表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/172

34 砂嵐 後編

 いつもよりかなり短くなってしまいました。

【大陸歴1415年5月25日】


〈ユーディ視点〉


「御使い様、すごい! 何でも作れるの?」


「ねえ、お部屋を明るくして!」


 子どもたちがそういった次の瞬間、部屋の壁の一部が、また緑の光を放った。


 そして、緑の光と入れ替わるように、白く柔らかい光が、暗かった室内を明るく照らし出した。


 見ると、部屋の四方の壁の、複数箇所に四角いくぼみができていた。その中には、白い光を放つ丸い球体がある。


 くぼみには木の覆いが付けられていた。おそらくあれを閉めることで、部屋を暗くすることもできるのだろうと、あたしは思った。






 驚くあたしたちの前で、次々と部屋のあちこちが緑色に輝いていった。


 いつの間にか、あたしたちの足元には立派な敷物が敷かれ、その上には柔らかそうなクッションがいくつも置かれていた。


 無理やり塞いでいた窓にも、木枠付きの立派な扉ができていた。傷んでいた壁や床も、すっかりきれいになっている。


 大人たちは、突然現れたこれらの品にすっかり驚いて、声も出せなくなっていた。逆に、小さな子どもたちはすっかり興奮して、御使い様の周りでぴょんぴょん飛び回っている。


 やがて、子どもたちは口々に、お菓子がほしい、おもちゃを出してとおねだりを始めてしまった。


 口々にお願いを言う子どもたちの上を、御使い様は困ったいるみたいにくるくると飛び回っている。


 これはまずい。あたしが、子どもたちにお願いをやめさせようとした次の瞬間、部屋の空気を震わせるほどの、厳しい叱責の声が響いた。






「神様に軽々しくお願いをするものではありません!」


 声の主はフーリアおねえちゃんだった。


 普段は穏やかなおねえちゃんが、眉を怒らせた様子を見て、子どもたちは凍りついたように動きを止めていた。


 小さな子どもたちがむずがり始めたのを尻目に、フーリアおねえちゃんは御使い様の前に跪いて、深く頭を下げた。


「お恵みに対して、不遜な行いをしてしまい、申し訳ありませんでした。どうか、この子どもたちをお赦しください。」


 フーリアおねえちゃんの声で子どもたちの様子に気づいた大人たちは、すぐに子どもたちを叱りつけ諭し始めた。


「御使い様、ごめんなさい。」


 子どもたちが泣きべそをかきながら、御使い様に次々と頭を下げていく。


 御使い様はそれに対して何もおっしゃらなかった。


 けれど、あたしには、御使い様がちょっと困りながらも、怒ってはいらっしゃらないのが分かった。


 あたしがそのことをみんなに伝えると、大人たちは明らかにホッとした様子で息を吐いた。


 大人たちのそんな様子を見て、子どもたちは神妙な顔で「ありがとうございます、御使い様」と言っていた。






 シャーレ様はあたしたち砂海の民の守り神。


 砂海に恵みを授けてくださる神様だけれど、決して優しいだけの神様ではない。


 砂海を侮るもの、害をなすものについては、とても厳しいことでも知られている。


 作物が不作のときや、井戸の水の出が悪くなったときなど、「シャーレ様に見放された」と大人たちが嘆くのを、あたしは小さい頃から何度も聞いていた。


 砂海の神は畏れ敬うもの。決して軽々しく近づいてはならないというのが、あたしたちの決まりなのだ。






 部屋が明るくなり、みんなが少し元気を取り戻したことで、あたしたちは食事の準備をすることにした。


 といっても、火を使うことができないので、保存食を少しずつ分け合って食べるだけだ。


 干したナツメヤシの実と油に漬けた野菜、それに乾燥肉。


 本当ならタカキビの粉で作ったパンやスープも欲しいところだ。でも、今は我慢するしかない。


 カチカチのナツメヤシの実を口に入れて、ゆっくりとふやかしながら食べていく。


 じわじわと広がる仄かな甘みを十分に味わったら、水でお腹を満たす。これで、今夜も何とか眠りにつけそうだ。


 でも物足らなかったのか、小さい子どもたちは物欲しそうに、ナツメヤシの種をいつまでも口の中で転がしていた。






 この村に備蓄してあった食料は少しずつなくなりつつある。


 すぐになくなるということはない。けれど、かなり節約しなければ、あっという間に飢え死にしてしまうのは確実だ。


 何しろここは砂海の孤島なのだから。


 今育てている作物タカキビが食べられるのは、一番早くても3か月以上先。


 葉物野菜などはもう少し早く収穫できそうだし、少ないながらも実をつけたナツメヤシも何本かはある。でも、十分な量とはとても言えない。


 この村の畑の土は、長年放棄されていたため、かなり痩せていた。


 土作りをしようにも、肥料にするものが少ないのだ。おそらく、あまり多くの収穫は期待できないだろうと、お母さんは言っていた。


 男の人たちがいれば、狩りをすることもできる。


 でも、今は男の人がいない。それに、弓も無ければ、獲物を追うための騎鳥もいない。


 そもそも、あたしたちは女性と子どもばかりで、狩りの経験がある人は誰もいないのだ。


 だからといって、ここを脱出するため、歩いて砂海を横断するなんことはできない。そんなの、自分から流砂に飛び込むようなものだ。まさに自殺行為だ。


 だって、船乗りでないあたしたちには、最も近いオアシスがどの方角にあるのかさえ、分からないのだから。






 一応、食べるものの足しにしようと、お兄ちゃんが作っていたトカゲやヘビを捕らえる罠を、見よう見まねで作ってはみた。


 その結果、何匹かの獲物を捕らえ、久しぶりに新鮮な肉を子どもたちに食べさせることができた。


 でも、全員のお腹を満たすほどの獲物は、とても捕れなかった。


 結局、安心してお腹いっぱい食べるためには、主食であるタカキビを育てるしかない。


 あたしたち女にとっては、畑仕事が食料を得るための唯一の方法だからだ。


 でもこの砂嵐で、育ち始めたばかりのタカキビの苗は、大きな被害を受けたはず。


 下手をすれば、最初に芽吹いた苗は、降り積もる砂によって、すべてだめになっているかもしれない。


 お母さんを含め、大人の女性たちが一様に暗い顔をしているのも、それが分かっているからだ。


 来年10歳になり、もうじき成人を迎えるあたしには、お母さんたちの苦悩が手に取るように分かった。


 そのせいなのか、お腹が膨れたにも関わらず、その日の夜はなかなか眠りにつくことができなかった。


 一塊になっている小さい子どもたちは、何も知らずに安らかな寝息を立てている。


 あたしは少しだけ、それを羨ましいと思ってしまった。






 翌日になり、ようやく砂嵐が収まりまった。


 あたしたちは夜が明ける少し前から、早速畑に向かった。少しでも早く、砂に埋もれた苗を救い出したかったからだ。


 でも、そこで目にしたのは、思っても見ない光景でだった。


「苗が砂に埋もれていない!?」


 大人の女性たちが驚きの声を上げている。


 それもそのはず、苗は砂に埋もれていないどころか青々とした葉を元気よく広げ、すくすくと大きくなっていた。


 驚くあたしたちの頭の上に、御使い様がふわふわと浮かんでらっしゃった。


 それであたしはこの奇跡が何故起こったのか、すぐに分かってしまった。


「ありがとうございます、御使い様!」


 あたしがそう言ってその場に跪くと、他のみんなも同じように、次々と御使い様に向かって祈りの姿勢を取り始めた。


 あたしたちはその後、お腹がくうくう鳴るのも忘れて、畑仕事に取り掛かった。


 大人たちが元気になったのを見て、子どもたちも嬉しそうにはしゃいでいる。


 御使い様はそんなあたしたちを見守るみたいに、畑のあちこちをふわふわと飛び回っていらっしゃった。

お読みいただいて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ