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52 地下実験室 前編

 手足が冷えて辛いです。早くあったかくならないかなあ。

【大陸歴1415年8月20日 宵の頃】


 薄暗い地下空間の中には、寒々とした空気が満ちていた。


 砂色をした石の床に描かれた2つの魔法陣。そこから現れた魔獣の姿が、光とともに一つに重なっていく。


「・・・んん? これ、成功したのか?」


 光が収まった後、その場に現れた新たな魔獣の姿を見て、俺は思わずそう呟いてしまった。


 俺の目の前でふわふわと浮かんでいるのは、どっからどう見ても、ハニワの頭だ。


 ただ、本来空洞であるべき頭の中には、燃え盛る炎がごうごうと音を立てている。


 丸い穴になっている目と口からは、その炎がチロチロと飛び出していた。


 見ようによっては、強そうに見えないこともな・・いや、ないな。どう見ても、弱そうだ。


 実際、魔獣召喚アイコンで確認してみたら、元になった魔獣よりも、召喚コストが低かった。


 明らかに、弱くなってるじゃん・・・。


 融合に3000もmpを注ぎ込んだのに完全に失敗だよ、これ。






 ちなみに、ハニワ頭の元になった魔獣は、陶製の人型人形と空飛ぶ火の拳だ。


 陶製人形は、土ゴーレムと空飛ぶ火の拳を融合した結果、生み出された新しい魔獣だ。


 陶製の女性マネキンみたいな見た目をしたこの魔獣は、力こそ弱いものの、光の矢を作り出して相手を攻撃することができる。


 戦闘力のテストで土ゴーレムと対戦させてみたら、空中に浮かんだ魔法陣からピュンピュン光の矢を出して攻撃していた。


 その飛んでいく様子が、ビームみたいであまりにもかっこよかったので、テンションが爆上がりしてしまった。


 だってこれ、このゲーム内で初めて見た魔法攻撃だったのだ。


 やっぱ、攻撃魔法って夢っていうか、ロマンがあるよね。






 そして今、冷静に振り返ってみると、ちょっと前の俺はかなり浮かれていたのだと思う。


 後先考えず、「もっとかっこいい魔法を見たい!」と思ってしまったのだ。


 そうやって浮かれた結果、生まれたのがこの空飛ぶハニワ頭だ。


 てっきり、魔法で火の玉を撃ち出す魔獣ができると予想していた。だが、その予想を完全に裏切られた形だ。


 こんなことなら最初から素直に、陶製マネキン同士を融合しておけばよかったよ、くそう。






 でもまあ、せっかく作ったんだし、性能テストくらいはしてみたほうがいいかもしれない。


 俺は、あらかじめ、この地下実験室に連れてきておいた土ゴーレムと、ハニワ頭を戦わせてみることにした。


 土ゴーレムの素早いパンチを、ハニワ頭はひらりひらりと器用に躱す。


 一応、ゴーレムには手加減させているとはいえ、回避性能はかなり高そうだ。


 もしかして、当たりを引いたのか?


 俺がそう思った瞬間、ゴーレムのパンチを大きく回避したハニワ頭が、ふと動きを止めた。


 と思ったら、カッと目を光らせたハニワ頭の口から、すごい勢いで炎が吹き出した。


 すげえ! ファイヤーブレスじゃん!

 

 炎を浴びた土ゴーレムの体表が白く変色し、ポロポロ崩れ落ちる。


 だが、見た目ほど大したダメージではなかったようだ。ゴーレムは即座に反撃に移った。


 動きを止めたハニワ頭に、ゴーレムのパンチが正面から炸裂する。


 パンチを受けたハニワ頭が、粉々に砕け散る。同時に、頭の中の燃え盛る炎が凄まじい勢いで爆裂した。


 轟音と爆風が実験室内に充満する。


 戦いの様子を観察していた俺は、あっという間もなく爆風でその場から吹き飛ばされた。


 幸い、十分な距離を取っていたおかげで、ダメージを受けることはなかった。


 けれど、強い熱と光のために視界がくらくらする。


 軽い衝撃から立ち直ったときには、ハニワ頭の破片と半壊した土ゴーレムの身体が、地下実験室の床に散乱していた。


『破壊された魔法生物の残骸を吸収しました。80DPを獲得しました。』


 ナビさんの声とともに、ハニワ頭と土ゴーレムの残骸が光となって消えていった。


 いや、ハニワ頭! あいつ、とんでもねえぞ!


 ゴーレムの立っていた石の床には、はっきりと熱で焼けた跡が残っている。


 マジで洒落にならない威力の爆発だった。地上で実験しなくて、本当に良かったよ。






「大丈夫ですか、御使い様! すごい音がしましたけど!」


 心配したユーリィとパトラが、地下実験室の入口から慌てて駆け込んできた。


 まだ、夜中なのに、ユーリィは寝床から飛び起きてきてくれたらしい。


 入口からは、格闘家のフーリアさんたちの顔も見える。


 音に驚いて、他の女性たちや子どもたちも目を覚ましてしまったみたいだ。


「本当にごめん。大丈夫だよ。ちょっと実験に失敗しただけ。」


 俺がそう言って、ゆらゆら身体を揺らすと、ユーリィはほんの少しだけ安心した顔をした。


 俺はパトラだけを実験室に残し、他の皆にはまた寝床に帰ってもらおうとした。


 でも、ユーリィだけは、どんなに説得しても、頑として俺の側を離れようとしなかった。






「やっぱり、あたしも一緒にいます!」


 この1か月あまりの間、ユーリィとよく会話するようになったことで、俺は彼女とかなり仲良くなることができた。


 最初はちょっと距離があるというか、遠慮がちだった彼女と、気軽に話せるようになったことは正直うれしい。


 でも、その分、彼女は俺のことをとても心配するようになってしまった。


 どうやら、彼女は俺のことを神様からの使いか何かだと、勘違いしているようだ。


 それで、俺のことを守らなくてはいけないと思っているらしい。


 俺は、その誤解を解こうとしたのだけれど、今のところできていない。






 一応、パトラにも通訳してもらったのだけれど、俺の説明をユーリィは理解しきれなかった。


 これは単純にユーリィのせいというわけではない。


 パトラと俺の意思疎通がうまく行っていないということも、多分に影響していると思う。


 パトラは俺の思考を読み取ってくれているが、彼女は人間ではなく、あくまで昆虫。


 人間とは別の文化や慣習を持つ種族だ。


 だから、細かいニュアンスや抽象的な概念は、伝わらないことが多い。


 しかも、それを、俺ともパトラとも文化の異なるユーリィに伝えようとしている。


 だから、そもそもが土台、無理な話なのだ。


 だから、しばらくの間、俺は神様の使いということで通すことに決めた。


 それにメタ的に考えれば、俺はこのゲームのプレイヤーで、ユーリィはキャラクター。


 ある意味、俺は神様せいさくしゃの使いと、呼べないことはないのかもしれない。






 話を戻すと、最近のユーリィは、俺を守ることに関して、ちょっと頑固になっているように思う。


 もちろん、それは俺のことを心配してのこと。


 けれど、新しい魔獣を融合して、ゲーム攻略を少しでも有利に進めたい俺にとっては、ちょっとだけ困った状況だ。


 だって俺と一緒にいることで、さっきの爆発みたいに、ユーリィに危険が及ぶかもしれない。


 呼び出したほとんどの魔獣たちは、俺の命令をちゃんと聞いてくれる。


 でも、中にはあのスケルトンみたいに、問答無用で周りの人間を襲うような奴もいるのだ。


 それに、あのオオトカゲみたいに、広範囲に猛毒を撒き散らすような奴だと、大惨事になりかねない。


 地下実験室を使っているのも、それを避けるためだ。


 でも、ユーリィが俺を心配する気持ちもよく分かる。






 ユーリィを危険な目に合わせることはできない。


 かと言って、このまま実験を止めてしまうわけにもいかない。


 少し悩んだ結果、俺は折衷案を実行することにした。


 建築アイコンを起動させ、地下実験室の階段側を壁で仕切る。


 壁にはドアと小さな観察用の窓を作った。どちらも丈夫な金属製。これで合成実験の観察部屋、完成だ。


 これなら観察窓から、安全に融合実験の観察ができる。もしも危険な魔獣が出てきたら、すぐに窓を閉めて、ユーリィを地上へ逃がせばいい。






 俺の説明に、ようやくユーリィも安心してくれた。


 ただ「危なくなったら、御使い様を抱えて逃げますから!」とあくまで俺を心配してくれている。


 本当にいい子なんだよな、ユーリィは。


 そうだ。せっかくだから、今後はユーリィの意見も聞いてみよう。


 この世界ゲームの魔獣については、俺よりもユーリィの方が詳しいことが分かっている。


 彼女のアドバイスがあれば、今後の攻略に役立つ魔獣を生み出すことができるかもしれない。






 気持ちを取り直し、俺は実験を再開することにした。


 実験室内に、アシスタント役の陶製マネキンと土ゴーレムを召喚する。


 俺の残りmpは22450。時間経過とともに回復しているため、残量にはかなりゆとりがある。


 ただ融合できる魔獣の組み合わせは数多くある。すべてを試すことは当然できない。






 俺はこれまでの数回の実験から、魔獣の癒合に、ある程度の法則を見つけ出していた。


 まず、同じ個体同士を融合すると、単純に、その上位種の魔獣になるということ。


 これは、アリ太郎たちを数回融合することで、確認することができた。


 チビアリ太郎を融合すると普通のアリ太郎に、普通のアリ太郎を融合するとより大きなアリ太郎になる。


 おそらく、他の魔獣でも同じ結果だろう。


 俺の呼び出す魔獣たちは、ある程度戦いを経験すると、より上位種へと進化することができる。


 それを手軽に融合で実現できるのであれば、戦力の強化はかなり容易になる。






 でも、融合の必要コストを考えると、これは少しもったいない気もする。


 これも今回の実験で確かめたことだけど、新たな魔獣を融合するためには、その魔獣を呼び出すための10倍ものコストが必要になるのだ。


 例えば、ハニワ頭の召喚コストは300だが、融合にかかったコストは3000だ。


 まったく新たな魔獣が出来るなら、融合をやってみる価値はある。


 けれど、戦って進化できるようなら、あえて融合する必要はない。


 どっちがよいのかは、今後の戦況に合わせて判断するのがよいだろう。






 あと、もう一つ、融合の法則として分かったのは、元となる魔獣の属性によって、結果が分かれる組み合わせが存在することだ。


 これは以前、スナハンドと赤い狼を融合して、炎の拳を作ったときに、起きた現象だ。


 あの融合をしたとき、現れた選択画面で、俺は炎の拳を選択した。


 実は、あのあとmpが回復するのを待って、同じ融合を試してみたのだ。


 当然、今度は炎の拳でない方の選択肢を選んだ。


 その結果、現れたのは、砂色の体色をした狼だった。






 この狼はトゲのように硬質化した体毛をしている。まるで石の鎧を着ているみたいだった。


 仮に、融合前の赤い狼が火の属性だとすれば、この狼は砂の属性を持っているのではないかと思う。


 つまり、スナハンドの砂の属性が、赤い狼の属性を変化させたのではないか。そう俺は予想している。


 ちなみに念のため、スナハンドとスナザメを合成してみると、スナザメのままで何も変化しなかった。


 おそらく、同じ砂の属性同士では、変化が起きないのだろう。


 異なる属性同士の組み合わせで、融合の結果を分岐させることができそうだ。






 ただ、今回、火の拳と陶製マネキンを融合しても、分岐は起きなかった。


 てっきり、火の属性を持ったマネキンと、陶器の属性を持った拳ができると思っていたのだ。けれど、予想は見事に外れてしまった。


 きっと融合には、まだまだ俺の知らない法則があるのだろう。


 このシステム、ゲームとして突き詰めれば、きっと楽しいに違いない。


 でも、俺は別にゲームを楽しみたいわけじゃない。あくまで、このゲームを攻略して、現実リアルに帰るのが、俺の目的だ。


 そのためには、まずは拠点内の防御力を上げておきたい。どんな魔獣を作り出すのがいいだろう?


 俺は次に融合する魔獣を見定めるため、再びアイコンを操作し、半透明の融合ウィンドウを視界内に展開させた。




浮遊する埴輪頭フライングハニワヘッド

種族:魔法生物

属性:火属性

召喚コスト:300DP

維持コスト:30DP/日

保有スキル:〈火炎放射(小)〉〈自爆(小)〉〈打撃被ダメージ増加〉

ふわふわと浮遊する埴輪の頭部型魔法生物。全長は25cm程。素焼きの土器を逆さにしたような頭部に、空洞になった目と口、申し訳程度の耳鼻がくっついているだけの簡素な見た目だが、これは外殻であり、本体は外殻内部に存在する炎である。地上1m50cm程の高さで、常にゆらゆら揺れながら浮遊している。見た目よりも素早く、物理攻撃に対する回避性能は高めだが、自らは物理攻撃手段を一切持っていない。唯一の積極的な攻撃手段は、外殻の口から噴出される火炎放射のみである。外殻が破壊されると、本体を維持できなくなり、炎を噴き上げて自壊する。その威力は魔術師の呪文〈火球〉に匹敵する。



陶製魔導人形セラミックドール

種族:魔法生物

属性:無属性

召喚コスト:500DP

維持コスト:50DP/日

保有スキル:〈魔法の矢〉〈恐怖付与(微弱)〉〈自動修復(微弱)〉〈打撃被ダメージ増加〉

陶製の女性人形型魔法生物。身長は150〜160cm。頭部はつるりとしており、目や耳は造形されていない。球体関節の手足を動かし行動する。創造者・使役者の簡単な命令に従うが、自律的な行動はできない。また、あまり器用ではないため、ほとんどの道具を使うことも困難である(ものを抱えて運ぶ程度の作業ならば可能)。一般的な成人女性と同程度の力・敏捷性を持っている。また、1日に5回だけ無属性魔法〈魔法の矢マジックアロー〉を使用することができる。場合によってはその外見が非常に不気味に見えるため、稀に、見る者に恐慌状態を引き起こすことがある。

お読みいただき、ありがとうございました。

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