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54 レベルアップと味覚の解放

 今回はリード回なので、ほとんど話は進んでません。あと、明日はぜんざいを作りたいので、投稿時間が遅くなるかもしれません。

【大陸歴1415年8月20日 深夜】


〈十四郎視点〉


 ゆっくりと昇っていく月をぼんやり眺めながら、パトラと一緒に拠点内を回っているうちに、いつの間にか外壁の上まで来てしまった。


 少し風がある。ユーリィなら間違いなく凍えてしまうほどの寒さだ。


 でも、身体のない俺はさほど寒さを感じない。これはこの身体の、ちょっとありがたいところだな。


 そういえばこの間、早朝に見回りをしていたら、泉の周りに跳ねた水滴が白く凍りついているのを見つけたっけ。


 砂漠の夜は冷えると聞いていたけれど、まさか氷ができるほど寒くなるなんて思わなかったよ。


 現実リアルの砂漠でも、同じくらい寒くなるんだろうか?


 それともこれは、この世界ゲーム内のだけのことなのだろうか?






 青い光に照らされた砂漠を見渡してみる。でも、見えるものはどこまで行っても、砂の地平線ばかり。


 動くものもない寒々しい光景だ。


 でも実はこの砂の世界には、想像よりもずっと多くの生き物たちが暮らしていることを、俺はもう知っている。


 最近、特に小鳥や虫たちをよく見かけるようになった。


 ユーリィたちが育てている作物がつぼみを付けるようになった頃から、どこからともなく蝶や蜂、小さい甲虫などの昆虫がやってくるようになったのだ。


 そして、彼らとともにやってきたのが虫を捕食する小鳥たち。


 日本ではあまり見かけたことのない珍しい色の鳥たちは、日中嬉々として、虫や植物の芽をついばんでいた。


 ちなみに、小さい男の子たちは、器用に罠を作ってその鳥たちを捕まえている。


 捕まった鳥たちは、皆の夕食のおかずになるのだ。


 小鳥たちは害虫を食べてくれるありがたい存在だが、同時に作物を荒らす害鳥でもある。


 それを駆除しつつ、美味しく食べられるわけだから、まさに一石二鳥ってところなんだろう。


 花を虫が、虫を鳥が、鳥を人間が食べ、そしてそれを狙う魔獣たちがいる。


 こうやって考えると、ちゃんとこの世界ゲームにも食物連鎖があるのだなと、妙に感心してしまった。






 まだまだ、月は高く、夜は長い。


 眠れない夜というのは、本当に長く感じられるものだ。


 俺は外壁を降り、意味もなく拠点内をウロウロする。すると、急に前に進めなくなった。

 

『アクティブ状態の迷宮核は、迷宮領域外に出ることができません。』


 ナビさんの言葉のうち、「外に出ることはできません」は何とか聞き取ることができた。


 俺もだいぶ、この世界の言葉に詳しくなったものだ。


 もうユーリィとの日常会話くらいなら、パトラの通訳無しで出来るくらいだ。ただし、ゆっくり話してもらわないと、聞き取れないことが多いけど。






 『目』を凝らしてみると、進めなくなった場所には、緑色の立方体が配置されていなかった。


 俺とユーリィ、それにスナマンやゴーレムたちは、この立方体の内側でしか行動できない。


 この先に進むためには、緑の立方体を配置して、俺の領地に変える必要がある。


 ちなみに現在、俺が領地に配置している緑の立方体の数は、合計1450個。


 そのほとんどは、この拠点内に集中している。


 拠点外の領地は、この拠点の周辺を除けば、パトラたちの巣へ真っすぐ伸びた細長い通路部分だけだ。






 俺はまだ、この拠点内のすべてに、緑の立方体を配置しきってはいない。


 配置してあるのは、拠点の外周と地下実験室を含む拠点の中心部近辺、そして畑と水路部分のみだ。


 俺はともかく、まずはユーリィのためにも、拠点内をすべて埋め尽くしたい。


 彼女がどこでも自由に行き来できるようにしてやりたいからな。


 でも、これがなかなか大変なのだ。






 この拠点を囲んでいる壁は、上空から見ると、ほぼ正方形をしている。


 その一辺の長さはおよそ200m。高さは10m程だ。


 現在、俺はその高さに合わせ、立方体を2つずつ積み上げるようにして、拠点内に配置している。


 ざっとした計算だが、拠点内をすべて埋め尽くすためには、およそ1600個の立方体を配置する必要がある。


 ステータス画面の数字を確認したところ、俺の現在のレベルは9。配置できる立方体の上限数は1500。


 不測の事態に備えて未配置にしてある50を加えても、拠点を埋めるには足りない。


 立方体の配置上限数を上げるためには、レベルを上げるしかない。


 でも、そのために、あとどのくらい魔獣を倒せばよいものか、見当もつかない状態だ。






 前回レベルアップしたのは、船長たちの襲撃直後だった。


 その時から、すでに3か月足らずが経過している。その間、俺のレベルはまったく上っていない。


 これはおそらく、出現する魔獣のほとんどをパトラたちの食糧にしてしまっていたからだ。


 でも少し前からは、パトラは優先的に俺の領地内に魔獣を誘導してくれている。


 そのお陰で、いろんな魔獣の融合実験をするだけのmpを確保できたのだ。


 それなのに、レベルは一向に上がる気配がない。魔獣の進化も怒ってないし、一体どうなってるんだろう?


「私が今、いただいている分を、すべて主様にお渡ししたほうがいいのでしょうか?」


 俺の思考を読み取ったパトラが急に話しかけてきた。


「いや、そこまでしなくて大丈夫。パトラだって、仲間を増やすために魔獣が必要でしょ?」


「確かにそうですね。でも、私の本体が産卵のために食べるだけなら、以前ほど必要ではありません。巣の中の『畑』が完成したからです。これから女王以外の蟻人の食べ物は栽培した作物で賄うことができます。」


「畑!? もしかしてユーリィたちが作ってる畑を真似したのか?」


「はい。元々私たち蟻人は巣の中で食糧を栽培する性質があります。ユーリィ様たちの作っている畑を参考にして、巣の中を改良させていただきました。」


 驚いたことに、彼女たち蟻人には、農業をする性質があったらしい。


 けれど、よく考えたら、彼女たちはもともと、巨大な巣を運営できるほどの知能と高度な社会システムを持っている。


 食糧の自給自足ができても、なんら不思議ではないわけだ。


 狩猟採集だけで巨大な巣を維持するには、自ずと限界がやってくるからな。


 その結果として、食糧を栽培をするようになるのは、生存戦略として当然の帰結なのかもしれない。


 しかもその上、人間ユーリィのやっていることを真似して取り入れられるんだから、パトラの知能の高さは相当なものだ。


 これは俄然、彼女たちの畑に興味が湧いてきたぞ。






「ねえ、パトラ。よかったら畑を見せてもらってもいいかな?」


「もちろんです。ぜひ、私が畑で作った作物を召し上がってください。」


 パトラは俺の申し出を快く了承してくれた。


 ただ、申し訳ないことに、俺は食べ物を食べることができない。


「そうなんですか? いつも倒した魔獣を召し上がっているのに?」


 俺の思考を読んだパトラが、意外そうな声で疑問を投げかける。


 どうやら、倒した魔獣をナビさんが吸収してくれるのを見て、パトラは俺が「魔獣を食べている」と勘違いしていたらしい。


 いや、言われてみれば、領地内で倒した魔獣は、光の粒になって消えていくわけだから、俺が食べているようなものなのだろうか?


 味も匂いも感じられないから、俺としては食べている感覚はゼロだったんだけどな。


 でも、mpは回復してるし。ナビさん的には、その辺どうなんだろうか?






『有機物を吸収する際の味覚の有無を任意に切り替えますか?』


 俺が脳内で考えていたら、急にナビさんが話しかけてきてくれた。でも、俺の知らない単語ばかりだ。


 ただ、有能なナビさんのことだ。きっと今の会話に関係している内容に違いない。


 ここは「YES」一択だな、うん。






『迷宮核への環境フィードバック、味覚を解放します。』


 ナビさんがそう言った途端、俺の視界内のステータスアイコンが白く点滅を始めた。


 アイコンを開いてみると、今までになかった何種類かのスイッチのようなアイコンが追加されていることが分かった。


 それぞれのスイッチアイコンの横には、目や耳、鼻、舌、身体などのイラストが小さく書いてある。今はそれらが、全てオンになっていた。


 試しに目のスイッチをオフにしてみると、途端に視界が暗くなり、周囲の様子がネガポジ反転したような世界に変わった。






『光学視界モードを、魔力視界モードに切り替えました。』


 ナビさんの説明はさっぱりだが、明らかに視覚が普段とは別のものに置き換わっているのは分かる。


 どうやらこのスイッチには、俺のアバターの五感を切り替える機能があるようだ。


 ゲームの環境設定ボタンみたいなものなのだろう。


 ちなみに、目のスイッチをオフにした状態でパトラを見ると、彼女の身体から白い湯気のようなものが少しずつ放出されているのが見えた。


 湯気は彼女の胸の辺りに近づくに連れて、濃くなっていく。


 うーん、この湯気の正体が気になる。


 けれど、その検証はまた今度だ。今は他のスイッチも試してみたいからな。






 色々試してみた結果、耳のスイッチをオフにすると音が、身体のスイッチをオフにすると周囲の熱や風の動きが感じられなくなった。


 ということは、舌のスイッチをオンにすると、味を感じられるようになるのではないかと思う。


 でも、残念ながら、近くに食べられそうなものはない。


 ここはぜひ、パトラの畑に行って彼女たちの作物を食べて検証してみたい。


 こうして俺は、パトラに抱えられた状態で彼女が迎えによこしてくれた将軍アリに乗り、彼女たちの巣へと向かったのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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