58 フーリアの魔法
昨日投稿したお話ですが、ステータスの誤りなどがあり少し手直ししました。すみませんでした。
【大陸歴1415年8月21日 早朝】
〈十四郎視点〉
やがて太陽が姿を見せると、瞬く間に拠点内の気温が上がり始めた。
ユーリィたちは作業を止め、いつも通り、朝食の準備を始めた。
俺はそのタイミングを見計らい、パトラが育てている金色キノコのことをユーリィに話した。
ユーリィはそれを皆に伝えてくれ、早速そのキノコを調べてみようということになった。
調べる担当になったのは、フーリアさん改めフーリアちゃんだ。
彼女はパトラから受け取った金色キノコを陶器の皿に乗せると、それを床の上に置いた。
そして自分はその前に跪き、両手を合わせて何事か呟いた。
次の瞬間、皿の中の金色キノコは、赤い光を強く放った。
「御使い様。残念ですが、これは食べられないようです。有害な魔素が多く含まれています。」
俺の方を見上げた彼女は、とても申し訳なさそうに言った。
今、彼女が使ったのは〈食物鑑定〉という魔法だそうだ。
これを使うと、対象物が食べられるものかどうかが分かるらしい。
とても便利な魔法だが、彼女によるとこの魔法はごく初級のものなのだそうだ。
この世界にやってきて、人間が目の前で魔法を使っているところを見たのは、実はこれが初めてだ。
正直とてもワクワクした。
いいなあ、魔法。
俺にも魔法が使えたらいいのになー。
なにお前も、魔法で色々作ってるだろって?
いやいや、それは違う。魔法って言ったらやっぱ、杖振って、稲妻とかがビカビカーって出るやつじゃん?
俺がやりたいのはそういうやつなんだ。モノ作るのって、正直ちょっと地味なんだよね。
まあ、モノづくりは好きな方だし、性にはあってると思うけど。
ちなみに、俺はつい最近まで、フーリアちゃんのことを格闘家だと思い込んでいた。
だってあのスケルトンを、見事な拳の一撃で粉砕したんだもの。
でも実は、回復魔法が使える「砂漠巫術師」という職業だったらしい。
あと、彼女は今年で14歳だそうだ。
見た目が大人っぽいので、俺はてっきり二十歳前後だと思い込んでいた。
俺の中での彼女の呼び方を「フーリアさん」から「フーリアちゃん」に改めたのはそのせいだ。
それにしても、外国人の見た目年齢って分かんないよね、マジで。
フーリアちゃんの鑑定結果を聞いて、ユーリィはすごく申し訳なさそうに俺の方を見上げた。
「せっかく、御使い様とパトラさんが持ってきてくれた物なのに。ごめんなさい。」
「いや、問題ない。それよりも、食べる前に有害だって分かって、本当に良かったよ。」
なにしろこのキノコ、香りはいいけど、めちゃめちゃ苦かったからな。
有毒だって言われても「確かに」としか思わない。
毒で死なない身体で、本当によかったわ俺。
「では、ここにあるキノコは主様が召し上がりますか?」
パトラは皿の上のキノコを指さして、俺にそう尋ねた。
たしかに、ユーリィたちの側に有害なものを置いとくわけにはいかない。
もし間違って、小さい子どもたちが口に入れでもしたら大変だもんな。
パトラの言う通り、ここは俺が吸収したほうがいいかな?
もちろん、味覚はオフにした状態でだけど。
一応、ユーリィにキノコをどうするべきか尋ねてみた。
もしかしたら、食べ物以外の使い道があるかもと思ったからだ。
すると、彼女の話を聞いたフーリアちゃんが、俺にこう言ってきた。
「食べることはできませんが、魔素が豊富なので、薬の材料になるかもしれません。よかったら、私にくださいませんか?」
ユーリィに聞いてみると、フーリアちゃんには、製薬についての知識があるようだ。
やはりフーリアちゃんは回復に特化したキャラだったらしい。
こういう回復キャラが一人いると、安心してゲームを進められるからマジ助かるよね。
もちろん、みんなの役に立つなら断る理由はない。
フーリアちゃんにはぜひ、薬作りをがんばってもらいたい。
パトラも同意してくれたので、俺はユーリィ経由でそのことを伝えた。
すると、彼女はその場に両膝をついて、恭しく頭を下げ始めてしまった。
「シャーレ様のお恵みに感謝いたします。おっしゃる通り精一杯努力し、薬師としてより一層成長したいと思います。」
フーリアちゃんは目をキラキラさせて俺を見上げている。
うう、辛い。彼女の純粋な視線が、俺の心に突き刺さる。
彼女の言うシャーレというのは、ユーリィたちが信仰している神様だ。
ユーリィを始めここにいる全員は、俺のことをその神様の使いだと勘違いしている。
俺はこれまでに何度もそれを訂正しようした。けれど、全然うまくいかなかった。
何しろ言葉がろくに通じない上に、俺の言葉は、俺→パトラ→ユーリィ→他の人、という具合に伝言ゲームしている。
最近になって、ようやくパトラを経由せずにユーリィと日常会話できるようになっている。
でも、込み入った話はまだまだ難しい状態。
だから、結局何度かチャレンジした挙句、俺は誤解を解くのを先延ばしすることにしたのだ。
ただ、この神様扱いがなんとも、むず痒くって仕方がない。
だって、考えてみてほしい。
特に偉くもないのに、人からこんな風に恭しくされても、全然うれしくない。単に居心地が悪いだけだ。
たとえ相手がゲームのキャラとは分かっていても「この扱いはやっぱりなんか違うだろ」と感じてしまう。
それとも、この手のゲームをする人は、こんな扱いを受けるのが気持ちいいと感じるのだろうか?
うーん、俺には分からん。
ユーリィを始め、拠点の人たちは皆、俺を神様扱いしている。
中でもそれが酷いのが、このフーリアちゃんだ。
本当にちょっと前までは、俺の姿を見かけるたびにすごい勢いで側にやってきて、跪いて祈りを捧げていた。
それはマジでやめてほしいとユーリィに伝えてもらってからは、ようやく無くなった。
けど、それ以外は相変わらずだ。
ユーリィ曰く、フーリアちゃんは俺が彼女の弟の命を救ったことに対して、めちゃめちゃ感謝しているらしい。
確かに、俺は彼女の弟を助けた。
でも、それは俺の力じゃなくて、どっちかっていうとナビさんの力だ。
それにそもそも、俺はそんなに感謝されることをしたつもりもない。
ゲーム内で同じような状況になったら、きっと大抵のプレイヤーが「彼女の弟を助ける」方の選択肢を選ぶはずだ。
だから、俺が特別に感謝されるような善人ってわけでもないのだ。
それに、あれは彼女が俺の仲間になるための、ゲーム内イベントのようなものじゃなかったのか?
だとしたら、彼女のこの様子も、ゲーム制作者の設定通りってことなのだろうか。
もしそうならば、制作者を小一時間ほど問い詰めたい気分だ。
ちなみにユーリィの話では、あのイベントで彼女はシャーレ神に人生を捧げて、魔法の力を得たそうだ。
いくらゲーム内とはいえ、弟を助けられたぐらいで新たな力に目覚めるのは、なんかすごいなと思ってしまった。
その後の行動を見るに、彼女は元々、思い込みの激しいタイプだったのかもしれない。
「シャーレ様の御心にお応えできるよう、これからさらに精進いたします。」
フーリアちゃんがそう言うのを聞いて、俺はふと思いついてしまった。
俺の呼び出す魔獣は、戦闘や融合で進化する。
では、人間のキャラはどうなんだろうか?
俺はユーリィのステータスを見ることができる。
それによると彼女のレベルは現在6。
これまでの経緯を考えて、魔獣やあの船長との戦いでレベルアップしてきたのだろうと思われる。
それにこのところ、ユーリィはパトラと一緒に剣の自主練習をしているから、その成果もあるのかもしれない。
俺が文字を読めたら、きちんとしたステータスの変化が分かるのだろう。
だが、残念ながら詳細は不明だ。
拠点に文字を書ける人がいたら教えてもらえるんだけど、残念ながら文字の読み書きができる人はいなかった。
一方、俺はフーリアちゃんのステータスを見ることができない。
てっきり彼女も仲間キャラだと思っていたのだが、どうもユーリィとは扱いが違うようなのだ。
なにか条件があるのだろうか?
詳細は不明だが、成長に関してはフーリアちゃんも確実にしているらしい。
フーリアちゃん自身が言うには、「日々の祈りを重ねることで、様々な新たな力に目覚めた」そうだ。
つまり、持っている力をどんどん使うことで、成長できるってことらしい。
戦闘に限らず、修行や勉強で成長するタイプといえるだろうか。
ここで最初の疑問に戻る。
では、魔獣との戦闘の結果、フーリアちゃんはユーリィと同じように成長することができるのだろうか?
彼女は以前、一撃でスケルトンを倒している。つまり、戦闘もこなせるキャラだということだ。
もし、彼女が戦闘で成長できるのだとしたら、今後のゲーム攻略に大きく関わってくる。
これは、ぜひ検証しておきたい。
ただ、魔獣との戦闘に、いきなり彼女を連れ出すのは危険過ぎる。
できるだけ安全な方法を考えなくてはならない。
俺は早速、自分の思いつきを確かめるための準備を進めることにした。
2日後の朝、俺はパトラと共に、ユーリィとフーリアちゃんを、拠点の外に連れ出した。
パトラが操る将軍アリに乗ってやってきたのは、拠点から西へ1kmほど離れた場所。
「これが、御使い様がおっしゃっていた遺跡ですか?」
将軍アリから降りたユーリィは、周囲を警戒しながらそう言った。
ユーリィもフーリアちゃんも、かなり不安そうな様子だ。
ユーリィたちの村では、非常時でもない限り、女性が村から遠く離れることはなかったらしい。
魔獣がうようよいるこの環境では、それも当然だろう。
いくらゲーム攻略のため検証とは言え、こんなところに二人を連れ出したことを、俺は申し訳なく思った。
俺が「やっぱり止めようか」と言おうとしたそのとき、フーリアちゃんがユーリィをかばうように、決然と前に進み出た。
「御使い様、この遺跡の探索はこの私にお任せください。」
彼女は目の前の遺跡の入り口を、厳しい目で睨んでいる。すごくやる気になってくれているようだ。
彼女のためにこの遺跡を準備した俺としてはうれしい限りだか、正直不安もある。
もちろん危険はないように配慮するし、パトラもついてくれている。
この周辺にはアリ太郎軍団も配置しているから、大丈夫だと思うんだけど・・・。
「ユーリィ、下がっていて。この中からは不死者の穢れを感じるわ。」
『不死者』という単語に、ユーリィが身体をビクリと震わせる。
『不死者』というのは『おばけ』みたいなニュアンスの言葉みたいだ。
どうやら、ユーリィはおばけが苦手らしい。
魔獣やあの船長相手に、勇敢に戦う彼女にしては少し意外な気がする。
でも、考えれば彼女はまだ9歳。それも当たり前かもしれない。
「この遺跡、すごく変わった形してるね、フーリアおねえちゃん。」
ユーリィはそう言って、俺の作った高さ5mほどのミニピラミッドを見つめた。
砂漠の雰囲気に合うように作った俺の自信作だ。
「本当に一人で大丈夫なの、フーリアおねえちゃん?」
「大丈夫よ、ユーリィ。ちょっと怖いけど、みんなの暮らす家の側にこんなものがあるなんて、放っておけないもの。」
フーリアちゃんはそう言って、ユーリィにぐっと拳を握って見せた。
「あなたこそ気を付けてね。」
「うん。あたし、ここで待ってる。おねえちゃんも気を付けて。」
フーリアちゃんは、小さく唾を飲み込んでから、決然と遺跡へと足を踏み入れた。
すこし迷っていたものの、その様子を見て俺も腹を括った。
俺はユーリィのことをパトラに頼み、フーリアちゃんに続いて、ミニピラミッドへと入っていった。
お読みいただき、ありがとうございました。




