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78 別れそして新たな実験

 しもやけで足の指が痛くなってしまいました。冬はこれが辛いんですよねー。

【大陸歴1415年9月7日 夕刻】


〈十四郎視点〉


「行ってしまいましたね、御使い様。」


「そうだな。」


 寂しそうに呟くユーリィに、俺は短い言葉を返すことしかできなかった。


 夕焼けに向かって遠ざかる影絵のような船影が、地平線の向こうへ消えていく。


 俺は、この拠点に残った人達と一緒に、マールたちの船を見送った。






 マールたちはまたいずれ戻ってくる。


 しかし、拠点を離れた人々がここに戻ることは、ほとんどないだろう。


 皆はついさっきまで、今生の別れを惜しんで涙を流していた。


 しかし、ようやく気持ちの区切りがついたのだろう。


 やがて夕闇が深くなり始めるに連れ、皆はぽつりぽつりと外壁の階段を降り始めた。


 たった数ヶ月とはいえ、一緒に過ごしてきた人たちと分かれるのは、俺でも胸が痛くなるほど悲しかった。


 たとえ相手がゲームのNPCであろうと、その気持ちは本物だ。


 俺でさえそうなのだから、ユーリィたちの悲しみは、どんなに大きいことだろう。






「あたしたちも戻りましょうか、御使い様。」


 そう言って、気丈に微笑むユーリィの目の縁には、隠し切れない涙の跡がくっきりと残っていた。


 ああ、俺に腕があれば! 身体があれば!


 せめて、人並みの温もりを持っていたなら!


 なんで俺には、目の前で泣いているこの子を抱きしめることも、涙を拭ってやることもできないんだろう。


 そんな己の無力を呪いながら、俺は彼女にそっと寄り添った。


 するとユーリィは驚いたように目を見開き、「ありがとうございます」と小さく呟いた。


 彼女の頬に少しだけ笑みが戻った。


 俺たちは並んで外壁を降り、拠点中央にある皆の家へと向かった。






 俺たちが家に戻ったとき、他の皆は協力して夕食の準備をしているところだった。


 殊更に明るく、忙しそうに立ち回る彼女たち。


 だが、昼までの賑やかな様子と比べると、広い室内はどうしてもがらんとした印象が拭えなかった。






 今回、マールと共に半数以上の女性と子どもたち、合わせて15人が拠点を出ていった。


 彼女たちの行き先は、フラシャールという大きな街とその周辺にある村々。


 ユーリィたちが元々住んでいたオアシスは滅んでしまったので、そこに戻ることはできないからだ。


 拠点を去った人たちは今後、他の街や村にいる親類縁者を頼って、生活を立て直していくらしい。


 大変だと思うけど、どうか幸せに暮らしてと祈らずにはいられない。






 拠点に残ったのは10名。元々25人だった住民が、半分以下にまで減ったことになる。


 彼女たちは滅んだ村の出身で、頼るべき親戚や家族がいない。


 その内訳は、ユーリィ、フーリアちゃんの他、10代の女性たちが2人。


 小さな子どもたちが4人。


 そのうちの一人はフーリアちゃんの弟のトゥンジャイくん。現在、彼はこの拠点で唯一の男子だ。


 そしてユーリィのお母さんユミナさんを含む大人の女性が2人。


 働き手が一気に減ってしまったため、今後のことがかなり心配だ。


 だけど、近いうちにマールがまた戻ってくるらしい。


 そのときには彼女の船だけでなく、他の船も連れてくるそうだ。


 ひょっとすればそれが、この拠点に人が増えるきっかけにもなるかもしれない。






 ユーリィたちが寝静まった後、俺はいつものようにパトラを連れて、拠点内の見回りを始めた。


 女神の泉がある中央広場。


 そこに差し掛かった時、パトラが不意に話しかけてきた。


「この中の様子も、ずいぶん変わりましたね、主様。」


「そうだなー。マールたちのために色々作ったもんなー。」






 俺たちの目の前にあるのは、オリーという半妖精ハーフエルフのために作った入浴施設。


 高さはおよそ10m。20m四方の広さがある。


 大浴場の真上、中央には直径12mほどの玉ねぎ型大ドームを作ってみた。


 その周囲に6個の小ドーム。この下にあるのは休憩室とサウナだ。


 入口は馬蹄形のアーチで、柱には女神の彫刻が施してある。


 外壁は淡い砂岩色でまとめ、アクセントに青いタイルの帯を走らせた。


 全体的に、ペルシャ風の公衆浴場というイメージ。


 青いドーム屋根と乳白色の岩壁が対比になっていて、正直とても気に入っている。


 もちろん、外観だけでなく中身もかなりこだわった。おかげで、マールたちもかなり気に入ってくれたようだ。


 もっとも最初は、たった一晩で出来上がった建物を見て、かなりドン引きしていたけど。


 まあ、結果オーライってやつだ。






 この建物は、中央広場の東側に位置している。


 ユーリィたちが共同生活を送っている大きな家は北側に面しているので、家を出るとすぐ左手に、この入浴施設があることになる。


 ユーリィたちの家は、防衛目的で作ったため、飾り気のない真四角な建物。


 最初はなんとも思っていなかったけど、この入浴施設と比べるとかなり見劣りがする。


「ユーリィ様たちの家も作り直されるのですか?」


「うーん、もう少しmpにゆとりが出てからかなあ。」






 6日前の襲撃でレベルアップしたことで、一時mpにはかなりゆとりができた。


 でも、その分はほぼ全て、この入浴施設を作るために使い果たしてしまった。 


「バカでかいし、水も大量に使うから、ランニングコスト分のmpもハンパないんだよね。」


 マールたちが使っていた数日間はフル稼働させていたが、彼女たちが去った今は休眠状態にしてある。


 少しでも、mpの消費を節約するためだ。






 襲撃で失われた分の戦力は、ニート大トカゲを除いて元に戻った。


 だが、またいつバグラがやってこないとも限らない。


 マールは「あの状態じゃ、一度ペルアネゲラに舞い戻ってるはず。兵員の補充も必要だし、しばらくは安心だと思う」と言ってた。


 けど、用心するに越したことはないからな。






 mpは限られているが、やるべきこと・やりたいことは山積み。


 ここは、しっかりと優先順位をつけるべきだな。


「まずは、戦力を増強することでしょうか?」


 パトラの言う通り、まずはそれが最優先事項だろう。


 せっかくきれいな建物を建てても、ユーリィたちが殺されたら何の意味もないからな。


 ニート大トカゲこと、石化蜥蜴バジリスクは強力な魔獣。


 だが、すこぶる使い勝手が悪い。なにしろ、あいつが暴れてると、他の魔獣たちが近づけないからな。


 出来れば、あいつと同じくらい強くて、なおかつ使い勝手のよい魔獣を作り出したいところだ。






「主様の御力が増したことで、私もより強力な分身体を作ることが出来るようになりました。」


「え、そうなの?」


 そんな仕様があるとは知らなかった。


「ユーリィ様たちを守るため、私の兵たちもここの警護に当たらせていただきたいです。よろしいですか主様?」


「それはもちろん大歓迎だよ。むしろ、こっちからお願いしたい。でも、それで本体の守りを薄くするようなことだけはしないでくれよ。」


「はい。前回、主様にずいぶんご心配をおかけしました。あのようなことが二度とないよう配慮いたします。」


「ありがとうパトラ。こっちこそ、よろしく頼む。」


 パトラはうれしそうに、短い触覚を震わせる。


 最近、パトラの感情が読み取りやすくなってきている。


 人間との関わりが増えたことで、彼女は成長しているのかもしれないな。






 パトラと相談し、彼女には拠点内の警備と防衛を手伝ってもらうことにした。


 パトラたちが常駐するのであれば、今後、彼女たちの待機所みたいなものを準備するのもいいかもしれないな。


 いかん。またmpの消費が増えてしまう。


 でも、彼女たちは人型だし、普通の魔獣たちに比べればずっと汎用性が高い。


 これは防衛力強化のための必要経費。そう思うことにしよう。






 汎用性と言えば、マールたちの船に搭載されていたあの弓砲台。


 あれ、パトラたちにも使えるんじゃないか?


「使い方を教えていただければ可能だと思います。」


 パトラからすぐに返事があった。脳内を直接読み取ってるだけあって、話が早くてマジ助かる。


 あれを外壁にずらっと並べたら、かなり防御力が上がるんじゃないだろうか?


 いっそのこと、大砲でも作ってみたらいいかもしれない。






「ナビさん、大砲って作れるのかな?」


魔加粒子砲マギパーティクルキャノン及び魔素誘導砲マナレールガンの生成に必要な素材が不足しています。』


 一応、ナビさんに聞いてみたけど、相変わらず何を言っているのか、さっぱり分からない。


 でも、どうやらダメみたいだ。


 この世界ゲーム、銃や大砲ってないみたいだから、作れたら一方的に無双できそうなんだけどな。






 でも、待てよ?


 確か、バグラの船が、打ち上げ花火を合図として使っていた気がする。


 花火はあるのに、なぜか兵器としての火薬は発達していない。妙な話だ。


 もしかして、兵器としては無理でも、素材としての火薬なら作ることが出来るのかな?






「ナビさん、黒色火薬か、もしくはその原料って作ることが出来る?」


『黒色火薬は特殊素材のため、迷宮核による生成は禁じられています。原料素材の硝石、硫黄、木炭の生成にはそれぞれ100DPが必要です。実行してよろしいですか?」


 お、聞き慣れた確認メッセージ!


 これはどうやら行けそうだぞ。


 早速「YES」と返事をすると、地面に見慣れた魔法陣が3つ同時に出現した。


 魔法陣から現れたのは、両手で抱えられるくらいの革袋。


 俺はパトラにお願いして、その中身を確かめてもらった。






「それぞれ粉のようなものが入っているようですね。」


 袋の中に入っていたのは、白・黒・黄色の粉末だった。


 黄色の粉末からは、温泉地でよく嗅ぐ独特の匂いがする。これは間違いなく硫黄だろう。


 確か火薬の原料って、硝石と木炭と硫黄だった気がする。昔呼んだ漫画で得た知識だから、かなり怪しいけど。


 白いのが硝石、黒いのが木炭ってことかな?


「これを混ぜ合わせると、主様の作りたい『兵器』ができるのですか?」


「多分。ただ、俺も作ったことないから分からないんだ。これから試してみようと思う。パトラ手伝ってくれる?」


「もちろんです、主様。早速参りましょう。」


 俺は胸の高鳴りを抑えきれないまま、火薬の生成実験をするため、パトラと共にミニピラミッドへ向かった。




種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:11


総DP:9836

獲得DP/日:25830

消費DP/日:20313



種族:迷宮守護者

名前:ユーリィ

職業レベル:8(ガーディアン)

強打L4 突撃L5 短剣術L7 

暗視L1 反射音探知L1 締め付けL1

操船L2 登攀L4 騎乗L3 詐術L2


装備:守護者の剣

 (自動回復L5 自動反撃L2)

   守護者の鎧

 (斬撃被ダメージ軽減L3 酸耐性L2

  熱耐性L2 炎耐性L1 毒耐性L2

  土魔法耐性L1)

   水鏡の円盾

 (光線攻撃反射L5 石化耐性L5

  魔法耐性L3)



種族:人間

名前:フーリア

職業レベル:6(デザートシャーマン)

危機感知L3 自然の祝福L3

不死者払いL4 浄化L3 小治癒L4

お読みいただき、ありがとうございました。

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