39 新たな仲間
いつも仕事の合間にスマホで書いています。思いつきで細切れに書いているので、後で読み返すと前後のつながりがめちゃめちゃになっていることがよくあります。
【1415年6月1日 夜】
〈十四郎視点〉
「主様、どうやら敵は逃げていったようですよ。」
脳内に直接伝わってきたアリ兵士の言葉に、俺は心のなかでホッと息をついた。
ここは、俺がこのゲームにやってきたときのスタート地点。その場所に作られた、アリ人間たちの蟻塚の中だ。
俺達が今いるのは、地上から5m程下。なだらかなスロープを降りた先に造られた、直径20mくらいのドーム型の空間だ。
俺の隣にいるのは、アリ女王が生み出した兵士の一人。彼女(?)は身長180cmくらいの直立したアリだ。鈎爪状をした指で、身体と同じ艶々した黒い槍を握っている。
広間のようになった空間には、彼女と同じアリ兵士の他、一回り小さい働きアリやアリ太郎たちがひしめき合い、ひっきりなしに地上と巣の奥とを行き来していた。
働きアリたちは、虫の外殻で作った簡単なソリのようなものを使い、アリ太郎たちに掘り出した砂を運び出させている。
そして、それと入れ替わるように食べ物らしき肉片を運びこませていた。
彼らはそうやって地上を行き来しながら、俺達のために集落周辺の動向を探ってくれていたのだ。
アリ兵士の言葉が伝わったのか、ユーリィも同じようにホッとした表情を見せた。
俺と同じように、彼女にもアリ兵士の言葉が脳内で伝わっているようだ。
拠点に残してきた女性や子どもたちが無事だというのは、俺の能力で分かっていたし、それをユーリィに伝えてもいた。
それでも、その様子を直接見たわけではない。だから、やっぱり心配だったんだと思う。
あの船長たちが侵入してくる直前、俺とユーリィは、こっそり拠点の集落を抜け出した。
もちろん、船長たちに見つからないよう外壁の扉は使わず、俺が建築アイコンで作った穴を使って脱出したのだ。
脱出後、またすぐに穴は塞いでおいた。だから、船長たちは、俺達もあの建物内に籠城していると思ったに違いない。
拠点を脱出後、俺達はこのスタート地点を目指して移動した。
拠点から目的地のスタート地点まではおよそ1km。砂漠にはうねるように盛り上がった砂丘があるものの、障害物などはなく非常に見晴らしがいい。
だから、移動中に発見されるのではないかと、このときはかなりヒヤヒヤした。
でも、いくらも進まないうちに、このアリ兵士が将軍アリに乗って現れたのだ。
「主様の周辺に敵の気配を感じ取りましたので偵察に参りました。ここで主様と出会えて、本当によかったです。」
アリ兵士はそう言って俺達を将軍アリに乗せ、砂賊たちの目を避けながらここまで連れてきてくれた。
将軍アリはその大きな体で俺たちを隠しながら、砂丘の物陰を巧みに利用して移動していった。図体の割に素早いその動きに、俺はかなり驚かされた。
脱出してから数分後、俺達はアリ兵士に案内されて蟻塚の中に入った。そして今まで蟻塚の中に匿われながら、侵入者の様子を探っていたというわけだ。
俺はてっきり、船長たちが拠点に居座るだろうと考えていた。だから、何日もかけて、荒くれたちを少しずつ排除していくつもりだったのだ。
それなのに、彼らは意外にあっさりと撤退してしまった。
俺的には、それはとてもありがたいことだ。けれど、正直ちょっと拍子抜けしまった。
でも、ゲームの強制襲撃イベントって、案外こんなものなのかもしれない。ある程度、襲撃のパターンや時間が決まっているっていうか。
もしかすると今回は、俺に対策を促すためのチュートリアルイベントだったのかな。
いわゆる「これからも定期に襲ってくるから、ちゃんと対策しといてねー」的な感じだ。
俺は今までずっと、このゲームの制作者のことを、性格のひねくれた嫌な奴だと思っていた。けど実は、意外とユーザーライクな奴なのだろうか?
もちろん大前提として、そもそも俺が文字や言葉を理解できたら、こういうイベントの説明とかも、ナビさんやステータス画面から知ることができたのかも。
やっぱり言葉の壁問題が、かなり大きいと感じる。
日本語じゃなくても、せめて英語だったらなんとか分かりそうなんだけどなー。
ユーリィやアリ兵士と相談して、俺達は一度拠点に戻ることにした。
特にユーリィは、拠点に残してきた女性たちや子どもたちのことをひどく心配していた。
それはもちろん俺も同じ。一刻も早くみんなの無事を確認して、ユーリィやみんなを喜ばせてやりたい。
たくさんのアリ兵士たちに見送られて、俺達は蟻塚を出た。
頭上には青い大きな月と小さな緑の月が並んで浮かんでいる。視界内の時刻表示を見ると20:00を少し過ぎていた。
俺達はアリ兵士とともに将軍アリに乗り、拠点へ向かった。この将軍アリは、俺が呼び出したものではない。野生の将軍アリだ。
アリ兵士の話によると、彼らには、野生のアリ太郎たちを従わせる力があるらしい。
彼らはその力を使って、アリ太郎たちをまるで家畜のように扱い、荷運びや蟻塚の建築作業などをさせているそうだ。
彼らが従えているアリは、俺が呼び出す黒いアリ太郎たちとは違い、体色が赤茶色をしている。
当然だけど、俺が直接指示を出すこともできない。本来は俺が普段倒している敵の魔物だからな。
一見したところ、性能は俺の呼び出すアリ太郎たちと殆ど変わらないようだ。
将軍アリは、冷たい夜の砂漠の空気を切り裂いて疾走していく。
ふと、後ろに視線を向けると、蟻塚がどんどん遠ざかっているのが見えた。
離れて見ると、蟻塚の入口は、無数にある砂の盛り上がりの一つにしか見えない。
俺は能力で場所を特定できるけど、肉眼だけで見つけるのはかなり困難だろう。
今回、俺達が隠れていたのは、ほんの入口の部分だった。けど、アリ兵士の話によると、内部はすごく深く、入り組んでいるらしい。
今度、ゆっくり見学させてもらおうと思う。
数分後、俺達はいつの間にか拠点へ到着していた。ずっと走りっぱなしだったとは言え、将軍アリ、とんでもない速さだ。
「ありがとう助かったよ。女王アリによろしく伝えておいてくれ。」
付いてきてくれたアリ兵士に、俺は礼を伝えた。
今回、女王アリは俺に姿を見せなかった。なんでも、彼女は蟻塚の最下層にいて、せっせと卵を生み続けているらしい。
できれば直接礼を言いたかったけれど、地上に近いところで敵の様子を探ってもらっていたので、会いに行けなかったのだ。
それに、俺とユーリィの移動経路を確保するための立方体も出せないしな。
俺の礼の言葉を聞いたアリ兵士からは、少し面白がるような気配が伝わってきた。
アリの表情は見分けられないけれど、人間だったら絶対に笑っているだろうと思える感じだ。
「わざわざ伝える必要はありませんよ、主様。この兵士も、私です。私が生み出す子どもたちはすべて、私の分体なのです。」
「それってつまり、すべてのアリ兵士と女王は、意識が繋がってるってこと?」
「さすがは主様。すぐにご理解いただけて幸いです。」
「以前に話したとき、女王は言葉も覚束なかったから、話してても全然気が付かなかったよ。」
俺がそう言うと、女王は少し恥じらうような気配を漂わせながら答えた。
「あのときはまだ、生まれたばかりで眷属もいませんでしたから。今は成長しましたので、主様の言葉をほとんど理解できるようになっています。」
眷属が増えたことで、アリ女王の能力は大きく向上したらしい。
彼女の言うように、全員の意識を共有してるなら、使える脳みその数が単純に多くなったからなのかもしれない。
パソコンのCPUが増えて、性能や処理速度が上がったみたいなものだろうか。
それにしても、女王の言語能力の高さには驚かされる。そこで、俺はふと思いついた。
「もしかして、ユーリィとも同じように会話できてる?」
「はい。ユーリィ様の思考している言語は、主様に比べて随分単純ですので。」
「てことは、俺が考えてることをユーリィに伝えることもできるのか?」
「もちろんです。ただ、お二人が思考に使っている言語が違うので、細かいところはうまく伝わらないかもしれません。」
すげえ! それって通訳が可能ってことなのでは? アリ女王がいれば、会話問題を解決できるってことじゃん!
「お二人の意思をお伝えすることは可能だと思います。もし、私の力がお役に立てるのでしたら、お好きに使ってください。」
脳内で考えただけで、アリ女王は俺にそう返事をしてきた。
そう言えば、彼女は眷属の思考を読むことができると言っていた。俺とユーリィは、彼女にとって眷属と同じ扱いのようだ。
俺が通訳の件を相談すると、アリ女王はすぐにそのアイデアを了承してくれた。
彼女も今後の襲撃を警戒して、この拠点に連絡役を置きたいと思っていたそうだ。
ちょうどいいので、このアリ兵士には拠点に常駐してもらうことにした。ただ、そうなると困るのは、彼女の見た目の問題だ。
何しろまんまアリの魔物だしな。女性や子どもたちの中には、怖がる人も多いだろう。
ただ、言葉の問題を解決できるのは、今の俺にとって何よりも重要だ。怖がられない様子する方法を、女性たちと相談しなくちゃな。
あと、拠点に近づこうとする雑魚魔物たちを、彼女たちも俺の軍団と一緒に狩ってくれるそうだ。
彼女たちは、狩った魔物をアリ女王が卵を生むための栄養源として活用しているそうだ。
ちなみに、俺が砂嵐で動けない間も、彼女たちは拠点に集まる魔物を狩ってくれていたらしい。
どうりで砂嵐の間ずっと、雑魚魔物がでてこないと思ったよ。
こうして俺達に、また頼もしい仲間が加わったのだった。
【蟻人:ソルジャー】
種族:人型魔獣族
属性:土属性
召喚コスト:600DP
保有スキル:〈熱耐性〉〈酸耐性〉〈昆虫種魅了〉〈槍術〉
兵士階級のアントノイド。巣の警備及び労働者階級の警護をする役割を持っている。その姿は直立した4本脚の蟻であり、身長は180cm程。どの個体も、身長と同程度の長さの短槍を所持している。この槍は、卵から孵る段階で額の中央に生えていた一本の長い触覚が、成長とともに離脱し硬化したものである。アントノイドは基本雑食性で、どんなものでも捕食することができるが、頭部の構造上、口腔を大きく開くことができない。そのため、肉などを食べる際には、その強固な顎で細かく砕き、口から吐き出した消化液で溶かして液状にしてから、栄養を摂取している。この性質上、彼らが最も好むのは、植物の蜜や動物の体液である。
お読みいただき、ありがとうございました。




