂を束ねていくんだ!」


 女性型の自動人形たちは、女性たちの作業をしばらく見つめた後、自分たちも同じように作業をし始めた。







 魔法を自在に扱う彼女たちは、知能も対応力も、他の魔獣に比べて高い。


 単純な作業を模倣するくらいは、問題なくこなしてしまう。


 でも、流石に量が多いため、すぐには終わらず、朝食のために一時作業を中断することになった。


 その後は日差しが強くなるため、ユーリィたちは夕方まで休息時間となる。


 本当なら鳥害を避けるため、交代で休憩するそうだが、自動人形がいるから問題ない。


 俺は彼女たちが休んでいる間も、自動人形たちに作業を続けさせることにした。


 暑さを感じない人形たちなら、酷暑の炎天下でも、問題なく作業ができるからな。






「よし、ハニワ防衛隊はその間、鳥から穂を守るんだ!」


 ハニワたちは可愛い動きでペコリと頭を下げると、一斉に畑の周囲に散らばっていった。


 鳥が実を狙って降りてこようとすると、そのたびに剣を振って追い払っている。実に健気なものだ。


 ユーリィたちが簡単に片付けを終えて移動し始めた。


 俺は自動人形たちのところに残って、作業の監督をする。


 ふと見ると、小さな子どもたちが、ハニワの一体に集まっていた。


 何か話しかけているようだ。






「ハニワさん! とりたちからタタキビをまもってね!」


「タタキビじゃないってば。タカキビ。」


「うん、だからタタキビでしょ?」


「あらあら、ニナったら。一年前のリナとおんなじこと言ってるわ。」


 三姉妹がかわいい会話をしてた。


 ハニワ戦士は、ニナの言葉に反応し「任せてください!」と言わんばかりに、剣を振り上げた。


 ん? ひょっとして、ハニワ戦士は、今のニナの言葉が理解できたのだろうか?


 それとも、たまたまニナの言葉と、俺の「鳥から穂を守れ」っていう命令が重なったから、そう見えただけ?


 うーん、分からん。


 これは後から検証する必要がありそうだぞ。






「すごくかっこいい! いいなあ、僕も大きくなったら、絶対剣を使えるようになるんだ!」


「あんたが? 本当に剣なんか使えるの?」


「うん。絶対だよ。僕強くなって、リナ・・ううん、皆を守ってあげる!」


 今絶対リナを、って言いかけたよね?


「ふ、ふん! やれるもんなら、やってご覧なさいよ!」


 リナは真っ赤になって横を向いてしまった。


 なんかいいなあ、こういうの。


 俺と美南、幼馴染で妻である彼女との、小さい頃を思い出しちゃうよ。


 もっとも、美南はリナほどツンデレじゃなかったけどね。






「あなたたち、何やってるの? 早く朝ごはんの準備を手伝いなさい。」


 サラさんが子どもたちを心配して呼びに来てくれた。


 はーいと返事をして駆け出す子どもたち。


「・・・この日常は絶対に、俺が守るからな。」


 誰に言うでもなく、ふと、そんな言葉が口をついた。


 もしかしたら、さっきのトゥンジャイくんの言葉に感化されたのかもしれない。


 ・・・さて、午後の作業も頑張るか。


 鳥たちのさえずりが聞こえる。


 燦々と照りつける太陽が、ジリジリと地面を焦がす。


 その中で俺は一人、畑で作業する自動人形たちの様子を、じっと見守ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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