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65 死闘の幕開け

 スマホの電源落ちて、危うく今回の下書き全ロスするところでした。夢中になるとやばいですね。

【大陸歴1415年9月1日 夜明け直前】


〈バグラ視点〉


 一見継ぎ目の見えない外壁の隙間から吹き出した炎が、夜明け前の暗闇を切り裂く。


 舷側を焦がしたその勢いに、火を恐れる騎鳥たちは途端に落ち着きを無くした。


「くそっ、えげつないもん仕掛けてやがる! 騎鳥とりたちを押さえつけろ! 距離を取れ!」


 騎乗した男たちはバグラの指示に従い、甲板上の騎鳥たちを逆の舷側側へと退避させた。


 甲高い声を挙げる騎鳥たちを何とか落ち着かせようと奮闘する。


 上空から襲いかかってきた砂漠ハゲワシを一刀で斬り捨てたバグラは、舵を操るアーシに向かって声を張り上げた。


「船を寄せろ!!」


 アーシは一瞬、なにか言いたげに口を開きかけた。


 だが、すぐに口をつぐむと、目に力を込めて舵輪を強く握った。






「衝撃、来ます!!」


 アーシの声と共にぐらりと船体が揺れ、外壁と接触するほど距離が縮まる。


 それを待ち構えていたかのように、外壁は抱え込んでいた罠を一斉に解き放った。


 鋭い刃が船体を傷つけ、吹き出した炎が再び舷側を焦がす。


 避難が遅れて熱湯を浴びてしまった船員は、悲鳴を上げて甲板を転げ回った。


「今だ、飛び移れ!!」


 号令に従い、傭兵たちの騎乗した騎鳥が次々に舷側から飛び出していく。


「こっちは任せた。合図があったら、すぐに船を寄せろ。」


「任せといてください、アニキ!」


 アーシの返事をろくに聞きもしないうちに、バグラは愛騎南風シャマールの手綱を取った。


 南風は、それだけで主の気持ちを察し、待ちかねていたかのように舷側を飛び出した。


 強く賢いこの鳥は、バグラとオルワをその背に乗せたまま、2階分ほどの高さ(およそ5m)を一気に飛び越え、石造りの壁の上に降り立った。


 全員が乗り移った後、船はゆっくりと外壁を離れていく。


 それを見送ったバグラは、右手に握った曲刀を高々と掲げた。






「俺が先陣を切る! ついて来い!」


 バグラは傭兵たちに激を飛ばすと、そのまま外壁の内側へと飛び降りた。


 常に自ら先陣を切る。それが彼の略奪しごとの流儀。


 建物3階(およそ10m)ほどの高さから飛び降りたため、かなり強い着地の衝撃があった。


 流石の南風でも、2人分の重さの衝撃を殺しきることは難しかったのだ。


「平気か?」


 着地と同時に、バグラは自分の腕の中にいるオルワにそう尋ねた。


 オルワが小さく頷く。それを確認したバグラは手綱を駆り、すっかり見違えたかつての隠れ家アジトを駆け抜けた。






 崩れるに任せていた脆い砂の防壁は、見上げるほど高い石造りの外壁へと変わっている。


 外壁の内側に沿って広がるのは、きちんと手入れされた畑。


 バグラが支配していた頃は、砂と石だらけの荒れ地だったはずの場所には今、様々な作物が植えられていた。


 この地を追われて僅か数ヶ月。


 たったあれだけの女たちだけで、この畑や外壁を作りあげられるはずがない。


「これも、あの娘の力か。」


 戦いは未熟。だが、決して侮れない。バグラは改めてそう思った。


 あの娘によって奪われた船と仲間たち。


 左手を失った時の痛みと屈辱。


 噛み締めた奥歯がぎしりと軋む。


「嬲り殺す! あの娘も、女どももなぁ!」


 まだ明け染めぬ空の下、バグラは昏い情欲を滾らせながら、復讐の相手を求めて集落の中央へと南風を進ませた。






 集落の中央、女神の泉がある広場に辿り着いたバグラ一味は、そこで彼らを待ち構えていた者たちと対峙した。


「来やがったか。」


 見上げるほど大きな土の巨人が数体。そして、砂と土でできた無数の人形たち。


 彼らはバグラの目的地である石造りの大きな建物の周りを、守るように取り囲んでいる。


 数は多い。だが、強引に騎鳥で突破することも不可能ではなさそうだ。


 ただ、無闇に突破しても、カルバラスたちのように罠に掛かる可能性が高い。


 ならばこのまま木偶どもを押し破って、後顧の憂いを断つまで。


 バグラはオルワを抱きかかえたまま、南風から飛び降りた。傭兵たちも、同じように彼に倣う。






 この男たちは、今回の襲撃のために集めてきた猛者だ。


 ペルアネゲラの顔役の一人、ザイヤードの口利きで、特に腕の立つ歴戦の傭兵を集めることが出来た。


 数も十分。人形どもになぞ負けるはずはない。


 だが、慢心して一度に仕掛けるほど、彼は愚かではなかった。


 まずは小手調べだ。


 バグラは自ら曲刀を取ると、一番手近にいた砂人形めがけて突進した。


 バグラの凄まじい一撃は、砂人形を容易く両断した。刃を受けた人形が、砂に戻って足元へ崩れ落ちる。


 脆い。彼は返す刀で土人形を切り裂きながら、傭兵たちに向かって叫んだ。






「デカいのは俺がやる!」


 バグラは人形たちに目もくれず、まっすぐに土の巨人に向かっていった。


 土の巨人は緩慢な動きで、その巨大な腕をバグラめがけて振り降ろした。


 彼はその一撃を容易く交わすと、巨人の手足を続けざまに斬りつけた。


 手足を失った巨人が石畳の上に倒れ込む。


 しかし、彼が別の巨人を切り裂いている間に、倒れた巨人は手足を再生させ、再び彼に襲いかかってきた。


「くそっ、切りがねえ!」


 決して強くはない。しかし、巨人たちは何度でも復活してくる。


 砂人形に囲まれて動きを止めた傭兵が、再生した巨人の一撃で壁に叩きつけられた。


 時間をかけ過ぎたことで、こちら側にもじわじわと被害が出始めている。


 バグラが苛立ち任せに曲刀で巨人の腕を叩き落としたその時、突然、巨人の胸の辺りが金色の光を放った。






 振り返るとそこには、傭兵たちに守られながら、無言で祈りを捧げるオルワの姿があった。


 バグラは反射的に、金色の光めがけて左手の銀鈎を突き入れていた。


 確かな手応え。銀鈎は、土に埋もれた巨人の魔力核を正確に打ち砕いた。


 核を破壊された巨人は一瞬で崩れ落ち、ただの土塊へと返った。


 オルワの祈りに応えるかのように、バグラは次々と巨人たちを破壊していった。


 彼女の〈魔力存在探知の祈りディテクトマナエンティティ〉によって弱点が顕になった巨人たちは、もうバグラの敵ではなかった。


 すべての巨人を倒し終えたバグラは、手勢の様子を確かめるため、周囲に目を走らせた。






 大半の木偶たちは傭兵たちによって、すでに無力化されている。


 あとは、目標の家を守る一団を残すのみ。


「よし、一気に抜け・・!」


 背後の傭兵たちにそう呼びかけようとした彼の横を、白く輝く何かが高速で通り過ぎていった。


「ぐぼあぁ!?」


 彼のすぐ後ろにいた傭兵は光の槍に腹を撃ち抜かれ、潰れたカエルのような声を上げて仰向けに倒れた。


 彼はすぐにその場から飛び退き、槍の飛来した方向を見た。


 そこにいたのは布で顔を隠した女たちと、空飛ぶ奇妙な魔獣の一団だった。


 おそらく建物の陰に姿を隠していたのだろう。


 さっきの魔法を見ればその理由は明白。


 強力な魔法による同士討ちを避けるためだ。






 息吐く間もなく、女たちの頭上に白い魔法陣が浮かび上がる。


魔術師ソーサラーか! 一体、どうなってやがる!!」


 魔物使いの小娘との戦闘を見据えていた彼にとって、魔術師の出現は完全に予想外だった。


 だが、魔術師との戦闘はこれが初めてではない。


 すぐに気持ちを切り替え、左右に進路を変えながら突進した。


 魔術師の魔法は脅威。だが、肉体的には脆弱だ。


 詠唱が終わる前に間合いを詰めてしまえば、あとはこっちのもの。


 それに、魔術師は目で相手を見て、攻撃魔法の狙いをつけている。


 こうやって素早い動きで翻弄すれば、大抵の魔法は避けることが可能。


 立ち塞がった砂人形を一刀で斬り伏せ、彼は魔術師の一人に肉薄した。






 よし、った。


 自分の間合いに相手を捉えた彼は、必殺の確信を持って、大きく曲刀を振るった。


 しかし、バグラは知らなかった。


 魔導士ウォーロックと呼ばれる優れた魔術師たちは、詠唱を短縮できることを。


 そして、視覚ではなく、周囲の魔素マナの動きによって魔法の軌道を誘導できることを。


 彼が対峙しているのは、魔法攻撃に特化した魔法生物。その実力は並の魔術師を遥かに凌駕している。


 さらにこの場所は、彼らが最大限に力を発揮できる迷宮領域内だ。


 白い魔法陣から放たれた光の槍は、不可解な軌道を描いてバグラへ殺到した。






 完全に不意を突かれた彼は咄嗟に後退し、砂人形たちを盾にして槍を防いだ。


 槍に貫かれた砂人形たちが崩れ去り、槍の多くが消失する。


 しかし、防ぎきれなかった槍は、無慈悲に彼の背中や脇腹から襲いかかってきた。


 革鎧を身に着けた男の胴体を容易く貫いた槍。その一撃が彼に迫る。


 彼は痛みと衝撃に備えて身体に力を込めた。


 だが、槍は彼に到達することはなく、まるで炎に触れた粉雪のように霧消していった。


 彼は驚き、すぐに後方に控えるオルワの姿を探した。


 彼の危機を救ったのは、またしても彼女の神聖魔法だった。


 間一髪発動したオルワの〈絶対魔法防御の祈りアンチマジックシェル〉が、すべての槍を消し去ったのだ。


 敵味方の別なく、外部からのあらゆる魔法を消し去るこの魔法は、本来術者自らのみを対象とする防御魔法。


 しかし、オルワは自らの絶大な神聖力を使って、その理を書き換えていた。






 魔法を放ち終えた反動で、魔法生物たちの動きが一瞬止まる。


 バグラはその隙を逃さなかった。


 彼は手近な魔術師の首に曲刀の一撃を叩き込んだ。


 カツンという硬質な音ともに、魔法生物の首が砕け散る。


「こいつらも人形デクか!! ふざけやがって!」


 一瞬、呆気に取られたものの、すぐにそれに倍する怒りが湧き上がり、彼は雄叫びを上げた。


 怒りに任せ、拳と蹴りで人形たちを打ち砕いていく。






 直後、背後から悲鳴が起こった。


 空飛ぶ奇妙な魔獣が、立ち向かっていた傭兵たちに向けて炎の息を吐きかけたのだ。


 火達磨になった男たちが、火を消そうと石造りの床の上を転がる。


 後方からそれを見ていたオルワは、再び両手を組んでじっと目を瞑った。


 程なく男たちの身体が金色の光に包まれ、纏わりついていた炎が消える。


 かつて太陽神の愛し子と称された彼女の〈耐火の祈りファイアレジスタンス〉によって、魔法の炎はたちどころにその効力を失った。






「よくもやりやがったな、この頭野郎!」


 炎の影響を受けなくなった傭兵は、ふわふわと浮遊する魔獣を曲刀で切り裂いた。


 パリンという乾いた音とともに、間抜けな顔をした魔獣の頭が砕け散る。


 次の瞬間、頭から溢れ出した炎が、凄まじい勢いで爆裂した。


 吹き上がる爆風の直撃を受けた男の身体は四散して肉塊となり、戦場中に飛び散った。


 炎の影響は〈耐火の祈り〉によって防ぐことができるが、爆発で生じた衝撃までは消し去ることが出来ない。


 その衝撃によって他の浮遊魔獣が連鎖的に爆発を起こしたことで、被害は更に広がった。


 バグラもまた吹き上がった爆風と炎によって少なくないダメージを負った。


 〈絶対魔法防御の祈り〉の効果によって、〈耐火の祈り〉が彼には及ばなかったからだった。






 爆風の影響は、後方にいたオルワにも及んだ。


 彼女はその場から吹き飛ばされ、硬い石の床に身体を叩きつけられた。


 倒れた拍子に傷ついた額から血が滴り、彼女の髪と頬を濡らす。


 しかし、彼女はすぐに立ち上がり、再び祈りの姿勢を取った。


 傷ついた傭兵たちに金色の光が降り注ぎ、彼らの体の傷がたちどころに癒されていく。


 上級神官のみが扱える範囲回復呪文〈癒やしの陽光サンライトレストレーション〉だ。


 傷が癒えたことに快哉を叫ぶ男たちを尻目に、オルワは唱句をなぞりながら、胸の中の魔力を探った。


 大丈夫、まだ魔力は残っている。あと2回、いや3回は・・・。


 彼女は自分に残された力を冷静に分析し、それをどこで使うかを見極めるため、戦いの趨勢を静かに見守った。


 




 人形の魔術師たちを殲滅し終えたバグラは、曲刀を腰に戻すと、懐の物入れから素焼きの小瓶を取り出し、その中身を一息に煽った。


 中級魔法回復薬ミドルポーションの効果が発動し、傷と痛みが徐々に消えていく。


 傷が癒え始めたことを確かめた彼は、再び曲刀を掲げた。


「一気に抜けろ!」


 男たちに檄を飛ばし、自ら先陣を駆ける。


 すると、その行く手を阻むように、建物の側に設置された街灯から、拳の形をした小火球が飛び出した。


 炎の拳の一撃を、バグラは難なく躱す。


 目標を見失った拳は勢い余って近くの廃墟の壁に激突し、爆炎を撒き散らしながら消えていった。


 小火球によって破壊された廃墟の壁が、バグラにパラパラと降り注いだ。


「迂闊に触るな!」


 傭兵たちもバグラに倣い、襲いかかる小火球を躱して走る。






 建物まであと十数余歩。彼はそこで一度足を止めた。


 周囲の罠を警戒したのだ。


 しかし、そのタイミングで建物の扉が開かれ、中から2つの人影が飛び出してきた。


 扉を背に立ち塞がった2人を前にして、バグラは歯の間から軋るような声を絞り出した。


「会いたかったぜぇ、小娘!」


 彼は憎しみと欲望が綯い交ぜとなった凶悪な笑みを浮かべ、こちらを見つめる2人の少女と対峙した。

お読みいただき、ありがとうございました。

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