表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/173

35 吹き寄せる凶風

 今回も少し短めです。年末まではこんな感じだと思います。

【大陸歴1415年6月1日】


〈十四郎視点〉


 昨日の真夜中を過ぎたところで、俺の視界内に表示された日付が5月から6月に変わった。


 昨日は5月25日だったから、本当なら今日は5月26日のはず。でも、表示されている日付は6月1日だ。


 どうやら、この世界ゲーム内では、5月は25日間しかないらしい。その分、他の月が長いのだろうか? それとも、ゲーム上の仕様で一ヶ月が25日間に設定されているのだろうか? 


 これは分からない。確かめるには、もう少し検証が必要だ。


 もっともできることなら、7月になる前にゲームから脱出ログアウトしたいところだけれど。






 とんでもない砂嵐がやっと終わった翌朝。俺はユーリィたちが農作業に精を出す様子を、ぼんやり眺めていた。


 ユーリィたちは、太陽が登る前にはもう起き出してきて、すぐに畑に向かって走っていった。


 きっと、畑の作物が嵐でやられてしまったんじゃないかと、心配していたんだと思う。だから、畑を見た彼女たちがすごく喜んでいるのを見て、俺は素直に嬉しかった。


 今、彼女たちは、月明かりを頼りに苗の様子を確認している。


 この世界ゲーム、月が常に2つ出ているせいか、夜でもそんなに暗くない。


 字を読むのは無理だけど、手元で簡単な作業をするだけなら、何とかできるくらいの明るさがある。


 彼女たちが日中休んで、早朝と夕方に農作業ができるのもそのおかげだ。


 毎日懸命に育てている彼女たちの苗を守ることが出来て、本当によかった。


 俺はあの砂嵐が始まった直後から、スナマンを召喚して、畑に積もる砂を除去させていた。


 ついでに、強風にやられないよう、畑に潜ませたツチマンたちに、育ち始めたばかりの苗を守らせておいたのもよかった。


 ただ、砂嵐が始まった直後から、ずっとその作業にかかりきりだった。


 そのため、なかなかユーリィたちの様子を見に行くことができなかった。


 というのも、砂嵐が始まってから、俺はツチマンたちの遠隔操作ができなくなっていたからだ。







 それまで俺は、遠く離れた場所からでも、呼びたした魔物たちの様子をある程度把握したり、指示を出したりすることができていた。


 でも、砂嵐の間は、何故かそれができなくなっていた。


 そのため、畑を守る目処がつくまで、ツチマンやスナマンの側を離れることができなかったのだ。


 ちなみに、遠隔操作ができない理由をナビさんに尋ねてみると『魔力乱流が発生しているため、迷宮領域およびその周辺の感知・走査は行えません』という返答が繰り返しあった。


 その中で、なんとか理解できたのは、『できません』という部分だけ。つまり、理由はまったくわからなかったってこと。


 やはり、もう少し言葉の勉強が必要そうだ。







 幸か不幸か、襲ってくる魔物たちも砂嵐が苦手らしく、砂嵐が吹いている間は一度の襲撃も受けなかった。


 それもあって俺は、畑を守ることに専念できたというわけだ。


 砂嵐が収まっている今では、またこの集落周辺の様子が徐々に把握できるようになっている。


 砂嵐を避けるため、ずっと砂に隠れていたアリ太郎たちも、ようやく這い出してきて、周囲の警戒を始めたところだ。


 今のところ、俺の魔物軍団の戦力は、あの大トカゲと戦う前の状態に戻っていた。


 ただ、あの大トカゲはまだ召喚していない。


 アイツがいれば、かなりの戦力アップになることは間違いない。だが、広くなりすぎた今の領地すべてをカバーするために、今は個の強さよりも手数が必要なのだ。


 特にユーリィたちの暮らす現在の拠点を守るためには、四方から押し寄せてくる敵を万遍なく倒さなくてはならない。だから、まずはアリ太郎たちを優先したというわけ。






 なお、今の俺の残存mpは2000ちょっとだ。


 大トカゲ戦後の戦力の立て直しと、砂嵐から畑を守るため、そしてユーリィたちの家にいろんなものを作りまくったせいで、無くなってしまった。


 特に家作りには、かなりのmpを消費した。中でもカーペットやクッションなど、家具系のものを作るためのコストは膨大だった。


 正直、調子に乗って使いすぎたかなとは思う。今、強敵の襲撃を受けたら、かなりマズイことになるだろう。


 それでも、ユーリィや彼女のお母さんのユミナさんが喜んでくれたので、俺は大満足だ。


 やっぱ人の笑顔ってプライスレスだよね。


 それに、俺のmpは、1日で1000くらいずつ回復している。数日経てば、またトカゲと戦う前の水準まで戻るはずだ。


 そうしたら、今度こそ、あの大トカゲを召喚してみよう。そうなったら俺、いよいよ本当に無敵になっちまうんじゃないだろうか。


 脱出ゲームクリアに一歩近づくこととは別に、正直ちょっとだけ、大トカゲ召喚が楽しみだったりする。


 やっぱ、巨大モンスターを大暴れさせるのって、ちょっと夢があるよね?






 現状、領地の端っこの様子は未だに分からないまま。まだ完全に機能が回復したわけではないようだ。


 だから当然、ここから一番遠い場所にあるアリの巣のこともまったく分からない。あのアリ女王と別れた日から、もう10日以上が経過している。


 アリ女王は、砂嵐を無事に乗り越えられただろうか? 


 ちょっと気になるし、見回りついでに、あとで様子を見に行ってみようかな。


 俺がそんなのどかな気持ちで、ユーリィたちを眺めていると、突然、頭の中に警報が鳴り響いた。






 『複数の人間が迷宮領域内に侵入しました。速やかに対処してください。』


 ナビさんが俺の脳内に警告を告げている。また、魔物が襲ってきたのだろうか?


 それにしては、いつもとなんだか少し感じが違う。警報に切迫感がある気がするのだ。


 妙に不安を掻き立てるその音に嫌な予感がして、俺はすぐに畑を離れた。


 俺の様子から異変を察知したのか、ユーリィもすぐに農作業を中断して、俺のあとを追いかけてきた。


 俺たちは、見晴らしの良い場所、外壁に作られた桟橋の上へと向かった。


「あれは・・・船か!?」


 砂の海を越えてこちらに向かってきているのは、2本マストの船だった。


 しかも、集落を取り囲むように、4隻の船がこちらに向かってきている。


「御使い様、あれを見てください!」


 ユーリィが何かを叫ぶ。彼女が指さした先にいたのは、俺たちがこの集落から追い出したあの船長だった。


 砂色の装束の上に革製の防具を身につけた船長は、甲板の前部に置かれた椅子にふんぞり返っている。


 奴の膝の上には白いドレスを纏った黒人の女性が、横ざまに抱えられていた。


 遠目から見てもはっきり分かるくらい、目の覚めるような美女だ。その首には金属製の首輪が嵌められている。


 間違いなく、ユーリィたちと同じように、奴に攫われてきた被害者だろう。


 甲板には、奴と同じような姿をした大勢の男達が武器を構えてこちらを見ている。


 その凶悪な笑みを見ただけで、アイツラが何をしにやってきたのかは明らかだ。


 せっかく苦労して、あの大トカゲを倒したのに、今度はこれか。


 こういうゲーム的には、どんどん敵が強くなるのが当たり前なんだろう。けど、またあの船長と戦うことを考えると、マジで気が重い。


 何しろ前回は、奇襲で動きを完璧に封じたにも関わらず、危うくユーリィが殺されるところだったのだ。


 愚痴らずにはいられないよ、ホント。


 ところでこのゲーム、仲間ユーリィが死んじゃったらどうなるんだろう。


 今のところ、教会みたいな施設は無さそうだし、やっぱ復活とかはできないのかな。


 どっちにしろ、目の前で子どもが殺されるのはマジ勘弁。だから、全力で奴らを排除することにしよう。


 船はすでに、ここから50mくらいの位置まで迫っている。


 数は多いけど前回と同じように、大イカたちで船をひっくり返し返してしまえばこっちのものだ。俺はすぐに迎撃のために魔物たちを船に向かわせた。

お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ