57 新たな力とパトラの好物
正月休み明けで忙しいせいか、読み返したらほとんど話が進んでませんでした。書く楽しさに負けて、漫然と書いてしまってました。効率よく書くのは、本当に難しいです。
【大陸歴1415年8月20日 深夜】
〈十四郎視点〉
パトラから「時間があるときに畑を見回ってみてほしい」と頼まれた俺は、領地を広げるための立方体を畑に配置していった。
といっても、手持ちの立方体の数はごく僅か。畑の入口付近に数個しか置くことができない。
俺のmpは、領地の立方体1個につき10pずつ回復する。
mpにゆとりを持つためにも、早めにレベルアップして、どんどん領地を広げたいものだ。
そう考えながら、すべての立方体を配置し終えたところで、突然ナビさんの声が脳内に響いた。
『迷宮レベルが上昇しました。迷宮領域設置上限が2000エリアになりました。』
『レベル上昇に伴い、迷宮構造物内環境改変機能が解放されました。』
ナビさんの言葉の意味は分からなかったものの、2000という数字だけは聞き取ることができた。
ステータス画面を開いて確認してみると、なんとレベルが9から10に上がっていた。
急にレベルが上がったのはどう考えても、俺が立方体を設置し終えたからだろう。
どうやらこのゲーム、限界まで領土を広げた状態でないと、レベルが上がらない仕様だったらしい。
どおりで、これまでいくら魔獣を倒しても、レベルアップしなかったわけだ。
今までは、立方体を未配置にするゆとりなんてなかったから、全然気が付かなかった。
こんなことなら出し惜しみせずに、さっさと領地を広げておけばよかったよ。とほほ。
でも、これでまた一つ、ゲーム攻略に近づく情報を得ることができたともいえる。
確かめてみたところ、領地の立方体の配置上限も500個増えて、2000個になっていた。
俺は早速、立方体を20個ほど並べて、パトラの畑を見回りできるように、細い通路を作った。
畑はかなり広いのですべてを埋め尽くすのは難しい。けど、ちょっと見回るくらいならこれで十分できそうだ。
残りの立方体は、拠点内の未配置部分を埋めて、ユーリィが拠点内で自由に行動できるようにしよう。
畑に通路を作り終えたところでふと見ると、視界内の建築アイコンが点滅していることに気が付いた。
アイコンを開いてみると、建築アイコンに奇妙な見た目のメーターのようなものが追加されていた。
いったい何だ、このメーター?
縦型に2つ並んだメーターの中央には、小さな矢印がある。
矢印に意識を向けると、それを上下させられることが分かった。
メーターの横には、なにか書いてあるけど、残念ながら俺には読むことができない。
メーターには細かい目盛と数字が振ってあるから、どうやら、何かを調整するためのもののようだ。
俺の思考を読み取ったパトラが、心配そうにこちらを見つめている。
ナビさんの言葉もパトラが通訳してくれたらいいのだけど、残念ながらナビさんの声は俺にしか聞こえない。
彼女に心配をかけるのは申し訳ないけれど、これは俺が一人で考えなくてはならない問題だ。
とりあえず試して、トライアンドエラーしてみるのがよい気がする。
分からないままに適当にメーターを操作していたら、不意にナビさんの声が聞こえてきた。
『現在、迷宮核が存在している領域内の温度・湿度を変更します。この環境改変には200DPが必要です。実行してよろしいですか?』
一応、200という単語は聞き取れた。
多分、コストとして俺が消費するmpのことだろう。
今は少しでもmpを節約したい状況だが、新機能を試してみたい気持ちもある。
俺はナビさんに「YES」と伝えた。
その瞬間、俺とパトラが立っている領地内の空気がぶるりと震え、飛行機の離陸時のように、耳がキンとなるような感覚が襲ってきた。
「主様!」
異変を察したパトラは、すぐに俺を抱えてその場を離れた。
その直後、今まで俺たちがいた場所が、あっという間に真っ白い霜で覆われた。
「くっ!!」
パトラがその場に膝を突いて、地面にしゃがみこんむ。
鉤爪つきのブーツのようになった彼女の足先は、白く凍りついてしまっていた。
「大丈夫か、パトラ!」
「問題ありません。すぐに良くなります。」
その言葉通り、彼女の足先についた霜は、みるみる間に溶けていった。
彼女が立ち上がったのを見て、俺は心底ホッとした。
「すごいです。これも主様の魔力なのですね。」
彼女はそう言って、目の前の白く凍りついた畑に目を向けた。
5m四方、ちょうど緑の立方体1個分の範囲が、完全に白く凍りついている。
不思議なことに、凍った立方体の側に近寄っても、まったく冷たさを感じなかった。
まるで、文字通りの見えない壁によって、空間が分けられているようだ。
パトラは感心してくれたけど、俺はそれを少しもうれしいとは感じられなかった。
なにしろ、危うくパトラを氷漬けにするところだったのだ。
彼女が機転を効かせてくれて本当に助かった。
「本当にごめん、パトラ。」
「大丈夫です。仮に凍りついたとしても、これは私の分身の一体に過ぎません。それよりも、主様が無事で本当に良かったです。」
パトラはそう言ってくれたが、俺の心中は穏やかではない。
もっと慎重になるべきだったと、すごく反省した。
次から新しいアイコンを試すときは、地下実験室に籠って一人でやろうと強く心に誓った。
それはともかく、このメーターは領地内の気温を変化させることができる機能のようだ。
変化した領地内にあったキノコは完全に凍りついてしまっている。
これ、もとに戻せるのだろうか?
俺が脳内でナビさんに疑問をぶつけると、すぐに彼女からの返答があった。
『環境改変を解除します。』
ナビさんの声と共に、凍りついた空間がもとに戻った。ただ、空間内の砂や金色キノコは、まだ凍りついたままだった。
こうやって簡単に気温を変化させられるのは、使い方によっては便利かもしれない。
でも、かなり魔力を使うし、効果範囲も狭い。
それに、まだどんなデメリットがあるかもわからない。今後の検証は慎重にしよう。
ふと気がつけば、視界内の時間表示はすでに、夜明けに近い時間になっていた。
色々なことがあり過ぎたせいで、こんなに時間が過ぎていることに全然気が付かなかった。
危ないこともあったけど、長すぎる夜を充実して過ごすことができたことに、俺は少しだけ満足した。
ちなみに凍りついたキノコは、しばらくすると元に戻ったけど、少し色が悪くなっていた。
でも食べるには問題ないとパトラが言ってくれたので、ちょっと救われた。
パトラの畑にも立方体を配置し終えたし、ここでこれ以上することもなさそうだ。
そろそろ拠点に戻った方がいいだろう。
俺はパトラと共に、地上に出た。
東の地平線の向こうが白みはじめ、赤から薄青への美しいグラデーションが空いっぱいに広がっている。
俺達に続き、巣からぞろぞろと出てきたアリ太郎たちが、天に向かってお尻を高く突き上げる。
彼らはああやって空気中の水分を結露させ、飲み水を得ているのだ。
俺は気になったことを、何気なくパトラに尋ねてみた。
「そう言えば、パトラたちはどうやって水を手に入れてるんだ?」
「私たちは、飲み水を必要としません。」
聞けば、彼女たちは体質的に、元々あまり水を必要としないらしい。
食べ物から得られる水分だけで十分なのだと教えてくれた。
「へー、そうなんだ。ちなみにパトラの好物ってあるの?」
「好物・・ですか?」
ふとした俺の疑問に、パトラは少し考え込んだ後、こう答えた。
「基本的に液状のものなら何でも食べますが、特にこれと言った好みはありませんね。強いてあげるなら、熟した植物の蜜や狩ったばかりの獲物の体液、でしょうか。濃厚であればあるほど、多くの力を得ることができます。」
昆虫型の頭部を持つ彼女たちは、歯を持たないので、固形物をそのまま食べることはないのだそうだ。
固形物を食べるときには、消化液を噴射し、溶かして液状にしてから食べているらしい。
いや、この場合「飲んで」いると言ったほうがいいのか?
それにしても蜜はともかく、体液は結構エグいな。食べている絵面はあまり想像したくないかも。
「じゃあ、あのキノコも溶かして食べてるんだ?」
「いいえ。私たち蟻人は、傘の内側にある液だけを吸い取っています。余った部分は、従わせたアリたちに食べさせていますよ。」
ふむふむ、あのキノコは食糧であると同時に、家畜であるアリ太郎たちの飼料にもなっているようだ。
無駄がなく、実にいいね。
それにしても、狩ったばかりの獲物はともかく、花の蜜が好みなら、パトラ用に花畑でも作ってみようかな。
いっそのこと、蜂でも飼ってハチミツとか作ったほうがいいのだろうか?
あ、でも、蜂の飼い方とか、俺知らないわ。誰か詳しい人がいないか、拠点に帰ったらユーリィにたずねてみよう。
アリ太郎たちの水分補給が終わったのを見計らって、パトラは俺を抱えたまま、移動用の将軍アリに飛び乗った。
彼女の手には金色キノコが握られている。
ユーリィたちが食べられないか確かめるために、一つ持ってきてもらってきたのだ。
俺は苦くて食べられなかったけど、現地人であるユーリィたちなら食べ方を知ってるかもしれないしね。
朝になって多少元気になった将軍アリに揺られること2分弱。
俺とパトラは、ユーリィたちのいる拠点へと戻ってきた。
巣に帰っていく将軍アリに「ありがとな」と声を掛けて見送り、パトラと共に拠点に入る。
すると、すぐにユーリィが駆け寄ってきた。
彼女に後ろには女性たちの姿も見える。すでに朝の仕事を始めていたようだ。
「御使い様、その騎士様は?」
「私です。パトラですよ、ユーリィ様。」
新しい案内役となった戦士姿のパトラを見たユーリィは、彼女のことを甲冑を着た人間の戦士だと勘違いしたようだ。
パトラの説明を聞いて、ユーリィはかなり驚いていた。
けれどその後は、意外とすんなり彼女のことを受け入れたようだった。
その後、ユーリィから紹介を受けた他の女性や子どもたちも、難なくパトラの存在を認めてくれた。
むしろ、以前のパトラよりも、今のパトラの方に良い印象を持っているようにも感じられる。
やはり、昆虫型よりも、人間に近い見た目のほうが、親しみを感じやすいのかもしれない。
「主様のおっしゃること理解できました。次に新しい分身体を作る時の参考にさせていただきます。」
パトラはそう言って、俺の方に顔を向け、兜の飾りのように見える短い触覚をピクピクと動かしたのだった。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:10
総DP:761
獲得DP/日:15300
消費DP/日:14583
種族:迷宮守護者
名前:ユーリィ
職業レベル:6(ガーディアン)
強打L3 突撃L3 短剣術L6
暗視L1 反射音探知L1 締め付けL1
操船L2 登攀L3 騎乗L3 詐術L2
装備:守護者の剣
(自動回復L3)
守護者の鎧
(斬撃被ダメージ軽減L2 酸耐性L2
熱耐性L1 炎耐性L1 毒耐性L2
土魔法耐性L1)
水鏡の円盾
(光線攻撃反射L5 石化耐性L5
魔法耐性L3)
種族:人間
名前:フーリア
職業レベル:3(デザートシャーマン)
危機感知L1 自然の祝福L1
不死者払いL2 浄化L1 小治癒L1
お読みいただき、ありがとうございました。




