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79 成功? 失敗?

 ちょっと長くなってしまいました。書くのが楽しくなって、ついつい文が多くなってしまいます。反省です。

【大陸歴1415年9月8日 深夜】


〈十四郎視点〉


 将軍アリに騎乗して走ること10分弱。


 ミニピラミッドの玄室に入ったところで、ちょうど日付が変わった。


 mpの残量表示を確認すると、5000ほど回復して、15353になっている。


 これだけあれば、いろいろな魔獣を生み出すことができそうだ。


 でもまずは、ここにやってきた目的を果たさなくては。


 そう、偉大なる逆転の一手、黒色火薬の生成。


 これがうまくいけば、今後のゲーム攻略の切り札になるはずだ。






「よしパトラ。早速始めよう。これが完成すれば、拠点の防衛力は一気に跳ね上がるぞ。」


「主様、とても楽しそうですね。」


「そりゃそうだ。大砲だぞ? 銃だぞ? ロマンの塊だろ。」


「私にはどのようなものなのか想像もつきません。でも、主様がおっしゃることなら進んで協力させていただきます。」


 俺は、パトラに持ってきてもらった3つの革袋を確認した。


 ナビさんが生成してくれた三種類の素材。硝石、硫黄、木炭。


 これを混ぜれば、理論上は黒色火薬になるはずだ、たしか。






 アイテム創造アイコンを起動し、混ぜ合わせるのに必要な道具類を作り出す。


 ミニピラミッドの床に、ガラス製の器具がずらりと並んだ。


 これで残りmpは13453。うーん、結構使っちまったな・・・。


 いや、これは偉大なる勝利への第一歩なのだ! いわゆる先行投資ってやつだよ。


「主様、この後どうすればよろしいですか?」


「たしか、調合比率があるんだよ。七・二・一だったか? いや六・三・一だっけ?」


 昔読んだ漫画の知識を必死に思い出しながら、俺はパトラと一緒に配合を調整した。


 そして、数時間に及ぶ試行錯誤の結果、俺たちはついに『それっぽいやつ』を作り出すことができた!






「よし、早速、着火実験をしてみよう!」


 召喚アイコンで火の拳を召喚し、床に置いた少量の『それっぽいやつ』にそっと近づける。


 その瞬間、ぱんっ、と小さな破裂音が響き、ほんのわずかな火花と煙が上がった。


「おおおおっ!」


「成功ですか、主様?」


「成功だ! 間違いない!」


 大喜びする俺の隣で、パトラががくりと膝を落とした。


「!! どうした!?」


「・・・主様、私、この煙がちょっと・・・。」


 パトラの手足は小さく痙攣していた。


「ナビさん、すぐにこの煙を消してくれ!!」


『核周辺に滞留しているガスを吸収します。』


 すぐにあたりに立ち込めていた、独特の匂いが消えた。


 匂いが消えてからも、パトラはしばらく苦しそうにしていた。


 だが、程なく起き上がれるようになった。






「ご心配をおかけして申し訳ありません。急に分身体の身体が麻痺してしまい、動けなくなってしまいました。」


「いや、俺の方こそだ。もっと気をつけるべきだった。」


 まさかパトラが火薬から発生したガスに弱いとは、思いもしなかった。


 そういえば以前、スズメバチの駆除に特殊な匂いのするガスを使うと聞いたことがある。


 昆虫から進化した彼女に対する配慮が足りなかった。


 密閉した空間での燃焼実験は、パトラのいないところで行うことにしよう。


 俺はすぐに実験を中断し、ミニピラミッドを離れた。


 出来上がった黒色火薬と素材は、しっかり封をして、実験道具と一緒に祭壇の裏に隠しておいた。


 外に出ると、すでに夜が明けていた。


「ユーリィたちも待ってるし、一度拠点に戻ろう。この続きは、また今夜にでもすればいいんだから。」


 ちょっとしょんぼりしているパトラを慰めつつ、俺たちは帰路についた。






 焦ることはない。だって、俺はついに切り札を手に入れたのだから。


 これさえあれば、弓砲台なんて目じゃない。いずれは大砲だって作れるようになるだろう。


 俺は未来の勝利を確信し、夜になるのを楽しみに待った。


 ところが、その日の夜。


「・・あれ?」


 隠しておいた火薬袋を見て、俺は首をひねった。


 なんか、少なくなってないか、これ?


「パトラ、ちょっとこれ見てくれ。」


「たしかに、昨日より少なくなっていますね。」






 おかしい。


 前回、ハゲワシに襲撃された教訓を生かして、ミニピラミッドは鍵付きの扉で封印してある。

 

 それにもし、誰かが侵入したら、ナビさんがすぐに知らせてくれるはず。


 いったいどういうことだろうか?


 気のせいかとも思った。


 だが、もし俺の知らない未知の魔獣の仕業だとしたら?


 ユーリィたちに危険が及ぶかもしれない。


「よし、原因を確かめよう。」


 俺とパトラは、火薬袋のある祭壇の前で、その夜一晩過ごすことにした。


 しかし、いくら待っても何も起きない。夜が明けて調べてみても、火薬の量はまったく変化していなかった。


「やっぱり気のせいだったのかな?」


 火薬袋を念入りに封印し、俺たちは拠点に戻った。ところが。






「明らかに減ってる・・!!」


「もう、半分以上無くなっていますね。 何があったのでしょうか?」


 その日の夜、パンパンだった火薬袋が力なく地面に横たわる姿を見て、俺たちは愕然とした。


 やはり、何かが起きている。


 まさか、以前フーリアちゃんを襲った亡霊の仕業だろうか?


 いや、それよりももっと凶悪なやつの可能性もある。


 放置はできない。絶対に正体を突き止めてやる!






「よし、隠れて見張ろう。」


 昨夜、何も起きなかったのは、俺とパトラが火薬袋の側にいたせいではないか。


 そう考えた俺は、建築アイコンを起動し、祭壇の後ろに空洞を作った。


 パトラと2人その中に隠れて、じっと待つ。すると。






 真夜中を過ぎた頃、突然火薬袋の周りの空気が、陽炎のように揺らめいた。


 続いてその中から、ちらちらと揺れる、小さな火の玉のようなものがいくつも現れた。


 火の玉の大きさは直径1cmに満たないほど。よく見れば、小さな手と尾のようなものが付いている。


 やがて、炎でできたオタマジャクのような姿をしたそれは、袋の周りをくるくると飛び回り始めた。


 そして、そのまま一斉に、封をした袋をすり抜け、中に飛び込んでいった。


 ぱちん!


 小さな破裂音が立て続けに響き、まるでポップコーンが弾けるように小さな火の玉が飛び出してくる。


 最初よりも、数を増した火の玉は、大はしゃぎするように、袋の周りを飛び回った。


 まるで大好物を見つけた子どものようだ。






「あいつら、まさか、火薬を食ってるのか!?」


 俺が言い終わるよりも早く、隠れ場所を飛び出したパトラの槍が、火の玉を捉えた。


 槍の一撃を受けた火の玉たちは、蝋燭の火が消えるようにいなくなってしまった。


『迷宮領域内で炎の小精霊の討伐を確認しました。炎の小精霊の召喚が可能になりました。』


 ナビさんのアナウンスが流れたが、余りの衝撃にまったく頭に入ってこなかった。






「なんだあれ!?」


「私にも分かりません。ユーリィ様なら何かご存知かもしれませんが・・。」


 それはそうだ。正体が分かっているのなら、最初の段階でパトラが教えてくれたはずだからな。


「とりあえず、犯人は分かった。ユーリィに聞いてみよう。」


「主様、残った火薬はどうなさいますか?」


 俺は少し考えた後、答えた。


「ここに置いていくよ。ユーリィたちのところに持ち込むのは、危険がないことが分かってからだ。」


 あいつらは何もない空間から突然現れた。


 その原理や正体が分からない以上、ユーリィたちの側に火薬を持ち込むことはできない。


 俺たちは火薬にしっかりと封を施し、ミニピラミッドを後にした。






 翌朝、俺はすぐにユーリィたちに、昨夜の出来事を相談した。


「燃える黒い粉? ああ『黒粉バルード』のことですね。冬の祝祭には、まだかなり早い気がしますけど・・。」


 俺の話を聞いたフーリアちゃんは、きょとんとした顔でそう答えた。


 黒粉という言葉に反応し、ユーリィが笑顔でフーリアちゃんに話しかける。


「フーリアおねえちゃん、黒粉ってあれでしょ? 精霊様のおやつ。」


「おやつ!?」


「はい。火の小精霊ピリク様の大好物です。冬の祝祭で一年の火の恵みに感謝を捧げるために使うんですよ。巫女だった私の祖母が、お祭りの前に材料を集めて作っていました。」


 そんなの常識ですよ? みたく、簡単に言われてしまった。


 ユーリィも彼女の言葉に頷く。






「火の小精霊様は普段は人前に出てきてくださいません。でも、大好きな黒粉がある時だけは別で、見つけたら必ず食べにいらっしゃるんですよ。」


 いやいやいや、ちょっと待ってくれ!


 つまり、この世界で火薬兵器が発達しなかった理由は「作っても全部、精霊に食べられてしまうから」ってこと!?


 そんなバカな・・・。


 俺は思わず、無いはずの頭を抱えそうになった。






「主様、原因が分かってよかったです。ユーリィ様のお話を聞く限り、これ以上、火薬を使うのは難しいでしょうか?」


「いや、まだだ! まだ終わらんよ!」


 せっかく手にした切り札。諦めるにはまだ早い。


 これがこの世界の理なら、知恵と工夫で俺がねじ伏せてやるぜ!






 こうして俺の挑戦が始まった。


 まずは、石や金属の箱に厳重に封印してみた。結果、普通にすり抜けられた。


 ならばと、地下深くに埋めてみる。


 そしたらなんと、あいつら、地中から現れてもぐもぐしやがった!


 こうなれば最終手段! 水で湿らせてやる!


 すると、さすがの奴らも諦めたのか、寄ってこなかった!


 よっしゃ、俺の勝ちだ!!






「あの、主様、湿っているので、火薬が発火しません・・・。」


「あっ・・。」


 パトラが申し訳なさそうに、触覚を垂らす。


 くっそ、小精霊たちを追い払うことに熱中して、目的を完全に見失っていた。


 冷静になれ、十四郎。


 こういうときこそ、ポジティブシンキングだ。


 美南も言ってたじゃないか、「いつも前向きなのが、トシの取り柄ね」って。







 そうだ。逆に考えてみよう。


 いっそのこと遠ざけるんじゃなくて、思い切り集めてみるのはどうだ?


「集めると・・どうなるのでしょうか、主様?」


「えーっと、いや、こういう時、逆のことすれば、なんかうまくいくんじゃないかなって・・・。」


「・・分かりました。主様のおっしゃるとおりにいたします。ですが、万が一のことを考えて、屋外で実験をしてはどうでしょうか?」


 なるほどパトラの言うことも、もっともだ。


 屋外だったら、パトラがガスで苦しむこともないだろうし、一石二鳥だな。


 せっかくだから、フーリアちゃんやユーリィにも立ち会ってもらおう。






 その夜、俺とパトラは、昼のうちにミニピラミッドで作っておいた火薬を持って、拠点に戻った。


 これで原料はすべて使い切った。よくも悪くも、これが最後の勝負だ。


「黒粉があんなに・・・! 御使い様が火の小精霊様たちを集めてくださるんですか?」


 無邪気な笑顔で聞いてくるユーリィ。


 そう、思いっきり集めてやる。


 一緒にその結果を見届けてくれ!






 中央広場に置かれた火薬は、およそ革袋2つ分。


 これまでで最大の量だ。


 程なく、火薬の周りに小精霊ピリクたちが集まり始めた。


「うわあ、きれい!!」


 広場で見物している小さな女の子たちが歓声を上げる。


 1,2,3・・10人!?


 あれ、いつの間にか、全員集まってないか、これ?


 皆が見つめる中、小精霊たちは喜びのダンスを踊りながら、大好物の火薬を食べ始めた。


 パチンという音がするたび、精霊がふわっと空中に舞い上がり、その数を増やしていく。


 皆の楽しそうな声が静かな広場に響いた。


 中には、涙を浮かべて手を合わせる女性の姿もある。







 集まった精霊たちは、やがて炎の柱となり、天高く昇り始めた。


 文字通りの生きた炎となって、冷たい砂漠の夜を熱く焦がす。


 その勢いが最高潮に達した時、炎は長い尾を持つ蜥蜴の姿となった。


「炎の精霊様・・! あんなにはっきりとしたお姿で現れてくださるなんて!」


 フーリアちゃんは、その場に跪いて祈りを捧げ始めた。


 火の粉を舞い散らせながら、天空を滑る火蜥蜴サラマンドラ


 やがて、広場にあった火薬をすべて舐め尽くした蜥蜴は、声なき喜びの叫びを上げながら、天高く昇ってその姿を消した。


 これはすごい。すごいけど・・・実験は完全に失敗だ。


 俺は呆然としたまま、火蜥蜴が消えていった天空をじっと見つめた。






「ありがとうございます、御使い様。私たちのために、炎の精霊様を呼び出してくださったんですね!」


 ふと気が付くと、俺はみんなに囲まれていた。


 えっ、いったいどういうこと?


「炎は古き穢れを払い、新たな恵みをもたらす。砂漠の民に伝わる古い教えです。」


「家族を無くし、同胞と別れて沈んだあたしたちの心を、こうやって癒やしてくださるなんて。本当にありがとうございます、御使い様。」


 皆は口々にそんな事を言いながら、俺に感謝の言葉を伝えてくる。


「いや、うん・・・喜んでもらえて本当にうれしいよ・・。」






 こうして俺の『夢の火薬兵器製造計画』は、文字通り煙となって消えてしまった。


 せっかく、いい思いつきだと思ったんだけどな、ちくしょう。


「でも主様、本当はあんまり悔しいと思っていらっしゃいませんよね?」


 さすがパトラ。


 直接心を読み取る彼女に、隠し事はできないや。


 確かに、計画はうまく行かなかった。


 けど、今回のことは、この世界のことを色々知るきっかけになった。


 得たものは決して小さくない。


 それに何より、皆が喜んでくれたのが一番いいことだ。






 そうだ、せっかくだから、呼び出した精霊を使った兵器を考えてみたらどうだろう。


 マールも、なんか似たようなやつ使ってたし、これならいけるんじゃないか?


「パトラ、よかったらまた、実験に付き合ってくれないか。」


 すると、パトラは小さく触覚を揺らして言った。


「本当に、主様はくじけないですね。でも、そういうところが、素敵だと思います。」


 甲冑のようなパトラの表情が変わることはない。


 でも、なぜかこの時は、彼女の笑顔が見えた気がした。





種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:11


総DP:43723

獲得DP/日:25830

消費DP/日:20363



火の小精霊ピリク

種族:精霊

属性:火属性

召喚コスト:100DP

維持コスト:100DP/時(特殊)

保有スキル:〈物理無視〉〈発火〉

火属性の下位精霊。体長1cm弱。炎でできた爬虫類の幼生のような姿をしている。


【精霊召喚について】

精霊とは、主物質界プライムマテリアルプレーンとは次元の異なる精霊界エレメンタルプレーンに存在する生物の総称である。世界ヴァースを構成する魔素マナが意志を持ち、実体化した存在である彼らは、その特性ゆえ主物質界においても魔素を自在に扱うことができる。森妖精エルフが使う精霊魔術は、術者自らの魔力を代償とした契約によって精霊を召喚し使役することで、様々な効果を生み出している。しかし、次元を越えた召喚には多大な魔力が必要であるため、多くの場合、術者は精霊の属性に応じた触媒(水筒に入れた水や携行灯火ランタンの炎など)を用いることで、魔力の消費を軽減させている。また、継続的に精霊を主物質界に存在させるためには、魔法陣や魔導具を使用するなど、特殊な方法を用いる必要がある。

お読みいただき、ありがとうございました。

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