71 計略そして敗走
最近、目標の1話5000字以内に収めることができてます。できるだけ短く、的確に表現するように練習しようと思っています。
【大陸歴1415年9月1日 早朝】
〈十四郎視点〉
「はあああぁあ!? なんなんだよ、あの剣! あんなんチートだろ!!」
主力部隊が焼き尽くされる光景を目の当たりにして、俺は思わず声を上げてしまった。
轟音とともに砂地を舐め尽くした爆炎の直径は、およそ30m。
かなり離れた外壁の上にいる俺からも、はっきりと分かるほどの巨大さだった。
俺の大事なニート大トカゲを一撃で倒した赤い髪の女。
あいつが仲間から離れて、一人になった時点で、なんとなく嫌な予感はしてたんだよ。
なんか、デカいことしてくるんじゃないかってな。
でも、この距離だと、俺は魔獣たちに細かい指示を出すことができない。
おかげでみすみす、あの女の罠に引っかかってしまった。くそう。
あっ! でも、あの女、がっくり膝をついた!!
輝きを無くした剣にもたれかかるようにして、肩で息をしてる。
デカい技を使った反動で動けなくなってるみたいだ。これは絶好のチャンス!
爆炎の外にいた大サソリが、赤い女に突進する。
よし! いいぞ! そのまま殺っちまえ!!
大サソリが味方の死骸を乗り越えて、赤い女に迫る。
デカいハサミを振り上げて、女を切りつけた!
ああっ! クソっ、あと一歩のところで、飛び込んできた金髪ヤンキー女が、赤い女をデカい鳥に乗せて逃げてしまった!
余計なことすんなよな、金髪! もうちょっとだったのに!
黒ギャルみたいな見た目の金髪ヤンキー女。
彼女が操る鳥は、3本マストの帆船に向かって真っ直ぐに走っていった。
毒々しい赤い色に塗られたその船には、黒地に金色でドクロが描かれた旗が掲げられている。
まんまイメージ通りの海賊船(?)だ。
船に追いついたところで、金髪ヤンキーは赤い女に手綱を握らせる。
手綱を取った赤い女はデカい鳥を操り、疾走する船と並走させた。
『迷宮領域内で多数の魔獣が人間により殺害されました。速やかに戦闘領域から退避するとともに、迷宮守護者による迷宮核の直掩を強く推奨します。』
ナビさんは何度も何度も同じメッセージを繰り返している。
ナビさん、優秀だけどマジ空気読まない。
意味の分からないアナウンスをずっと聞かされていることで、俺の苛立ちはさらに加速していった。
船を追う魔獣たちが次々と倒されていく。
俺はその光景を、外壁の上からジリジリしながら見守ることしかできなかった。
「主様、拠点内に残っている私の兵たちを差し向けましょうか?」
パトラの提案を、俺は少し考えてから断った。
「いや、パトラはユーリィたちを守る最後の砦だ。今、攻撃に使ってしまったら、あの女たちが拠点に入り込んだとき、ユーリィたちを逃がす時間が稼げなくなる。」
ユーリィもフーリアちゃんも、さっきまでの戦闘の影響が残っているはず。まだ、十分には動けないだろう。
それに、拠点内には小さい子どもたちだっているのだ。
いざというとき、パトラには、彼女たちを逃がしてもらわなくてはならない。
「承知いたしました、主様。もしものときには、私の巣でユーリィ様たちを匿います。」
「本当にありがとう、パトラ。」
パトラのお陰で少し冷静になることができた。俺は逆転の目を探るため、再び戦場に目を向けた。
現在、主力のアリ太郎部隊はほぼ壊滅状態。
船から撒かれている薬剤で動きが鈍ったところを、次々と撃たれてやられてしまった。
赤く塗られた船の舷側にずらりと並んでいるのは、大型の固定弓砲台。
そこから、次々と短い槍のような弾が発射されている。
船はすごい速度で巧みに動き回りながら、アリたちをどんどん攻撃した。
あの船長もそうだったけど、アリたちを動けなくするあの白い粉は、海賊船の標準装備みたいだ。
今、俺が動かせる戦力は大サソリ8体、赤犬とスナザメ、それに伏兵のスナイカ4体だけだ。
やられてしまったアリに代わって、今は大サソリと赤犬たちが船を追いかけている。
魔獣たちはかなりの速度で移動しているにも関わらず、なかなか船に追いつくことが出来ない。
やっと近づいても弾が雨のように振ってくる。魔獣たちは一体、また一体と数を減らしていく。
船よりもずっと厄介なのが、外側から援護している二人組の女たち。
デカい鳥を操る赤い女はまだ本調子じゃないようだ。
けど、後ろの金髪ヤンキー女の弓は健在。
素早い射撃で、正確にスナザメたちを狙ってくる。
スナザメたちが砂に潜って近づいても、すうっと距離を開けられてしまうのだ。
何度攻撃を仕掛けても、二人の乗ったデカい鳥は、風に舞う木の葉のようにひらりひらりと躱す。
完全に打つ手なしって感じだ。
ただし、俺自らが正面から戦っていれば、の話だけどな。
冷静になって観察したことで、だんだん船と女たちの行動パターンが見えてきた。
二人は船から離れない。常に一定の距離を保ち、並走している。
そして船は、この拠点の周りを大きく周回移動し続けている。
多少の蛇行はするものの、砂のうねりや砂丘を避けるため、周回のたびに、必ず何箇所かは同じ場所を通過するのだ。
つまり、ここで船を止めてしまえば、やつらの動きを大きく制限することができる!
あの連中、所詮魔獣が相手だと思って舐め腐りやがって。
こっちは神視点で魔獣たちを動かせるんだ。
人間の指揮が加わった魔獣の恐ろしさを、たっぷり味あわせてやるぞ。
「パトラ、俺をあの2つの砂丘が狭まったところまで連れて行ってくれ。」
「危険です、主様。」
「大丈夫。そんなに近くまで行くつもりはないから。イカたちに指示できる距離まで近づければそれで十分だ。」
パトラは心配そうに触覚を震わせていたが、結局は俺の言うことを聞いてくれた。
彼女は俺を抱えたまま、外壁からひらりと飛び降りる。
音もなく砂の上に着地した彼女は、小さな砂の盛り上がりを利用しながら素早く目標の場所まで近づいていった。
俺は彼女に抱えられた状態で建築アイコンを起動し、移動に必要な緑の立方体を配置した。
目標地点は、拠点から南側に300m程離れた、少し大きめの砂丘。この辺りはまだ、俺の領地になっていない。
20個ほど立方体を配置したところで、ようやく魔獣たちに指示が出せる距離にまで到達した。
さあ、ここからが正念場だ。
「ここでいい。ありがとうパトラ。」
俺と彼女は慎重に小さな砂の盛り上がりを昇り、目標の砂丘が見渡せる場所を確保した。
周りには遮蔽物がないから見つかる可能性がゼロではない。
けど、魔獣との戦闘中に、少し離れた俺たちを見つけることはかなり難しいはずだ。
『人間との戦闘が行われている領域に迷宮核が接近しています。迷宮守護者は迷宮核の速やかな直掩を最優先してください。繰り返します。迷宮守護者は迷宮核の直掩を最優先してください。』
視界内に赤い警告表示が点滅し、警告音が一層激しくなった。
ナビさんの声をうるさくてしょうがない。何言ってるか、まったく理解できないしな。
多分、こっから離れろって言ってるんだろう。
いつもは頼りになる彼女だけど、今は大事なときなのだ。少しだけ黙っていてほしい。
俺は彼女の言葉を無視し、魔獣たちに指示を出した。
指示があることを気づかせてはいけない。
俺は少しずつ、残った魔獣たちを船の方に集中させた。
二人組の女は、それに釣られるように船の方に向かう魔獣を追いかけていく。
よし、いいぞ。思ったとおりだ。
魔獣たちを使い、船の進路を誘導していく。目標の場所まであと少し。
・・・今だ!
合図と同時に、砂が弾けた。
巨大な触手たちが、一斉に船を絡め取る。
激しく舞い落ちる細かい砂埃の中、船はその動きを止めた。
いいぞ、そのまま引き倒せ!!
船は大きく右に船体を傾かせ、砂丘に正面からぶつかって座礁した。
よっしゃ、でかした! 船が横倒しになった!
あとはあの船員たちを皆殺しにすればいい。
4体のスナイカたちによる集中攻撃が始まった。
投げ出された人間たちは、次々と触手に絡め取られ、悲鳴を上げる。
いいぞ! そのまま絞め殺せ!!
ところが次の瞬間、砂上に姿を現したイカたちの頭が、金髪ヤンキー女の弓で次々と撃ち抜かれてしまった。
弱点の目の間を正確に射抜かれて、瞬く間に絶命するイカたち。
船員たちを掴んでいた触手が力なく砂の上に横たわる。
完全に想定外の事態だ。
くっっそ、あの金髪! 絶対にぶっ殺してやるからな!
いや、まだだ! まだ、終わらんよ!
こっちにはまだ、赤犬とスナザメたちがいるのだ。
解放された男たちに群がる魔獣たち。
船員たちは曲刀で必死に反撃しているが、神出鬼没のスナザメと、赤犬たちの火の玉に苦戦している。
その様子を見た二人組は、すぐに彼らの援護に向かおうとした。
しかし、大サソリたちが立ち塞がる。
よくも俺の大事な魔獣たちを殺してくれたな。
でも、これで終わりだ。全員、俺のmpに変えてやるぜ!
「危険です! 主様!」
パトラの声にハッとして、俺は慌てて砂山の陰に隠れた。
魔獣の動きを見ながら細かい指示を出そうとするあまり、うっかり上空まで浮かび上がってしまっていた。
しかし、時すでに遅し。
大サソリと対峙していた二人組は、すごい勢いでこちらに鳥を走らせ始めた。
ヤバい、居場所がバレちまった。
優に300m以上は離れているはずのなのに、どんな目をしてるんだよ、あいつら。
俺は慌てて、大サソリたちに2人を追いかけさせた。
でも、鳥の足には全然追いつけない。
2人は瞬く間にこちらへ近づいてくる。
パトラはすぐに俺を抱えると、全力で拠点めがけて走り出した。
アリの足を持つパトラは、砂の上をかなりの速度で移動できる。
それでも鳥の速度には及ばない。
まだ距離があるものの、その差はじわじわと縮まっていく。
「主様、どうかこのまま空を飛んで、拠点までお戻りください。」
拠点の外壁があと数十mまで迫ったところで、パトラは俺にそう言った。
「でも! そんなことをしたらパトラが!」
「ご安心ください、主様。この身体は分身体の一つに過ぎません。私が主様のために時間を稼ぎます。それに。」
「それに?」
「今、最強の兵士たちをそちらに向かわせています。」
「最強の兵士!?」
驚く俺に、パトラは冷静に言葉を返した。
「はい。私の本体を守る最後の護衛たちです。ただ、巣の最奥から出撃しますので、到着まで少々時間がかかります。彼らがあの者たちを必ず殺してご覧に入れます。その間、主様は、ユーリィ様と一緒に隠れていてください。」
「本体の護衛? そんなことして大丈夫なのか!?」
俺は、思わずパトラにそう問い返した。
一瞬、迷うような気配を見せた後、彼女は答えた。
「私の兵力も、先程の戦いで使い尽くしてしまいました。ご心配の通り、護衛を出撃させれば、本体を守るのは、働きアリたちだけになります。」
俺はすぐに彼女を止めようとした。
しかし、俺が言葉を発するよりも早く、彼女は小さく頭を横に振って、それを遮った。
「それでも、主様の生命には代えられません。」
お読みいただき、ありがとうございました。




