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43 悩みと考察

 おせち完成しました! というわけで、今日はとても短めです。しかもモノローグばかりで、話は全然進んでません。前フリ回ということで、どうかご容赦ください。

【大陸歴1415年7月5日 夜】


〈十四郎視点〉


 階段を降りきった先にある少し広くなった地下空間で、俺はパトラの話を聞いた。


「そうか、ユーリィはそんなに強くなってるんだ。」


「はい、ユーリィ様の戦闘力は以前よりも向上してきています。先程は、私が思考を読み取って先回りしても、それを上回る動きで私に攻撃を仕掛けていらっしゃいました。」


 パトラは丁寧な日本語で、俺にそう報告してくれた。敬語の使い方もほとんど違和感がない。


 最初は本当にカタコトだったのに、今ではすっかりこんな感じだ。


 ユーリィだけでなく、彼女の言語能力の向上にも、目を見張るものがある。


「そう言っていただけて光栄です。それもすべては、主様が私の巣を発展させてくださったおかげです。」


「いや、俺は別に何もしてないよ。こっちこそ、魔獣を狩ってもらって助かってる。」


 この世界ゲーム内で、日本語で会話できる相手はパトラだけ。


 知らない土地、知らない言葉の中で生活せざるを得ない今の俺にとって、彼女との会話はかけがえのない癒しになっている。






 あの船長の襲撃から1ヶ月が経った。


 パトラのお陰で、俺はこの世界のことが少しずつ分かるようになってきている。


 少し前まで、俺は大きな悩みを抱えていた。


 それは、未だにこのゲームから脱出ログアウトする手がかりが全く掴めていないことだ。


 俺はこの一ヶ月の間、時間を見つけては、ユーリィと様々なことを話し合った。もちろん、パトラの『通訳』を通してだ。


 言葉が通じるようになって、俺が最初にユーリィたちに尋ねたのは、この世界ゲームのこと。特に、その仕様や攻略に関する情報だ。


 ただ、拠点にいる誰に尋ねてみても、その情報は得られなかった。


 そもそも、彼女たちは俺の尋ねている内容を理解しすることが出来なかったのだ。






 でも、冷静になって考えてみれば、それは当たり前のこと。


 彼女たちはゲームの一登場人物キャラクターにすぎない。そんな彼女たちに、世界ゲームの仕組みなんて理解できるはずがないのだ。


 例えるなら、現実リアルの日本で「この世界にほんはゲームの世界なので、ここから脱出する方法を教えてほしい」と尋ねて回るようなもの。


 頭がおかしいと思われて、通報されるのが関の山だろう。






 このゲームに閉じ込められてからすでに一ヶ月以上。その間、現実リアルの俺はずっと、ゲームをし続けていることになる。


 でも、ただ単にゲームをプレイしているだけならば、現実リアルから何のアプローチもないのは、流石におかしくないだろうか?


 そう考えると、可能性として考えられるのは一つ。今の現実の俺は、外部から連絡を取れない状態にあるということ。


 何らかの原因で意識が戻らなくなり、寝たきりのままゲームに接続されている。そう考えると、すべての辻褄が合うような気がする。


 もしそんな状態なのだとしたら、美南も友里も、意識を取り戻さない俺のことを、すごく心配しているに違いない。






 そんな状況でまず心配なのは、2人の経済状態のこと。


 俺が稼げなくなった分、生活費の負担が増えているのはもちろんだが、それに加えてもし、俺の入院費などが発生しているとしたら?


 万が一のために、俺も美南も医療保険に加入している。けど、それが高額療養や長期入院に対応してたかどうか、はっきり覚えてないんだよな。


 一応、家を買うために貯金もしてたから、それなりの蓄えはある。それに、友里が小学校に入ると同時に、美南は地元の小さな建設会社で事務員として働いていた。


 希望的観測だけど、すぐに二人が困窮するってことはないと思う。そう思いたい。


 でも、俺の治療費がとんでもなく高額だったとしたら・・・。いざとなったら俺と美南、両方の実家に頼らなくてはならないかもしれない。


 どちらの両親も健在だし、まだ現役で仕事している。元々、実家同士が近所で仲が良かったから、いざという時には、援助してもらえると思うけど・・・。






 そう考えると、会社の方も心配になってくる。今抱えている案件が何件か、そのままになっているはず。


 俺の勤務先は小さなデザイン事務所だけど、仕事は割と多かった。幸いなことに、俺の仕事を気に入って仕事を発注してくれている取引先が結構あったからだ。


 おそらく俺が担当出来なくなった分の仕事は、社長や後輩がフォローしてくれているとは思う。


 でも、俺にはどうしようもないことだとはいえ、会社や取引先に迷惑をかけてしまったのは間違いない。マジで申し訳なさすぎる。


 職場復帰できたら真っ先に行脚して、みんなに直接、謝罪と感謝を伝えたい。でも、それもすべてはこの世界ゲームから脱出ログアウトすることが前提の話だ。






 すごく希望的な観測をするなら、このゲーム自体が、昏睡状態の俺が見ている夢という可能性もある。


 すべて悪い夢だった。目が覚めたら、すべては今まで通り。そうだったら、どんなにいいだろう。


 だがそれにしては、あまりにゲーム内の設定がリアルで細かすぎる。完全に俺が知らない言語や文化が登場しているのも変だしな。


 それに、俺の本体アバターが攻撃を受けたときの激痛は、とても夢とは思えない。


 一刻も早く、この悪夢ゲームから抜け出したい。この一ヶ月ばかりの間ずっと、俺はそんなことを悶々と考え続けていた。





 でも、俺はあることを思いついた。そのおかげで俺は悩みから解放された。


 もしかしたらこのゲームは、俺の治療の一環なのではないだろうか?


 俺は何らかの事故か病気で、意識不明の寝たきりになった。その俺の意識だけを光の球アバターに投影しているのでは?


 なぜ、医者がそんなことをしているのかは分からない。


 ただ、このゲームをクリアすることで、俺の意識が戻る。そういう治療なのかもしれない。うん、きっとそうに違いない!






 そう考えることで、これまでの悩みがなくなり、俄然やる気が出てきた。


 もちろん真偽は不明だ。すべては俺の思い込みかもしれない。


 それに加えて、ゲームの仕様や攻略法は分からないまま。現状としては、これまでと何も変わっていない。


 ただ、気持ちの持ちようを変えたことで、視界がぐっと開けたのも事実。


 だって、俺が今できるのはゲームを進めることだけ。それならばくよくよ悩むより、もっと前向きにゲームに取り組む方がいいに決まっている。






 なんか吹っ切れた気がした。


 これまでの仕様から考えれば、緑の立方体を配置して領土を広げ、味方を増やし、街を発展させればいいというのは何となく分かる。


 おそらくそれを突き詰めて行った先に、俺が目指す覚醒ゴールがあるのだろう。


 よし、そうと決まれば、じゃんじゃん味方を増やして、拠点を発展させるぞ!






 そこまで考えて、俺はふと気が付いた。


 これが治療の一環ということは、今の俺の行動は、現実リアルからモニターされているんじゃないか?


 もしかしたら、医者だけでなく、美南や友里も見ているかもしれない。


 それなら、ますますメソメソ悩んでいる場合じゃない。


 夫として父として、2人に恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないからな。


 どうせなら友里が大喜びするような、遊園地みたいな夢の街を作り上げていくのはどうだろう。


 そんな街ができたら絶対に、二人に「いいね!」と言ってもらえる。


 そして同時にそれは、今の俺にできる二人への最大にして、唯一のメッセージになるはずだ。


 待っててくれ美南、友里。俺は必ずこのゲームを攻略して、お前たちの元に帰るからな。






 前向きに考えるようになったことで、俺は抱えていた悩みから解放された。


 そして、それだけじゃなく、この世界ゲームをより楽しもうという気持ちを持てるようになった。


 どうせやるなら、なんでも楽しんだほうが得だもんな。


「この巣を発展させたいという主様の思い、私も応援いたします。」


 傍らに立つパトラが、俺にそう伝えてきた。


「ありがとうパトラ。よし、今日も始めるか!」


「はい、主様。」


 俺は彼女にそう声をかけると、ここ数日2人で準備してきた実験を始めるために、視界内のメニューアイコンを展開させた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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