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62 ミニピラミッド見学会

 最近あったかいので、ついアイスを買いに行ってしまいました。年始からずっと誘惑に全敗中です。

【大陸歴1415年8月23日 早朝】


〈十四郎視点〉


 ユーリィとパトラが無事だったことで、俺は心底ホッとしていた。


 2人が魔獣に襲われたのは、まったくの想定外。


 十分に安全に配慮し、備えをしていたつもりだったが、考えが甘かった。完全に俺のミスだ。






 このミニピラミッドの周囲に配備したアリ太郎軍団は、今このときにも、近づく魔獣たちを排除してくれている。


 主力部隊の守りは万全。だから、彼女たちが戦闘に巻き込まれることはないと確信していた。


 けど、まさか空から敵が襲ってくるとは思いもしなかった。


 見事に、こちらの思惑の裏をかかれてしまった。この世界ゲームさくしゃは、本当に意地が悪い。


 ナビさんが襲撃を知らせてくれて、本当に助かったよ。






 そもそも、2人に一緒に来てもらったのは、フーリアちゃんと俺の通訳をしてもらうためだ。


 今日の実験の目的は、フーリアちゃんが戦闘でレベルアップできるかどうかを確かめること。


 だから、実験するだけなら、フーリアちゃんと俺だけで十分。


 でも、二人がいないと、俺はフーリアちゃんと会話できないからな。


 あとユーリィたちがいたら、フーリアちゃんも心細くないだろうと思ったのもある。


 万が一、何かが起こった時、俺だけだと彼女を助けられないかもしれないしね。






 実際、俺たちがここにやってきてから、まだ1時間も経ってない。


 俺とフーリアちゃんがミニピラミッドの中で戦闘実験をしていたのは、30分弱のごく短い時間だ。


 元々、そんなに長い時間をかけるつもりはなかった。


 フーリアちゃんがどの程度戦闘できるか分からなかったし、あんまり長くなると、彼女の身体も心配だからね。


 だからほんのちょっとの間だけ、ユーリィにはパトラと一緒に、外で待ってもらうつもりだったのだ。


 短い時間だからと油断したのが、失敗の原因ってことだな。






 ちなみに、ユーリィをミニピラミッドに入れなかったのは、単純に実験の妨げになるからだ。


 俺の呼び出すあの骸骨は、敵味方関係なく、近くにいる相手に無差別に襲いかかっていく。


 例外は俺とユーリィだけだ。骸骨たちは、なぜか彼女にだけは襲いかからない。


 やはり彼女は、他の人間キャラとは違う特別な存在らしい。


 多分、最初に仲間になったキャラだからなのだろう。


 そんなわけで、今回、フーリアちゃんの戦闘実験にユーリィを同席させなかったというわけだ。


 フーリアちゃんが目の前で不死者と戦っていたら、ユーリィは絶対に彼女を助けようとするだろうからな。


 でも、こんなことなら、ミニピラミッドの入口に丈夫な扉でも付けて、中に入ってもらったほうがよかったかもしれない。






『魔獣の吸収が完了。3200DP及び以下の素材、スキルを獲得しました。』


『砂漠ハゲワシの尾羽根×8』

『砂漠ハゲワシの風切羽×8』

『砂漠ハゲワシの嘴×8』

『砂漠ハゲワシの鉤爪×8』

『風の魔石(小)×8』

『スキル〈隠密奇襲〉』

『スキル〈空中機動〉』


 ナビさんのアナウンスとともに、いつもの戦闘リザルトが視界を流れていく。


 ミニピラミッド内にいたときにも、この戦闘記録キルログが流れ続けていた。


 だから、これはきっと最後の戦闘の分だろう。


 2人が戦闘していることに俺が気づけたのも、この戦闘記録とナビさんの警告のおかげだ。


 確かめてみたら、2人が倒した鳥の魔獣を呼び出すアイコンが増えていた。


 この世界ゲームで初めての飛行系魔獣だ。


 予想外の戦闘で肝を冷やしたし、2人を大変な目に合わせてしまったけど、これはかなり大きな収穫だ。


 上空からの偵察や奇襲など、戦略の幅が広がるだろう。






 傷の治療が終わった2人の体力が回復するまでの間、少し休憩することになった。


 そこで、俺は皆にミニピラミッドの中で休むことを提案した。


 外にいると、いつまた魔獣に襲われるか分からないと思ったからだ。


 でも、そんな俺の提案に対し、フーリアちゃんはすぐに反対した。


「この中にはまだ、不死者が残っているかもしれません。2人を立ち入らせるのは危険です。」


 さっきまでずっと、次々と現れる骸骨と戦っていた彼女にしてみたら、その言葉は当然だろう。


 でも、その骸骨を呼び出していたのは、他ならぬこの俺なのだ。


 だから、すでに危険がないことは、誰よりも俺が分かっている。


 彼女の心配も分かるけど、中は完全な閉鎖空間。外からの襲撃を防ぐには、これがベストの選択だ。


 俺は建築アイコンで、ミニピラミッドの入口を丈夫な石の扉で塞いだ後、ユーリィを通じて彼女を説得した。


「御使い様がそこまでおっしゃるなら、反対する理由はありません。」


 まだ少し不安そうな様子だったものの、フーリアちゃんもそう言って納得してくれた。


 俺たちは白い石造りの階段を降り、ミニピラミッドの地下一階へ入った。






「うわー! すっごくきれい!」


 ピラミッドの薄暗闇に不安そうな目を向けていたユーリィは、地下一階の祭壇を見た途端、歓声を上げて目を輝かせた。


 子どもらしいその様子を見て、思わずにっこりしてしまう。


 我ながら、この地下一階に作った祭壇と壁画はなかなかの出来だと思う。


 エジプトや古代ギリシャの遺跡をイメージしながら、二日徹夜して作ったものだ。


 祭壇の女神像は、拠点の中央にある泉のものに似せて作った。


 けど、こっちはわざと表面に小さなヒビとか付けて、少し古びた感じにしてある。


 こういう色とか、テクスチャとかを、思ったとおりに作れるんだから、建築アイコンの力はマジですごい。


 モノづくり系のゲームが好きな人なら、きっとめちゃめちゃハマるんじゃないかな。


 なにしろ、問答無用でこの世界ゲームに閉じ込められてる俺でさえ、作っている間は「ちょっと楽しいな」って思ってしまったくらいなんだから。






 さっきまで不死者おばけに怯えていたユーリィも、今ではすっかり目の前の壁画に描かれた女神の物語に夢中になっていた。


 彼女はフーリアちゃんの手を取って一緒に壁画を見ながら「ねえ、おねえちゃん、ここに描かれているのはどんなお話なの?」って尋ねている。


 それに対してフーリアちゃんは、なんとも困った顔をしながら「私にも分からないわ」と答えた。


 そりゃそうだろう。なにしろ、俺が適当に考えてそれっぽく作ったものなんだから。


 それが結果的にフーリアちゃんを困らせることになって、今ちょっとだけ申し訳ない気持ちだ。






 地下一階はだいたい15m四方の広間になっている。


 天井までの高さは5m。かなり広々とした空間だ。


 俺はその三面、祭壇のある正面と、その左右の壁をいっぱいに使って壁画を描いた。


 壁画の主題モチーフは女神の物語。左から右に向かって、女神の誕生と楽園の創造・悪しき魔物の出現・女神の戦いと勝利が順番に描いてある。


 いわゆる異時同図法ってやつだな。


 ちなみにさり気なく、光の球になった俺の姿と一緒に、短剣を持って戦う戦士も描いてみた。


 深い意味はない。ほんの遊び心ってやつだよ、うん。






 壁画を見て無邪気にはしゃぐユーリィの様子に、フーリアちゃんも少し緊張がほぐれたようだった。


 ユーリィはまだ顔色が悪い。けど、ちょっと前に比べるとだいぶマシになってきてる気がする。


 この分なら、もう少し休んだら拠点に移動できそうだ。


 そう思っていたら、急にフーリアちゃんが考え込むような顔をして、ユーリィになにか話しかけ始めた。


「それにしても、どうしてここにこんな場所あるのかしら?」


「そのことなら、さっきパトラさんが教えてくれたよ。ここはフーリアおねえちゃんの試練のために、御使い様が作ったんだって。」


 ユーリィの返答に驚いた様子のフーリアちゃん。 


 うん、まったく会話の内容が分からん。


 現地語話者ネイティブ同士の会話は早すぎて、俺はまだ断片しか聞き取れないのだ、くそう。


 でも、聞き取れた範囲から推察するに、俺がここを作った理由について話しているような気がする。






 ユーリィの言葉を聞いたフーリアちゃんは、俺の前に跪くと、祈りのポースでこちらを見上げてきた。


「やはり、そうだったのですね。ありがとうございます。」


 今度はちゃんと聞き取れた。2人とも俺と話すときは、かなりゆっくり喋ってくれるのだ。これはマジ助かる。


 俺にお礼を言った彼女は、ウルウルした目で俺を見上げた。


 なんでお礼を言われているのかはさっぱりだ。が、確実になにか勘違いされているっぽい。


 実験目的でここに彼女を連れてきて、ひたすら骸骨と戦わせ続けた俺としては、なんとも良心が痛む状況である。


 すると、俺を見上げているフーリアちゃんに、今度はユーリィが何か話しかけ始めた。






「やはりって、どういうこと?」


「私はさっきまで、ここで不死者たちと戦っていたの。おそらく、シャーレ様の聖気に惹かれてやってきたんだと思うわ。迷える不死者たちは、魂の救済を求めて、こういう聖所に集まりやすいものなの。」


 それを聞いたユーリィは、ぱあっと顔を輝かせた。


「それ、あたしも聞いたことある! じゃあ、御使い様がこの聖所を作ったのは・・・!」


「そうよ、ユーリィ。シャーレ様は、砂海で非業の死を遂げた人々の魂を救済しようとお考えなんだわ。そして、そのために御使い様が、私をここへ導いてくださったのよ。」


「御使い様、すごい!」


 今度はフーリアちゃんだけでなくユーリィまで、やたらにキラキラした目で俺の方を見た。


 子どもの純粋さが、俺の良心を容赦なく抉ってくる。


 やめろ! そんなきれいな目で、打算だらけの大人おれを見るんじゃない!


 これ以上は俺の心が耐えられそうにない。


 パトラに頼んで、ユーリィに俺の考えを伝えてもらおう。






「なんか勘違いしてるみたいだけど、ここを作ったのは、フーリアちゃんがレベルアップできるかの実験をしたかったからだよ。それは最終的に、俺がこのゲームを攻略して抜け出すためだ。」


 パトラは俺の思考を読み取り深く頷くと、それをユーリィに伝えてくれた。


「誤解しているようだが、ここはフーリアが成長できるかを試す場だ。最後には、この地すべての問題を解決し、私がこの地を去るためだ。主様はそうおっしゃっています。」


 パトラの思考を受け取ったユーリィは、ぱあっと顔を輝かせ、興奮した様子でフーリアちゃんに話し始めた。


「御使い様は、間違いが起きることを恐れていらっしゃるみたい。だから、ここでフーリアおねえちゃんの力を試しているんだって。最後までそれを成し遂げることが出来たら、御使い様が新たな世界へ旅立つための扉が開かれるだろうって!」


 ユーリィの言葉を聞いたフーリアちゃんは、胸の前で両手をしっかり握り合わせ、目に涙を浮かべながら俺の方をじっと見上げた。


「なんということでしょう、これは始まりに過ぎないということですね!」

 

 興奮しているせいで、2人はいつも以上に早口になっている。ほとんど聞き取れないぞ、これ。


 二人は今にも涙を流さんばかりの表情で、俺に何度も「ありがとうございます!」と繰り返している。






 これ、さっきよりも、さらに酷くなってないか?


「私は主様のお言葉を、ちゃんと伝えましたよ。」


 俺の思考を読んだパトラが、先回りして俺にそう言った。


 いや、別にパトラを疑うつもりは微塵もない。


 パトラが俺の言葉をわざと歪めることなんて、絶対にないだろうからな。


 伝言ゲーム恐るべしである。


 今は何を言っても、事態がより悪化していく未来しか見えない。俺は、誤解を解くのを早々に諦めた。






「ねえ、フーリアおねえちゃん。だとすれば、この聖所には、これからも不死者が現れるってこと?」


「そうだと思うわ。さっきまでだって、不死者たちが次々と現れていたもの。」


 フーリアさんの言葉で、ユーリィが不安そうな表情で広間の隅を見た。


 二人は不死者おばけの話をしているのようだ。


 けど、別に怖がる必要はない。俺が召喚しない限り、あの骸骨たちが現れることはないからな。


 ところが、ユーリィにそう説明しようとした途端、俺の脳内にナビさんの警告が響いた。


『迷宮領域内に、敵性霊体が出現しました。』

お読みいただき、ありがとうございました。

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